【1-A. 来訪者】 (ピンポーン) 晴れた日の休日、昼下がり。 集合住宅の一室である、我が家のインターホンが鳴る。 何か荷物でも届いたのだろうかと、ドアを開ける。 「初めまして、この度隣に引っ越して参りました、佐渡と申します。 これから長くお世話になるかと思いますので、ご挨拶に伺いました」 ドアの先には宅配業者ではなく、一人の女性が立っていた。 今時引越しの挨拶だなんて珍しいし、しっかりしている。 しかもまだ若く…そしてなかなかの美人。 年齢は20代中頃位。肌は白く健康的で、 服装や髪形も威圧感を与えない、清楚でよく似合ったものだ。 落ち着いた雰囲気とは不釣り合いなほど大きな胸に、どうしても視線が向いてしまう。 「あの…どうされました? いえ、すみません、急にお邪魔してしまってご迷惑でしたよね」 ついつい見とれてしまった。愛想の良い返事をする。 「ふふ、お気遣いありがとうございます。 実は私、少し前に結婚したばかりで、それでこちらに越してきたのですけれども、 主人は毎日仕事ばかりで帰りも遅く… 今日も休みだというのに、取引先の接待だと言って朝早くに家を出てしまって」 いわゆる、団地妻というやつだ。彼女を同情する気持ちと、 言葉では言い表せないような、今後へのほのかな期待が頭をよぎる。 「そうだ、もしよろしければなのですが…少し、私の部屋でお話とか、致しませんか?」 初対面で突然、何を言い出すのだろう。あまりにも急な話に、思わず動揺してしまう。 「すみません。こちらには知人もおらず… 気軽に話せる方が近くにいると嬉しいと思って。 それに今後ご近所さんとしてお世話になる上で、 もしご迷惑でなければ、ささやかながらおもてなしをしたいと思いまして…」 確かに冷静に考えれば、今後も長く続くであろう 美しい隣人とのご近所付き合いを、ここで断る理由はない。 少しだけならと、了承の返事をした。 「ありがとうございます、挨拶周りはこれで最後ですので… それでは早速私の部屋に参りましょう」 彼女の後に続き、すぐ隣の家のドアをくぐる。 壁も床もとても綺麗で、同じ団地の一室とは思えないくらいだ。 部屋の構成自体は自分の家と変わらないが、お香でも焚いているのだろうか、 ほのかに甘く良い匂いがする。家具は一通り揃っており、どれも新しい。 まさに新婚夫婦の家、という感じだ。子供はまだいないようだ。 「どうぞ、こちらのソファにお掛け下さい」 真新しい、大きなソファに腰を下ろす 気を抜くとそのまま身体ごと沈み込んでしまいそうな位に、ふかふかで座り心地が良い。 気分まで、ふわふわと緩んできてしまいそうだ。 そんな事を考えているうちに、彼女は飲み物とお茶菓子を持ってきた。 「こんなものしかありませんが、ゆっくりしていって下さいね」 彼女は再び、旦那の事を話し始めた。かなり不満が溜まっているのかもしれない。 「あの人の気を引こうと色々なものを勉強してみたのですが、 そもそも試してみるタイミングが無くて…例えば、催眠術とか。 あ、あの、勘違いされる方が多いのですが、催眠術は魔法などではなく、 相手に心を開いてもらうための技術であり、その手助けとなるものなんです。 あ…もし、まだ疑っているようなら…今から試してみませんか?」 催眠術がどうこうは少し気に掛かる部分があるが、 彼女と話を続けられるのであれば、それも良いかなと思い始めた。 是非見てみたいと、気のいい返事をする。 「ありがとうございます。 あの人もこの位してくれればいいのに…いえ、ごめんなさい。はぁ…」 悩ましげな溜め息と共に、彼女がこちらを見つめる。 その絡め取るような視線に、はっと心を奪われてしまった。 「ふふ、私がこんなに正直に話したのですから、 今日は私の催眠術で、貴方にもとっても素直になって頂きますね」 【2. 変容】 「ふふ、それでは早速始めますね。貴方の心を素直にして開放する、私の催眠術。 まずは、今座っているソファに仰向けになって下さい。目は開けていて構いませんよ。 最初は深呼吸をして、リラックスしていきましょう。 まずは騙されたと思って、私の言う通りにしてみて下さいね。 それでは、穏やかなペースで、眠る時のように 吸ってー… 吐いてー… 吸ってー… 吐いてー… そのまま、続けて下さい。 段々と身体がリラックスして、落ち着いた気分になっていくと思いますよ。 ソファに体重を預けながら 吸ってー… 吐いてー… 吸ってー… 吐いてー… それでは、そのまま耳に意識を向けてみましょう。 ゆっくりと、目を閉じてみて下さい。どうぞ。 目が閉じて意識が耳に集中すると、私の声やこの部屋の音を さっきより敏感に捉えられるようになりますよ。 ほら、カチ、カチと聞こえてきますよね。この部屋の時計の音。 壁に掛けられた、小さな振り子付の時計なんです。 その音を感じながら、そのままぼーっとしていてください。 しばらく続けていると、頭の中に何か、 時計の音から連想されるイメージが浮かんでくるかもしれません。 例えば…時計の音と同時に、振り子が規則正しく動いて左右に揺れる様子、とか。 カチ、カチと音が鳴るたびに、頭の中でゆら、ゆらと振り子のイメージが揺れる。 時計の針が時を刻むのに合わせて、 カチ、カチと音は鳴り続け、振り子もゆら、ゆらと動き続ける。 それが今まで何度も何度も続いてきたし、これからもずっと続いていくんです。 ずっと、ずーっと。 ふふ、そんな途方もないイメージが浮かんでくると、 ちょっと疲れてきてしまいそうですよね。 もしかすると意識も少しずつぼーっとしてきて、 ゆらゆらと揺れる振り子で頭がいっぱいになっていくかもしれないし、 それを続けていったら、頭や意識がさらにゆらゆらしてきてしまうかもしれません。 でも意識の中に普段とは違う『ゆらぎ』が生まれると、 それに伴って貴方は催眠状態へと少しずつ近付いていくんです。 あえて例えるならば、貴方が今寝転んでいる柔らかなソファに包まれて、 ゆらゆらと揺れながら沈んていくような不思議な感覚、 それでいて揺り籠で赤ちゃんがすやすや眠っているかのような安心感。 普段貴方をコントロールしている意識を手放して、 身体も心も緊張がほどけた、その時に初めて得られる開放感。 このまま私の声を聴いていれば、それらを全て手に入れ、 心地よい世界に浸る事が出来るのです。 ふふ、こうしている間にも時計がカチカチ、 頭の中で振り子がゆらゆら、ゆらゆらして、意識がぼんやりしてきていると思います。 ですから、難しい言葉は無理に理解しようとしなくてもいいですよ。 それよりも力を抜いて、身体をもっと楽にしていきましょうね。 呼吸も…いつの間にか、さっきよりも穏やかで楽な呼吸になっていますね? それで構いませんよ、その方がより意識を手放して心地よい気分に浸れますから。 もしかして、もっとこの感覚を味わうにはどうすればいいのか とか、 そんな欲張りな考えが頭の中に芽生えてきていませんか? ふふ、貴方はそんな事考えなくていいのですよ。 今から私が、教えてあげますから。 だから何も考えずに、ゆらゆらしたまま、私の声、聴いていて下さいね。 では、今から貴方の身体をさらに脱力させて、ちょっとした変化を与えていきます。 何だかさっきよりも眠そうですけれど、もう少し我慢して下さい。 一度、目をふわっと開けてみましょう。ほら、どうぞ。 …ふふ、かなりリラックスされているようですね。 もしかしたら途中で身体がぴくって動いたりするかもしれないですけれど、 それもちゃんとリラックスできて、私の言葉が届いている証拠ですからね。 それでは私の言葉に続いて、やってみましょう。 息を吸いながらぐーーっと大きな伸びをして 息を止めて 目を閉じて、息を吐きながら『すーーっ』と元の姿勢に戻る 息が抜けていくと同時に力も抜けていくし、 頭の中で意識が『ふわーーっ』と発散して、霧のようにおぼろげになっていく そうなると、私の言葉が意識という名の壁を越えて、貴方の内側に届くようになっていく 何度でも呼吸をする度に、息を吐く度に力が抜けて、リラックスが深まって、 身体はソファに預けられていく…そう、吐息とともに余計な力と意識が抜けていく、 ソファに沈み込んでいく、ゆらゆらと『沈む』、『沈む』 『沈む』という言葉を聴くたびに全身の力が抜けて、私の声にさらに没頭できますよ さっきお話しましたよね?柔らかなソファに沈み込むような、心地よさを味わえるって まるで体重という概念をふかふかのソファに奪われて、 ふわふわ、ゆっくりと『沈む』かのような錯覚を覚える でも、身体はむやみに動いたりしないし、心も慌てたりしない それはつまり、この状態がいつも通りに、いいえ、いつも以上に安心できる、という事 安心できるから、もっと楽にして身体を預けたくなる、身体が『沈む』、意識も『沈む』 『沈む』と言われるとまた力が抜けて、代わりに私の優しい声で満たされていく その声が気持ちいいからもっと聞きたいと感じる、 気持ちいいから私の言葉に対して素直になる そう、私の言葉に対して素直になるという事は、 私の声が貴方の心まで届いてはたらきかけ、貴方がより良く変化していくという事 それは日頃押さえつけられている感情が私の声にほぐされて開放された、 とても気持ちの良い状態 だから私の声を聞いて、さらに『沈む』『沈む』『沈む』 この『沈む』感覚がどれだけ心地よい気分なのか、 ほら、貴方自身の心に自分で教えてあげて?」 自分の内側に、おぼろげな意識が向いていく。 背中から広がってくる、とても暖かくて優しい、包み込むような感覚。 自分の身体を受け止めてもらいながら、その中にゆらゆらと沈み込んでいく。 この人の声を聴いて言う通りにしているだけで、 その優しい感覚をゆったりと感じられる。安心できる。素直になれる。 身も心もこの気持ちよさに預けて、もっと沈んでしまいたい。 彼女の声以外が聞こえない位に深い所まで沈んでいけば、 もっと安心して素直になった心に彼女の声が響き、 彼女を感じる事が出来るに違いない。 ふわふわ沈む、より深い所へ。 どんどん沈む、より安心できる所へ。 彼女の声が自分の心に直接届く位まで深い所に沈んだら、 その声だけを感じられるようになる。 そうすれば、もっと心地よい感覚を与えてもらえる。 もう、自分の意思では動けない。動きたいと、思わない。 このまま何も考えず、彼女の声を聴いてどこまでも深く、深く堕とされていきたい… そのまましばらくこの不思議な感覚の中を漂い、意識は深く、深く沈んでいく。 (20秒程度空白) 「ふふ、私の声、聞こえています? すっかり表情も意識も緩んで、 起きているのか眠っているのか分からない位の、素敵なお顔になりましたね。 今なら普段は表に出てこない貴方の心の奥に、直接私の声を届ける事が出来る。 何故ならそれは、貴方が自分自身にはたらきかけ、暗示をかけたことで、 自ら心地よい催眠状態に深く、深く嵌っていったから。良かったですね。 それでは、大事なお願いをしますから、そのままよく聞いて下さい。 突然なんですけれども実は私…ペットを飼いたいって思っていたんです… 主人もほとんど戻らず、一人だと心細くて。 でもここって、動物は飼っちゃいけない決まりじゃないですか。 だから、貴方には今から私のペットになってほしいんです。 ふふ、どう思いました? 貴方の心、とーっても素直になったから、本当の気持ちがよく分かりますよ。 『私と一緒にいたい、遊んでもらいたい』っていう気持ちが。 本当はずっと、ずーっと前から、私のような女性のペットになりたかったんですよね? 大体、先程初めてお会いしたとき… あんなに私の事をいやらしい、うっとりしたような目で見ていたじゃないですか。 それに初対面だというのに、こうやって私の家に押しかけたりして… ほら、否定できませんよね? こんな事、ご近所さんに言いふらされたくないでしょう? おまわりさんに怒られたくないでしょう? ねぇ、私の事、嫌いですか?そんな事ありませんよね? 貴方の心を気持ちよくしてあげられる私の事、好きですよね? だから、言う事を聞ける、お利口さんになりましょうね。 そうすればもっともっと良い事、してあげるから。分かった? ふふ、返事は『アン』でしょ?ワンちゃん。 そう、私の問いかけに、貴方は貴方の意思に関係なくいやらしい鳴き声を返してしまう。 だってそうすると心がゾクゾクして気持ちいいから。 そして可愛く鳴けば鳴くほど、貴方は心の底から犬に生まれ変わっていくの。 分かった?ワンちゃん?ふふ。またいやらしい声が出ちゃったね。 『お手』と言われれば前足を差し出す。 『待て』と言われればそのまま時間が止まったかのように動かなくなるし、 その後に『よし』と言われれば動き出す。 私の命令には何でも従う、お利口な犬。 そして、私の言う通りにする事に最高の悦びを感じるの。 だってそれがペットである貴方の一番の幸せだから。そうだよね? ほら、もっと『アン』『アン』って鳴いてごらん? 貴方のご主人様は私。ご主人様にもっと可愛がって欲しい。 もっと愛されたい。そうだよね? ほら、もう頭の中は私に命令される妄想でいっぱい。 それでいいの。貴方は私の可愛いペットだもんね? 今日からいーっぱい躾けて、可愛がってあげる。とっても楽しみでしょう? だって素直になった貴方の心は、本当は私に支配される事を望んでいるのだから。 ペットになって支配されれば、何の責任も持たなくていい。 ご主人様の言う事を聞ければ沢山褒めてもらえる。喜んでもらえる。 とても素敵な毎日を過ごせる。 普段、理性が働いている状態では、 そんな願いは押し込められて忘れられてしまうけれど、 今日は私の催眠術で貴方の心を素直にして、秘められた願いを叶えてあげたの。 良かったね?『ワンちゃん』? ふふ、今の呼びかけで貴方の心は支配され、 私に愛されたいという願望がとくん、とくんと脈動を始めた… だって貴方はもう、私の犬なのだから。 さあ、その心の高鳴りをたっぷり感じて、大切に育てましょうね。 それでは、一度元の姿に戻りましょうか。 どうしたの?大丈夫ですよ。貴方の心に、暗示を残してあげますから。 貴方はこの後目を覚ましても、私のペットでいたい、 命令されたいという気持ちを心の奥で、無意識に、大切に持ち続けるの。 だから私に『おすわり』と言われると、 たちまち力が抜けて私だけのワンちゃんに戻ってしまう。 『やめ』と言われるまで、元の貴方には戻らない。 そう、『おすわり』という一言だけで、 この気持ちいい感覚と、従順なペットである事を思い出す事ができる。 分かった? ふふ、それでは3つ数えて手を叩くと、貴方は目を覚まします。 目を閉じていた間の記憶は、おぼろげになってしまうかもしれません。 でも今の暗示は貴方の心に大切にしまったまま、絶対に忘れない。ね? それでは目覚めましょう、ひとつ ふたつ みっつ」(ぱんっ) 【3. 戯れ】 彼女に呼ばれたような気がして、目が開く。 いつの間にか眠ってしまったのだろうか、頭が働かない。ぼーっとする。 「あら、お目覚めになりましたね。私の催眠術は、いかがでしたか?」 あまりはっきりとは覚えていない。 ただ、何となく心地よい感覚に包まれていた覚えがある。 「すみません、少しお疲れだったみたいですね。 お飲み物を持って来ますから、しばらくそうされていて下さい」 彼女は台所の方へ向かっていった。柔らかいソファに寝転がったまま、ぼーっとする。 どうやら、結構な時間が経ってしまったらしい。 名残惜しいが、そろそろ家に戻らなければ。 彼女は温かそうなミルクを持って戻ってきた。長い時間お邪魔してしまったことを詫び、 もうそろそろ帰ります、とゆっくりソファから起き上がる。 「あら、もうお帰りになってしまうのですか? もう少しお話したいと思っていたのですが…そうですか…じゃあ…『おすわり』」 その言葉を聴いた途端に思考がストップし、 全身の力が、まるでその場に座り込んでしまうかのように抜けていく。 脳から身体へ優しい快感がぴゅるぴゅると広がっていく。 彼女が、その汚れのない手のひらを自分の前に差し出す。 「『お手』」 全身にゾクンとした感覚が広がり、言われた通りに前足が動いて、彼女の手に触れる。 彼女が自分のご主人様であるという事を思い出し、嬉しさで頭がいっぱいになる。 ご主人様がその手を優しく握ると、体温が伝わってくる。 とても温かい。幸せでとろける。 ご主人様のいう事を聞くだけで、優しい幸福感が溢れてくる。 ご主人様に心を支配されていく。 「ふふ、ちゃんと賢いワンちゃんに戻って来られたね。気分はどう?」 甘い鳴き声を返す。嬉しい、気持ちいい、そんな感情が溢れてくる。 ご主人様が上から自分を見下ろす。その視線は愛情と、 人間である事を捨てた自分への憐れみと、 一匹のペットを支配しているという優越感に満ち溢れていた。 その状況さえも自身の脈動を高まらせ、快感をどくん、どくんと生み出していく。 「ほら、お腹すいたでしょ?」 持ってきたミルクが、床に置かれた平らなお皿に注がれていく。目が釘付けになる。 「早く飲みたいね、お腹すいたもんね。 うふふ、でも、貴方は私の命令で動けなくなっちゃうの。ふふ、『待て』」 ご主人様の命令で、そのまま時が止まったかのように身体が固まってしまう。 胸が苦しい。切ない。 でも、ご主人様の言う通りになってしまう。それが自分の幸せだから。 「すっかり言う事を聞けるようになったね、 じゃあ硬直を解いてあげる。ほら、『よし』」 彼女の言葉で身体の硬直が解かれ、ふらふらと動き出す。 ミルクに口を付け、ぺろぺろと舌が動き出す。 ご主人様が用意してくれたミルク。美味しい。 「ふふふふ、可愛い。じゃあ私の命令で、 催眠誘導を受ける前の、元の姿に戻りましょうね。ほら、『やめ』」 その言葉と同時に、頭にすーっと理性が戻り、我に返る。 自らの異様な光景に、戦慄が走る。 出会ったばかりの女性の前で、自分は何をやっているのだろうか。 あまりの恥ずかしさと情けなさで、胸が張り裂けそうになる。 「ふふふ、いかがですか?私の催眠術。すごいですよね? もしかして、恥ずかしいですか?悔しいですか?そう思う必要は全くないのですよ。 だって貴方は、自分の気持ちに正直になっただけなのだから。 ほら、今度はもっとすごい事してあげる。 気持ちよすぎて、もう元に戻れなくなっちゃうかもしれないよ? だって私に命令されると、言われた通りになっちゃうんだもんね?ほら、『おすわり』」 ご主人様の命令で一瞬で意識が真っ白になって、へたり込んでしまう位に力が奪われる。頭が考える事を放棄する。 ご主人様が、汚れた口を拭いてくれる。頭を優しく撫でてくれる。 ペットにとって、これ以上の幸福があるだろうか。 「ふふ、嬉しい?幸せ?」 とろけきった鳴き声を返し、今自分がいかに幸せであるかをご主人様に伝える。 「良かったねぇ。幸せだね。 じゃあご主人様である私の事、絶対忘れられないようにしてあげる。 あのね、ワンちゃんはお鼻が利くから、 この部屋の匂いをより敏感に感じ取る事ができるの。 ほら、くんくんって、嗅いでごらん? 貴方の神経を刺激し、幸福をもたらす『私の匂い』。 ほら、たっぷり嗅いで、ちゃんと覚えようね」 言われた通りに、くんくんと匂いを嗅ぎ続ける。 鼻で感知した匂いの一つ一つが脳に敏感な刺激を与える。 何だか頭の中に、ご主人様の甘い匂いが広がっていく気がする。 頭に染み付いた芳香で意識がくらくらして、何も考えられない。 ご主人様のいやらしい匂いを教え込まれることで、 自分がただのペットではない、奴隷としての犬になっていくのを感じる。 でも自分がご主人様に言われた通りになれば、それでいい。 それがご主人様の幸せであり、自分の幸せだから。 「段々、息が荒くなってきてるわよ。よだれまで垂らしそうになって… くんくん、ってにおいを嗅ぐ行為自体が気持ちよくなってるんじゃないの? 変な人…ううん、もうワンちゃんなんだっけ? ほぉら、くんくん、くんくん…ふふふ♪ まるでご主人様に発情しちゃったいけないワンちゃんみたい♪ ほら、もう匂いは嗅がなくていいよ… ふふふ、それとも興奮しすぎて止まらなくなっちゃったのかしら」 ご主人様が自分のはしたない姿を見て、喜んでくれている。 そう思うと、もう止まらない。 自らさらに興奮を高め、発情していく。盛りの付いた雄犬のように。 「あらあら、すごいことになってる。お洋服で全然隠せてないわよ。 ねえ、貴方のお股、私にももっとよく見せて?ほら、『ちんちん』」 頭の中で命令がばちばちと弾け、 身体がご主人様の言う通りにする快感を求めて動き出す。 その場で仰向けになり、恥ずかしさに震えながら ご主人様に自らの膨らんだ股間を見せつける。 軽蔑と興奮が入り混じったご主人様の視線が突き刺さり、 それが快感となってさらに固さと大きさを増していく。 「ふふ、とっても恥ずかしい姿。それは私には逆らえないという、降伏の証。 だからご主人様の言う事は何でも聞いちゃうもんね」 ご主人様の言葉が耳に入るだけで、この上なく幸せな気分になる。 今までになく興奮と充実感が高まっていくのを感じる。 「じゃあそのまま、私の前でオナニーしなさい。ほら……」 ご主人様がこちらにお尻を向け、清楚なタイトスカートと、 そこからは全く想像できないような紫の、卑猥な下着をゆっくりと見せつける。 「ふふ、でもすぐに飛びついちゃダメよ。ほら、『待て』」 そのまま目が釘付けになり、動けなくなってしまう。 同時に思考がストップし、ご主人様の卑猥な姿だけが頭の中に広がっていく。 「ワンちゃん、今日はどんな風にオナニーしたいの? 仰向けのままおちんちん出して、私の目の前でその器用な前足を使って、 おちんちんも心もぐちゃぐちゃになるまで扱きたい? それとも……うつ伏せで私の身体に覆いかぶさって、 こすり付けて、セックスしてるつもりで私にマーキングしたい? 好きな方を選ばせてあげるから、自分で準備しなさい?ほら、『よし』」 身体の硬直が解け、興奮で熱を帯びた身体がゆっくりと動いて、 自らを慰める準備を始めていく。 「ワンちゃんは仰向けでおちんちん取り出してもいいし、 私に覆いかぶさってこすり付けてもいいの。 ちゃんとできたら、ご褒美あげるからね。 ふふ、そろそろ準備できた? じゃあとっても気持ちいい、ワンちゃんオナニー始めましょうね。 ほら『ちんちん』ぐちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅ♪」 ご主人様の卑猥な命令で頭の中がとろけ、 訳の分からないまま、言われるがままにご主人様の目の前で自らを慰め始める。 ご主人様に喜んでもらう為なら、何でもする。 あまりにも異様な状況の中で恥ずかしさと興奮がどろどろと入り混じりながら、 感度を滅茶苦茶に高めていく。息がさらに荒くなる。 「アンアンって鳴いても良いよ?ほら、もっともっと『ちんちん』ぐちゅ、ぐちゅ。 貴方は私のペットなんだから、私の言う通りにするの。分かった?」 情けない鳴き声を何度も上げ、ご主人様を想いながら乱暴に扱き続ける。 まるで獣の本能が呼び覚まされたかのように、腰を打ちつける。 「あんっ♪すっごい♪うふふ、私もえっちな声で応援してあげるから、 さらに激しくしましょ? ほら、私の声もっと聞いて?『ちんちん』ぐちゅぐちゅぐちゅ♪」 ご主人様の言葉で頭の中が染まり、その通りにするだけで、 どうしようもない位に快感と幸せが溢れ出す。 性器がこすれる度に目は焦点が合わなくなり、口はだらしなく開いたまま快感を貪る。 全身が不自然に震え、快楽で完全に狂った一匹の哀れな獣に成り下がる。 「ふふ、気持ちよすぎてもうおかしくなっちゃいそうなのに、 腰が止まらないんだ。すごいね?幸せだね? でもご主人様である私の言いつけなんだから、 言う事を聞き続けるのも当然、気持ちよくなるのも当然。 だからワンちゃんの事、壊してあげる」 ご主人様が突然腰を不規則に振り乱し、しなやかな体をくねらせる。 そのあまりにも妖艶な姿に興奮と快感が止まらなくなり、声が抑えられない。 身も心もゾクゾクと震え、強制的に絶頂へのスイッチが入る。 「ほら、ぐちゅぐちゅ、アン、アン♪ぐちゅぐちゅ、アン、アン♪ ふふ、すごい顔してる。オナニー、そんなに私に見せたかったの? じゃあ、『ちんちん』ぐちゅぐちゅしたまま命令聞いて? 私が10からゆっくりカウントダウンするから、 ゼロになったらワンちゃんは白いおしっこそのまま出して、 私にマーキングしちゃうの。分かった?」 ご主人様の命令に支配される幸福感がさらに溢れ、また理性が吹き飛びそうになる。 ご主人様が何か言葉をかけてくれるだけで甘い鳴き声を上げ、 息が荒くなり、心がご主人様を求めて高まっていく。 「ほら、カウントダウン。 『じゅう』数字が減れば減るほど絶頂に向かって、 ペニスがどんどん敏感になっていくよ。 数字がゼロになって私に命令されると、貴方はイっちゃうの。 『きゅう』気持ちいいんでしょ? よだれダラダラ垂らしちゃっても大丈夫だよ、貴方はワンちゃんだから。 『はち』でも、休んじゃダメ。もっともっと激しく、狂っちゃうまで! 『なな』もっと私に見せつけて。そう、ご主人様にイく所を見せなさい。 『ろく』あは、また大きくなった。本当に仕方のないケダモノ。 『ごー』でも私みたいな飼い主が見つかって、良かったね? 『よん』こんなにご主人様に遊んでもらえて嬉しいね、幸せだね? 『さん』…あら、もう我慢できなさそうね。 ご主人様に発情してすぐ射精しちゃうダメな子は、ちゃんと躾けてあげなきゃ。 ほら、イくのは『おあずけ』」 身体の動きが止まる。全身が行き場を失った快感に震え、ビクン、ビクンと跳ねる。 「あら、腰は止めちゃダメよ。 もちろん、どんなに気持ちよくても私が許可するまで射精は許されないけれどね。 ほら腰を動かして、ほら!『ちんちん』ぐちゅぐちゅ♪アン♪アン♪」 ご主人様の言う通りに腰がへこへこと動く。 物事を判断する基準などもう自分の中にはなく、全てはご主人様に言われるがまま。 でもどれだけこすり付けても、絶頂を迎えることができない。 あと一つだけ、ご主人様の最後の命令だけが足りない。欲しい。欲しい。欲しい。 「ふふ、良い事教えてあげる。 ワンちゃんは良い子だから、何回も『お手』をするのと同じ感覚で、 『イけ』って命令された分だけ何回でもイく事ができるの。 精液が空っぽになっても、 絶頂の感覚だけが何度も何度も押し寄せておかしくなっちゃうんだよ。 だって、貴方は私の可愛いペットだから。何でも言うことを聞けるの。 分かった、ワンちゃん?」 腰だけでなく全身がガクガクと震えて、 ご主人様の言い付けを理解しましたと、精一杯伝える。 「ふふふ、良い顔になってきたわね。 そんな表情を見せられたら、私も興奮してきちゃう。 もうイきたい?この場で情けなくびちゃびちゃと精液をぶちまけて、 身も心も私に飼い殺されてしまいたい?ねぇ、ワンちゃん? そうよね、ここまでいっぱい言う事聞いて頑張ってきたもんね、偉いね。 じゃあもう、貴方の恥ずかしさもプライドも捨てて射精してしまいましょうか。 私も早く見たくて、我慢できないの。 だからカウントダウンの続きと私の命令で、ゼロになって『イけ』って言われたら、 溜まった欲望をぜーんぶ吐き出しちゃおうね」 ご主人様は優しく微笑みながら、至福の瞬間が近づいて来る事を告げる。 「『さん』後の事なんて何も気にしなくて良いのよ。 『にー』貴方は私のペットなんだから、全部お世話してあげる。 『いち』だから私の目の前で射精、しましょ?ちゃんと見ててあげる。 はい、ゼロ。ほら、 『イけ』『私に全て搾り取られて』 『イけ』『壊れるまで』 『イけ』『快感に狂いながら』 『イけ』『ご主人様に感謝して、幸福に染められて』 『イけ』『何度も絶頂し続けて』 『イけ』うふふふふふ♪」 ご主人様の命令で全身が激しく震える。 一つの命としての尊厳がぶちぶちと千切れ落ちて、何も分からなくなる。 真っ白な欲望をその場で吐き出し、辺りが白く染まる。 「可愛い催眠ペットの、出来上がり♪ ね、ワンちゃん♪今、とっても幸せだね♪」 ご主人様の笑い声が耳の中に、頭の中に ぞくぞくと入り込み、埋め尽くす。とても楽しそう。嬉しそう。 ご主人様の幸せが、自分の幸せ。 そう思うとさらに快感が押し寄せて、もう止まらない。 動けなくなるまで、破滅に向かって腰を振り続け、快楽を貪り、全てを捧げる。 これからも、良い子にしていればご主人様に可愛がってもらえる。 ご主人様なしでは、もう生きていけない。 本能でそう理解し、そのままかすかに残された意識を手放す。 それは温かく、優しい闇の中へと消えていった。 【4. 隷属】 真っ暗になった意識に、ご主人様の声が響き渡る。 「ふふ、気持ちよかった?貴方、気に入ったわ。 だから、今から暗示という名の首輪を付けてあげる。 貴方はこれからも、普段は今まで通りに過ごすの… でも、私の部屋に入って匂いを嗅ぐと頭の中にもやがかかって、 私がご主人様であるという事をぼんやりと思い出す。 そしたらいっぱい命令して躾け直して、 貴方をすぐに従順な私のワンちゃんに戻してあげるから。 貴方はもう、この歪んだ快楽を絶対に忘れられないの。分かった? ほら、今の暗示を貴方の心の奥底に、しっかりと刻み込んでおきなさい」 心の一番奥にご主人様の言葉がすーっと入り込み、鎖となって繋がれる。 それはまさに、目に見えない首輪そのものだった。 「じゃあ、そろそろ目を覚ましましょうか。 ふふ、お部屋は全部片付けておきましたから、大丈夫ですよ。 ここで起こった事は忘れて、すっきりと目覚めましょう。 5つ数えて手を叩くと、貴方はこの部屋で起きた出来事を忘れて、目を覚まします。 いーち 身体の疲れが、自然と抜けていく にーい 少しずつ、力が入るようになってくる さーん 頭の中も、青空のようにすっきりとして しーい いつもより爽快な気分で、目覚める事ができますよ ごー それでは、おはようございます(ぱんっ)」 ふっ と、目が開く。 ソファの上で、また眠ってしまっていたようだ。思わずぐーっと、伸びをする。 「おはようございます、お疲れの所、お付き合い下さりありがとうございました。 ふふ、是非またお話しましょうね。私、とても楽しかったですよ。」 夢を見ていたような気がするが、あまりよく覚えていない。 けれど、彼女ととても幸せな時間を過ごしていた気もする。 彼女に少し申し訳なく思いながら、部屋を後にする。 外はもう、日が落ち始めている。 鼻から空気を吸い、口から大きく息を吐き、すっきりした気分で 隣の部屋、自分の家へ戻る。 誰にも見える事のない、首輪を付けられたまま。 【1-B. 来訪者(短縮版)】 (ピンポーン) 晴れた日の休日、昼下がり。 集合住宅の一室である、我が家のインターホンが鳴る。 扉を開けると、隣の部屋の人妻、佐渡さんが微笑んでいた。 「ふふ、こんにちは。よろしければ、これから私の部屋に『遊び』に来ません?」 その優しい笑顔に、思わず身体がぞくぞくっと震え、 そのまま、はい、と声が出てしまう。 もう彼女の言葉に逆らう事はできない。 これまでに何度も、彼女の部屋で『遊び』を繰り返している。 その度に暗示が深く、深く刻まれていく。 彼女に付けられた暗示という名の首輪は、決して外れない。 彼女の部屋の玄関をくぐる。 胸いっぱいに優しいお香の香りが広がり、 少し遅れて鼻に甘い刺激を与えてくる匂いの存在を感じる。 その匂いで頭にもやがかかっていくような感覚を覚え、 心の奥にしまっていた感情がぞくぞくと呼び覚まされる。 「ふふふ、どうしました?大丈夫ですよ、今からゆっくり思い出していきましょうね。 ほら、こちらへ…貴方の大好きな、ふかふかのソファへどうぞ」