んっ、んっ、んっ。 ふぅ、ごちそうさま。結構なお手前でした。 ダメです。腕を針で斬って吸うのが精一杯の妥協点です。 噛む感触、なんか嫌だし。 あなたも傷が小さくて済むんだからいいでしょ。 ほら、薬も塗って、これでよし。 それ以上変な要求すると、指と爪の間に針刺して吸うよ。 それで、何か持って来てたみたいだけど。 何、これ? へー、ライデン瓶って言うの。 んっ、この出っ張ってるとこ触ればいいの? ひゃんっ! 今の何? 電気? びっくりした。 嫌です、驚かせるような人には近づきません。がるる。 うっ、確かに初めて会った時あなたの事驚かせた事を言われると弱いけど。 だめ、こっち来ないで。 本当に近づいてもビリっとしない? 本当に本当? ビリっと来ないのがジメジメの数少ないいいところなのに。 それにしても、やっぱり人間って凄いね。 電気なんていう形の無いものを閉じ込めちゃうなんて。 私の医術を褒めてくれるのは嬉しいけど、別に私に才能なんて無いよ。 ねえ、アイソーポスの『ウサギと亀』っていう話知ってる? こっちだとイソップって言うんだっけ? あの話に出てくる亀って馬鹿だよね。 ウサギに勝ちたかったら泳ぎで競争すればいいのに。 相手の得意な駆けっこで競争したら、怠けないウサギには敵わないよ。 自分と相手の能力を理解していないなんて馬鹿でしょ。 でも、もっと簡単な勝ち方があるの。 亀の方が長生きなんだから、待っていれば勝手に相手が居なくなるの。 私は亀よりももっと長生きだから、私より凄い人はいっぱい居たけどみんな死んじゃった。 それだけの時間練習している分、上手くできるのは当たり前。 それでも私は、あなたみたいに新しい発見をしたり、そんな意地悪な瓶を作ったりする自信は無いよ。 人マネがちょっと上手くできるのが私の取り柄、才能なんて無いよ。 治療だって偉い人たちに教えてもらった事をマネしているだけだからね。 私に才能があるとすれば長生きな事くらい。 でも、それっていい事なのかな? いっぱい大変な思いをして、沢山嬉しい事があって、でもそれ以上に悲しい事があって、ようやく流れ着いたこの地下牢が私のお城。 ここにあるのが私の全て。 ねっ、びっくりしちゃうくらい少しでしょ。 ここの家の人は、薬草を取ってきてくれたり、糸をくれたり、あっ、後洗濯してくれるのも嬉しいかな、光も流れる水も苦手だから。 良くはしてくれるけど、でも利用価値があるから血を飲む化け物を保護してやっているんだぞー、って顔してる。 暗いから見えないって考えてるのかな? 会う度に見限られないようにしなくちゃ、って思わされるよ。 好き好んで近づこうとする人なんて……あっ、変な科学者が居たっけ。 ねえ、変な科学者さん、変な約束してくれない? もし私が先に死んだらさ、火葬してくれないかな? 教会は死後の復活ー、だなんて言ってるけど、私は死んだ後に起き上がりたくなんてなかったな。 異端だー、魔女だー、って追い回されていたから、もう1回死んでも天国になんて行けないだろうし。 約束だよ。 あなたが先に死んだら……何も出来ないね、地下牢の中だし。 頑張って長生きしなさい。 ねえ、約束の証に髪を一房くれないかな? あんな情けなかったお坊ちゃんも白髪混じりになっちゃったねー。 いや、今でも情けないけどさ。 ありがとう、大切にするね。 あなたが死んだら天国に行けないよう、後ろ髪引いてあげる。 魔女で、悪魔で、化け物だそうですから、ふふっ。 あっ、ところで、さっきのらいでん、瓶、だったっけ? アレしばらく貸して貰えないかな? いや、ちょっと悪の科学者を懲らしめてやろうかと。