ごとんごとん……。 町を移動する乗り合い馬車が揺れていく。 僅かな期間になってしまったが、あなたが初めて冒険者となった街が遠く離れ行くのが見える。 田舎を出て、初めて出てきた街だけに少しだけ寂しいものを感じながらもあなたはそれを振り払うように、視線を外し馬車の前に視線を向けた。 幾つもの馬車が連なり走っていく光景がそこには見えた。 何台かには護衛に雇われている冒険者もいるだろう。 彼らには、そうと知られないようフードの端をつかみ深く被る……ここで彼らに姿を見られては面倒なことになりかねない。 「……本当に、いいの? 私なら、別にあのままでも……。」 同じようにフードを深く被った少女が、横からあなたの顔をのぞき込み申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。 それに、あなたは首をはっきりと横に振る。 ……決めたのだ、彼女の相棒として冒険者として2人で1から頑張ってみようと。 それをするには、あの街は……彼女にとってしがらみが多すぎる。 だからこそ、あなたは……あなたたちはあの街を離れ遠くの街で1からの再スタートを決めたのだ。 「ごめんなさい、ずっとあなたをつきあわせてばかりになっちゃうわね。私って……。」 自分のせいでせっかく慣れてきていた生活を捨てさせると、少女は妙に落ち込み気味だ。 あなたは、そんな少女をフード越しに抱きしめた。 そんなことは気にしなくていい、と。 君と、相棒としてやっていきたいから自分で選んだことを勝手に君が後悔しないで欲しい。 まるで、自分の方が先輩なのだとばかりにわざと偉そうに彼女向かってお説教をする。 少女は、少しだけ泣きそうな顔をしながら赤くなり それを誤魔化すように、ふんっと鼻を鳴らした。 「ふん、何よ……先輩みたいな事言って! 私の方が身長はともかく、先輩なんだからね! まったく、生意気な相棒だわ、本当……っ♪」 ふんっ、ふんっと何度も鼻を慣らしながら銀色の少女はそっぽを向く。 だけれど、その目は……嬉しいのを隠しきれないと、赤く涙を浮かべているのだから可愛らしいものだろう。 きっと、大変なことは多いと思う。 1からの場所で半人前が2人でやっていくのだから、それは当然だ。 でも……。 「……貴方となら、苦労も楽しいと思えると思う。 そうなるって、信じてる」 これから先を思い浮かべていた貴方の顔を見て、白猫は柔らかくほほえんでいた。 口には出していなかったのだが、思いは同じ……という事だろう。 あなたと、白猫……柔らかくほほえみ合う2人の姿がそこにはあった。 きっとこれは、この先の辛い目に再びあった時でも支えになってくれる……そんな思い出になってくれるだろう。 笑い合いながらそういえば、とふと貴方が気付いた。 ずっと白猫と呼んでいたが、これはあだ名なのだ。 彼女の本名はなんというのだろう? せっかくの機会だと、彼女にその疑問をぶつけてみる。 少女は言われて気付いたとばかりに、ぱちりと目を瞬かせ。 「あ、そうね……。 そういえば言ってなかったわね。 あの街を出るなら、確かに白猫なんて名乗る必要なんてないし……。」 「最初の頃、名前を呼び合ってた以来……かしら……何だか、妙に恥ずかしいわね。 でも、あなたには知ってて欲しいのは確かだし……ぅー。」 変なところで恥ずかしがる少女を微笑ましいと眺めていると、迷いが消えたのかやや赤い顔をしながら少女はあなたを見つめ返し。 「えっとね、私の名前はね……」 恥ずかしそうにはにかみながら名前を伝えようと唇が開く、愛おしい少女の顔を晴れた空の明かりが照らしている。 光を跳ね返す銀の髪は、綺麗に煌めき続けていた……。