;//////// ;Track0 タイトルコールとこの音源の楽しみ方 ;//////// ;ナレーション(タイトルコール) ;9 「あやかし郷愁譚(きょうしゅうたん)。 洗濯狐 お紺・秋」 「ようこそいらしてくださいました。 わたしは、お紺。 洗濯狐―― 汚れたものをお洗濯するのを性とするあやかし―― 洗濯狐の、お紺です」 「このトラックは、この音源 ――環境安眠バイノーラルボイスドラマ――の楽しみ方をご説明するトラックです。 すぐに物語を楽しみたい方は、飛ばしてしまってもかまいませんけど……」 「(呼吸音)……どう、でしょう?」 「……(呼吸音)……」 「ん……(呼吸音)――うふふっ。 この声を聞いてくださっている、ということは」 「……旅の方、やっぱり、とてもおやさしい。 お紺の話に、耳を傾けてくださるなんて」 「その優しさに、きっとお応えできますように、 こころをこめて、お紺も、おもてなしさせていただきますね?」 「この音源は、あなたが疲れてしまったときに、 なかなか寝付かれない夜に、 気持ちをやわらかにときほぐす――」 「そのお手伝いをできたらいいな、ということを目的とした音源です」 「……山深く、鉄道駅さえ存在しない隠れ里。 あやかしたちの最後の楽園――茂伸(ものべの)」 「茂伸には、秋が訪れています。 山深くの秋。秋風は森を揺すって木の葉を落とし、 夜ともなれば、虫たちが歌い、ふくろうが鳴く―― そんな秋です」 「色濃さを増すいっぽうの秋の中。 国道沿いのバス駅から、ほんの少しだけはずれたところ。豊かな自然につつまれながら、隠れるようにひっそりと、 佇んでいる平屋だて」 「それがお紺のお洗濯屋さん。 お紺のお店で、おうちです」 「お紺はそこで、旅の方が訪ねてきてくださるのを、お待ちしてます。 旅の途中でかかえてしまった、こころと体のお疲れを、よどみを、にごりを、きっとお洗濯させていただきたくて」 「旅につかれたおからだを、ふんわりゆったり、少しでもお休めいただく。そのお手伝いをいたしたくって。 あなたを、お待ちしております」 「ですので、ね? もしよろしければ。 暑くも寒くもない、いつ寝入って大丈夫ないごこちのいい場所で。 どうぞ体の力をぬいて――イヤホンや、ヘッドホンをお耳につけて、旅の支度をしてみてください」 「お支度が整いますまで、お紺、お待ちしていますから」 「……(呼吸音)」 「(呼吸音)……どう、ですか?」 「……(呼吸音)」 「うふふ、はい。 お紺、おまたせされちゃいました。 お支度すっかりととのわれてますかどうか、 少しだけ、確かめさせてくださいね?」 ;3 「右のお耳〜」 ;7 「左のお耳〜」 ;9 「うふふっ? 大丈夫ですか? もしも右左を間違えてたら、こっそりお直しくださいね? お紺、目をつむってまってますから」 「…………(呼吸音)…………よろしいですか?」 「それでは――あら、うふふっ、そうですね。 もう、道案内は済んでいますね」 「それでは、いつなりと。 旅のお方のお気がむくとき、お足がむくとき、 どうぞ、お紺のお洗濯屋さんに訪ねてきてくださいませ」 ;環境音 虫の声、F.I 「……あら、お空がもう、茜色に。 お店をしめて、戸締まりしなければいけない時間なってしまいましたね」 「いえいえ! 出直していただく必要などございません」 「あなたが訪ねてきてくださるなら。 そのお疲れをいやすため、 たとえ閉店していても、すぐにお洗濯をいたしますから」 「え? 『それはお店のお仕事としてか、プライベートでか』――って……はうううううぅ〜〜」 「それは、その…… 閉店後ですし……いわなくても――そのっ――あ、けど、 一番は旅の方の……あなたのお気持ち次第っていうか――じゃなくて! ええと、その! わかりませんっ」 「お紺、だって、200年を生きるあやかしですもの。 妖狐ですもの。 “ぷらいべえと”? なんて横文字、 まったく意味がわかりませんの。おほほほほほほ」 「こほん。 と、いうわけでいまはひとまずお別れです。 けれども、すぐに――あなたが望んでくださるのなら」 「茂伸で――物語の中でおあいしましょう」 ;環境音 →FO ;//////// ;Track1:お紺と焼き芋 ;//////// :SE 箒で落ち葉を掃く  ;SE 強い風 ;9 マイクと逆向 「きゃっ!」 「ああ、もういたずらな風。 せっかく掃き集めた落ち葉が、散り散りになってしまいました」 ;SE 落ち葉掃き集め 「……こまめにこまめに、袋にいれておかないといけませんね」 ;SE 落ち葉をゴミ袋に。がさごそ 「ん……(呼吸音)――よいしょ――(呼吸音)」 ;SE 足音 「あら?」 ;9 マイクに向き直って 「どなたです? ――あ。まぁ! まぁまぁまぁ」 ;SE 駆け寄る足音 ;1 「旅の方、おひさしぶりです。 よかった、また尋ねてきてくださったんですね。 お紺、ずっとお待ちしておりました」 「けど…… その、少し。 少しだけ……間があきました――よね?」 「だからお紺。なにか失礼をしてしまったのではないかと、 旅の方に、ご不快な思いをさせたのではないかと。 そうでなければ……旅の方がお怪我でもされてしまったのではないかと」 「心配で……とても心配で――え?」 「そうではなくて――はい……はい。 ――まぁ! まあっ、そうだったのですね」 「茂伸のことが気にいったから、移住も検討くださっている。 それでバタバタしていたから、足を運べなかった――と」 「そうとも知らず、お紺ったら、スネたようなことをいってしまって――ではなくてっ」 「バタバタとしてらしたのでしたら、 おこころにもお体にも、お疲れ、きっとたまっていますよね? なのにお紺、長々と立ち話でお引き止めしてしまって」 ;SE 足音、ぱたぱた ;SE ガラリ戸をあける ;9 「お掃除の途中でしたので、少しだけ散らかっていますけれど、ささ、どうぞおあがりください」 「今、囲炉裏(いろり)の火を起こします。 うふふ、いいものを用意してあるんです。 もしもお嫌いでないのら――あ」 ;SE トンボの羽音 「まぁ、アキアカネ――あかとんぼ。 うふふ、旅の方をおしたいして、 あとをついてきてしまったのですね」 「けど――ごめんなさい。 トンボの羽のお洗濯までは、お紺、お引き受けできなんです――だから――えいっ!」 ;SE トンボの羽音16に ;16 「あらら、逃げられてしまいました――えいっ!」 ;SE トンボの羽音10に ;10 「ああ、もう素早いったら。 こうなりましたら、窓の方へとおいたてて――え?」 「はい、もちろんです。 そうしていいならお任せします……けど――どのように? あ――『しーっ』ですか?」 ;声ひそめ 「かしこまりました。お紺、しばらくだまりますね」 ;SE トンボの羽音 9へ 「(呼吸音)」 ;SE トンボの羽音 1へ 「!」 :SE ドアあき ;SE トンボの羽音 F.O. ;SE ドア閉め ;SE 軽い足音 ;1 「すごいすごい! 素敵です! 旅の方が人差し指をさしだしましたら、 アキアカネ、ひきよせられるみたいに、すーーーっと」 「うふふ、トンボは賢い虫なのですね。 旅の方がやさしい方であるってことを、 ちゃあんと感じとったのですね」 ;SE パチリ、焚き木が爆ぜる ;環境音 囲炉裏、焚き火(大きめボリューム) (参考 https://youtu.be/a7xgBjFOS_I ) 「あ! いけない。囲炉裏、火が大きくなりすぎますね。 さ、さ。旅の方。どうぞこちらにおすわりください」 ;SE 座布団に腰を下ろす ;10 「わたくしは、こちらに―― よい、しょっ――と」 :SE 火かき棒で薪をがさがさ :環境音 囲炉裏ボリュームダウン 「うふふ、そうしましたら、おとっときの――」 「……ん……(呼吸音)」 ;SE アルミホイルがさがさ 「……この、あるみほいる? というのは便利ですねぇ。 ただの銀紙かと思ったら、火の中でも燃えないだなんて」 「おかげで、お芋さんを焼くのも……」 ;SE 焚き火の中に焼き芋を火箸で差し入れる 「うふふ、とっても簡単になりました」 「ん……(呼吸音)……」 「(呼吸音)」 「……綺麗、ですよね。囲炉裏の火。 生きて、踊っているみたい」 「旅の方も、囲炉裏、お好きなんですね? ぽーっと、赤く照らされたお顔が動かず、 じっとじいっと、火を見つめてらして」 「え? 『懐かしい』……ですか。 かもしれませんね。お紺には、毎日見慣れたものですけれど――」 「それでもやっぱり……(呼吸音)……ええ、そうですね。 確かに懐かしい景色です。 揺れる炎の向こうには、過ぎ去ってしまったものたちが、ゆらめき、つかの間見えるよう……」 「……『なにかを思い出してるの?』ですか? さて……どうでしょう。 ふうわりと、火の粉とともに舞い上がってはすぐ消えていく思い出たちの断片を、上手に言葉で、すいとることができるかどうか――」 「……(呼吸音)――お紺には、少しむつかしそうです。 旅の方はいかがです? 囲炉裏の火、なにか思い出すことありますか?」 「……(呼吸音)……どう、です? あ、はい。 『考えてはみたけれど、浮かんできたのはつい最近のことだけ』、ですか。 ――お紺、最近のことも興味あります」 「どんなこと、旅の方は思い出されましたのですか? はい――まぁ茂伸の町の中――でしたら、大土地(おおとち)のことですね?」 「はい。大土地のスーパーで。 この火のように赤い髪の毛が黒に混じった女の子が―― 二本足であるく、帽子をかぶったたぬきと一緒に?」 「まぁ――化け狸(ばけだ)、ばけだぬきに会ってしまったのですね? ご災難なこと。 バカされませんでしたか? 受け取ったお金が、あとではっぱに変ってしまったり、いたしませんでしたか?」 「……ああ、そうだったのですね。 『通りすがりに見かけただけ』 でしたら安心です。ほっとしました」 「え? 『どうして』って―― だって、旅の方は、お紺の仲間で……おともだち、でしょう?」 「ですよね! うふふっ。 だったら、お紺とおなじ、狐の身内なんですから。 化け狸にかかわってしまったら、どんないたずらをされてしまうか――それは心配になりますよ」 「『みた感じ、わるいことはしなさそうだった』ですか? それならばよいのですけれど…… 狐にも悪い狐がおりますように、 狸にだってよい狸もおしましょうからね、きっと」 「『そう思う』ですか? それはどうして―― はい――はい――(呼吸音)――はい――ああ、 なるほど、他のあやかしにも会ったのですね」 「二本のしっぽをお尻から生やしておりましたのは、 『ちま』でしょうね。 とても有名で、格の高い猫妖ですよ? なんでも噂では、茂伸の危機を救った、旅の一行の一員だったとかなんとか」 「『格が高くは見えなかった?』 ですか? うふふっ、それはまぁ、猫妖ですからね。 よほどのことでもないかぎり、だらだらのびのび、 遊び暮らすのがその性(しょう)ですし」 「『子分みたいな黒い子と』?……はい、はい―― まぁ、お屋根の上でくっつきあっておひるねを。 それは……なんとも自由ですねぇ。 自由で気楽で、楽しそう」 「え? あ、はい。そうですね。 この茂伸では、めずらしくもない光景です。 ほのぼの、ゆったり。 いごこちのいい距離をお互いとりあって、 あやかしたちと人間たちとが、共存している」 ;SE 焚き木はじける。 パチっ 「って、あらあら、いけません。 長話がすぎてしまいましたね」 ;SE 軽い足音 ;15 「おとなり、失礼いたします――んっ――」 ;SE 焚き火の中の焼き芋を火串で引き寄せる 「旅の方の――<引き寄せ>――ん―― お疲れを――<引き寄せ>――ゆるりときっと、お洗濯して――<引き寄せ>――ん……」 「お屋根の上のお昼寝よりも……<引き寄せ>―― もおっとくつろいで――<引き寄せ>―― おやすみ、いただく――<引き寄せ>――っ! うふふふっ、取れました」 「焼き立てあつあつですからねぇ。 おはしでつまんで――<銀紙ホイル芋橋でつまむ>―― よいしょ――おさらに、のせ、って <乗せる>」 「お箸で、ホイルを――<ホイルを箸で刺し破く>―― あ――わぁぁぁっ、うふふっ――(呼吸音)」 「いいにおい。綺麗な金色に焼けていますね〜 あつあつで、ほくほくで――<箸で芋を一口すくってつまむ>――うふふっ」 「このままだったら、おくち、やけどしてしまいますね? ほんの少しだけさましましょうね (ふーっ、ふーーーっ、ふーーーーっ)」 ;SE にじりより ;7 「うふふ? それでは、どうぞ? 最初のひとくちを。 はい、あーーーーーーーん」 「あらあら! まだ熱かったですか!? お水、お水」 ;SE 足音遠ざかる ;SE 足音戻ってくる 「――はい、どうぞ。お水です。 ……(呼吸音)……ん―― 大丈夫? ですか? おくち、やけどしていませんか?」 「あっ……(ほーーーっ)それならばよかったです。 うふふっ、おいも、旅の方のお口にあったのですね」 「え? いえ、お紺は自分で――……あ――はい。 それなら、てーさいの――い、いえ。 照れくさいですけれど…… 旅の方のお言葉に……お紺、あまえてしまいますね?」 「……(呼吸音)……あ、あーーーーーん――っ!」 「(はむっ)――(はふっ、あふっ)、 あ、あひゅい、けど、――おいひ――んっ」 「(はむっ――はむっ――こくん)」 「ふはっ――あー…… うふふっ、本当においしいですねぇ。 ねっとりあまくて――(ぺろっ)――しっとりで」 「旅のお方も、もっとたくさんたべてください。 ん……しょっ――はい、あーーーーん」 「……(呼吸音)……」 「うふふふっ、とってもおいしいお顔。 おめめもほっぺも、にこにこされてますよ?」 「あら、またいただけるのですか? うふふっ、ありがとうございます。 そうしたら――あーーーーーーー(はむっ!)」 「(はむっ――はむっ――むしゃっ――こくんっ)」 「ふうっ、おいしい。 あっついの、喉をとおっておなかにおちていくのが、わかりますねぇ」 「はい、今後は旅の方の番。 あーーーー――あら?」 「うふふっ、少しだけまってくださいな? (顔寄せささやき)――ほっぺ、おべんとうついてます」 ;戻って 「とれました。ふふっ――(ぱくっ)」 「え? ……あ! あっ! お、おもわずつまんでしまいました。 ああっ――はしたない、てーさいのわりー―― あぅあぅ〜〜っ」 「お、おいもさんがいけないんです! あんまりおいしいものだから、 わたくし、ついつい――って、あれ?」 ;7で、首を左に向けながら 「囲炉裏の火……弱まってます? よね? やだ、焚き木の積み方、わるかったんでしょうか?」 ;SE 火かき棒で焚き木をがさがさ 「少々お待ちくださいね? いま――ん……焚き木を少し動かしまして―― ん――<SE ガサガサ>――空気の通り道、を――」 ;SE 焚き木崩れる(どさっ!) 「きゃっ!? やっ! ―― ごほっ! ごほっ! ごほっ!! ま、窓! 旅の方! 窓をあけてくださいな」 SE 窓開け ;15 「あああ、煙を立ててしまって――けほっ、こほっ―― すみません、お紺、こんな粗忽をしてしまうなんて――」 ;15 「(はあっ――はあっ――はあっ――はあっ――)んっ!」 ;7、左向いて 「焚き木――火箸――で――(こほっ)―― 整え、直し――ん――(火箸で焚き木置く。ことっ) ――うんっ!」 ;7、通常 「はぁああ〜。ようやく落ち着き直しました――」 ;SE 囲炉裏、パチパチ 「あ――うふふっ――ああ、ごめんなさい」 「笑ってはいけませんけれど――うふふっ―― 旅の方、ほっぺにすすが―― いたずらっこみたいで、かわいらしい」 「ではなくて――(けほんっ) 本当にすみませんでした。 お体も、お召し物も、 お紺のうっかりで、すすけさせてしまいました」 「あらためまして、どうぞ、お紺にお洗濯させてください。 新品の浴衣のご用意がございますので、 お召し物が乾くまで、そちらに袖を通していただきたく思います」 ;顔寄せて囁き 「もちろん、ね? その前に」 「お体のすすけも、お落としください。 どうぞお紺に、そのお背中を、大事に流させてくださいな」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track2:お紺の背中流し ;//////// ;SE 湯おけ、カポン ;9(遠く、エフェクトで壁越し) 「(ふーーっ、ふーーーっ、ふーーーっ、ふーーーっ)」 「旅の方ー? お湯加減、いかがですかー?」 「…………」 「あ。よかったぁ、うふふ。 いい湯加減ならなによりです」 「そうしたら――よいしょ。 どうぞそのまま、あたたまりながら、少々お待ちくださいね〜」 ;SE 足音遠ざかる ;SE 小さな湯おと(ちゃぷっ) ;SE (13方向)ノック ;13 (壁越し) 「旅の方? お背中、流しにまいりました」 「お紺、はいってもよろしいですか? それとも、もう少しあたたまってからにいたしますか?」 「……はい、かしこまりました。 それでしたら、ね? お湯からあがって、 どうぞお風呂いすにこしかけていてくださいな」 ;SE ざばあっ ;SE きしっ(木製の風呂イスに座る) 「……(呼吸音)――――よろしい、ですか?」 「はい、それでは――んっ――失礼、いたします」 ;SE 戸開け ;SE 濡れた足音、ひたひた ;5 「お背中、しめらせますね?」 ;SE 湯おけに湯をすくう(ちゃぷっ) 「ん――」 ;SE 湯おけの湯を背中にかける (ざばーーーーっ) 「……」 ;SE すくう 「……」 ;SE かける 「――うん。うふふ。 そうしましたら、お紺も、手を洗いまして――」 ;SE 石鹸で手を洗う 「ん。そうしたら、垢すりに石鹸をあわだてます。 よいしょ――んっ――――」 ;SE あかすりタオルに石鹸泡立てる 「(呼吸音)――旅の方、ご存知ですか? せっけんで、泡をたてますときには―― ん……まず、手をあらって、手の脂をきれいにおとしませんと――ん……(呼吸音)」 「うふふ、こういうなめらかな泡は、 どうがんばっても立たないのです」 「ね? うふふ、旅の方。 指先でこの泡を、そうっと押してみてくださいな」 ;6 「そう、です。そおおおっと」 「うふふっ、おどろいたお顔! お指、おしかえされましたでしょ?」 「このくらいまでふわっふわっに泡立てませんと―― 旅の方の大事な大事なお背中ですもの。 傷一つ、つけるわけにはまいりませんので」 「――うん! これなら上出来です。 では、ね? 旅の方。 お顔、まっすぐ前に、どうぞ向け直してくださいな」 :5 「……ありがとうございます。 この方が、お背中流しやすい……ですし――」 ;つぶやき 「それに……お紺も、照れてしまわないですみます、し」 ;普通 「え!? いえいえ、お紺、何も申してません。 なぁんにも、です。それより、湯冷めなどしないうち」 「え? あ、これですか?  ヘチマです。ヘチマたわし」 「ヘチマをきって、茹でて、皮をむいて、乾かしたもの。 お肌をこするのに、とてもよいものなんですよ?」 「このヘチマたわしに――ん……泡立てた泡を、たっぷりとうつしとりまして――よいしょ!」 ;SE ヘチマ洗・長(ごしーーーーっ) 「どう、ですか? 少しでも痛かったり、逆に弱すぎたりしたら 遠慮なくいってくださいね?」 「あ、はい。では、もう少し強めますね?」 ;SE ヘチマ洗・短(ごしごし) 「ん……(呼吸音)――いかが、ですか?」 「うふふっ、よかった。でしたら、このまま続けますね? ん……<SE 洗短>――ふっ――<洗短>――んっ」 ;4 「お背中の、右側を――<洗・長>――ん、しょっ ――<洗短>――ん……<洗短>――」 「旅の方、右手、持ち上げていただけますか?」 「うふふっ、ありがとうございます―― ん……<短>……(呼吸音)――<短>―― よい、しょっ――<長>」 「……ん。いったん、お背中流しますね? <手桶で湯をすくう>――しぶき、跳ねたらごめんなさいまし」 ;SE お湯をゆるゆるかける 「もう一度……ん――<湯をすくう>」 ;SE ゆるく湯をかける 「――うふふ、綺麗になりました。 そうしたら――よいしょっ」   ;6 顔寄せ 「今度は、ね? 左の手、少し持ち上げてくださいな」 ;6 通常 「ありがとうございます。洗いますね? ん……<洗・長>――んしょっ――<洗・短>――ふ…… <洗・短>」 「ん……<洗・短>――きゃっ!? え? ど、どうされました?」 「くすぐったかった――って…… どこがです? え? おへそのあたりの脇腹って―― ここ? (指で肌をこする音)――きゃっ!?」 「あ、ごめんなさいっ、くすぐるつもりとかじゃなくって、 ただ単純に、どこかなぁ、って」 「でも……うふふっ。 旅の方、そこがくすぐったいところなんですね〜 なんだか、すこしかわいいです」 「え? 忘れてほしい、ですか? うふふふ、はぁい、かしこまりました」 「他ならぬ旅の方の――あなたのお願いごとですから。 お紺、忘れるように忘れるようにって、 毎日毎日、しっかりと意識するようにしますね? うふふふっ」 「それより――えいっ! <洗・長> まだお背中流しの途中です。 ちゃあんとお背中最後まで、 綺麗にお洗濯させてくださいな」 「もう少しですみますし…… うふふっ、くすぐったくなってしまうところは、 今日はもう、さわらないようにいたしますから」 「『他の日にならさわるってこと?』 って―― さぁ、どうでしょう? それよりも、ほら―― <洗・短> ちゃあんと左手、上げててください?」 「ん……<洗・短>――しょっ――<洗・短> ……(呼吸音)――<洗・短>――んっ――うん! <洗・長>」 「お湯、かけますね? ん……<湯すくい>」 ;SE 湯かけ 「まだ、あわあわが残ってますね――<湯すくい>」 「<湯かけ>――(呼吸音)――ん。うん! うふふ、綺麗になりました」 「そうしたらあと少しだけ―― おせなにたまったお疲れも、お洗濯させてくださいな」 「まずは――<肩叩き>――ん――(呼吸音)―― 右肩から――<肩叩き>――首の後――<肩叩き>―― 左のお肩――<肩叩き>」 「どう、ですか? <肩叩き>――効くところがあったら、 お紺に知らせてくださいね――<肩叩き>」 「ん――(呼吸音)――<肩叩き>―― だんだん、下にさげていきますね?――<肩叩き> ん――<肩叩き>――あ!? ――あ、ここですか? ここが、効く?」 「かしこまりました。そしたら、強めに、強めに―― <肌を揉む>――ん――<肌を揉む>」 「痛かったらいってくださいね? <肌を揉む>―― ん――(呼吸音)――<肌を揉む>――<SE水滴> あ!」 「すみません。お紺の汗がたれてしまって―― え? かまわないからそのまま……ですか? はぅ……はい……なんだか少し、恥ずかしい――ですけど」 「でしたらお紺、つづけます――ね? ん――<肌を揉む>――ふっ――<肌を揉む>―― (呼吸音)――<肌を揉む>」 「どう……ですか? (呼吸音)――<肌を揉む>―― え? もう少し、強く――わかりました。それでしたら」 「お紺、体重かけますね? ん――<ぎゅーっと押し込む>」 「うふふっ、旅の方、『くはぁ!』だなんて」 「よっぽどよろしかったのですね? それではおまけにもう一度――ん! <ぎゅーっと押し込む>」 「うふふ。はい。おせながほぐれたのでしたら、ようございました」 「あ、もう少しだけ待ってくくださいね? 最後の仕上げに――」 ;SE 香油を手に垂らし、両手でもみのばす 「うふふ、いいにおいでしょう? これ、米ぬか油 米ぬか由来の、香油です――」 「これをお肌に塗り込んでおくと、 気持ちもほぐれてくるんですよ?」 「いま、塗り伸ばしますから―― どうぞ、力をぬいてくださいね?」 「ん――<オイル伸ばし>――ふっ―― <オイル伸ばし>――(呼吸音)―― <オイル伸ばし>」 「香油、伸ばすの――<オイル伸ばし>――んっ―― 気持ちいい、<オイル伸ばし>――です、よね―― ん――<オイル伸ばし>」 「塗り、伸ばしてる――<オイル伸ばし>――お紺の、指も、てのひらも――んっ――(呼吸音)――香油―― <オイル伸ばし>――染み込んで、くる――みたい、で――<オイル伸ばし>」 ;4 「脇の、下から――<オイル伸ばし>――脇腹も――で……<オイル伸ばし>」 ;6 「こちらの脇、も――<オイル伸ばし>――脇腹、も――……<オイル伸ばし>――うん」 ;6から耳に顔寄せささやき/うふふっは顔を戻して 「はぁい、おしまいです――うふふっ!」 ;SE 水を含んだ小さな足降り ;13 「それじゃあお紺、うふふふふっ、 お耳掃除のお支度を、すっかり整えておきますからね?」 「湯冷めしないよう、こころゆくまで、 お風呂、ごゆるりとお楽しみくださいませ」 ;SE 戸開け→戸閉め ;SE 湯につかる、ちゃぽん ;//////// ;Track3:お紺の耳掃除(右耳) ;//////// ;環境音 囲炉裏、F.I. ;9 「……お風呂、お疲れ様でした。 浴衣――うふふっ、やっぱりとってもお似合いですね」 「あ、はい。新しい浴衣です。 この間お貸しした、父様の浴衣…… 少しだけ、お体にあっていないところがありましたので」 「そこを補正するようにして、浴衣、縫ってみたんです。 ぴったり合うって思ってましたけど―― うふふっ、やっぱりそうなると、安心しますし、とっても心地よいですね」 「え? はい、もちろん―― 旅の方の、あなたのための浴衣ですよ? 寸法、だって、ぴったりですもの」 「いえいえ、そんなお礼だなんて。 お気になさらないでくださいな」 「……仲間だっていってもらえて、 おともだちになってもらえて、 お紺、とってもうれしかったから」 「おともだちのこと――あなたのことを考えながら、 一針一針縫い進めるのは…… うふふ、お洗濯屋の単調な毎日には珍しい、 とってもとっても、素敵な時間でしたから」 「さてさて、それでは、お耳掃除と参りましょうか? <ぽんっ、と膝を手で叩く> ――さ、どうぞ、 お紺のおひざに、おつむをお預けくださいな」 ;3 「はぁい。上出来です。 うふふっ、旅の方、いい匂い。 米ぬか油とせっけんの、とってもあたたかな匂いです――あ」 ;顔寄せささやき 「お耳も綺麗に、濡れてぬぐいで、ぬぐっておいてくださったのですね?  うふふ、ありがとうございます」 「(ふーーーーーーっっ)――うん」 ;3通常 「これならすぐに、お耳掃除をすすめられますけど…… 今日は、お耳もしめりけを帯びていますから――」 「うふふっ、今日はこの子で―― 綿棒で、お耳のおせんたくをさせてください」 「ほんの少しでも痛かったり、痒かったり、 こそばゆかったりいたしましたら、 遠慮せずお知らせくださいね?」 「もちろん、お紺は洗濯狐。 そのようなご不快は一切なしに、 旅の方のお耳をすっかり、綺麗にできると思いますけれど」 「さぁて、それでは参りましょうか。 ん……(呼吸音)」 ;以下、<耳かき音>は全て綿棒 「最初はやっぱり耳のふち、 浅いところを――<耳かき音> こうしてこしょこしょ――<耳かき音>―― 掻くようにして綺麗にしましょう」 「ふ……(呼吸音)……んっ――<耳かき音>」 「あ……<耳かき音>――ん……ふっ――(呼吸音)」 「これ――とっちゃいたい――ん――<耳かき音>――くっつけ、て――<耳かき音>――うんっ、うふふ、とぉれたっ」 「ん……<耳かき音>――ふふっ――旅の方も―― <耳かき音>――ずいぶん、馴染んでくださいましたね――<耳かき音>」 「え? だって、はじめての、耳かきの、ときは―― <耳かき音>……体、緊張にこわばって――ん―― (呼吸音)――お紺の方が、すこぉしだけ、怖い、くらい――<耳かき音>――だった、のに……」 「いまは――うふふっ――<耳かき音>――安心、しきって――んっ――(呼吸音)――小さく、あくびまで、されて――<耳かき音>――」 「眠くなってきましたのなら……ん――<耳かき音>…… どうぞ、このまま――<耳かき音>――眠ってしまって――くださいまし、ね?――<耳かき音>」 「もし、お望みなら……<耳かき音>――お紺、だまって――え? ――ああ、はい――もちろんです――<耳かき音>」 「引きこもりぎみの洗濯狐。さして面白いお話も―― <耳かき音>――できないようには……思い――ます――けど――<耳かき音>」 「それが、あなたのお望みでしたら……ん――(呼吸音)――お紺は喜んで……<耳かき音>――なんなりと、お話し――いたします――<耳かき音>」 「あ、はい。囲炉裏は、最初からありました――<耳かき音>――このお洗濯屋さんに、最初から……<耳かき音> 「お紺にお手紙をくれた――<耳かき音>―― 茂伸にお紺を呼んでくれた……<耳かき音>―― 茂伸の、きっと……カミ様、が――<耳かき音>」 「お紺にとっての、居心地のいい――<耳かき音> お部屋で、お店を用意しとおいてくれたんだって―― <耳かき音>――お紺、すぐにわかりました―― (呼吸音)――」 「囲炉裏があって、薪のおふろがあって――<耳かき音> 桐の箪笥があって、火鉢もあって――<耳かき音>―― 全部が全部、お紺の、好きなものばっかりで―― あ、けど――<耳かき音>」 「いえ、たったひとつだけ。 あれ? って思うものがあったんです。 鉢植えの花――<耳かき音>――」 「え? あ! お花は、もちろん、お紺もとっても大好きですよ――<耳かき音>――けど…… 鉢植えは……少しだけ――(呼吸音)」 「お紺の母様(かかさま)が病気をしたとき――<耳かき音> 人間の病院に入院したとき……<耳かき音> お紺、人間のいいつたえだなんて、しらなかったから――」 「ん……<耳かき音>。 あ、はい――そうです。 鉢植え、知らずにもっていっちゃって――<耳かき音>」 「母様は喜んでくれたけど――<耳かき音> ちゃんと退院も出来たけど――(呼吸音)―― ずうっと、あとに――鉢植えは根がつく、 寝付くから、縁起がよくないって……<耳かき音> お紺、知って――恥ずかしくって、母様に申し訳なくって――<お紺>」 「それでずうっと、鉢植えって苦手でしたから……<耳かき音> それだけ、すごく、『別のもの』だって――お紺、感じたんです――<耳かき音>」 「でもきっと……それならカミ様がおいていく意味のあるものだろうって思って――<耳かき音> だから、水とかあげてたんですけど――(呼吸音)―― 世話をしててもお紺、ずっと、なんの鉢植えかわからなくって――<耳かき音>――」 「だけど、ですね? 不思議なことに、このあいだ――<耳かき音> ちょうど初めて旅の方と……お会いした、ころから急に――(呼吸音)―― 鉢植えのお花に、つぼみがついて、ふくらみはじめて――<耳かき音>」 「『何の花?』か、ですか? うふふ、気になりますよね――<耳かき音>―― お紺も、でした……ん……(呼吸音)―― 名前を、知らないお花だったら、それは、少しだけさみしいな、って――<耳かき音>」 「けど――つぼみがついたらわかったんです――っと!」 ;顔寄せ 「(ふーーーーーーーっ)」 ;3 通常 「うふふっ。右のお耳は、すっかり綺麗になりました。 お話のつづきはどうぞ、左のお耳に流し込ませてくださいね?」 「はぁい、それじゃあ――ごろーん」 ;//////// ;Track4:お紺の耳掃除(左耳) ;//////// ;3 「(指先でかるぅくマイクをとんとん」 「――左のお耳も、うふふっ、おふろあがりで、綺麗ですねぇ。うぶげが少ぉし、水をふくんでいるようです」 「それじゃあ、お耳掃除を再開しますね?―― ん……<耳かき音>――はい、うふふ、わかっっています。 もちろん、お話の続きも、すぐに――<耳かき音>」 「つぼみは、ですね?――<耳かき音>―― もちろん最後には……ん――(呼吸音)―― 咲いてみないと、わからないんですけど……<耳かき音>」 「それでもきっと――<耳かき音>―― チューリップだって、お紺、思うんです――ん…… (呼吸音)―― とっても、綺麗な――チューリップ、って――<耳かき音>」 「はい……季節はずれですよね――<耳かき音>―― チューリップなら、春のお花――<耳かき音>―― 茂伸の道を歩いてみても……(呼吸音)」 「この季節なら、菊に桔梗におみなえし――<耳かき音> 土手沿いには彼岸花、それから、一面に広がる秋桜(こすもす)――<耳かき音>」 「チューリップなんて、茎やはっぱも見かけませんけど……<耳かき音> それでも、お紺の鉢植えのツボミはやっぱり、チューリップとしか思えなくって――<耳かき音>」 「え? 『何色か』ですか? うふふっ――<耳かき音>―― 旅の方と、お紺と――ん……(呼吸音)―― ほんとに、こころの動きかた―― 考え方が……似て、ますね――<耳かき音>」 「お紺も……それが、きになって――<耳かき音>―― つぼみ、なかなかほころばないから、みえないから―― <耳かき音>―― だから、お紺……調べたんです――<耳かき音>」 「なにをって――それは――<耳かき音> 花言葉、です――ん……(呼吸音)―― お紺が、まったく思ってなかった、ものが、 ひとつだけ、あったから――<耳かき音>」 「この鉢植えには、チューリップは――<耳かき音>―― お紺を呼んでくれたカミサマからの――<耳かき音>―― お手紙、みたいなものなのかもって……お紺――思って――<耳かき音>」 「それでっ……ん――(呼吸音)――お紺―― チューリップの花言葉――調べて……<耳かき音>―― そうしたら、驚きました――すごく、たくさん――<耳かき音>――あるんですね、チューリップの花言葉、って」 「赤が……ん――(呼吸音)――愛の、告白―― それで、白は――<耳かき音>――失われた、愛―― <耳かき音>」 「紫の、チューリップは……ん……(呼吸音)―― 不滅の、愛、で……それで――<耳かき音>―― 桃色の、チューリップは……<耳かき音>―― 愛の芽生え――と、誠実な、愛――<耳かき音>」 「それから、黄色―― 黄色の、チューリップの――ん……<耳かき音>―― 花言葉、は――――え?」 「……旅の方、ものしりですね…… そうです、黄色のチューリップの花言葉は―― 『叶わぬ恋』」 「どうしてご存知――あ、ごめんなんさい。 おどろいて、手がとまっちゃってました―― <耳かき音>……ん……はい――(呼吸音)―― そう、なんですか…… 『それだけは、なんとなく知っていた……』<耳かき音>」 「……でも、ですね? それだけじゃないんですよ?――<耳かき音> ん……(呼吸音)黄色いチューリップの花言葉―― <耳かき音>」 「『叶わぬ恋』――の、他の花言葉は――<耳かき音>――『日光』――おひさまのひかり、です――<耳かき音>」 「不思議、ですよね? 花言葉て――<耳かき音>―― かなわぬ恋と、日光と……ん……(呼吸音)―― 正反対、みたいなことばが――一つのお花に――<耳かき音>――え?」 「『正反対じゃないかもしれない』……ですか? それってどういう――<耳かき音>―― はい……ん……(呼吸音)――はい――」 「ああ、確かに……そう、かも――<耳かき音>―― 人が、あやかしが――どんなにおひさまに恋焦がれても―― それは、決して――叶わぬ、恋――<耳かき音>」 「だけど、そうなら――<耳かき音>―― 憧れつづける、かならぬ恋なら――(呼吸音)―― それは素敵なことなのかもって……お紺、少しだけ、思います――<耳かき音>」 「『それはどうして?』、って――<耳かき音> うふふふっ――」 ;口寄せ 「(ふーーーーーーーーーっ)」 ;接近ささやきのママ 「お耳。左もとっても綺麗になりました」 ;3通常 「……(呼吸音)――あ」 ;3マイク逆向き 「お月さま……もう、そんな時間なんですね――」 ;SE  焚き木爆ぜる ;3 通常 「……旅の方、ね? お話しのつづき、もしも気にしてていただけるなら――」 「今夜も、お泊りになられませんか? お紺でよければ添い寝して―― 寝物語に話の続きを、 きっとあなたが寝入るまで……」 ;3口寄せささやき 「――そうっと、ささやきつづけますから」 ;環境音F.O. ;//////// ;Track5:添い寝、ささやき(寝つかせ) ;//////// ;SE フクロウ。ほー、ほー ;SE 耳に梵天いれてガサゴソ(フクロウの声消える) ;3 寄せて (ふーーーーーーーっっ) ;環境音 秋の虫の声 ;3通常 「……お耳、違和感ございませんか? もしなにかございましたら、もう何度でも、 お洗濯しなおしますけれど」 「うふふ……でしたら、よかったです。 なら、ね? (ぽんぽんお布団たたく) 綺麗になったお耳で今度は、寝物語をお楽しみください」 「……ん……」 ;SE 布団に潜り込む ;7 「うふふっ、おふとん、あたたかですね。 ここのところ、秋の気配が、どんどんふかまりましたものね」 「もう少しすると、入った瞬間はお布団の方がひんやりとする――そこまで、冷え込むのでしょうけれど」 「だけれど、いまは――(ぽんぽん)――うふふ、あったか。 おふとんも、すぐ隣りのお布団にいる、あなたのお体のぬくもりも――」 「あらあら、うふふっ、大きなあくび。 (ぽんぽん)――あたたかで、せっけんのいいにおいがして、とってもやすらぎますものねー」 ;7耳寄せささやき 「かまいませんよ? このまま寝入ってしまっても―― え?」 ;7通常 「はい、もちろん。 それなら、お話を続けましょうね? あなたか、お紺か、どちらかが眠ってしまうまで」 「……二人一緒に眠りにおちたら、 きっと一番素敵ですよね? もしそうできなら、夢の中でもお会いできそう」 「けれどもいまは、現実(うつつ)の中でお会いして、 こうして、お話できてますから――(ぽんぽん) うふふっ、この時間をめいっぱい味わわないと、ですね」 「それで、ええっと――チューリップのお話できたよね」 「黄色いチューリップの花言葉―― 『叶わぬ恋』と、『日光』と――」 「ん……(呼吸音)――お紺は、ですね? それが叶わぬものであっても、 おひさまに焦がれ続けるような、 手を伸ばし続ける恋ならば……」 「それも……(ぽんぽん)―― 素敵な恋じゃないかと、ほんの少しだけ、思います」 「だって……(ぽんぽん)――<呼吸音>――」 「だって――叶わないってわかりきってる恋ならば…… それは、優しいと思うから……」 「え? いえっ、いいえ―― お紺は、恋なんてまだ知りません――あ――」 ;7 小声、ひとりごと 「……ひょっとしたなら、今、ちょうど…… 知り始めてる、ところなのかも、しれませんけど―― はうっっ」 「あ、あ、あの――ええと――なんでしたっけ? あ、そうでした――『叶わぬ恋』のお話でしたね」 「ん……(呼吸音)―― 叶わうかもしれない恋が、きっと一番残酷だって――」 お紺におしえてくれたのは…… お紺の……母様(かかさま)なんですよ……」 「お紺の……お紺の母様は…………(呼吸音)―― かかさま、は――(呼吸音)…………」 ; *=今までのぽんぽんとは別の音(男の手が叩く) 「お紺……とも、とと様とも――その―― 違って――(呼吸音)―― ええと、です、から――(呼吸音)――んっ…… <*布団たたく、ぽんぽんぽん>――あ」 「……ありがとうございます。 お紺のおふとん、ぽんぽんぽんてしてくださって。 お紺を、なぐさめてくださって」 「え? 『いつか、話したくなったときに聞かせてほしい』ですか 。 ……(呼吸音)ありがとうございます、旅の方」 「あの、話したくないわけじゃないです。 いえ、他の方には、絶対に話したくないことですけれど―― 旅の方には、あなたには――きっと、聞いてほしくって――」 「だけど、そう思えば思うほど―― ことばが、喉に、つまってしまって――あ」 ;7接近 「『焦らなくても大丈夫』……ですか。 はい――そう、ですね。 焦らなくても、言葉が、自然にでてくるときに」 「――あ……なら……また――。 ね? 旅の方。焦らなくても、また、今度――」 「次のときにもこうやって、お紺のお話―― いつか、聞いてくださるのですか?」 「あ――あ。うふふ、そうでしたね。 はい。聞くまでもないことでした」 「あなたとお紺は、仲間で、お友達で――」 「そのうえひょっとしたのなら、 あなたはいつか、この茂伸に―― お引越し、してきてくれるかもしれないんですから」 「うふふっ――ふあ――あ――! やだ、お紺ったら単純で―― 安心したら、急にねむなくなっちゃうなんて――」 「え? あなたもおんなじ、なんですか? その証拠に? <布団の下で手が動く>――あ」 「うふふ、本当。 あなたのおてて、ぽかぽかですね。 もう眠たくて眠たくて、おてても、きっとあんよもすっかり、ぽかぽかにぬくまってるのですね」 「でしたら――ね? でしたら――その――ん……<呼吸音>」 「お手々、このまま――<呼吸音>―― つないだままで、お紺、ねむっても……いい、ですか?」 「わ――うれしい――ふふふっ、ありがとうございま――ふ、ぁ――」 「そう、ですね……お紺も……すごく、眠たいです」 「……おやすみなさい、旅の方。 お紺の仲間で、おともだちの……<呼吸音> お紺の、大事な、大事な、あなた」 「手をつないだまま――きっと、眠って。 お紺は、もしも……<呼吸音>――もしも、先に目覚めたのなら」 「そのままずっと、あなたが目覚めるそのときまで…… 手、にぎったままでいますね?」 「あ――<呼吸音>――うふふっ、はい。 そうしてくれるならとてもうれしい―― とっても、とっても、安心です」 「あなたとお紺、そうしたら―― どっちが先に目覚めても――<呼吸音>――ん……」 「手を、つないだまま――ふぁ――明日を、一緒に―― おむかえ、でき、る……」 「ふぁ――ん……そう、ですね。眠ります」 「お口を……閉じて――あなたの、匂いと、ぬくもりと――ん――おふとんに、すっぽり、くるまれて――ふぁ」 「あ――でも、ひとつだけ。 ひとつだけ聞いても、いいですか?」 「――お紺の鉢植えのチューリップ。 何色のお花が咲くって―― ううん、何色のお花に、咲いてほしいって――」 「あなただったら……思いますか? ……<呼吸音>――――<呼吸音>――あれ?」 「旅の方? ……あなた? もう、眠ってしまったのですか?」 「……<呼吸音>――<呼吸音>―― うふふっ、なぁんだ。もう、こともみたい。かわいいひと」 「けど――ふぁあ……その方ま、まだ、安心なのかも…… お紺も、だって――まだまだ……こぎつ、ね……」 「ん――<呼吸音>――ああ、眠い。 もう、寝ますねぇ――お口をとじ、て……あ、そうだ」 「……母様が、父様にいつもしていた、おまじない――」 ;3 接近 「(リップ音)」 ;接近ママ、ささやき 「おやすみなさい。素敵な夢を――」 「……<呼吸音>……<呼吸音>」 「……<呼吸音>――ん……<寝息>」 「<寝息>……<寝息>」 「<寝息>……<寝息>」 「<寝息>……<寝息>」 で、寝息F.O. ;寝息がボリューム0になってから、環境音もF.O. ;無音。終わり。