早瀬 「ぐす……ひ、く……悔しい。 こんなに、大泣きするなんて……ぐす。 貴方にも、こんな姿……見せるつもりなかったのに」 彼女を抱きしめて、どれだけの時間が経っただろう。 随分長い事のようにも、短いようにも感じる時間泣きじゃくる彼女を抱きしめ続けた貴方。 暫くそうしていて……漸く、少し落ち着いてきてくれたようだった。 早瀬 「ヤダ……ちょっとこれ、ベトベトじゃない。 貴方の胸、濡れてびしょびしょで……嘘よ、私こんなに泣いた?」 落ち着いてみれば、自分がどれだけ大泣きしていたのか、その証拠がくっきりと貴方の胸に残ってしまっている事に気付き……気恥ずかしくなったようだ。 ぴちゃりと、濡れた服を摘み恥ずかしそうに顔を背ける早瀬。 貴方は、そんな彼女に曖昧な笑顔を向けるしかなかった。 早瀬 「……そんな顔しないで頂戴。 全く、本当に滑稽ね……私って。 分かってるわよ……今こんなにここでみっともない真似したのは私だけでしょうとも。 ねぇ、それ……気持ち悪くない、かしら?」 貴方を濡らしてしまった事を気にするように、早瀬が上目遣いで尋ねた。 別に気にならないと貴方が首を横に振ると、何故か不満そうに早瀬が眼を細める。 早瀬 「……嘘よ、それだけびしょびしょじゃ着てて嫌でしょ。 脱いだら、それ? えぇ、私は気にしないから……というか、私のせいだし、ね?」 早瀬 「……別に脱がしたい訳じゃないけど。 ただ、見るからに気持ち悪そうだから」 やけに貴方の服……いや、貴方の体を気にする様子の早瀬。 貴方が大丈夫と再び伝えると、余計に機嫌を損ねたとばかりに顔が不機嫌になる。 早瀬 「……なんでここでは察してくれないわけ!? 分かった、分かったわよ白状するわよ!?……寂しいのよ」 早瀬 「泣いて、ちょっとだけすっきりしたら……ママの事。 ……今更だけど、受け入れ始められてるんだと思う。 ずっと、受け入れたくない……って、シコりがあるみたいになってたのが少し解けたというか」 早瀬 「でも、そのせいで……嗤ってもいいわよ? 今、急に……もうママがいないんだって堪らない寂しさが、実感として湧いてきてるみたい。 ……貴方に今まであんな”お礼”なんてしてたのも、感じないようにしてたこの寂しさが原因だったのかな……?」 そう言って、早瀬は尚も気にするように貴方の服に手をかけた。 貴方が困ったようにじっと早瀬を見つめると、彼女は縋るように……じっとその瞳を見つめ返す。 早瀬 「……自分が情けなくて嫌になるけど、お願いよ。 ……全部終わって、空っぽになった今だからこそ……温かいものが今すぐ、欲しいの。 温かい……自分が一人じゃないんだって思えるような熱い、熱い……熱(ねつ)が。 私……貰えるなら、その熱は誰よりも、貴方の熱が良い。……欲しい、欲しいの」 早瀬の目が、熱に溺れるように潤む。 触れる程に近い吐息がやけに艶っぽく……、貪欲なまでに熱さを強請るような、”女”を感じさせる。 そしてその熱を求める唇が、ゆっくりと貴方の唇に近づいてくるのがはっきりと……分かった。 早瀬 「キスして、強く抱きしめて? 私の初めて……奪って頂戴。 誰よりも、私を支えてくれた貴方に……私の全部、貰って欲しい」 早瀬 「んっ……ぁ、ん……ちゅっ♪ ……散々もったいぶってたキス、しちゃったわね。 涙味のキス、ふふ……初めてはレモンの味とか、嘘ねやっぱり。 ……嬉しいけど、こんなにしょっぱいのだもの……私らしいのかしらね、こういうのが。 もう一回……今度は私から、んっ、ちゅぅ……ふふ♪」