◇プロローグ おつかれー。やっとテスト終わったね。 どうだった?わたしはまあまあかな。 ところでさぁ……今日はボクシング部の練習ないよね? だったらちょっとあたしに付き合ってくんない? キミにしか頼めないことがあってさぁ。 そう、ボクシング。あたしもやってみたいんだけどさぁ、やっぱり女子でボクシングやってる子ってあんまりいないじゃん? あたしの友達もそういうのは興味なさそうだし……。 だからさ、今日部活ないんだったらあたしにちょっと教えてよ。 帰りになんか奢ってあげるからさ。 いいでしょ? うん!ありがと! じゃあ早速行こっか! なるほどねぇ〜。 パンチの打ち方とか、フットワークとかは大体分かったかな。 でもさ、試合中は相手との駆け引きっていうか……そういうのがあるんでしょ?そのへんも教えてよ。 ん?何が言いたいかわかんない? だーかーらー、あたしとスパーリングしようよって言ってんの。 大丈夫大丈夫、ルールはキミがさっき教えてくれたじゃん? それにさ、知ってるでしょ?あたし、スポーツは結構得意なんだよね。 ほらほら、グローブつけてリングあがって。 なぁに、嫌なの? ふ〜ん……。 ねぇ、もしかしてあたしに負けるのが怖いのぉ? ぷっ……あっははは!ごめんごめん、冗談だってば!そんなマジな顔しないでよ。 でもさ……せっかくだから1回やろうよ。 キミも男ならさ、挑まれたら逃げるわけにはいかないんじゃない? ふふ、少しはやる気になった? ああ、手加減なんてしなくていいからね。負けた時の言い訳にされたくないし。 ほら、早く準備しなよ。 ◇本編 ふふっ、どうしたの?いきなり様子見なの? やっぱり相手が女の子だとやりにくいのかな? キミもボクシング部ならさ、誰が相手でも真面目に戦うべきなんじゃないの? いいよ、だったらあたしが目を覚まさせてあげるね。 シッ! どう? 軽くとはいえ鼻にパンチ当てられてちょっとは痛かったんじゃない? これで目が覚めた? あたしのパンチ、結構速いでしょ? 今のは油断しただけだと思うけど、あたしも今度は本気で当てに行くからちゃんとガードしないとダメだよ? それじゃあ行くよ! シッ! ん、どうしたの?顔面にヒットしちゃったよ? もしかしてぇ、あたしのパンチ……見えなかった? そんなわけないよね? ずっとボクシングやってきた男子が、始めたばかりの女子のパンチを見切れないはずがないもんね? シッ! えいっ! あれあれぇ、また当たっちゃったねぇ。 ほらほら、次行くよ? ふっ! シッ! シッ! あっははは、全部食らってんじゃん。 本当にあたしのパンチ、見えてないんだね。 じゃあさ、パンチの種類、宣言してあげるね。 これなら流石に何とかなるでしょ? いくよ! 左ジャブっ! 右フックっ! 左アッパー! ボディっ! ストレートっ! ちょっとちょっとぉ、せっかく教えてあげてるんだからちゃんとガードしなよ。 ほら、まだまだ行くよ? 右フックっ! 左フックっ! パンチ喰らっちゃった時ってさ、ダメージを減らすテクニックとかあるんじゃないの? ガードできないんだったらさ、せめてそういうのをあたしに見せて欲しいんだけどなぁ。 ジャブ! ジャブ! ジャブっ! アッパーっ! あ、足ガクガクしちゃってる。 このままダウンしちゃう? ほらほら、踏ん張らないと女の子のパンチでダウンしちゃうよ? あ、耐えられなかったか。 頑張ってこらえようとしたのに結局崩れ落ちちゃうの、すごく情けないね。 とりあえずカウントとるね。 ワーン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン……。 おっ、まだ立てるみたいだね。 じゃあほら、キミから打ってきてよ。 ボクシング部のパンチ、見せてみなよ。 ねえ、全然当たってないし、動きも遅いよ。本当にずっとボクシングやってきたの? ほら、顔面がら空きになってる……よっ! ぷっ……あっはははは!!よっわ〜。 頑張って立ちあがったのにまたワンパンで倒れちゃったねぇ。 ねぇ?ねぇねぇねぇ、キミさ、今どんな気持ちなの? 今日始めたばかりの女の子に一撃も当てられないままボコられちゃってさ。 恥ずかしい?悔しい?情けない? ぷっ、くくく……ごめんごめん、言い過ぎちゃったね。 ね、まだ立てる? このまま負けたらさ、あたしの顔見るたびに今日のこと思い出しちゃうでしょ。 だからさ、頑張って立と? カウントとらないであげるからさ。 立って、そしてあたしを倒してみなよ。 ほら、がんばれがんばれ〜。 ふふっ……やーっと立つことができたねぇ。 こういう時って本当に続行できるか確認するんだよね? ほら、構えてみてよ。 ん〜、ちゃんと腕が上がってないけど……いいのかな? まあ君もここで終わりたくないみたいだし、いいよね? じゃあ再開だね。 シッ! ふふっ、また顔面直撃ぃ〜。やっぱり倒れてたほうが良かったんじゃない? ふふ……まぁ、もう遅いけどね。 まずはいっぱいジャブ叩き込んであげる。 もちろんダウンしないように手加減してあげるからね。 シッ! シッ! ふっ! ほらっ! えいっ! キミが動けなくなるまで、たっぷり嬲ってあげる。 シッ! シッ! シッ! シッ! シッ! シッ! シッ! ふふ、そろそろ強めの刺激が欲しくなってくるころかな? じゃあちょっとキツいのいこっか。 右っ! 左っ! アッパー! ストレートっ! お腹にも一発っ! あ〜あ、女の子にお腹殴られたくらいでガード下げちゃダメだよ。 あたしのパンチで腹筋鍛えてあげよっか? ふふっ、必死にお腹守っちゃって……だったら顔面パンチ、ノーガードで受けるしかないよね? ほらっ! ほらっ! ほらぁっ! あたしのパンチが顔に当たる度に、情けな〜い悲鳴出ちゃうね。 シッ! シッ! シッ! もうプライドもあたしのパンチでめちゃくちゃにされちゃったね。 ジャブっ! フック! ストレートっ! ふふっ、それでもダウンしないのは最後に残った男の意地かな? それともあたしにパンチ叩き込まれたくて頑張って立ってるドMさんなのかな? ああ、そうだ。 あたしやってみたい技があるんだよね。 デンプシーロールってやつ。 こんな感じで上半身を振りながら、フックの連打を叩き込むんだよね。 サンドバッグみたいになっちゃった君には、練習台になってもらうね。 ロープ際まで来ちゃったし、もう簡単にはダウンできないと思うから頑張るんだよ? いくよ〜。 右。 左。 右。 左。 み〜ぎ。 ひだり。 み〜ぎ。 ひだり。 みぎっ。 ひだりっ。 みぎっ。 ひだりっ。 右! 左! 右! 左! ここで〜……アッパーっ! あっははは……もう限界みたいだね。 目の焦点も合わなくなってるし、口もぽかーんって開いちゃってるね。 そんな顔、他の人に見られちゃったら幻滅されちゃうね。 ねえ、そろそろトドメ刺してほしい? うんうん、素直におねだりできていい子だね。 いいよ、そろそろ終わりにしたげる。 じゃあ最後、顔面にストレート5発行くね? 無駄だろうけど一応ガードしときなよ? って、もう腕も上がらないか。 だったらその顔で、あたしのパンチをしっかり受け止めることだね。 覚悟っ♪ ワンッ! ツーッ! スリーッ! フォーッ! これで……トドメっ! 決まったぁ〜! ん、まだ意識あるんだ。 気絶させるつもりで撃ち込んだんだけど流石に無理だったかぁ。 まぁ気絶できない分、痛い思いをすることになっちゃったみたいだけどね。 ふふ……悶えてる悶えてる。 一応カウントとっておこっか。 まあどうせ立ち上がれないだろうけど。 ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ナイン、テン。 はい、これであたしの勝ち〜。 残念だけどキミの負けだね。 あはは、泣いちゃってるよ。 よしよし、男の子なんだからそんな泣くなって。 ごめんね、ちょっとやりすぎちゃったよね。 ね、あたしのこと、嫌いになっちゃった? でもさ、一応言っておくけどあたしがこんなことしたのは君のことが嫌いだからとかじゃないからね。 むしろ……ううん、なんでもない。 まあ君も負けっぱなしっていうのはイヤでしょ? だからさ、またあたしと勝負してよ。 あたしの実力もわかっただろうし、今度は本当に最初から本気できてね。 それだったらこんなことにはならないだろうしね。多分。 じゃあほら、膝枕してあげるからちょっと休みなよ。 汗かいちゃったからちょっと恥ずかしいけど……ま、お互い様だよね。 動けるようになったら、一緒に帰ろうね。