「あ、あのっ……先生?」 こちらを見上げる気弱そうな顔。 目をうるうるさせて、逃げようともしない。 期待した顔をしているのだから早く続きをしてあげたい。 ちゅっ。 近付く唇にキスをする。 もう何度目か分からないキス。 キスをする時、京介は言われなくとも目を閉じるようになった。 始める時は軽いキスを一度する、それを合図に深いキスを――あれ、教えたっけ。 京介は私の喜ぶことを言わなくても覚えてくれるせいで教えたかどうかをよく忘れてしまう。 優秀な生徒というのも考えものだ。 キスすると京介の頬がふんわり赤らんでいく。 色白な頬がピンクになる。桃みたいで可愛い。 長い睫毛も好みだ。 観賞用美少年という仕事があればいいのに。 自分を一番に思ってくれる好みの男の子と毎日いっしょに暮らせたら夢みたいに幸せそうだ。 「先生、可愛い」 キスが終わってもぽうっとした顔をしている。 唇までピンクに色付いて可愛いなんてもんじゃない。 可愛い子に可愛いと言われるとたくさん可愛がってあげたくなるから不思議だ。 押し倒してベッドの上で何度もキスを教えてしまう。 自分からキスをしてくれる京介は可愛い。 だけどされるがままになっている京介も可愛い。 可愛い子には自分がどれだけその可愛さで他人を喜ばせているかを教えてあげたい。 「ぁっ、ああっ。止めちゃヤダっ」 甘える声まで可愛い。 身をよじらせて快感に耐える京介を見るといけないことをしている気持ちになる。 主導権を握られるプレイでもおねだりしてくるところも好きだ。 いたいけさを無自覚に押し出してくる表情にも庇護欲をそそられる。 「……もっと、ぁっ」 瞳に灯る熱い温度。 その熱を上げてあげたくて、押し倒す。 ガサッ。 (……え?) ベッドの端で聞きなれない音がした。 「っあ、あのっ……!」 京介は慌てた様子で手をばたつかせている。 音のしたところ、京介の右肩とベッドのシーツの間に手を差し込む。 綺麗な包装紙にラッピングされたそれ。 包装紙の店名を見るだけで分かる。街角でよく見る有名店のチョコレート。 (あ、そっか。今日、バレンタインか) カレンダーを見て気付く。 もうそんな時期か。すっかり忘れていた。 「こ、これっ……好きな人に渡すんですよね」 京介の唇がぷるぷる震えている。 緊張している時のくせだ。 最近こんな顔をしている京介を見ていなかったので久しぶりな気がする。 「先生、もらってくださいっ」 そんな表情でそんなこと言われるとますます奪ってあげたくなる。 包装紙を雑に破って箱を開ける。 チョコレートを一粒取り出すと口に含んで二つに割った。 じわっと口に広がる甘ったるい味を楽しみながら京介にキスをする。 (ホワイトデー、何か考えないとなぁ……) チョコレートから香るチェリーのフレーバー。 サクランボみたいに赤くて可愛い顔をした京介を見下ろす。 ひとまず、今日の授業はいつも以上に特別なことを教えてあげることにした。