《きーんこーんかーんこーん……ざわざわざわ》 友人1 「うーし終わった、とっとと帰ろうぜー?」 友人2 「腹減ったぁ……なー、今日ちょっと飯寄ってかねぇ? あっ、お前もどうよ? 最近ほれ、なんか……忙しそうじゃん? 気晴らしにさぁ、付き合えよ! ……な?」 ホームルームの終わった教室。 放課後のざわめきが広がる教室が、生徒達で賑わう。 貴方に声を掛けて来たのは、普段よくつるんでいる友人達だ。 ここ最近、貴方が自分の時間を作れていない様子を心配したのか、気遣うように声を掛けて来た。 ――ありがとう、気持ちは嬉しいけど……でも。 《ガラガラ……》 《ざわ……ぴたっ》 早瀬 「あぁ、見つけた」 貴方が感謝の言葉を返そうとした時、一人の少女が教室の扉を開けた。 その瞬間、賑わっていたはずの教室が、しんと静まり返るのが分かった。 少女……長い髪を首の後ろでゆるく結んだポニーテールの、意思の強さを表すようにキリリと冷ややかとすら思える程鋭く細められた瞳をした、彼女。 彼女は周りの反応になど気にしていないとばかりに、遠慮する様子もなく教室に足を踏み入れ、そのまま貴方の前にやってきて言葉を紡いだ。 早瀬 「悪いけど、大会の練習で今日も時間が掛かりそうなの。 大分待つと思うけど……どうせ貴方、今日も待つんでしょう? それなら帰りは荷物持ちお願いしたいから……よろしくね?」 《ガラガラ……ざわ……ざわざわ》 言いたい事だけ言い終わると貴方の返事を待つ必要はないとばかりに、少女は踵を返し教室を出て行ってしまう。 彼女が外に出ると、ほっと安心でもしたかのように何処か遠慮がちなざわめきが教室に戻ってくる。 ……まるで、彼女がいる事が望ましくないとでも言わんばかりに。 友人1 「……あっちゃ、今日もお前をご指名か。 ぁー……彼女も大変だけど、お前も災難だよなぁ」 友人2 「あれから毎日だろ……? ……はー、幾ら家が隣つったって全然お前と絡んでる所見たことねぇのに。 事情が事情だし、しゃーないと思うけど。はー……性格もキツそうだし、シンドかったら断ってもいいと思うぜ?」 彼女に言い付けられた貴方を気の毒そうにしながら、友人達は慰めの言葉を掛けてくれる。 貴方はそれに、取り繕うような愛想笑いを浮かべて返事をし……そして席を立った。 《がたり……》 彼女を腫れ物のように扱うクラスメート達の同情的な視線を感じながら、それでも彼女を追いかけるために。 何故なら……貴方だけは知っているのだから。 あの冷ややかな瞳の少女が……何にも傷付かないという顔をして、今必死に足掻いている事を。 彼女……早瀬沙穂(ハヤセサホ)は、貴方の同級生である学園の2年生の生徒。 新体操部に所属し期待のエースと言われ、厳しい練習の真っ最中の……つい先日悲しく、不幸を経験する事になった、少女。 子供の頃には家が隣だと遊んだ事もあったが、ここ数年は疎遠となっていた、無愛想で……気が強く、同性からすら可愛げのないと囁かれる事の多い、貴方の……幼馴染だ。