「やさしい吸血鬼の殺し方」をお買い上げ、ご視聴ありがとうございました。シナリオ・編集の毛ガニです。 脱テンプレート・ストーリー性重視のバイノーラル音声作品をと作ってみたのですが、需要はありましたでしょうか? 制作に際しては、声優の青柳るう様に多大なご苦労をかけてしまい、大変申し訳ございませんが、おかげさまで素晴らしい声を頂くことができました。ありがとうございます。 青柳るう様が居なければ、この作品はありませんでした。 これは、声を当てる人が居なければ完成しなかったという意味ではありません。 先に声を決めて、それに合わせてシナリオを書いたという意味です。 仮に他の声を選んでいたならば、全く違ったシナリオになったと思います、思いつければの話ではありますが。 さて、皆様はこの声を聴いてどのような感想をお持ちになったでしょうか? 僕は、近過ぎず、遠過ぎない心地の良い距離感のある声だと感じました。そして、 →この声ならば人間嫌いな人でも接しやすさを感じるのではないか? 例えばヘンリー・キャベンディッシュのような。 →バイノーラル録音だからこその設定にしてみたい、相手は視覚情報が無くても活動できるもの、吸血鬼なんてどうだろう。 という思考プロセスで出来上がったシナリオです。 理解の上でも負担の大きいシナリオだったと思いますが、台本の読み込みの深さを感じさせてくれる演技を頂けました。 そればかりか、自分が書きながら考えていたよりもいい解釈だな、と思わされる箇所もあり、シナリオ担当としてとても嬉しかったです。 そんな、人間嫌いのキャベンディッシュが接しやすさを感じるような存在感が希薄な相手、視覚情報が無い状況という設定で考えたため、色々と意図的に削ったものがあります。 それは、吸血鬼ちゃんの名前であったり、容姿の描写であったりです。 生命感を感じさせる呼吸も描写として必要な箇所以外は削りましたし、足音も感情が大きく動いた時しか立てませんし、素性も大まかなことしか分かりません。 中でも、最も大きなものはイラストでしょうか。 かわいいイラストを付けてあげたい気はありましたが、キャベンディッシュが親しみを感じた暗闇の中の人物を、聴き手にも共感し想像して貰いたい、シナリオと音声だけで勝負したいと、(あと経費も浮かせたいと、)あえて「No image」と表示させたかったのです。 しかし、そんな気持ちばかりが先行してしまったので、ナレーションで地の文を入れるという荒業を使ってもなお、1人称視点2人称語りという作品形式には過剰な情報量を詰め込んでしまった気がします。 少しはどうにかしようと、解説を同梱しましたので、興味を持たれた方はそちらもお読み頂ければ幸いです。 また、吸血鬼について調べるにあたって、ノセール様の動画シリーズ「ゆっくりと学ぶ吸血鬼」(https://www.nicovideo.jp/mylist/52570817)を大いに参考にさせて頂きました。 吸血鬼について、広範の情報がとても分かりやすく、楽しくまとめられている素晴らしい動画でした。 本作中にも、吸血鬼ネタを随所に仕込んであります。 分からなくても楽しめるけれども、分かればニヤリとできるように作ったつもりです。 併せてご覧頂ければ、より楽しめるかと思います。 執筆にあたって、吸血鬼というコンテンツの魅力にずいぶんと助けられました。 本作がきっかけで、その魅力に触れて頂けるようでしたら嬉しいです。 さて、キャベンディッシュの生きた18世紀というのは、科学の時代でした。 様々な事柄に科学的視点が当てられ、迷信が払われました。 例えば、死体。 1725年のペーター・プロゴヨヴィッチ事件、1731年頃のアルノルト・パウル事件に端を発する吸血鬼大論争がありました。 それによって、死後腐敗しない死体や杭を刺すとうめき声を上げ血を吐く死体などといったものから超自然的な迷信が払われてしまいました。 例えば、医学。 人体の理解や、解剖学の発達により、紀元前から続く瀉血療法は下火になります、僅かではありますが。 そんな時代、偉大な発見をしながらも歴史に埋もれていった科学者と、伝承から創作の中へと棲み処を移す吸血鬼のお話、いかがだったでしょうか? お楽しみ頂けたようでしたら幸いです。