【一週間後】 あなたは、あの路地の件からまだ痛む体を引きずりながら白猫を探していた。 その間に、様々な噂を聞いた。 彼女が様々な男たちのいうように金や情報の代わりに体を売っていたという話。 彼女と同じように力や才能がないためにパーティーに体を提供する代わりにお金などを受け取っている女性からは自分たちの立場を危うくするからと恨まれている話。 一人でやっていける才能ある女性たちからは、体を売らねば生きていけない癖に冒険者にしがみついている現実がみれない愚か者と蔑まれている話。 ……いろいろな話を聞いた。 その、どれもがあなたと共に過ごした少女とはとても似つかわしくないものであなたを余計に混乱させることになった。 あるいは、だからこそ信じたくなかったのかもしれない。 誰も彼もが彼女を否定するなか、それとが違う面を知っているあなただからこそ……。 真実を知りたいと、あなたは今日も彼女を捜す。 だが、まだまだ町に慣れているという程住んでいた訳でもないあなたに土地勘はなく彼女の行方を求めても、どこにもその陰を見つけることができなかった。 今日も、一日探し歩き疲れた足と痛むからだをひきずって家路につく。 ……新人であるあなたには、お金は決して余裕のあるものではない。 さすがに、そろそろ探すだけでは生活ができなくなる。 明日からは、彼女に教わったやり方でまた狩りをして……お金を貯めながら彼女を捜すため時間が短くなるなと、そう嘆息した所で――気づいた。 あなたが使っている冒険者の宿、その宿の陰に銀色の髪が僅かにのぞいていることに。 こちらに気付いた様子のないその銀の色へと、ゆっくりと息を殺し近づく。 一歩、二歩……物思いに沈んでいるのだろうか、近づいても気付いて逃げるということはなかった。 ゆっくりと足を進め、ようやく手の届く所までたどり着く。 今度は、今度こそ、逃がさないようにとあなたは一気に足を踏み入れ、その銀色の迷い猫の手を、強く握りしめる。 「え……きゃっ!? っ、な……な!! ぁっ、え……あ、あなた!?」 本当に気付いていなかったようで、急に捕まれた腕に狼狽する少女。 あなたがつかんでいるのだとようやく気付くと、平静を取り戻すと同時に酷く後ろめたそうな顔を見せる。 「…………あ、と そのげ、元気だったかしら? 私……しばらく会えなかったから、その元気かなって……じゃなくてっ!! えっと……」 なにを言っていいのか分からないのだろう。 ここまで来てくれていたということは、あなたに用があったのは間違いないのだろうが、それでも彼女の中でもどう決着をつけていいのか分からない問題が渦巻いているようだ。 あなたは、少女の手をもう一度強く握る。 「いたっ!? ちょ、痛いやめて頂戴! なんでそんなに必死に……やめて、汚い……汚いわよ私?!」 白猫が身をよじり、手から逃れようとする。 痛いのは、あるのだろう。 だがそれよりも、自分の体に触れられることがあなたにとって良くないことだという態度が酷く、酷くあなたを悲しくさせた。 思わず、あなたは少女を抱きしめた。 背中に手を回し、2度と2度と放したくないと強く抱きしめる。 間近で嗅いだ彼女の銀の髪は、出会った時と同じ……甘い花のような香りを放っていた。 「ちょ、なにをいきなり!? は、放しなさいって言ってるでしょ!! 私が、何をしててどうやって生きてたか……あなたもう知ってるじゃない! やだ、放して、放してよ!! そんな、強く……いやよ、そんな風に抱きしめないで!」 腕の中で少女が暴れる。 自分がそうされるには値しないと、そう叫びながら放してくれと懇願する。 ……放せる訳がなかった、ここで放してしまえば少女は2度と自分と会ってはくれない。 その確信があなたの中にはあったのだから。 彼女の言葉を無視し、抱きしめ続けるあなたに少女は段々と力を失う。 どれだけ言葉を尽くしても離れないあなたに、顔を歪ませ瞳に涙が浮かぶ。 あのときと、同じ涙が。 「なんで、なんでよ どうして放してくれないのよ、私はただ……あなたに一言謝っておきたくて それでお別れが出来ればそれで良かったのに なんで、こんな……」 顔を伏せ、身を震わせる白猫。 きっとそうなると分かっていたからこそ、放せないというのにそのことに少女はまったく気付いていないようだ。 とりあえず、まずは色々話しを聞きたい。 放すとか、放さないとかそれは全部それが終わってからだ。 あなたがそう告げると、少女はがっくりと肩を落とす。 暫くそのまま何かを悩むように言葉を黙っていたが、決心がついたのか顔をあげ。 「……分かったわ 確かに、あなたには聞く権利があると思うもの 私の部屋に案内するから、来て、くれる……?」 何かの覚悟を決めたのか、悲しげにまっすぐあなたを見つめる瞳を見返しこくりと、1つあなたは頷きを返すのだった。