少女が走り去った後、路地には沈黙が広がった。 逃げる所までは予想していなかったのだろう、リーダー格の男が決まりの悪そうな顔をしている。 「ちっ、冷める真似する女だな……。 せっかく誤解を解いて、本性を教えてやろうと思ったってのによぉ」 自分は何も悪くないとでも言いたいのだろう、周囲の仲間に同意を求めるように少女への悪態を吐き出す男。 興が削がれ、発散しきれなかった苛立ちを紛らわせるようにそれに同意する周囲の男達。 白猫が逃げていった先を見つめ、冷ややかな冷笑を浮かべている彼らの女。 「はん! なぁおい、新人? これでお前が組んでる奴がどういう奴か分かっただろう? これに懲りたら、2度とあいつと組もうとなんて思うんじゃねぇぞ それとも、お前も金を払ってあの女を抱くか? ん? ハハ、金を出せば誰にでも股を開いてる女だからな! 喜ぶだろうよ、うらやましいこった!!」 男の、白猫を侮辱する声があなたに降り注ぐ。 ・・・こいつ等は何を知っているのだろうか? 彼女が、冒険者としてどれだけがんばっているか、 ふとした成功や、ちょっとした喜びにどれだけ嬉しそうに顔を綻ばせるか。 それを、どれだけ知っていてこんな言葉を言っているんだろうか? 何もかもが、ただ彼女を利用しようとしているだけの醜いものに思えてあなたは思わず、リーダー格の男の顔を殴りとばしていた。 「っ”……!? いっづ……てめぇ!!!!!」 たかだか新人の冒険者が、それなりに冒険者としての経験を積んでいる自分に しかもこんな集団に囲まれている中で殴りかかってくるなど予想していなかったのだろう。 男は予想外の攻撃に暫し目を白黒させてから、罵声と共にあなたに向かって殴り返してくる。 重い一撃だった、性格は兎も角確かにあなたよりも冒険者として経験を積んでいるのであろう、威力のある一撃に目の前がくらりと歪む。 リーダー格の男が殴りかかったことで、周りから仲間たちもあなたに暴力を振りかざす。 痛みと衝撃に、次第に意識が薄れていくなかそれでもあなたはリーダー格の男に向かって最後まで拳を降りあげることをやめなかった。 薄れていく視界の中で、少女の柔らかな笑みと、張り付いたガラスの笑顔。 その両方が浮かんでは、消えていった……。