おー。おったおった。  せやねん。もううちらの部活もおしまいの時間。  つか、閉館時間やで?  ほんまになぁ。あんたって、一回集中したら帰ってこーへんねんもん。 うちらが声かけへんかったら、ずっとここにおったんやない? せやせや。 うちら、あそこの階段んとこから手ぇ振っとったのに。 あんた、全然気づかへんねんもん。 『よっぽどおもろい本読んどるんやろね』って話しとったんよ。  おまじないぃ……?  それはまた、メルヘンなもん読んどるなぁ。  おっ。うちにも見せてぇや。  わっ……中も凝っとるやん。ほんまに綺麗な本やね。  へぇ、たまたま見つけたんかぁ。  図書局員のあんたでも、初めて見る本があるんやなあ。  『本の事知りたいんやったら、あんたかなる先輩に聞け!』って言われとる位やのに。  ……でも、何でもあるもんな、この図書館。  地下書庫なんてうち、汐女に入るまで、ゲームでしか見た事なかってんもん。  ここってもう、ダンジョンみたいに入り組んどるし!  どんな本でも置いてある気ぃするわぁ。  そんなら、この未知の出会いに感謝して、なんか一つ試してみんのはどない?  何か可愛いやつ。  呪い感ない、ポジティブな感じのおまじないやったら、悪さする事もないんとちゃう?  おぉっ、ええやん!  あはは、そんなわけないない。  楽しんどるとちゃうんやで~。  ……いや、めっちゃ楽しんどるんやけどね?  うちらなりに。うちらなりに真剣に!  あんたの恋、応援したいと思ってんねん!  『『愛しのなる先輩にもっとふさわしくなりたい!』って。毎日勉強にスポーツにって頑張っとるあんたに、神様的なもんのご加護を!』  ってな?  だからおまじないなんて、ほんま丁度ええやんって思って。  たとえばこの『もっと好きにさせるおまじない』とかなぁ……?  せや! ……あれは忘れもせーへん一年前。  受験生のうちとまゆかは、下見も兼ねてこの汐女の学祭にやってきた。  そこについて来てくれとったんが、当時他の学校受けるつもりやったあんたやってん。  ステージで踊っとる、ダンス部のなる先輩やった……!  その日からあんたは、『わたしも汐女に行く』って、人が変わったみたいに猛勉強。数か月でメキメキ成績を上げ、宣言通りに見事合格。  四月。うちらは三人揃って、汐女の門をくぐった!  やけど……!  入学式の日、あんたと彼女は再会した。  せや、この図書館で……!  彼女の名前は『茅島 鳴瀬』。  『憧れのダンス部の先輩』は『読書家のあんたと趣味の合う、文学少女のなる先輩』でもあったんや……!  今や二人は、ちょっともう鬱陶しい位のラブラブカップル。  そうなるんまでの一部始終を見とったうちとまゆかは、まさしく『歴史の目撃者』と言えるんとちゃいます……?!  な? こんなんて、漫画みたいやん。ワクワクするやん。  『もっと仲良くなれますように~』っておまじないもしたくなるうちらの気持ち、わかるやろー?  ともかく、うちらは応援してんねん!  ……まぁでも、ちょっと野暮やったかもなぁ。  合格も、お付き合いも、全部自分の努力で叶えてきたあんたやもんね。  今更おまじないなんて、要らんかったかもしれへんな。  はいぃ?  なんやなんや、試してみたいのんって。  どれどれ……。  『好きな人の夢が見られるおまじない』?  『好きな人の夢が見られるおまじない』……。  あは……あっはっはっはっは!  いやいや、ええよ!ええよ!  あんたらしくてええやん!  よし、これや!これやってみよう!  そない特別なもんとかも要らんみたいやし!  これぞ、あんたにぴったりのおまじないやん!  せや!せや!  ほな! そうと決まったら、早よ借りて帰んで!  もう行かんと、ほんまに閉館時刻になってまうわ。