あったかくて柔らかい体をぎゅうっと抱きしめて眠り、 朝は優しいキスで目が覚める。 プレイとは違う癒しを感じて生活できるなんて このシェアハウスに来た時は思いもしなかった。 シェアハウスに移り住むことになり、最初に見た光景は 足をガムテープで縛られたままバイブを咥えこまされて悶えるはるかだった。 「もうやだよぉ、むりだよ、ゆるしてっ。むりっ、むりだもんっ、やめてぇ!」 どんなに泣いても叫んでも誰も助けようとしない。 むしろ彼を苦しめるようにバイブの強度を上げたり、 抜き差しを激しくして気を失うまで快楽で追い込むなんて……。 あぁ、美しくないな。 それがここにきて最初の感想だった。 風紀の乱れた場所だからこそSMという趣味があるのを隠す必要もない だからこそ自分なりの美学を持って彼に接した。 彼の快楽を正しい方向に導き、育てようとはるかを部屋に連れ込んで 決して他の者では真似できない快楽を刷り込み、独り占めした。 だがここまで懐かれるとは思わなかったし はるか個人に興味が湧くなんて思いもしなかった 彼の無邪気な笑顔を毎朝見すぎたせい、かもしれない。 あまりにも常識を知らなさすぎてどうしようもない彼のことを もう少し知りたくて外に連れ出した。 「ねぇ、お外ほんとに出ていいの?」 サイズの合わない小さな子ども用の靴とぶかぶかのパーカーではなく、 彼の足に合う靴と外に出ても違和感のない服を買い与えて着せた。 玄関から一歩、外に出た瞬間からはるかは動こうとしない。 行きたい場所を尋ねても何も言わない。 ぎゅうっと握った手を放さないまま俯いて ぶるぶると体を震わせているだけ。 何を聞いても答えられないという様子で 口をはくはくさせて呼吸ができないような怯え方をした。 だから安心できるように少しだけ背をかがめて視線を合わせる。 目が合った途端抱きつかれて驚いた。 彼の顔が触れる位置が どんどん湿っていくのを感じる。 「すてないで」 ぽろぽろ涙を流しながら見上げる彼の髪を撫で、泣き止むまでずっと抱きしめる。 捨てないよ、と何度も繰り返し教え込むように囁いて泣き止むのを待つ。 きゅるる 不意に小さくお腹が鳴る音が合わさった服の上からでも分かって 思わず一緒に笑い合う。 好きな食べ物を聞けば、おずおずとはるかは口を開いた。 「……ハンバーグとオレンジジュース」 あどけない彼の恥ずかしそうな、嬉しそうな なんともいえない表情があまりにも無邪気で胸がきゅんとする。 近くに見えるファミリーレストランの名前を出せば 嬉しそうにはるかは頷き、外を歩き始めた。 「夢みたい。あの……今日は……ずっと、独り占めして?」 握られた手の温かさに安堵するはるかを見ながら もちろん、と頷いて二人でまた一歩一歩と歩みを進める。 「ずっと、夜も。いっぱい、可愛がって……ね?」 無邪気に、淫靡に笑う彼にもっとたくさんのことを教えたくなった。 首輪を付けて、独り占めして。 これからも彼がもっと笑える毎日が続くように可愛がろう。 そう決めたのは、きっとあの時だ。