*印の付いているところ音声あり 「」 は セリフ () は 心の声 『』 は 効果音 //////////////////////////////////////// 完璧タイプの女子が乗り物には弱くバス遠足でゲロった件 //////////////////////////////////////// 5月のバス遠足。 何のとりえもない男子高校生に突然のラッキーが訪れる。 バスの座席はくじ引きで公平に決められた。 その結果、彼の席は、なんとクラスで一番の美少女とされる女子の隣になった。 容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀、家は金持ち。 それを鼻にかけることもなく、誰とでも気さくに話をする。 男子の憧れの的、女子も表立って彼女を悪く言う者はいなかった。 遠足当日。 先に乗り込み、窓側の座席から外を眺めていると、通路側の席に彼女が腰かける。 *「隣だね、今日はよろしくね」 今日も可愛い。笑顔が眩しい。  「あ…ああ、よろしく」 喜びを隠して平静を装う。 *「今まで、話したこと無かったね」 少年は緊張していたが、彼女の方から積極的に話しかけてきてくれて、わりと会話は弾んだ。 *「私、乗り物に弱くて中学まで、ずっとバス遠足行かなかったから」  「そうなんだ」 *「だから今日は、すごく楽しみなの」 嬉しそうな顔で笑う。 しかし出発してから20分が経過したころから、徐々に無口になっていく美少女。 (……???………俺、なんか機嫌損ねるようなこと言っちゃったか?) 30分も経過する頃には、ほとんどしゃべらなくなり、ただ遠い目で窓の外を眺めるのみ。 *「はあっ…」 溜息まで出る始末。 (気まずい……なんか、俺の方から話しかけてみようか…)  「あ…あのさ…」 *「気分が悪いの…」  「え?」 *「バスに…酔っちゃったみたい……」  「そ、そうなんだ…席、交代する?」 *「ありがとう」 窓際の席に移動すると、少し窓を開け、再び無言で窓の外を見つめる。 時間が経つにつれ、顔色はどんどん悪くなっていく。 息遣いも荒く、額の汗も凄い。 *「はあ………はあっ……き…ぼぢ……わるい…」 *「どうしよう……私、吐い…ちゃう……かも…」  「エチケット袋は?」 *「持ってない…」  「そうか、俺も、バスに酔ったことないから…」 *「私、乗り物弱いのに……もう高校生になったから大丈夫かな、って…」 *「バカよね……大人でも、酔う人は酔うのに…」 *「念のため…持っていきなさい、って…母に、言われたのに…」 *「なんか……意地張っちゃって…」  「君も家では、年相応なんだな…」 *「酔い…止めも、渡されて……それは一応、飲んだ…のだけれど……」  「…あまり効かなかったか…」  「まあ、誰かしら持ってるだろう…先生に言えば、バケツもあるかも」  「とりあえず、先生に報告してくるよ」 立ち上がろうとする男。 しかしバスはカーブの連続にさしかかっており、容体は急激に悪化した。 *「う…もうダメ、出ちゃう…」 涙目になり、口を押さえる彼女。 *「おぶうっ…えろうろっ」 固形分が多く粘性の高いゲロが口から溶岩のように噴出し、 口を押さえた両手の隙間からボトッボトッと垂れ落ち制服を汚す。 *(やあっ…ついにやっちゃった……みっともないわ…) *「がおばっ……パ…うるるおぁえー」 耐えに耐え抜いた後の嘔吐、止まらずどんどん出てくる吐物。 *「見なぃ…で…おぉぅえ」  「おえっ…きたねえ」 思わず本音がこぼれる。 *「ゴブ……ごめんなさいっ…オェェ」 上品なお嬢様の顔からは想像もつかない、御下劣な音をたてて嘔吐し続ける。 *「かはっ……ぷ…ハァッ…ハァッ…」 酸っぱい系の悪臭が漂ってくる。 いったい金持ちは何を食っているのか、何を食ったらこんなに臭いゲロになるのか。 未消化の食い物の残骸が残っていないか、思わず注視してしまう。 緑がかったクリーム色のゲロ。所々にパスタのようなものが点在する。 朝っぱらから小松菜のクリームスパゲティでも食ってきたというのか? *「そんなに…みないで……」 *「おうっ…げええっ」  「お…おい、大丈夫か?」 *「ごめんなさい………だい…じょうぶ……だから………みな…いで……ウロエッ………おねがい…グォゥエッ」  「小松菜、好きなの?」 *「それ……ハアッ…ほうれん草……ハアッ…や…見ないでってば…ゴバグロエッ」 あの○○さんが吐いてる…周りも気付き始め、バス内は騒然となった。 *(いや…注目されてる……恥ずかしい…) *(高校生にもなって、袋でもバケツでもなく…直接、床にゲボ吐いちゃうなんて……) *(私の胃の中で消化途中だったドロドロの食べ物…見られちゃってる…) *(酸っぱくて凄くクサい臭い…嗅がれちゃってる…) *(こんな汚らしい女、クラス全員から嫌われちゃう…) かなりの量を吐き散らし、制服も床もゲロまみれとなっていた。 *「………げほごほ……」  「落ち着いた?」 *「はあっ…はあっ……だいぶ楽になったわ…ありがとう」 我に返った彼女は改めて、自らの嘔吐物で汚れた制服や、床に大量にブチまかれたゲロ溜まりを見て赤面する。 *「やだあ…本当にごめんなさい…すぐ掃除するわ」  「まだバスは動いてるんだ。掃除なんかしたら、また気持ち悪くなるぞ」  「掃除は俺がするから。君は楽な姿勢でいてくれ」 麺ゲロのグロテスクな外観と、鼻をつく酸っぱい系の凄まじい悪臭。 正直もらい吐きしそうだったが、ここはクラス一の美女に気に入られるチャンス。 勝算はある。秘密兵器が。 *「で…でも……そんな汚くてクサいもの…」  「大丈夫。君のなら汚くないさ」 カッコイイようで、変態ともとれるセリフを吐き、掃除を開始する。 バスは動いている。早く掃除しないと周囲に拡がっていってしまう。 こんなこともあろうかと、嘔吐物瞬間凝固剤を準備してきて正解だった。 駅で酔っ払いが吐いたとき等に駅員が使っている白い粉のようなもの。 それをふりかけると水分を吸い一気に固まる。 こいつのおかげで、清掃は比較的楽に済んだ。 *「ありがとう…頼りになるのね」  「いや、それほどでも…」 *「みんなの前でゲボ吐いちゃった恥ずかしい私でよければ、お友達になってくれる?」  「も、もちろん…」 到着後、彼女のゲロが詰まった袋を捨てようとすると、数人の男子が欲しがったためオークションにかけた。 アイドル的美少女の嘔吐物、高値で落札されたのは言うまでもない。 なんだかんだで、この遠足でかなり得をした少年であった。 ////////////////////////////////////////