//01_「いらっしゃい。もうすぐ作業終わるから、ちょっと待ってて」 「鍵、開いてるからどうぞ」 「……先生、ごめん。電話で話した通りクライアントから急ぎの用事が入っちゃって……もうすぐ終わるから、そこの椅子で休んでて」 「……今日は私が誘ったのに……先生に足を運ばせることになっちゃってごめんね」 「今日はちゃんとスケジュールが空くように調整してたつもりだったんだけど……まさかこんなときに限って急用が入るなんて……」 「それに、まさにこんなときに限ってうちの子たちが用事で出払ってたりするし……」 「いつも忙しいかったり、急に仕事が入ったりするのは分かってるから大丈夫? 有り難う」 「ちゃんと準備しててもこうやってイレギュラーなことは起っちゃうし……そういうのも見越してちゃんと備えられるようにならないと。副部長として」 「……クライアント都合だと、どうしても事前に対処するのにも限度があるんだけど、ね」 「次があれば……次からはさらに注意を払ってイレギュラーにも備えておく。出来る範囲で、だけど」 「よし、っと。これで……完了。一応、確認をして……」 「何か手伝えることはないか、って? うーん、大丈夫。先生に見て貰っても多分何もわからないだろうから」 「……あー……何も、は言い過ぎかも。多分殆ど分からないかも」 「ふふっ、だから気にしないで。ちゃんとチェックまでするのも仕事のうちだからさ」 「……えーっと……ここはオッケー。ここも……問題なし……こっちは……うん、大丈夫。後は報告をしてっと……」 「……よし。これで全部終わり」 「んーっ……完了、っと」 「ありがと、先生。お待たせしちゃってごめんね」 「もっと待たせても良かった? ふふっ、それじゃあもうちょっと別な作業でもしようかな」 『なんて、冗談。それじゃあ先生、今日はのんびり一休み、しようか』 //02_「それじゃあ、立体映像でキャンプ、楽しもうか」(コーヒー&カップ麺) 「……先生? 前にも話した通り、今日は休暇も兼ねて日帰りキャンプに……行きたかったんだけど、これからだと時間的にちょっとしんどいかなーって感じだよね。ごめん」 「これからでも大丈夫? 明日の予定がなければこれから行って、泊まりでーとかでも全然良かったんだけどさ」 「それはまた今度、ね。うちの子たちも連れてまた一緒にキャンプでも行こうか」 「ふたりきりでも良い? 先生? そういうところ、セキリティが甘すぎるって何度も注意してるよね? まったく」 「さて、というわけで今日はキャンプには行けないんだけど……はい、これ」 「私も何度か使ってみたんだけど、エンジニア部に依頼して作って貰った環境再現装置の改良版。名前は……あったけど忘れちゃった」 「まだ試作型らしいけど余分な機能を外すのに何度も改修して貰ったけど、そのおかげで大分使いやすくて良いものになったよ。エンジニア部、腕は確かだから」 「ちゃんと自然の中に足を伸ばすのが一番なんだけど、多めに時間が取れないとなかなか厳しいからね。一旦目的地に着いちゃえば電波が入らなかったりであれこれ気にせず過ごせるんだけど」 「ってことで、気分だけでも……ね。それじゃあ……束の間のキャンプ、楽しもうか」 「あっ、先生スイッチ押したい? どうぞ。そこのボタンを……そうそう、それそれ。それを押すと――」 『スーパーリアルキャンプモードを起動します』 「ん? 前のはスーパーリアルなんてついてなかった気がするけど……まあいっか」 「ほら、先生。ちょっと凄いからよく見てて」 「ね? 凄いでしょ? 立体映像とは思えないくらいにリアルに再現されてるよね。ここが部室だって忘れちゃうくらい」 「って、あれ? 前まではリアルな映像だけだったはずなのに……気温とかも調整されてるような気がするし……焚火もちゃんと温度を感じるような気が……」 「エンジニア部、余計な機能とかつけなければやっぱり腕は確かだよね。本当に感心するよ」 「……立体映像とはいえ、ちゃんと椅子までキャンプ用の椅子になってるし。細かいところだけど気分は出るよね、こういうの」 「座り心地まで何か本物に思えてきた? ね。私もそれは思った。スーパーリアルキャンプモードとか言ってたし、細かいところにも拘ってるのかな」 「ふふっ、でも服装は変わってないの、何かちょっと面白いかも」 「さて……それじゃあ……時間を忘れてのんびりしようか」 「隣、失礼するね、先生」 「……と、こんなに本格的な感じになるんだったらもうちょっとキャンプ道具とか用意しておけば良かったかも」 「いつもは立体映像流してコーヒー飲んだりする程度だったから」 「ん? コーヒー? 一応さっきまで飲んでたのはあるにはあるけど……一旦スイッチ切って用意する? インスタントで良ければすぐ淹れられるし」 「雰囲気を味わいたいからこのままでいい? 先生がそういうならこのままでいいけど……」 「……じゃあ……私のコーヒーで良ければ飲む? 2人でシェアするくらいは残ってたはず」 「……そこらへんを探せばエナドリとか転がってそうな気がするし、そっちのほうが良ければそっちでも全然構わないけど。探してみようか?」 「ふふっ、じゃあコーヒーで。ちょっと待ってて」 「はい、どうぞ。普通のインスタントコーヒーで申し訳ないけど……ちょっと値段高めのやつだから……多少は美味しいはず」 「私が作ったコーヒーだったらちゃんとしたコーヒーにも負けないくらい美味しいはず? はいはい、だから先生はセキュリティがガバガバって言われるの、全く」 「ん? 乾杯? まあ……いいけど。コーヒーで乾杯なんて聞いたことないけどね」 「はい。乾杯」 「ずずーっ」 「仕事明けの缶コーヒーも美味しいけど、こうしてバーチャルとはいえキャンプで……そして……先生と飲むコーヒーも美味しいね」 「ずずーっ」 「ふぅ。折角だから本格的なドリップコーヒーとまではいかなくても、ドリップパックくらいは用意しておくのも良いかも」 「今飲んでるようなちょっとだけランクの高いインスタントも悪くないけど……」 「目の前でドリップしたほうが雰囲気も出るだろうし、淹れたてで美味しいだろうし、ね」 「ずずーっ」 「あー……そういえば先生、私の飲みかけのコーヒーをシェアしちゃったけど……別に気にしてない?」 「ふふっ、大人はそれぐらいじゃあ何とも思わないか。私? 私も飲み物をシェアしての間接キス程度だったら何とも思わないよ」 「ずずーっ」 「私だって普通にうちの子たちとは飲み物シェアしたりするし、今時の学生だったらそれぐらい普通じゃない? 潔癖な性格だったら気になるかもだけどさ」 「まあでも……相手が先生だったら変に気を持ったりしちゃう子の気持ちも分からなくもない……かな?」 「だから、一応他の生徒さんと飲み物をシェアするときは気を使ったほうが良いかもね。いつも言ってるように先生、リアルのほうのセキュリティも甘いから」 「ずずーっ」 「何かあったら助けてくれるの?って? 勿論、何かあれば手を貸すけど……そうならないようにちゃんと日ごろからセキュリティ意識を高く持つこと」 「まあ……注意してても貰い事故みたいなのはあるわけだし、何かあったら遠慮しないで連絡して」 「勿論、ネット系のセキュリティとか、そっち方面も、ね。むしろそっちが本職だしね」 「ずずーっ」 「あ、ただの独り言なんだけど……怪しいサイトとかアプリとかは入れたりしないほうが良いよ。先生のタブレットはセキュリティ凄い硬いみたいだけど、手持ちのスマホとかはそうでもないみたいだし」 「それと、差出人を偽装したメールとかも開いたり、URLをクリックしたりしないこと。生徒名で偽装されてたら思わずすぐに開いちゃいそうだけど……ちょっとでも違和感があったらメアドをチェックするとか、モモトークで確認を取ってみるとか、ね」 「何で分かるのかって? ふふっ、何でだろうね」 「ずずーっ」 「ふぅ。ご馳走様。さっきまで飲んでた残りだしあっという間に飲み切っちゃった」 「さっきも言ったけど、次はもうちょっと色々準備してから、だね。実際に日帰りででもキャンプに行けるのがベストだけど」 「時間が無くてもこうやって気分だけ、でも良いし。このモード、どういう構造なのか分からないけど気温とかも体感出来るみたいだから」 「あー……先生ももう飲み終えた? 私が飲んでたやつをシェアしたからあんまり量もなかったからね」 「まあ、あまり飲み過ぎても夜眠れなくなるし、今日のところはコーヒーはこれくらいにしておこうか。この状態のままだと準備、出来なくはないけど難しそうだから」 「……あー……すぐに準備出来るものだったら……手の届くところに置いてた気がするけど……先生。お腹空いてたりする?」 「ちょっと摘まめるものっていうか……常備してるカップ麺だったら立体映像切らなくても用意出来ると思う」 「食べたいけどお湯はどうするのかって? ふふっ、それは大丈夫。それじゃあ、ちょっと用意するから待ってて」 「えーっと……机の下の奥のほうの箱だから……ここらへんに……あったあった」 「……カップ麺はちゃんとそのまま見えてるって……どんな技術を使ってるんだか……」 「お待たせ。カップ麺、あったよ。はい、どうぞ。選ぶときにケンカになるといけないから全部同じ味にしてて味は選べないけど」 「ん? このまま食べるのか、って? ふふっ、まさか。そのまま食べるインスタント麺みたいなのもあるみたいだけど、流石にカップ麺は、ね」 「このカップ麺、底に紐みたいなのついてるでしょ? それ、引っ張ってみて。そうそう、それそれ。それをシュっと」 「それで、紐を引っ張って3分待てば完成するよ。お湯は必要なくて、緊急時にも食べられる」 「これもエンジニア部がどこかの駅弁?にヒントを得て開発した非常食にも便利なカップ麺だからね」 「どういう原理になってるのかはわからないけど、紐を引くだけでちゃんとカップ麺が出来上がるのは凄いよね」 「本当に、余計な機能を付けなければ腕も確かだし、良い仕事をするんだけど、エンジニア部は」 「ふふっ、察しのとおり、このカップ麺も最初は変な機能がついてたりしてたんだけど……。3分間カップ麺の開封を阻止する重火器とか、3分ジャストに開封しないと木っ端微塵に爆発する機能とか、あとは……ハンマーとかドリルついてたバージョンもあった気が……」 「ちょっとそういうのも気になる? まあ……先生ならそう言うのかもと思ったけど……。じゃあ、次回があったら先生の分はそういう感じのにするよ」 「出来れば普通に食べたい? ふふっ、気になるんだったらエンジニア部の部室に出向いたらまだ残ってるかもしれないし」 「でも、すぐに食べるんじゃなかったら持ち帰るときは注意してね。忘れてて普通に食べようとして大変なことになっちゃったりしそうだし」 「あー……先生はちょっとした重火器でも致命傷になっちゃうから、十分に気を付けて。っていうか……やっぱり、持ち帰るのはダメ。禁止」 「何かあってからじゃ遅いし……もし、どうしてもというのであれば……誰か他の生徒か……私が一緒の時にして」 「……他意はないよ。ただ危ないからってだけ。カップ麺を作るから傍にいてって言える生徒がいるなら、それでも全然良いからさ」 「説明するのも難しそうだし、そのときは私にお願いする? はいはい。夜中にーとかだとちょっと難しいこともあるかもだけど、いつでも言って良いから」 「はい、3分経ったね。あーっ、麺の硬さの好みとか頭になかった。硬めが好きだったら申し訳ないけど、柔らかめが好きだったらもう少し時間を……」 「ふふっ、時間丁度が良い? じゃあ、伸びちゃう前に頂いちゃおうか」 「それじゃあ……頂きます」 「ふーっ……ふーっ……ふーっ……ふーっ」 「……ん? 先生の分もふーふーしてほしい? 子どもじゃないんだからそういうのはダメ」 「……冗談にしても本当に良くないから、そういうのは」 「……まあ、食べられなくもないかーくらいの味だと思ってたのに……前に食べたときより美味しい……気がする……」 「ふーっ……ふーっ……ふーっ」 「やっぱり外で食べてるから、かな。実際は部室なんだけど……気分は大事だね」 「……夜食に食べると背徳感があってそれはそれで美味しい? 分かるけど……さっきも言ったけど程々に」 「ふーっ……ふーっ」 「ん? 食事は食べる相手によっても美味しさも変わる? まあ……独りで食べるご飯も嫌いじゃないけど、誰かと一緒のほうが楽しいし美味しいかもね」 「ふーっ……ふーっ」 「まあ……先生と一緒に食べるのは美味しいよ。勿論、うちの子たちと食べるのも美味しいけどね」 「その満足げな表情……今の言わせたかったんだよね? ふふっ、別に社交辞令とかじゃなくてただの本心だよ」 「でも、現地にキャンプに行って食べるとまた違うかな」 「綺麗な景色を見ながら山を登って、到着したら一息ついてそれからテントを設営して、薪を集めて火をおこしてお湯を沸かして、そして食べるカップ麺、凄く美味しいから」 「ふふっ、興味があるなら今度またみんなで行こうか。私はいつでも構わないんだけど……次は昼も夜も過ごしやすい時期に」 「冬のほうが星が綺麗に見えるから私は好きなんだけど、やっぱり寒いのは苦手な人も多いから、ね」 「ふぅ。本当に前食べた時より美味しく感じる。もしかして……改良とかしたのかな」 「あっ、先生、次来た時に普通の部室で食べてみる? どれぐらい違うかちょっと比べてみたくなった」 「ふふっ、付き合ってくれるの? ありがとう」 「ふぅ。ご馳走様。美味しかった」 「あっ、先生もご馳走様? あんまり量も多くなかったし、物足りない感じだったらもう1個出してくるけど――」 「腹八分目で丁度良い? それならよかった。やっぱりちょっと足りないくらいが身体にも良いからね」 「……あー……でも食後にコーヒーくらいはあったら嬉しかったかも。先にカップ麺を食べて、それからコーヒーにしたほうが良かったかしら」 「こういうときのためにいつでも簡単に出来上がるコーヒーをエンジニア部にお願いして……」 「缶コーヒーでも全然良い? ふふっ、こういう雰囲気の中で飲むなら缶コーヒーも美味しくなるからね」 「それじゃあ終わったらコーヒーでも飲もうか。缶コーヒーは……ストック切らしてた気がするからインスタントでも良い?」 「ふふっ、そっか。それじゃあ、食後のコーヒーはもうちょっと後にして……」 「さて……お腹も満たされたし……先生? まだ時間は大丈夫?」 「そう。まだ時間があるなら……もう少しこうやってのんびり、しちゃう?」 //03_「折角だし、肩、マッサージしてあげるよ」(肩マッサージ) 「それじゃあ、折角だし……」 「ん? 何をするのかって? 息抜きがてらに来て貰ってるし、肩でも揉んであげようかと思って。デスクワークも多いだろうし肩、凝ってるでしょ?」 「でも、そういうの得意じゃなかったらやめておくけど……大丈夫、っていうかむしろしてほしい? 了解。それじゃあ、ちょっとだけ肩、失礼するね」 「他の人にすることなんてまずないからあんまり上手くないかもしれないけど……違和感とかあったら言って」 「ん? 手で目隠しをされて「だーれだ」ってやられると思った? 今更だし、今この場には私と先生しかいないのに意味ないよ、それ」 「……別に他の生徒にされたことあっても良いけど、流石に背後に立たれて目隠しをされるまで気付かないっていうのは良くないから」 「まあ、でもシャーレのセキュリティーはしっかりしてるし、気付かれずに入室されることなんて――ん? 出入りが多いときはセキュリティを切っているときも稀に良くある?」 「はあ……稀になのかよくあるのかわからないけど……セキュリティー切っておくのは感心しない。大丈夫と思って気を抜いてた時に限って、みたいなこと、普通にあるから」 「先生も心当たりある? だったら尚更気を付けること。面倒が起きてから「ちゃんとしておけば良かった」って思いたいならそのままでも良いけど」 「まあ……そうならないように気を付けて。口出しされてうるさいなあとか思うかもだけど……何かあってからじゃ遅いからさ」 「注意してくれるのは有難い? そう。それならこれからも遠慮なくセキュリティのことについては口出しさせて貰おうかしら」 「お手柔らかに? ふふっ、セキュリティチェックにお手柔らかも何もないから、ね」 「……それにしても……セキュリティの話をしておいてこんなことを言うのもどうかと思うんだけど……気を抜くと本当にキャンプ――自然の中に居るって錯覚しちゃう」 「ん? 匂いも感じる気がする? ……言われてみると……焚火の匂いとか木々の匂い、ほのかにだけど感じるような気がする。本当に……技術は相当なものだよね、エンジニア部」 「もしかすると……気温や湿度も……調整されてたり……しない? 映像がリアルだからそう感じるだけかもしれないけど……」 「気分の問題じゃなければ……空調とかにもアクセスしてたりする? でも焚火の熱源とかはどこから……匂いとか音も一定方向からじゃないし……」 「……後でエンジニア部にちゃんと確認しておかなきゃいけないかしら」 「あ、ごめん、先生。何でもない……こともないけど、独り言。どういう機構か分からないけど、セキュリティの穴になるかもしれない場所はちゃんとチェックしておこうかな、ってところ」 「まあ……エンジニア部なら心配はいらないとは思うけど、念のため。他の部活や学園に悪用されないとも限らないし、ね」 「先生、叩く強さは大丈夫? 痛くない? そう。丁度良い感じならこのまま続けるね」 「マッサージが気持ち良すぎてマッサージチェアが欲しくなる? まあ……外で使ってみたことはあるけど……確かに気持ち良いし欲しくなるのはわからなくもないかな」 「先生はデスクワークも多いし、気軽にマッサージとか出来たら効率も上がりそう」 「……なんだけど、マッサージチェアー、結構高価だったりするし、その割に最初は使うけど、そのうち物置になったりっていう話を聞くから……購入前にちゃんと検討して」 「あー……でもシャーレだったら当番の生徒の出入りもあるし、置いておけば結構他の生徒も使ったりでちゃんと活躍はしそうな気はするかな」 「……経費で落ちるかどうかは私じゃなくて、詳しい人に聴いて。セミナーのユウカとかノアとか。他の学園の生徒はちょっとわからないけど」 「折角だし生徒の役に立ちつつマッサージチェアを手に入れる方法を思いついた? ん? そんなうまい話なんてあるわけ……」 「……あー……今日よく話題に上がるエンジニア部、ね。エンジニア部に頼んだら買うよりは断然安くはなるだろうけど……先生、本気で言ってる?」 「本気で言ってるんだったら私がそれとなく話をしておいてみてもいいし、なんなら先生が直接依頼しにいったら喜ばれるとは思うけど……」 「前にエンジニア部でマッサージチェアを試作したときは脱出装置付きの全身マッサージチェアだったらしいから、そういうので良ければ」 「先生がちゃんと希望する仕様を伝えたらその通りのマッサージチェアを製作してくれる可能性はないこともないと思うけど、逆に張り切っちゃって色々な機能がついてきちゃう可能性のほうが高いかな……」 「まあ、先生の好きなようにすると良いんじゃないかな。デスクワークも多そうな先生にはマッサージチェア、あっても良いと思うし」 「とりあえず保留にしておく? そうだね。買うにしても作って貰うにしても、それなりの金額になりそうだし置き場所も考えなきゃいけないし、しっかり考えてからで良いと思う」 「本格的にどうするか決まりそうになったらまた相談したい? うん、良いよ。役に立てるかはわからないけど、私で良ければ相談して」 「それと……当番の日だったらマッサージチェア程気持ち良くないと思うけど、肩揉みとか肩叩きとかくらいだったらするから、遠慮しないで言ってくれて良いからさ」 「当番の日以外はダメなのか、って? ……どうしても疲れが抜けないときは連絡してみて。大丈夫そうだったらそのときはしてあげるから」 「ん? 私のリラックスタイムは何かって? 御覧の通り、キャンプは身体も動かせてリラックス出来るけど、それ以外だよね」 「それ以外だと……買い物してるときとか、かな。それだけ言うと女の子っぽく聞こえるだろうけど、私の場合は電子機器だから可愛げはないよ」 「……電子機器の買い物も可愛いとか、お世辞はいらないから。想像してみたら分かるけど、可愛い要素が無いし」 「その他だと……電子機器を弄ってるときも楽しいしリラックスしてるとは思うんだけど……多分こういう答えは求められてないよね」 「うーん……月並みなところだとお風呂とか、読書の時間とか? 散歩とかもリラックスになるし運動にもなるし、好きかな」 「ちょっとした時間だったら何も考えずにぼーっとするとか、逆に適当なことをあれこれ考えてるのもリラックスになったりするし……改めて聞かれるとちょっと頭を悩ませられる質問だね、これは」 「先生は何かリラックス出来るようなことってある? なるべく手軽に出来るようなのだと参考になるんだけど」 「椅子のリクライニングを倒して、伸びたりぼーっとしたりとか? それはうん、私も似たようなことやることあるから、分かる」 「その他だと……へー、マッサージ系の動画を観たりするんだ? 私はそもそも動画系をあんまり好んで見ないんだけどそういう動画もあるんだね」 「でも……そういうマッサージの動画を見るのがリラックスに……なるの? 別に自分がマッサージされてるわけでもないのに? へー?」 「まあ、パスワードの解析とか、ファイアーウォールの突破ーとか、そういうのを見てるのも楽しいから分かる……かも? 人によって何を見て楽しいっていうのは一概には言えないんだけど……」 「……へー、ちゃんと科学的根拠があるんだ? マッサージの動画を見て、リラックスできるの。先生が変わり者だから、ってわけじゃないんだね」 「ふうん、マッサージをしている・されている動画を見るだけでも本当にマッサージを同等程度のリラクゼーション効果が期待できるんだ?」 「俄かには信じがたいけど……あー、でも焚火の動画とか見ながら休憩すると落ち着くし、多分そういう感じなのかしら。ちょっと納得」 「何事も経験だし、今度休憩するときにでもマッサージ動画、見てみることにする」 「ふふっ、先生は焚火の動画見るの? それじゃあ後でオススメの動画教えるから、先生のオススメも教えて」 「焚火の動画にも実写、CG、アニメーションがあって、アングルや収録してる音の拘りで違いがあったりして結構面白いんだよ」 「それじゃあ後でモモトークで情報交換、ね」 「……あー、先生? 今更って感じなんだけど……肩もみの強さ、大丈夫? 強すぎたり弱すぎたりは……しない? 丁度良い感じなら良かった」 「ちゃんとマッサージの勉強とかした人じゃないと、逆に凝りが酷くなったり、最悪痛めたりすることもあるらしいから、ね」 「上手いから他の人のこともマッサージしてるのかと思ったって? それはどうも。でも本当に無いよ、他の人のマッサージをしたことなんて」 「……でも、ヒマリに足のマッサージをしてってお願いされたことはあるね。結局しなかったけどね」 「はい。マッサージはこれくらいで。あんまりしすぎるのも良くないだろうし」 「肩が楽になったしリラックス出来た? ふふっ、それは良かった。私もマッサージした甲斐があるよ」 「仕事とかで肩がーっていうときは遠慮しないで言って。他の生徒の目が気になるーとかがあるんだったら、ふたりだけのときにでも」 「さて、マッサージが終わったけど……まだ続いてるね、スーパーリアルキャンプモード」 「先生、どうする? もうちょっとのんびりする? それともここらへんで終わっておく? 私はどっちでも大丈夫だから、先生に任せる」 「ふふっ、それじゃあもうちょっとだけのんびりしようか」 //04_「……焚火を見ながらされたいことがある? なに?」(耳かき) 「先生? それじゃあ……このままのんびりする? ちゃんと星まで再現されてるし、ぼーっと空を眺めながらのんびりするのも悪くないと思うけど」 「今日は私が誘ったわけだし、何かリクエストがあれば応えるけど――って、この状況だと出来ることのほうが少なさそうだけどね」 「ん? 焚火を囲んだらしたくなることがある? 何? 私に出来る範囲なら全然構わないけど」 「……アコースティックギターを弾いたり、弾き語りをしたり……? ごめん、先生。ちょっと私の感性だとそれは分からないかも。私楽器出来ないし、先生がするにしても、ギターなんて今ここにないし」 「……焚火を囲んでダンスを踊る……? それは……何かで見たことはあるけど……ふたりでしても盛り上がらないだろうし、何かの儀式みたいになっちゃいそうだから」 「……焚火を囲んで将来の夢とかについて語り合いたい? うーん……何かそういうのは……「さあやるぞ」って感じでするものじゃない気がする……」 「先生がどうしてもっていうんだったら……やらないことないけど。どうしてもっていうなら。どうしてもしたくて仕方ないって言うなら」 「ふふっ、やめとく? それが懸命だと思う。やりたいなら……本当に行ったときにでも。そのときなら……雰囲気のおかげでもしかしたら喜んで付き合うかもしれないし」 「ん? それじゃあ無理っぽいことをもう1つお願いしてみたい? どうぞ? 3つでも4つでも変わらないし」 「な、何? 言い淀むようなこと? そんな風にされると私も身構えちゃうんだけど……先生、大人なんだからそんなに変なこと頼まないでしょ。さっきの3つはおいておいて」 「だからどうぞ? 折角なんだし。頼みたいことって何?」 「……はあ……耳かき……」 「……うーん……まあ……それぐらいなら良いかな。何かしてあげるにしても、他に何も思い浮かばないし」 「ふふっ、断られると思った? 普段なら断る可能性のほうが高いけど……今日は……ね」 「それじゃあ……よいっしょっと」 「シートも用意すれば良かった……と思ったけど、ここ、部室の床だから大丈夫か。何でこんな草や土みたいな感触まで感じられるんだか」 「先生もどうぞ? 椅子に座りながらだと耳かき、難しいし、耳かきと言ったら……膝枕でしょ?」 「……いいの?ってそのつもりで言ったんじゃないの? 膝枕じゃなくて地面に寝転がって耳かきーでも私は構わないけど」 「ふふっ、あんまり確認されると気が変わるかもしれないし、遠慮なくどうぞ」 「はい、いらっしゃい」 「……いらっしゃいっていうのも何か変だね。まあ、いっか」 「膝枕ってしたことないんだけど、大丈夫? あんまり具合良くなかったりしない?」 「程よい柔らかさで丁度いい……ならいいけど、もし他の生徒にされる機会があっても、そういう感じのことは言わないほうが良いから」 「それじゃあ早速耳かきを――」 「……って、結構暗いし……あとちょっと……割と……膝枕だと先生に耳の中、見難かったりするかも……」 「先生、ちょっと動くよ」 「オッケー。これで大丈夫、なはず。先生も大丈夫?」 「うん、それじゃあ耳かきするけど、痛かったりしたらすぐに言って」 「あ、もしかして耳かきに集中したかったりする? 了解。それじゃあ、存分に耳かきを味わって」 「暗いし耳の中、あんまり見えないし、人のこと耳かきなんてしたことないから」 「耳かき棒、良く見つけたね、って? ああ、いつも手の届くところに置いてるから、こんな状況でも手には取れるよ」 「そんなに頻繁にはしないけど、ちょっとした休憩がてらに耳かきしたりすることあるし」 「先生もある? 本格的にーってわけじゃないけど、たまにしちゃうよね、耳かき。あんまりしすぎるのは良くないって分かってるんだけど」 「お互い、耳かきのしすぎには気を付けようね」 「……もう何度目かになっちゃうんだけど……ちょっと油断すると本当に自然の中に身を置いてる気になっちゃう。それが悪いっていうわけじゃないんだけど」 「さっき見上げたら星もちゃんと出てるし、それだけじゃなくてちゃんと時間経過で星の位置、変わってたりするし細かいところまで凝ってる」 「たまに吹いてくる風も緑の中を抜けてきた涼しさと匂いが感じられるし、今座ってる地面だって……座り心地が完全に自然のソレだし」 「焚火、熱源はどうなってるんだろう。やっぱり気のせいじゃなくて何か暖かいよね。もう気のせいってレベルじゃない」 「何か空気の感じも部室に居るはずなのに……ちゃんと自然の中って感じになってるし……本当にどうなってるのかしら……」 「……あー、でも焚火はもしかすると火気にあたるかもしれないし、屋内での使用は禁止になるかもしれないからそこらへんも併せて詳しく話を聞いておかないと」 「ん? どうせだから先生もその話し合いに立ち会ってみたい? それは構わないけど……あー、うん、どういう構造なのかとか気になるからっていうのは分かる」 「エンジニア部の作るもの、頭を悩ませるものも多いけど普通に感心出来るものも多いからね。お礼がてらに今度顔出すときにでも先生に連絡してみる」 「でも、先生にも褒められたらもっと頑張って凄いモノ作っちゃったりしそうな気が……。まあ、そのときはそのときか」 「ちょっと奥のほうまでしてみるから、痛かったら言って」 「……大丈夫? そっか。それなら続ける」 「人の耳を耳かきするのもだけど、こうやってキャンプで耳かきっていうのも初めてだから……何か新鮮」 「先生もそう? だよね。キャンプで耳かきなんて普通考えもしないだろうし、私も先生にお願いされるまで頭の片隅にもなかったし」 「普通にお願いされてたら断ってた可能性のほうが高いし、やっぱり雰囲気って大事だよね。まあ、本当に今は雰囲気だけだけど」 「今度、また実際にキャンプに行くの、楽しみになってきた? ふふっ、先生も結構乗り気になってる? そうだね、今度またみんなで一緒にキャンプ、行こう」 「あー、でもみんなで一緒だと耳かきはちょっと難しい――というか無理かな。疚しいことは1ミリもないけど、流石に他の部員の前だと、ね」 「……どうしても耳かき付きでキャンプに行きたいんだったら、ふたりきりで行く? なんて、流石に生徒とふたりきりでキャンプなんて良くないか」 「あら、あっさり断られると思ったのに……結構乗り気だったりするんだ。先生とふたりきりなら変な心配もいらないだろうし……今度ふたりでキャンプ、行こうか」 「……あー、面倒になるといけないからふたりきりで行くことに決まってもうちの子たちには伏せておいて。教えちゃうと色々面倒になりそうだから」 「……あと、今はここにはあまり顔出さないけど、ヒマリにも内密に。というか、うちの子たちには間違えてバレても仕方ないけど、ヒマリには可能な限り秘密で」 「今は部外者だからとか、嫌いだからとかじゃなくて……ヒマリに知られるとほら……面倒っていうか大変っていうか厄介っていうか……そういうことになると思うから……」 「……あー……部室の中は定期的にチェックしてるから情報が筒抜けになってるってことはないんだけど……この装置は特に何もチェックしてなかった……」 「無いとは思うんだけど……何か仕掛けられてないか後でチェックしないと……仕掛けられてたら……ちょっと予定の再考が必要になってくる可能性が……」 「まあ、そのときはそのときで考えれば良いか。念のため会話の内容には気を付けようか――と、思ったけど今更だし特に気にしなくていいかな」 「はい、それじゃあ仕上げ」 「多少杞憂が出来ちゃったけど、とりあえずはそのうちキャンプに行くってことにしておく」 「時間的に都合が悪くなって難しくなったりとかだったら……屋外とかでこの装置でーとかでも良いかも。屋上とか、解放感があるし」 「屋内で使ってこんなに再現度が高いんだから、屋外だったら更に雰囲気が出そうなものだけど……どうなのかしら。屋外だと逆に効果が薄まったりして」 「折角だし後でちょっと試してみようかな。屋外で使ったら体感とかどうなるのかも気になるし」 「……っていうか、もし屋外でも再現度の高い立体映像を展開出来たりしたら……便利ではあるけれど……一旦開発ストップして貰わないといけないかもしれない」 「エンジニア部は危ないことには使わないだろうけど、軍用とかに転用出来そうだし。ミレニアム内で流通しているだけならともかく、他校に流れたら結構怖いから」 「他校の生徒もそんなに悪い子ばっかりだとは思ってないけど、悪用されてからじゃ遅いからね。セキュリティ対策と一緒」 「……ヒマリに見つかったら悪戯とかに悪用されそうだから注意しないと……」 「……っと、こっちの耳はこれくらいでお終い。あまり長くしちゃうと耳、痛めちゃうかもしれないから」 「ふーっ」 「はい、次は逆側。ごろんってして。それともこっちだけで終わりにする?」 「なんて、冗談」 「うん、こんな感じでオッケー。それじゃあ次はこっちね」 「こっちの耳も痛かったら言って」 「ん? 今更だけど思ったことがある? 何?」 「あー、こういう状況のときに部室に誰か来たらどうするの、って? ふふっ、確かに、今更だけど今が一番来られたら言い訳し難いタイミングだね」 「そうなったら私は別に疚しいことはないし、こういう理由で耳かきをしてるって説明するつもりだけど……先生もちゃんと言い訳は考えておいたほうが良いかしら」 「なんて、ね。100%ではないけど、今日は部室には誰も来ないよ。みんな予定があって出かけてるから。まあでも、不意の来客の可能性はないこともないけど」 「でも一応、装置を起動する前にドアはロックしておいたから、心配は要らないはず。ドアを破って急襲されたらそのときは両手を挙げて降参しようかな」 「ふふっ、要するに心配せずにゆっくり寛いで大丈夫ってこと。まあ……ロック破れるような人間、一人だけいるけど……あー、そういうときのために閂で物理ロックもしておくの、ありかもね」 「そういえば先生、あんまり他の学校のセキュリティ関連の話とかは詳しくないんだけど、腕の立つハッカーとかはいたりする? 後学のために聴いておきたい」 「システム、セキュリティ、ネットワーク関連はヴェリタスが一番? ふふ、有難う。うちの部活もだけど、ミレニアムはこういうの、強いから」 「ただ、セキュリティを破らずにすり抜けてくるような生徒は居る、んだ? セキュリティを破らずにすり抜けてくる……?」 「セミナーにどんなパスワードも直感?で破る子がいるけど……それとはまた違う感じだね、それは」 「突然現れたり観葉植物に擬態していたり、気付けばすぐ傍にいたり……? そんな非科学的な話、あるわけ……と思ったけど、先生が言うなら本当なんだろうね」 「うーん、そういったタイプの生徒だと侵入を阻むのは難しそうだから、侵入されて接触された後に対応出来るようなプランを……」 「ん? 驚くだけで危害を加えられたりしてるわけじゃないから大丈夫? それなら良いけど……念頭には入れておく」 「はい、こっちの耳も奥までするね」 「自分でするときはこれくらい余裕なんだけど……先生は大丈夫?」 「大丈夫ならオッケー。続けるね」 「ん? 自分だけ耳かきして貰うのは悪い気がしてきた? ふふっ、今日は先生にのんびりして貰おうと思って私が誘ったんだから気にしなくていいよ」 「どうしてもお礼をって感じだったら、今度シャーレに行ったときにコーヒーでも淹れてくれたら嬉しいかな」 「ふふっ、別にインスタントでも、缶コーヒーでも全然良いよ。先生からのコーヒーっていうだけで十分だから」 「……今のセリフは何かちょっと恥ずかしいから、忘れなくて良いけど心の奥にしまっておいて」 「あ、コーヒーで思い出したけど……カフェインの摂り過ぎは身体に毒だから気を付けるように。先生、結構コーヒー飲んでるイメージあるから。私も人のことは言えないけど」 「午後3時以降に飲むと睡眠の質が低下するっていうのも見かけたことあるけど……流石にそれは難しいよね」 「午後の休憩とか、一仕事を終えた後とか、食後とか、コーヒー欲しくなっちゃうものだし」 「夕食後以降はカフェインを控える、くらいが丁度良いのかな。緑茶とか紅茶とか、あとエナドリとかもそれぐらの時間までに」 「睡眠不足はパフォーマンスの低下を招くし、最悪、健康まで害するから。忙しくてリラックスするためとか集中力を高めたいから飲むっていうのも分かるけど」 「我慢してストレスになるのも良くないし、かといって飲み過ぎは良くないし……やっぱり程々に節度を守って、が一番だね」 「あ、私は飲んだことがないんだけど、カフェインレスのコーヒーもあるみたい。でも、普通のコーヒーよりも多少値が張っちゃうのが難点だね……」 「興味があってレビューとかは見たことがあるけど、普通のコーヒーに比べて極端に不味いとか、そういうのはないみたいだし……今度試してみるのも良いかな」 「カフェインの摂取もだけど、コーヒーは香りとかコーヒーを飲んでる時間がリラックスに繋がってそうだし」 「ふふっ、こっそりシャーレのコーヒーを全部カフェインレスに変えておく、とかどうかな。案外気付かなかったりして」 「あー……言わずにこっそり変えておけば良かった? でもやっぱり味の違いとかで気付くかな」 「先生、私も興味はあるから、今度一緒にカフェインレスコーヒー、試してみる?」 「っと、それじゃあ仕上げ、ね」 「もう言っちゃったから多分無理なんだろうけど、本当にこっそりコーヒーをカフェインレスに入れ替えたりするの、良いアイディアな気がするかも」 「飲んだこと無いけど、カフェインレスって言ってもコーヒーはコーヒーだろうし、そこまで味が違う、とかはないだろうし」 「何も知らないで飲んだりしたら、多少違和感を覚えつつも何の疑いなくカフェインレスだって気付かないで飲めそうじゃない? 豆が変わったんだ、くらいで」 「そうすればコーヒーも飲めてカフェインも減らすことが出来て一石二鳥だと思う。気分的にも良さそうだし」 「折角だし、忘れたころにこっそりコーヒー、入れ替えておこうかな。でも先生、結構記憶力良かったりするし……」 「忙しいと細かいことは結構忘れちゃうから、そのうちお願い? ふふっ、了解。ちょっと時間が経ってから……当番のときにでも」 「あ、今度一緒に飲んでみて口に合わない感じだったらやめておく。あんまり美味しくなかったら折角のコーヒーブレイクも台無しになっちゃうから」 「そしたらミルクと砂糖をたくさん入れて飲むから大丈夫? それはそれで……身体に良くなさそうだから」 「とりあえず、レビューとかを参考にしつつカフェインレスコーヒー、買っておく」 「はい。こっちの耳かきも……これぐらいで終わり。物足りなかったら……また今度、そのうち」 「ふーっ」 「耳かき、終わったよ、先生。こういう雰囲気でする耳かきも悪くないね。私も何かリラックスしちゃったよ」 「ん? もうちょっとだけこうやって横になっていたい?」 「……もうちょっとだけ、ね。気が済むまで――といいたいところだけど、とりあえずこの映像が終わるくらいまでは良いよ」 「……膝枕のまま部屋に戻ったら何か恥ずかしくなりそう。なんとなくだけど」 「私は……星を眺めたりしてるから。万一眠くなったりしたら……そのときは眠気に身を任せていいから」 //05_「今日のところはこれくらいにしようか……って、あれ?」 「ふぅ、結構のんびり出来たし、今日はこれくらいにしておこうか。先生も良い? もうちょっと休む?」 「了解。それじゃあ、今日のところはこの辺にしておこうか。次は……出来たら本物のキャンプで」 「えーっと……停止ボタンは……これだったはず……」 「……ん?」 「……あれ?」 「……ボタンは反応してるのに電源が切れない……? このボタンで間違いなかったはずなのに……」 「おかしいな……もしかして……ボタンを押す時間で設定が変わってたりとかしたのかしら……」 「かといって……他のボタンは不用意に押したりしたくないし……でも、そうしないと電源が切れないし……」 「ちょっと待ってて、先生。装置、解除に手間取ってて……って、何か薄暗くなってきたような……」 「……焚火の火、小さくなってきてる……? 本当だ……電源、まだ落としてないのに……焚火の明かりがなくなったら暗くなっちゃう……」 「……仕方ない、雰囲気云々言ってられないし……先生、スマホのライトで手元、照らしてくれる?」 「……あー……雰囲気壊したらいけないから電源を切ってバッグの中に仕舞ってあるから手元にない……? 先生、ちゃんと雰囲気のこととかも考えてくれてたんだ……有難う」 「……私も……先生と同じで部室にはあるけど……この状態だと手に取りにくくて……」 「うーん、困ったね。多分そのうち勝手に電源が切れると思うんだけど……」 「って、焚火が消えたら何か肌寒くなってきた……? 何か雲も出てきたし……風も冷たくなってきた気がするし……ちょっとこれ……どうなってるのよ、本当に」 「流石に凍えるとかは無いにしても、身体が冷えたら風邪を引いたりとかもあるかもしれないし、かといって装置を破壊するのも何かありそうで憚られるし……やっぱりこのまま大人しく待ってたほうが……せめてスマホだけでも手元に持っておけば」 //06_「ごめん、先生。寝袋、1つしかなくて……」 『……先生……本当にごめん。まさかこんなことになるなんて……』 『……私のせいじゃないから謝らなくても良いって言われても……こうなったのは事前に確認をしてなかった私の責任でもあるから……』 『……うん。先生がそう言ってくれるなら……これ以上は謝らない。けど、もう1回だけ……ごめんね』 『……まさか、気温も下がって風も出てくるなんて……雨が降ってこなかったのだけは幸いだけど……』 『……うん、いつでも使えるように寝袋を手元においてなかったら……寒空の下で二人で震えることになってたね……部室にいるのに……』 『でも……次からは念のためもう1つ寝袋、用意しておく。先生とじゃなくても……突発的に何かの拍子で使うこともあるかもだし……』 『1人分の寝袋に、ふたりはちょっと入れない……ことはないけど、やっぱり……結構窮屈だから……』 『窮屈だけどその分密着してて暖かいから大丈夫? ……あんまりそういうことを言うのは感心しないよ……と、言いたいところだけど……確かに温かいから……そうかも』 『……というか……流石に寝袋に入って密着してると……暖かいっていうか……暑いね。かといって寝袋から出ちゃうと……温まった分、さらに寒そうだし……』 『暑いし窮屈でしんどいと思うけど……もうちょっとだけ我慢、して。多分……そのうち充電が切れてこのキャンプモードも終わると思うから……』 『……耳元で私の声が聴けるのは貴重な経験だから、多少長時間になっても大丈夫? ……私に気を遣ってくれてるんだと思うけど……ただでさえ密着してるの、実は恥ずかしいのに更に恥ずかしくなるから、そういうの』 『先生は……窮屈だけど大丈夫? 苦しかったりはない? ちょっと圧迫感のある場所があるけど大丈夫? それなら良いけど……どうしてもキツかったら言って』 『すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……』 『……こんな状況だけど……やっぱりこの立体映像、本当に凄いって感じるよ。気を抜くと部室にいるの、忘れる。実際に何秒かはこの仮初の自然を本物と感じちゃってるフシがあるし』 『屋内に居ながらにして、大自然の中で仕事を、みたいな使い方も出来そうだしね。映像を切り替えられるなら、喫茶店の映像とかでも良さそう』 『……まあ、大自然の中ならともかく、実際の喫茶店とか人目に付くような場所でパソコンを開いて仕事をするのは感心しないかな』 『フリーWi-Fiも心配だし、壁際の席でもなかったら画面を視認されるリスクもあるし、見られても構わないような内容なら構わないのかもしれないけど』 『……っていうか……こんなに密着して、耳元で話してたら耳障りだよね、ごめん』 『別に気にならない? と、先生は言ってくれるだろうとは思ってたけど……私の気持ち的な問題もあるから』 『……耳元で話すのは……何か恥ずかしいから……』 『……早く装置、止まるといいね、先生』 『……もうちょっとだったらこのままでいい? 全く……先生は……』 『すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……』 『……先生……結構暑くない? 大丈夫……?』 『すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……』 『……大丈夫なら……良かった……やっぱり……寝袋に入ると……体温、上がっちゃうから……』 『すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……』 『……先生も……すーっ……すーっ……身体……ぽかぽかで……すーっ……』 『すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……』 『……あー……先生……だから……すーっ……すーっ……パスワードは使いまわしちゃダメって……』 『すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……』 『すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……すーっ……』 //07_「……色々あったけど私もゆっくりできたよ」 「……はい、先生。コーヒー、どうぞ」 「……」 「……何か本当にごめん。いつの間にか寝ちゃってて……ちゃんと装置が止まってたのは幸いだけど……」 「……疲れてたみたいだし仕方ない? 確かに……多少疲れてたのもあるけど……寝ちゃったのは私の気の緩みだから……」 「……一応、なんだけど……今日のことはうちの子たちには内緒で。何か結構恥ずかしいから」 「ずずーっ」 「あー……大丈夫だと思うけど、後で一応部屋の中、録画とかされてなかったか確認しておかないと」 「……そういえば確認はしてなかったんだけど、あの立体映像って外からもちゃんと立体映像として再現されてるのかしら」 「ん? 私たちには立体映像――自然の中にいるように見えていたけど、もしかすると外側からは部室のままに見えてたんじゃないかって」 「対象の網膜だけに映像を……と思ったけど、それだと温度とかの説明が難しいかな」 「外から普通に見えてたら、それはそれで面白そう? ふふっ、確かに。部室の床に寝転んだり寝袋に入ってるの、想像したらおかしいかも」 「とりあえずは……後でエンジニア部のところに出向いて、どうなってるのか確認しないと」 「ん? 装置? 装置はそこに。本当に、そんな小さな機械でどうやったらあんなに凄い事が出来るんだか」 「キャンプの他に、南国のビーチとかも試用ってことで入れてあるって言ってたけど、今日のところは充電が切れてるし――」 「……えっ?」 『スーパーリアルトロピカルビーチモードを起動します』 「……あっ……えっ?」 「……せ、先生……?」