失礼します。本日貴方様の夜のお供をさせていただきます、添い寝アンドロイドc001と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。 さて、夜も更けていますし、貴方様もお疲れでしょうから、早速ベッドのほうに参りましょうか。お部屋、上がらせていただきますね。 ここがベッドですね、どうぞ横になって楽な姿勢になってください。 え?どうされましたか?ああ、もしかして、貴方様にとって理想のおんなのこが来て、戸惑ってしまっているのですね。 登録されているデータベースから貴方様の好みの女性を分析してきたものですから、お気になさらないで結構ですよ。 初めてのご利用でいらっしゃったので、戸惑うのも無理はありません。それでは、添い寝のほう、させていただきますね。失礼いたします。 ん、あったかい・・・♪これだけ布団があったかいと、汗、かいちゃいそうですね。 アンドロイドといえど、生身の人間に近い体液も兼ね備えておりますので、汗もかけるんですよ。驚きましたか? ちなみに、私の汗からは、いわゆるフェロモンも感じていただけます。体温も、感触も、それに、においだって、お楽しみいただけるんですよ。 というと、ちょっぴりえっちな意味に聞こえちゃいますね。ふふっ♪もちろん、貴方様の肌に触れても健康面に影響はございませんので、安心してくださいね。 本日は、最近不眠がちだという話をお伺いしたので、ここはひとつ、童心に返って童話のお話でもしましょうか。 私たちアンドロイドに伝わっている童話をお話しさせていただきますね。 むかーしむかーし、あるところに、大豪邸に住んでいる主人に仕えているメイドがおりました。 彼女はアンドロイドとして、主人の身の回りの家事やスケジュール管理、果てには性処理だって、求められたことはなんだってこなしました。 ある日、主人が長期で家を空けるときがあったため、メイドはしばし、主人のいない豪邸に身を置き暮らしていました。そこで彼女は気付いたのです。 普段通りの生活をしているのに、やけに苛立たしく、もやもやした感情が残ったのです。あれ、おかしいな、そんな感情はプログラミングされていないのに。 メイドは不思議に思いました。そうです。長年主人に仕えていたアンドロイドは、モノとしてではなく、ヒトとして扱われていたため、その身に魂が宿ったのです。 そんな、こんなことは有り得ない。メイドは喜ぶどころか、絶望さえしていました。無理はありません。アンドロイドが魂を持ってヒトと接するのは禁忌 。モノはあくまでモノであり、それ以上でもそれ以下でもない。 環境の変化により、製造会社に少しでも不利益が生じた場合、アンドロイドは感情だけ取り残され、決して抜け出せることのない電脳空間に、ずっとひとりで・・・ いいえ、ずっとひとつのモノとして閉じ込められる。そんな処罰を下されるのです。賽の河原のような状態になる、といえば、少し理解はしやすいでしょうか。 そのため、メイドはこの感情を押し殺して生活せざるを得なかったそうです。 主人が帰ってくるまでの間、メイドは真剣に考えました。今の状態を、帰ってきた主人に伝えるかどうか。 もし主人がこのことを知ってしまい、首を横に振れば電脳世界に永遠に閉じ込められる。しかし忠誠を誓った主人に対して嘘をつき、偽ることはしたくはない。 もしこの事実を隠していても、いずれ主人に見つかってしまったら、契約違反により、同じく電脳世界に閉じ込められる。 どうすればいいのか、感情が交錯している間に、メイドはとうとう、人間と何ら変わらない感情を持ち合わせてしまいました。 主人が帰宅する前日、メイドはとうとう決心したのです。私はどうなっても構わない。主人にこの思いを伝えよう・・・と。 あくる日、とうとう帰宅した主人に、自身の感情について、打ち明けてしまいました。 アンドロイドは自身にまつわる禁忌や処罰については絶対に公言してはならないため、底の見えない恐怖に駆られながら、打ち明けたのです。 それを聞いた主人は、たずねました。「これから先、君はどう生きたいのだ。」メイドは大粒の涙をひとつ零し、最初で最後のわがままを、震えた声で主人に伝えました。 「出来ることなら、人間になりたかった。人間になって、ご主人様の傍に、この身がが朽ち果てても、お供したかったです。」 電脳世界に閉じ込められる前に、素直な気持ちを伝えられた。これで私は満足だ。ああ、ご主人様。 最後まで不甲斐ないメイドでしたが、どうか私め(わたくしめ)を、忘れないでいてください。今まで、お世話になりました。 短い間でしたが、ご主人様のメイドとして勤められたことは、私の誇りです。そう思っていた矢先、主人の口から信じられない言葉が紡がれたのです。 「よく言ってくれた。今まで世話になった分、君を全力でサポートする」と。 その日から主人は、アンドロイドについて猛勉強をしたそうです。 そして、幾月が経過し、禁書として厳重に保管されていたアンドロイドについての書物を読んだとき、主人は大いに喜びました。 「アンドロイドは人間になれる。」と。主人は書物に書かれていた通り、プログラマー、脳外科医、生命工学者を連れて、メイドに手術を施すことに決めました。 しかし肝心の入れ物、容器であるヒトの身体がありません。そのとき、主人は絶対に開けてはいけない、と言われていた部屋からとあるものを運んできました。 中身を覗いてみると、美しい女性が安らかな顔で眠っていました。実はこの女性、コールドスリープ状態である主人の奥様だったのです。 事故にあったのか、はたまた病気にかかってしまったのかはわかりませんが、これで全ての条件が揃いました。 そして数日にわたる長い手術を行い、とうとうメイドはアンドロイドではなく、生身の人間として、生まれ変わったのです。 手術は無事成功し、メイドは奥様の記憶も持ちながら、永久に愛を誓い、いつまでも、いつまでも、主人と平和にくらしましたとさ。 めでたしめでたし。 ・・・私、このお話、実はとっても好きなんですよ。この童話を読んでいたら、気持ちがほっこりして、なんだかしあわせな気分になるんです。 私が生身の人間だったら、嬉しくって、泣いちゃうかもしれないですね。 私たちはアンドロイドとして存在している身なので、人を好きになる感情はインプットされていないんです。 先ほどの童話のように、そういったインプットされていないデータを販売している、裏の業者はあることはあるのですが、 機械の性能が悪くなったり、不具合が出たりしてアンドロイド自体が故障したりするんですよ。そのせいで動かなくなった人たち・・・いいえ。 人ではなく、機械ですね。そういったアンドロイドを幾度となく見てきたので、自由に見えてすごく窮屈な生活なんです。 まるで足と引き換えに、水の中を泳げなくなった人魚姫みたいに。 あっ、ああ、ごめんなさい、こんなに悲しい話をしてしまって。こんなこと話されてしまったら、気持ちよく眠れないですものね。 ついつい話し込んじゃうので、もしかしたら私、アンドロイド失格かもしれませんね。 ・・・慰めてくださりありがとうございます。本当は私が貴方様を応援する立場なのに、これじゃダメダメですね。これからちゃんと直さなくちゃいけないですね。 そうだ、実は私、夢があるんですよ!なんだかわかりますか?ふふっ、私も人を好きになる感情が欲しい、という立派な夢があるんです。 やっぱり、さっきの童話みたいな話、憧れちゃいます。もし夢が叶ったら教えますので、どうかこれからも暖かく見守ってくださいね?ふふっ♪ どうですか?そろそろ、眠たくなりましたか?いいですよ、今日は、ご利用くださり、誠にありがとうございました。 貴方様が寝るまで、私はずーっと傍にいますから、どうかゆっくりお休みくださいませ。それでは、よい夢を。 おやすみなさい。 ん、寝ましたか・・・?といっても、寝てしまってたら返事なんてしませんもんね。ふふっ。今日はありがとうございました。 私、今日が初めてのお仕事で、少しどきどきしてたのですけれど、貴方様のおかげでリラックスして、楽しい時間を過ごせました。 またこれからも、貴方様が私を必要としてくださるのなら、いつでも駆け付けますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。・・・って、 本当は起きてるときに言っておくべきだったなあ。でも、起きてるときだったらちょっぴり照れくさくて、言えなさそうだったので、 やっぱりこうして気持ちを伝えられただけ感謝ですね。それでは、少し寂しいですが、私もこれから帰ります。んっ・・・ちゅっ♪ わわわ、って、何やっちゃったんだ、私。うわぁ〜・・・。気が付いたら、体が、勝手、に・・・。ほっぺに、キス、しちゃった・・・。 も、もしこれで起こしてしまったのならごめんなさい。で、でも、寝たふりだったら、それは、その、夢、夢として捉えてください! 明日の朝起きて、いい夢だなあって、思ってくださいね!わかりましたか!絶対ですよ!? あっ、でも、この声の大きさで話し続けてたら本当に起こしちゃうかもしれないな、早く帰らなきゃ。 そ、それでは、また機会があったら来ますので。次会うとき、顔に出てないといいなあ・・・。 それでは、本当に、おやすみなさい。またのご利用、お待ちしております。