;//////// ;Track0 タイトルコールとこの音源の楽しみ方 ;//////// ;ナレーション(タイトルコール) ///;環境音 ざわめき、がやがや、(託児所内部) ;9 マイクに背中向き 「ちっちっちっちっ! おちびはんたち静かに静かに。騒がんのー。 これからひよ、たいとるこおるをせないけんさけ」 「みんなそろって、仲良ぉ静かにしてくれたらな? ひよな? あとでたーくさん、おうたをうとうてあげるのし」 ;環境音off ;9 「やのーて」で振り返ってマイク向き 「えへへっ。みぃんなええこやのし。 ほんなら、このすきにお洗濯―― やのーて! たいとるこおる。するんやったねー」 「こほん。 『あやかし郷愁譚 送り雀 ひよ・春待ち』」 ;以降、じわじわ環境音Vol フェードアップ 「ゆーてもあいやん。 ひよとほぼほぼ毎日あっとるやんなぁ。 ほんなら、このトラックゼロ。 『このばいのーなるボイスドラマの楽しみかた』なぁんて、聞かれへんでも――え?」 「あ……あ! せやったねぇ。 『“ばいのーなる”やのーて、“バイノーラル”』」 「いけんねぇ。ひよ、ちょこーっと慣れてきたおもぉて、前とおんなじ失敗してしもーたのし。 おちびさんたちの前で、そげなことしたらいけんねぇ」 「……ん〜――(呼吸音)――ん! あんな? ひよな? やっぱりあいやんおらんととってもこころぼそいさけ――」 「えへっ、えへへっ、やっぱりあいやん、やさしいなぁ。 ひよに、いっつも つきおーてくれるもんなぁ」 ;1 「えへへっ、おおきに。ありがとお」 「ほんなら、ちゃちゃっとトラックゼロすませてしまうよし、もー ちとかいだけ待っちょってなぁ」 「ええと――<帳面広げる音>―― この帳面にかいてあることよめばいいだけ。 楽勝やのし」 「『お布団干しでふっかふかにする方法』―― あー、あったなぁ、これは役にたつけど、いまは違う」 ;SE 帳面めくり 「『おとこはんのよろこぶお料理』 あー、おそわったやつやんなぁ。 ひよ、まずはおじゃがさん上手にむけるよにならんとなー」 「あんな? ひよな? 包丁もって、おじゃがさんくるくるまわして皮むいとると、 なんかがおめめがぐるぐるしてくる――やのーて!」 ;SE 帳面めくり 「ん……あ! あった、あった。 ほんならなー、よむなー? えへんっ」 「『このボイスコンテンツはバイノーラル安眠ボイスコンテンツです』」 「『バイノーラルとは、立体音響のこと。 ヘッドホンやイヤホンでお楽しみいただけますと、 まるでその場にいるかのような音響効果でボイスコンテンツを楽しめます』」 「ふふーん。まちがえずにちゃあんといえたのし。 ばいのーらる! 記念に、えへへ、 ひよ、あいやんにばいのーらる、したげるな?」 「ヘッドホンかイヤホンの準備はえーえ? ええのん? ほんなら、ひよ、いくのし」 ;3 「みぎのおみみ〜」 ;7 「ひだりのおみみ〜」 ;1 (接近ささやき) 「あいやんのお鼻のすぐちかく〜」 ;1→9 ;9 (マイクに背中) 「あいやんとはなれてうしろむき〜――えへへっ」 :SE 9→1 ;1(通常) 「な? な? あいやん。 右やら左やら、とおくやら近くやら、ちゃあんと聞こえた?」 「……(呼吸音)…… えへへー。きこえたんなら、もう準備万端やんなぁ? ほんなら ひよ、先に保育所閉めとくさけ」 「え? 『保育所って』……って? ほんなん、ひよとあいやんとで働いとる、 村の保育所のことにきまっちょるのし」 「あいやんがすすめてくれたんでしょー。 ひよのおうたを、もーっといっぱいいろんな人に聞いてくれるのは、保育所でおちびはんあいてが一番ええ、って」 「で、村役場やらにかけあって、ものべののカミさんにも口沿いしてもろーて。 ものべの村らしゅう、人のこも、あやかしのこも、半妖のこも まるっとあずかる――あ!」 「ゆーちょる場合じゃないのし。 もう夕方四時、お迎えの時間になっちゃうさけ」 「あいやん。準備がすっかりととのったなら、すぐ来てなぁ! ひよ、ものべので――Track1で、まっちょるのし〜!!」 ;環境音FO ;//////// ;Track1 ひよの足踏みマッサージ ;//////// ;環境音 竹やぶ内の建物の中(ドア開)。雨音 ;13 マイクに背中 「今日もおむかえ、おつかれさんのし。 雨、強ぉなってきとるさけ、 帰りの運転、気ぃつけてなー?」 「ん。さわちゃんも、またあした。 ほんなら気ぃつけておかえりなー。 はいはい。ばいばーい……(呼吸音)……ふぅ」 ;SE ドア閉め ;環境音 Vol↓ ;13 通常 「あいやんもおつかれさまー。 わ、お片付けもーおわっちょる」 ;ひよが13→5で、あいやんも180度振り返る。ので、;1 ;*おかはん=お母さん 「さわちゃんのおかはん、ええひとやけど、お話ちとかいながくてなー。 あいやん一人にお片付けさせることになってしもーて、わるかったのし」 「ほぇ? 『今日はあやかしのこが多かったから片付けも楽だった』って―― あー、ゆーたらそげかもなー」 「あやかしのおちびはんたちは、お外あそびが好きやけんなー。 人間のおちびはんたちみたく、おもちゃや積み木、あれこれぽいぽいせんもんなぁ」 「ゆーか、託児所。思とったよりしんどいなぁ。 おちびはんたちにお歌とーておひるねさせて、 おやつを食べておちんぎんもらえる……なぁんて甘いもんとはちごたなぁ」 「おちびはんたちと来たら、もぉ。 泣くわ騒ぐわ熱だすわ、 吐くわ転ぶわ怪我するわ、 おもらしするわちょろちょろ勝手にどっかに行くわでほんまにもお! えらい手ぇかかるもんやさけ」 「おかげでひよ、お仕事の間はちとかいもやすまれへん…… ゆーか、あいやんがいっしょにしてくれひんかったら、きっともう、最初の一日で投げ出して逃げ出してしもーちょったと思うのし」 「……あんな? ひよな? あいやんがおってくれたから、お仕事つづけられたのし。 ほんま、ありがとぉな、あいやん」 「それにな? えへへー。 おちびはんたち、かわええとこもあるしなー。 ひよのおうたのこと大好きやし、 ゆーたら、ひよのこともあいやんのことも大好きやんなぁ」 「あいやん、今日も大人気だったなぁ。 『高い高いして』やら『飛行機して』やら、おんぶしてやらだっこしてやら――って!」 ;ええっとできょろきょろ 「あいやん今日、一日動きどおしやんなぁ。 その上にあとかたづけもぜぇんぶ……やし。 ……(呼吸音)……ん。ほんななら? あいやん……ええっと――あ!」 ;1→16 背中向け 「ん、ここここ。ここがええのし。 体操用のマットを……よいしょっ、<SE マット広げる> ――ん!」 :16 通常 「あいやんあいやん! ここここ! ここに来てごろーんってしてな?」 ;1 「あ、逆、逆。 おなかが床で、おせなが天井でごろんして?」 ;5 「そーそー、手も足も、あんばいよーして、 力入れんでのばしといてなー」 「ほんならな?  ひよ、あいやんに、ふみふみマッサージしてあげるのし」 「いまからひよ、あいやんの体の上に立つさけな? 重かったり痛かったりしたら、すぐに言うてな?」 「ん……(呼吸音)――まずは、右足…… <背中に乗る>」 「どおお? あいやん? え、『全然重くも痛くもない』のし? ほんならな、両方の足でのるさけ――(呼吸音)―― ん! <背中に乗る>」 「平気? ほんなら、あいやんの腰、ふみふみするな? ん――<足踏み、ふみふみ>――えへへっ、 あいやん、あんばいよさそーな声でたなぁ」 「腰の……このへん? <ふみふみ>、 あー、やっぱここらかー<ふみふみ> なら……ん――<ふみふみ>―― ひよな? たくさん、踏んだげる、さけ……んっ<ふみふみ>」 「ん……(呼吸音)――うん。 あいやん、腰につかれ――<ふみふみ>たまっとるんよ――<ふみふみ>―― せやさけ、な? ――<ふみふみ>」 「んふふっ、あいやん、自分でわかる? こげしたら――<ふみふみ>――な? とんとんするより、もみもみするより、 ずーっとあんばいよさそーな声、出しちゃっとるさけ」 「せやさけな? ひよ? もすこし強く踏んだげるのし。 ん……<ふみふみ>――ふ――<ふみふみ>―― ん〜っ――<呼吸音>…………」 「なんやあいやん……<ふみふみ>―― 体、だんだん……<ふみふみ>…… ぽかぽかあつぅ……(呼吸音)――なってきたなぁ―― <ふみふみ>」 「ひよのあんよも――<ふみふみ>―― あいやんがぽかぽかしちょるさけ――<ふみふみ>―― ん……(呼吸音)――な? だんだんと―― じわーっっあつぅなってきて――<ふみふみ>」 「ん……(呼吸音)―― ちとかい、ひよ――<ふみふみ> あんよの裏かわ――<ふみふみ> 汗かいてきそーかも……」 「イヤやぁ〜。ひよ、足が蒸れるの好きやないのし。 え? 『くつした抜げば?』って――」 「あんな? ひよもな? そげしたいけど…… そげしたら、あいやんの背中に、ひよの汗がついちゃうさけ」 「え? ……(呼吸音)――あ――(呼吸音)―― おー! おーおーおー」 「せやなぁ、ほんまやなぁ。あいやんのおよふく、 おちびはんらの汗やらよだれやらもーとっくによごとるもんなぁ。 いまさらひよの汗がちとかいくっついたとこで、なーんもかわらへんやんなぁ」 「えへへ、ひよ、安心したのし。 ほんならな、くつしたぬいじゃうさけ、ちとかいまってな?」 ;SE 背中からマットに下りる ;5→3 「ん、しょ――<右靴下ぬぎ> よい、しょ――<左靴下ぬぎ>―― えへへっ! あんよがすーっと涼しぅなって、気持ちええのし」 ;以降、足踏み音生足+汗に変化 「ほんならな? ひよな? もっかい腰に―― え? ……(呼吸音)―― えへへっ、わかった。肩がええのんな? ほんなら今度は、あいやんの肩を踏んだげるのし」 ;5 「ん……<足乗せ>――しょっ――<足乗せ>…… わ――。肩、腰よりちとかい乗りにくいなぁ。 ひよの足元、ぐらぐらするのし」 「落ちひんよーに、慎重に――慎重に――<ふみっ>―― あ! あいやん、お肩もえらいこっとるんやなぁ。 んふふ、ほんなら、いーぱいふみふみしちゃるのし」 「ん……<ふみ、ふみ>…… しょっ――<ふみ、ふみ>―― ふっ――<ふみ、ふみ>―― んっ……<ふみ、ふみ>」 「えへへっ――だんだん――<ふみ、ふみ>―― 感じ、つかめてきた――<ふみふみ>――のしっ」 「あいやんは、どお? <ふみふみ>―― お肩、ふまれて――<ふみふみ>―― あ……(呼吸音)――えへへっ―― それならよかったのし」 「ほんならひよな? おせなも ふんだげるなぁ。 よいしょ――<ふみふみ>――ん……<ふみふみ>―― あいやんの、ん――<ふみふみ>――おせな……(呼吸音)――」 「ふっ――<ふみふみ>―― たのもしくって、おっきいさけ――<ふみふみ>―― ふみふみも? な? ――<ふみふみ>―― 安心できて――<ふみふみ>――やりやすい、のし――」 「ん……<ふみふみ>―― こげにええあんばいの――<ふみふみ>―― おせな、やもん、な――<ふみふみ>―― そら、おちびはんらも、おんぶおんぶ――って、あ」 「えへへ? あいやん。 あんな? ひよな? おんぶのおうた――新しいおうた、練習しとるのし」 「こそっと練習しとるさけ、 まだな? だぁれにも聞かせたことなくて……(呼吸音) ――けどな? 最近ちとかい歌えてきたかもって、思とって……せやさけ、な?」 「(呼吸音)――えへへへっ。 あいやんが聞きたいいうなら、しかたないなぁ。 ひよ、特別にうとーたげるな? へへっ」 「ん……(深呼吸)――こほん」 ;以下、SEで小さくふみふみでリズムとりながら ;https://www.youtube.com/watch?v=hVF__c2n2Ts 「♪ げんこつやまの たぬきさん    おっぱいのんで ねんねして    だっこして おんぶして またあした 」 「(呼吸音)――ん……どげやったぁかなぁ? ひよ、ちゃあんと上手にうたえとった?」 「(呼吸音)……えへへへへ〜っ! ほんならよかった! あいやんにほめてもらえて、ひよな? とーってもうれしいさけ――(軽く咳き込む)」 「あ、別になーんもないよ? ただ、ちょっと咳き込んだだけ―― あ……(呼吸音)――ん……(呼吸音)――うん。」 「せやなぁ。いうたら、おちびはんらとはしゃぎすぎて。 おかはんらと話こんで。 おうたもうとうて、あいやんに……えへへっ、甘えてしもて。 ひよ、ずーっとお喉を使こちょるもんなぁ」 「……うん。あいやんのゆーとーりにする。 囲炉裏の火たいて、お湯をわかして。 おこたでおみかんでぬくぬくで。 おのど休めて、うるおすなー」 ;環境音FO ;//////// ;Track2 おかおもふにふにマッサージ ;//////// ;SE 環境音。囲炉裏焚き火+湯沸かし ;9 マイク逆向き 「ん……っと―― んふふっ、囲炉裏の火、いつもより赤ぉ見えるなぁ。」 ;1  「な? あいやん。 ひよな? 今日はな? あまえたさんな気持ちやのし」 「せやさけな? えへへ〜っ。 おこた――こーしてな?」 :SE ごそごそ :1 密着&マイクに背中向け ;可能なら、マイクの下に入り、だっこされて膝の上にすわってる位置関係で 「んふふっ、あいやんのおひざの上でぬくもらせてもらうのし〜。 な? ええでしょお? あいやん」 「んふふ〜、ありがとおなぁ。 あいやん、いっつもやさしいなぁ。 お礼に、ひよな? えへへっ、 あいやんに、おみかんたべさせてあげるのし」 ;“ん”で体伸ばして蜜柑とる感じ。とったら“しょ”で戻る。 「ん……しょ――」 「このこがええな。 まるぅてちいそぉて、えらいかいらしおみかんはん」 「ころーんころがして、おへそに指を―― <蜜柑に指入れる> で――ふたつにわって――<割る>――ありゃ?」 「手応えないなぁ。ん……しょ<割る>…… あー、皮も、これ――ちとかいカサってしとるかも……」 「んっ……<皮むき>――しょ、と。むけたー。 ほんならな? あいやん、 あーーーーんっ」 「……(呼吸音)………… どぉお? 味ももうスカスカしとる?」 「ん……(呼吸音)――ああ――そげならよかったぁ。 ほんなら、ひよも―― ん……(ちゅっ)――(もぐもぐ)――(こくん)…… うん」 「……(呼吸音)――ほんまやなぁ。 まだまだちゃあんとおいしぃなぁ」 「粒だっとるし、水気もあるのし。 ん……(ちゅるっ)――(はむはむ)――(こくっ)」 「けど……(ちゅるっ)――(はむっ)――(こくっ) ――ん……旬まっさかりのときほどのおいしさは、もうないなぁ」 「な? あいやんも確かめてみて? はぁい、あーん……(呼吸音)…… な? 旬のときほどのみずみずしさが、のーなってしもうあなぁ」 「ゆーても……んっ…… (ちゅう)――(はむはむ)――(こくん)―― それはま、冬が終わって、春がちかづいてきとるゆーことでもあるさけ……」 「はいっ、あいやんも? あーーん……(呼吸音)―― ひよにしてみたらな? えへへっ。 そげに残念ゆーよーな気もせぇへんのよ。実際のとこ」 「ん? ……(呼吸音)――うん! ひよな? 春が大好き―― 季節の中で、いっとう好きやのし」 「夏は……ひよ、暑いの苦手やさけ、 ことにものべのの夏は…… ああでも、雲がもくもく、わたがしみたいにふくらんどるのは可愛(かい)らしなぁ」 「秋はな? ひよ、お山の色がガラっって変わるの好きやのし。 赤や黄色の葉っぱの中を、ぱたぱたふよふよ飛んどると、 ちやのからだも少しずつ…… えへへっ、秋にそまってく感じがするよし」 「でな? 冬はな? いままでは夏とおなじで、 ちとかい苦手やったけど――今はな? えへへっ」 ;SE 体全部ですりよる 「えへへへ。あいやんがおってくれるさけ、ぽかぽかやんなぁ。 ぽかぽかするの、ひよ大好きでうれしいのし」 「……(呼吸音)……このまま春が来てくれはったら、 どげにぽかぽかになるんかねぇ。 ぽかぽかしすぎてふわふわしすぎて、ひよ、ゆだっちゃうかもしれんねぇ」 「……(呼吸音)……えへへっ―― あんな、あいやん? ひよな? なんや、あいやんのこと、 もっとよーけに知りたいなぁって思うのし」 「な? あいやんは、どげなとこで産まれよったん? あいやんの産まれた土地の春は、どげな色しとったん?」 「……(呼吸音)――んっ……(呼吸音)――うん。 ……(呼吸音)――うん――(呼吸音)――ふぅん」 「あいやんの産まれたとこの春も、きれいそうやなー。 ひよも、いつか見にいってみたいなぁ」 「え? ……(呼吸音)……ああ、あんな? ひよの産まれたとこの春はな? 桃色をしてたのし」 「おっきな川のほとりにな? こう――ずらーーーって、桃のお花が並んで並んで並んで並んで。 しまいにはもう並びきれんで、街いっぱいにひろがって」 「せやさけ、春の盛りにな? お空にういて見下ろしたらな、 街の全部が、桃の花の傘に包まれたみたいになるのし」 「ほんでな? 花の盛りを過ぎ越したらな? 散ってしもうた桃の花びらが地面も道もぜぇんぶうずめて。 桃のじゅうたん、ぱーっとしきつめたみたいになって」 「ひよな? その上をごろごろころげて、 砂浴びみたく、花浴びするのが、 ものっそい、ものっそい好きやったのし」 「……ここの、ものべのの春も緑がきれいで、 桜も桃も、いろんな花がにぎやかに咲く―― ええ春やのし」 「けどなぁ、ひよ…… 桃の花しか無い春が。 ふるさとの桃色だけのあの春が―― やっぱり、いっとう。 いっとういっとう、大好きやのし」 「…………(呼吸音)…………あんな? あいやん」 「ひよな? 送り雀やんなぁ。 送り狼がもうおらんよーになって…… あやかしとしての役目が消えてしもーて。 あとはもう、ふつーにしてたら消えただけの、 小そおて弱いあやかしやんなぁ」 「せやさけな? ここで、ものべので暮らすしかないのはわかっとるんよ。 人とあやかしが仲良ぉくらせるこの土地で、 たくさんの人とふれあって、知っもろーて覚えてもろーて」 「そうして、消えんようにするしかないって…… それはよーけに、わかっとるんよ」 「けど……な? やっぱり…… ――(呼吸音)―― ほんのときどき、ちとかいだけな? 懐かしぅなるときもあるんよ」 「あの桃色の春にまみれて、 ふんわりすやすや眠こけてて。 送り狼の遠吠え聞いて、 あわてておきて、ちぃちぃ鳴いて人間逃して……」 「……(呼吸音)…… ずーっと続くと思とったのになぁ。 離れるなんて、こげに遠いとこくるなんて―― ひよな? 想像もしとらんかったさけ……」 ;さらにマイク密着 「わひゃっ!? あいやん? 急に――急に、どげしたのし?」 「え? ううんっ。全然、ちとかいもイヤじゃないのし。 ……(呼吸音)……あいやんがぎゅってしてくれて、 ぎゅってされてるとこがもっと、ぽかぽかしてきて……(呼吸音)――」 「やじゃない、どころか……ええあんばいのし。 けどな? えへへっ――ぎゅってつよぉにされすぎて、ちとかいだけ、息苦しいけどなぁ」 ;1 密着解除 「あ……んふふっ―― てぇゆるめくれてありがとな? もーっとええあんばいになったのし」 「けど、どげして急に――え?……(呼吸音)―― ん……(呼吸音)…… うん……(呼吸音)……うん」 「……(呼吸音)……ありがとぉなぁ、あいやん。 ほんまやなぁ、ぎゅうってされたら、 さみしいきもち、すっごくちっさくなったなぁ」 「ひよの“さみしい”―― あいやんが、半分もってってくれたんやなぁ。 ええな、これって。 なんだか、とってもうれしいなぁ」 「あ――けど、ほんならあいやんがさみしい気持ちに……あれ?」 「あいやん――<下から両手を伸ばして顔に触れる音> ――どげして笑ぉとるん? ……(呼吸音)……ん……(呼吸音)……ん」 「『さみしい気持ちをわかちあえるのがうれしい』…… って……ん……(呼吸音)……。 なんや、ひよにはむつかしすぎてよーわかれへんけど」 「けどな? えへへっ。 あいやんが、こげにして笑ろーてくれるなら、 ひよもなんた、うれしいなぁ。 それに……ふふっ」 「<顔触り>――にこにこしとるあいやんのお顔―― <顔触り>――えへへっ、ぽかぽかしっとってやわこくて、 ひよな? なんだか触っとるだけでここちええのし」 「え?……(呼吸音)――あいやんもここちええのん? ほんなら、ひよ、もっとさわる――あ――」 「なんや、ゆーたな。 お顔さわってもみもみするの――診療所のおねーさんが――ええと……(呼吸音)―― あ! せやせや、『ふぇいすまっさーじ』」 ;よっと、で立って1通常。 「よっ――っと。せっかくなら、ちゃあんとしよなぁ。 あいやん、ちとかいまっとってなぁ」 ;9 マイクに背中 「ええと――<引き出し開>――ああ、これこれ。 診療所でもろたの。はんどくりいむ」 ;1 (通常) 「えへへ、ほんなら――この方がもみもみしやすいさけ。 むかいあわせで座ろなぁ」 ;しゃっこい=冷たい 「ん――<手のひらにクリーム出す>―― んんっ、くりいむもしゃっこいなぁ」 「ん……<クリーム伸ばす>――ふっ…… ほんなら、あいやんのお顔にくりいむ、伸ばしたるなー」 「ん……<伸ばし>――っと――<伸ばし>―― お鼻のさきっちょにも――ちょんっ――<伸ばし>―― あとは――アゴにも――<伸ばし>――」 「ん……(呼吸音)――クリームで肌すべすべすると、わかるなぁ―― <伸ばし>――あいやんの肌、ざらざらしとるとこもあるなぁ――<伸ばし>――」 「おひげ……ふぅん? 毎日そるのん?―― <伸ばし>――ここらへん? とか?――<伸ばし>―― なんや、毎日は面倒(うたと)そーで大変やなぁ」 「ほんなら、大変なあいやんを――<もみ>―― ひよな? ふぇいすまっさぁじで癒やしたげるな?」 「んふふっ――<もみ>―― おでこも――<もみ>―― こめかみも〜<もみ>」 「ほっぺに〜<もみ> アゴに〜<もみ>。 な? あいやん。おくち、とじとってな?」 「ん……<もみ>―― あいやんのくちびる、ぷにぷにしとって――<もみ>――んふふっ、もみごこちええなぁ」 「したらな もっかいお鼻をもんで〜――<もみ> お鼻のつけねのところももんで〜――<もみ> あとは……あいやん? 目ぇ閉じて?」 「ん……ほんならな? <さすり>―― こぉして、ゆるぅに――<さすり>―― まぶた――<さすり>――さすって――」 「あとはな? おみみを――<さすり>―― もみながら――<さすり>――えへへっ」 ;https://www.youtube.com/watch?v=D_fns6S_Bf4 「♪ どこかで春が 生まれてる    どこかで水が 流れ出す    どこかで雲雀(ひばり)が 鳴いている    どこかで芽の出る 音がする    山の三月 そよ風吹いて    どこかで春が 生まれてる 」 「んふふふふふっ、こころとからだがやわこくなると、 お耳もよぉけに聞こえるなぁ。 春のあしおと。ぽこんてひとつ。 遠くでちんまり、聞こえたなぁ」 「え? ……(呼吸音)――聞こえんかったの? あいやんには…… んー、わかった。ほんなら、な?」 :SE ひざぽんぽん 「またお耳掃除してあげるさけ、 あいやん? おつむ。 ひよのおひざに、のせるのし」 ;環境音FO ;//////// ;Track3 右耳のみみそうじ ;//////// ;環境音。囲炉裏焚き火のみ ;SE ガサゴソ動いて、ひざまくら(体横たえる) ;3 「えへへへっ、あいやん――<さわさわ> 今度はお耳の穴の中まで、 ふぇいすまっさーじしたげるさけなー」 「今日はな? ひよな? 診療所から、ええもんわけてもろーとるのし」 ;SE 綿棒の筒から綿棒取り出す 「んふふ? あいやん、これ知っとー? ……(呼吸音)――わ、さすがあいやん、 もう知っとったんねー」 「『綿棒』いうんな、これ――んふふっ―― ひよな? これでな? 診療所でおみみそうじしてもろて、 とーってもきもちよかったさけ。 あいやんにも、これつこぉてお耳のおそうじ、したげるな?」 ;3口寄せ囁き 「(ふーーーーーーっ)――ん? あいやん、ええこ。 お耳、ふだんからきれいにしとるねぇ」」 :3通常 「ほんなら最初は……ん……(呼吸音)―― ゆっくり、ゆっくり――<綿棒耳かき>―― ふ――(呼吸音)――ん……<綿棒>」 「これ……ん――<綿棒>―― 掬ったり削ったりじゃなく――<綿棒>―― 先っちょにくっつけて……(呼吸音)――よっ―― えへへっ、おっきいのとれたー」 「けっこうとれるもんやなぁ。 ほいたら……ん――<綿棒>――え?―― あ――<綿棒>――うん。いったよ? 診療所―― <綿棒>――おっきな道沿いの……ええと――(呼吸音)」 「ああそう。そこそこ、有島診療所――ん……<綿棒>―― あそこ、ええなぁ。ひよみたいなあやかしも――<綿棒>――ちゃあんと、みてくれはるもんなぁ――<綿棒>」 「え? ……(呼吸音)――あー、診療所にいったんはな? んと――<綿棒>――ひよ、な、おひざ――<綿棒>―― ちとかいだけ、すりむいてしもうたことがあったんよ」 「ひよな? ふだんはふよふよ――<綿棒>―― お空に浮いて、飛んどるやんなぁ――<綿棒>―― けどな? おちびはんらが――<綿棒>―― 『いいなー』やら、『せなかのせてー』らやら――<綿棒>――さわぐ、さけ――<綿棒>」 「おちびはんら――いうか――<綿棒>―― 人間と、いっしょにおるときは――<綿棒>―― ふよふよ浮くかんと――<綿棒>――歩くように、しとるんよ――<綿棒>」 「ん……<綿棒>――ほんでな? こないだな?―― <綿棒>―― おちびはんが、ひよのお帽子いたずらしよってとりよったけん――<綿棒>―― 『はよーにかえしー』って、おっかけっこになったんよ――<綿棒>――」 「そしたらな? ひよな? ん……(呼吸音)―― ……ひよ、走ったりあんまり得意じゃなくて――<綿棒>―― 地面の上だととろくさいさけ――<綿棒>―― ずでーってころんで……(呼吸音)―― おひざ、すりむいてしもーたん」 「ほんで、な? <綿棒>―― おひざ、痛ぉて――じんじんしてきて――びっくりして――<綿棒>―― ひよ、ちとかいだけ……(呼吸音)――なきべそ、かいてしもーたんよ。 そうしたら、な? ――<綿棒>」 「ん……<綿棒>―― ひよからにげまわっとった、おちびはんが――<綿棒>―― すっとんでもどってきて――<綿棒>――おぼうし、かえして――<綿棒>―― 『ごめんなさい、ひよせんせえ、だいじょうぶ?』って――(呼吸音)――」 「おちびはんの方がさかしまに、泣き出しそーになってしもーて――<綿棒>―― なぐさめんとって思うたけどな? ひよ、おひざいたかったさけ――<綿棒>―― おひざいたいいうたら……<綿棒>――おちびはんらが集まってきて――診療所のこと――おしえて……ん――(呼吸音)――ちとかいまってな?」 「……<綿棒>―― ん……<綿棒>―― っと……(呼吸音)―― んんっ、ん――<綿棒>――」 「ああ、にげよった――(呼吸音)―― ほんなら……うん。 あいやん? ちとかいだけ、あご、もちあげてな? あ、うん――そう。この角度で―― ん……<綿棒>―― と――<綿棒>――」 「あ、んっ――<綿棒>―― よぉし――(呼吸音)――っ――(呼吸音)―― えへへっ、奥にあったの、とれたのしー」 「ん……(呼吸音)――あとちょこっとできれいになるな――ん? あ、そうそう。 診療所の話の途中やったのし」 「んとな? ――<綿棒>―― それでひよ、診療所――<綿棒>――いってみたのし。 けどな? ひよ、送り雀――あやかしやさけ――<綿棒>―― おいはらわれるかもしれんなーって――<綿棒>―― ちとかい恐(おとろ)し思とって――<綿棒>――」 「で、診療所いったらな。 べっ甲の深い色みたいな――<綿棒>―― きれいな茶色の髪の毛しとる――<綿棒>―― おねーはんがいよってな?」 「『こんにちわぁ。今日は、どんなご用ですか?』って、 にっこにこ聞いてくれよったさけ――<綿棒>―― ひよもな? 『あ、これ、おとろしことないな』って思うて――<綿棒>――」 「『ひよな? あやかしやけど、おひざすりむいていたいさけ、いたくなくしてほしいのし』――って、おねがいしたのし――<綿棒>―― そしたらな? べっ甲の髪のおねえはん、な?――<綿棒>――」 「『はぁい。わかりました。それなら問診票を一緒につくりましょうね』って、いうてくれて――<綿棒>―― ほんで、な?――<綿棒>――」 「ひよ、あやかしやさけ……<綿棒>―― あいやんに教えてもろうてるけど――<綿棒>―― それでも字、まだ上手にはかけひんやんなぁ――<綿棒>――おねえはん、したら、な?――えへへっ」 「『字を書くのお手伝いしましょうか?』っていうてくれて――<綿棒>―― せやさけひよ、‘もんしんひょー”やらいうややこし書類――<綿棒>――ぜぇんぶ、ちゃあんと、残らずきっちり書けたのし」 「したらな? 『順番までおまちくださいねー』て、べっ甲の髪のおねえはん――<綿棒>―― ひよに、やさしういうてくれてな?  せやさけひよ――<綿棒>――おひざじんじん痛いけど――いいこで順番、まっとったんよ」 「しばらくたったら、 『ひよさーん、送り雀のひよさーん』って―― <綿棒>―― 扉のむこーから、べっ甲の髪のおねえはんとは、また別の声が――<綿棒>――してきて、な――<綿棒>――っと」 「ん……(呼吸音)――うん。 あんな、あいやん? ちとかい待ってな?」 ;3 口寄せ囁き 「(ふーーーーーーっ)――ん。 あいやんの右のお耳――んふふっ、 これですっかりぴかぴかやんなぁ」 :3 通常 「ほんなら、仕上げは、ちりがみ使こて―― <SE ティッシュ箱かたぬく>」 「やさしぅやさしぅ、お耳の中をふきふきしたるな? ん……(ティッシュで耳内拭く)…… ふ……(ティッシュふき)―― んっ――(指に力いれて全体をごしごしやる) ――んふふっ――でぇきた」 「ほんならなー。次は左のお耳をやるのし。 したらな、あいやん? ひよが、合図をするさけな?」 「『いち、にい、ごろーん』ってひよがいうさけ…… ひよがいうたら――うふふふっ―― ひよのおひざの上であいやん、 ごろんして、左のお耳、上にむけてな?」 「ほんならな、合図するさけ……(呼吸音)―― 『いーち、にーい、ごろーーーーん』」 ;環境音FO ;//////// ;Track4 右耳のみみそうじ ;//////// ;環境音 囲炉裏の火、F.I, ;7 「ほんなら今度はひだりのお耳。 ん……(呼吸音)……どやろか……(呼吸音)――」 ;7 口寄せ囁き 「(ふーーーーーーっ)――うん。 あいやん、ええこ。こっちもきれいにしとるなぁ――」 ;7 「ほんならな? えへへっ―― こっちも綿棒でゆるゆるいこな? ん……<綿棒>――」 「え? あ――<綿棒>―― そうそう、ひよな? 呼ばれてな?――<綿棒>―― 扉の向こうの――<綿棒>―― “しんさつしつ”いうとこ――<綿棒>――はいったんよ―<綿棒>」 「したらな、そこにな?――<綿棒>―― おっさんと、おばはんと――<綿棒>――おねえはんと―― 三人も人間がおってな? そんで――<綿棒>――」 「みんな、な? こう――<綿棒>―― おんなじ感じするねんな――<綿棒>―― においもそうやし……<綿棒>―― あとな? ん……<綿棒>――音」 「人間もな? あやかしも――<綿棒>―― “しぐさの音”って、ありよるやんなぁ――<綿棒>―― 例えば、な――あいやんが、頭をぽりぽり――<綿棒>――かくやんか――<綿棒>」 「そんときの音とな? 他の人間が頭かくときたてよる音は――<綿棒>―― 全然まるきり、ちがうんよ――<綿棒>――」 「高さも、リズムも、長さも強さも――<綿棒>―― 人間それぞれ、バラバラやのし――<綿棒>」 「けどな? その三人な? ――<綿棒>―― 仕草の音が、よー似とるのし――<綿棒>―― ほとんどきれいに、かさなりおーて――<綿棒>―― で……(呼吸音)――」 「ふしぎにおもうて、よぉ、見てみたらな?――<綿棒>―― おばはんとおねえはんと。 おっさんとおねえはんと――<綿棒>――。 それぞれなんや、見た目も似とるとこあって――<綿棒> ――で、な?――<綿棒>」 「おっさんとおばはんも――<綿棒>―― 顔も形も似てひんのにな? それでもなんや――<綿棒>―― どっか、似てるよな気がするさけ――<綿棒>――」 「(なんでやろなぁ)って考えて――<綿棒> したらな? ひよな? ええへっ、気づいたのし」 「これ、人間の――<綿棒>―― 人間の家族の、そろったとこなんだなぁって――<綿棒>―― 『おとはん』と『おかはん』と『おじょうはん』な?――<綿棒>―― 保育所にはたいがい……<綿棒>―― おかはんかおとはん――<綿棒>―― どっちかしか、お迎えにきぃひんさけ――<綿棒>――な」 「“そろっとるのはめずらしなぁ”って――ひよな? 思うて――<綿棒>―― したらな? おっさんがな? 『今日はどうしました?』って、聞いてくれてな?――<綿棒>――」 「ひよ、ちょうどそのこと考えとったさけ――<綿棒>―― 『おっさんとおばはんとおねえはん、人間の家族のひとそろいやんなぁ』て、いうてしもたんよ――<綿棒>―― 言うてしもてすぐな、”あ、まちがった”って、“おひざすりむいたこというんやった”って――<綿棒>―― ひよもな? すぐにわかってな?――<綿棒>」 「けどな? おっさんもおばはんもおねえはんも―― <綿棒>――ひよのこと、わらったりせんと―― にっこり、うなずいてくれたのし――<綿棒>――」 「『おわかりになりますか。わたしが有島診療所の院長。 有島尚武(なおたけ)です』いうて――<綿棒>―― おしえてくれてな?」 「おばさんせんせは、ありしまなほこさんで――<綿棒> おねえさんせんせは、ありしまありすさんでな?――<綿棒>――」 「みぃんなやっぱり、『有島さん』で、家族って――<綿棒>―― えへへ、おしえてくれたのし――<綿棒>――」 「で……(呼吸音)――ひよのおひざの話になって――<<綿棒>―― 『それでは治療しましょう』て――<綿棒>―― なおたけせんせ、いうてくれてな?」 「なほこせんせが、ひよにな? 『しみますから我慢してくださいね?』って、いうて――<綿棒>―― ひよ、よくわからんで、うなずいてしもーてな?――<綿棒>――」 「したらな、じゅわーって――<綿棒>―― なんや、なこほせんせ――ひよのおひざにしゃっこいのつけて――<綿棒>―― そしたらじゅーわって、まっしろな泡が、おひざからぶくぶくしてきよったんよ――<綿棒>」 「ほんでな? すぐにな? <綿棒>―― おひざもしみて、ピリピリしてきて――<綿棒> あんな? ひよな? びっくりておとろしなって……<綿棒>―― ちとかいだけな? 『いややー、こわいー』いうて、 泣きべそ……<綿棒>――かいてしもたのし」 「そしたらな? えへへっ――ぎゅーって――<綿棒>―― ぎゅーってふうわり――<綿棒>――なほこせんせが、ひよのこと、だきしめてくれて、な?」 「ほんでな? むすめせんせ――ありすせんせが――<綿棒>―― ひよに、おしえてくれたんよ――<綿棒>――」 「『痛いのは、ひよちゃんの体をもっといじめようとするバイキンと、お薬さんが戦ってくれてるから』<綿棒>―― 『おくすりさんがバイキンをやっつけたそのあとが、あわあわになって体の外にでてきてるんだよ』――って――<綿棒>」 「したらな? ひよな? えへへっ、教えてもらえたさけな? ――<綿棒>―― 痛いのも、『お薬はんが、バイキンいうのを追い払おうとしとるからかー』って――<綿棒>―― 『ほんなら仕方ないことやのし』って――<綿棒>―― がまん、できるようになってな?」 「あわあわも、そういうわけなら――<綿棒>―― ちとかいもこわくないやんな?――<綿棒>―― どころかどんどん、あわあわでろって――<綿棒>―― ひよからバイキンおいだしてーって、思えてな?――<綿棒>」 「ほんで あわあわ拭いてもろーて――<綿棒>―― ぺったり ばんそこ貼ってもろーて――<綿棒>―― そうしたらひよ、もうちとかいも、えへへっ、怖くも痛くものーなったんよ――<綿棒>――」 「せやさけ、ひよな?――<綿棒> しんりょうじょは、ええとこやなーって、思ぅてな?――<綿棒>―― それとな? もひとつ――<綿棒>―― かぞくって、とっても素敵なもんなんやなー、って――<(呼吸音)――思ぅたのし」 「ひよは、ゆーたら――<綿棒>―― 送り狼から人間を逃がしたるためだけに産まれてきた――<綿棒>―― おとはんもおかはんもおらん――<綿棒>―― そげな あやかしやんなぁ」 「せやさけ、家族おらんさけ――<綿棒>―― なんや、人間がうらやましいなぁ――って――え?」 「……(呼吸音)―― うん――(呼吸音)―― うん――(呼吸音)―― ん……(呼吸音)―― (呼吸音)――えっ」 「そーなん? ひよも家族つくれるん? どげしたら、ひよ、ひよの家族をつくれるん?」 「うん……うん……(呼吸音)――うん。 大好きな相手をみつけて、 その相手にもひよのこと、大好きになってもろーて―― 結婚、やらいうのしたらええのん?」 「ほんならな? ひよな? あいやんのこと大好きやのし。 せやさけ、あいやんがひよのこともし――(呼吸音)―― もしっ――(呼吸音)――もしっ――あれれっ?」 「なんや? ひよ――あれ? おねつでてしもうたんかなぁ。 お顔がきゅうに、ぽーってあつぅて―― あぅっ――おむねも急に、きゅーってしてきて―― ドキドキ……する、のし――はうっ」 「あ……(呼吸音)――ん――そう、なん? このドキドキの意味がそのうち―― ひよがもーちとかい大きぅなったら、 おとなになったら――わかるように、なるん?」 「うん……うん……(呼吸音)―― うん……(呼吸音)――うんっ」 「そんときに、わかったときに。 ひよがまだ、あいやんのこと大好きだったら―― あいやん、えへへっ――ひよの家族になってくれるん?」 「えへへー、そんならうれしいなー。安心やなー。 ひよ、あいやんのこと大好きやさけ、 ずーっとずーっと、気持ちかわらんと思うさけ」 「はよぉおとなになりたいなー。 どしたらおとなになれるんかなー。 このドキドキが、どないない意味かがわかるんかなーって――え?」 「『ちゃんとした大人は?』 うん……うん――(呼吸音)――あ」 「さやなぁ、ごめんなぁ。 みみかき途中でほおりだすんは、ちゃんとした大人のすることとちがうなぁ」 「そしたら……んーーー……」 ;7 口寄せささやき 「(ふーーーーーーーっ)――ん。 あとちとかいだけまってな? あいやん」 ;7 通常 「あともお……<綿棒>―― ここんとこ――<綿棒>―― きれいに――<綿棒>―― こそげ……って――<綿棒>――」 「ほんで、ん……<綿棒>―― よ――<綿棒>―― ん……<綿棒>―― んん……<綿棒>――」 「ん、っと――(ティッシュ)―― ん……(ティッシュ)―― んんっ――(全体ごしごし)―― ん。これで、どやろか?」 ;7(口寄せ囁き) 「(ふーーーーーーっ)――ん。 上手にできたな? あいやんのお耳、ぴかぴかやんなぁ」 ;SE おなかなる 「あははっ、あいやん、おなかなったー。 いうたら、おなかペコペコやねぇ。 今日もよーさん働いたもんな。 ほんなら、ばんごはんつくろなぁ」 ;環境音FO ;//////// ;Track5 ねんねしながらおままごと ;//////// ;SE 水道の水 ;SE 蛇口閉じる ;SE 手ふく ;9 マイクに背中 「ふー、おしまい。 洗い物のお水も、もうしゃっこくて、しんどいなぁ」 ;1 「せやさけ、な? あいやん、 おふとんで手ぇ、ぎゅーってしてな? しゃっこくなった ひよのおててを、ぬくめてな?」 「……(呼吸音)――えへへっ、ありがと。 ほんなら、おふとん、もぐろなぁ」 ;SE 布団にもぐりこむ ;3 「うううっ――お布団もしゃっこいなぁ。 あいやんに先にはいって、ぬくもっといてもろたら良かったなぁ」 「けぇど――えへへ〜っ」 :3 (口寄せ囁き) 「こーしてぎゅーっとくっついとったら、 すぐにおふとんもぬくまるなぁ」 「(呼吸音)――(呼吸音)――な? あいやん」 「さっきの話の続きやけどな? あんな? ひよな? あいやんと家族になれたら―― (呼吸音)――やっぱな? 赤ちゃんもほしいの――ひゃっ?」 ;3 「ど、どげしたの? あいやん。 急にビクって、お湯かけられたエビみたいになって――え?」 「『それがどうしてかがわからないうちは、赤ちゃんは授かれない』――のし? むぅ〜そげなもんなん?」 「……(呼吸音)――うん――(呼吸音)――うん。 ……んー……と、ちとかいまってな?」 「……(呼吸音)――(呼吸音)―― あいやんと一緒ねとったら――(呼吸音)―― ん。ドキドキは――ひよ、しとるのし。 なんでやろか? いつもよりもちとかいよーけにドキドキしてて――(呼吸音)―― で……(呼吸音)」 「……(呼吸音)――ん〜〜―― むずむず? いうんんは、よーわからんのし――(呼吸音)―― な? あいやん。 むずむずいうんは、細こーいうたら、どげな感じよし?」 「ん……(呼吸音)――うん……(呼吸音)―― 『体全部がそわそわして』――うん」 「……(呼吸音)―― 『切なくなって、さみしくなって、 相手にぎゅーっと抱きつかないと、たまらなくなる』…… (呼吸音)――それが、“むずむず”」 「ん〜……(呼吸音)――ん〜〜(呼吸音)―― やっぱひよ、そんなら、“むすむず”はよーわかってないみたいやなぁ」 「あいやんのことぎゅーってするのは、大好きやけど、ここちええけど――(呼吸音)―― ぎゅーってせんでも、切ないやらたまらんやらは……(呼吸音)――よーせーへんみたいやのし」 「あ……<頭ぽんぽん>――(呼吸音)―― えへへ、どげしたの? あいやん。 ひよのおつむを、やさしうぽんぽんしてくれて」 「ん? ……(呼吸音)――うん――(呼吸音)――うん。 そーなん? そんなら、ひよ、いまのままでええんやなぁ。 『いつか自然とわかるようになる』―― そんときを、あせらんで待っとったらええよしなー」 「けどなぁ。ん……(呼吸音)―― ただ待ってるのも、つまらんなぁ――」 「あ、ほんならな、あいやん? 練習しいひん? 練習」 「おうたもな? 練習したら、はよおぼえるし、うまぁなるやろ? せやさけ、赤ちゃんのおかはんになるのも、練習したら、きっとやりかたはよぉに覚えて、うまくなれるって思うさけ」 「え? 『練習の仕方』――それはな? んふふっ。 おちびはんたち見て、ひよ、覚えとるんよ。 『おままごと』いうてな? おとはんおやらおかはんやらになったふりして、 赤ちゃんがおる練習、するんよ」 「? どげしたの、あいやん? ほっとしたみたいな、残念そうなみたいな―― びみょーなお顔してはるよ?」 「『そんなことない?』 ――んふふっ。そげなん? あいやんも練習に乗り気なん、ひよ、うれしいのし」 「そしたらな? ひよがおかはんで、あいやんがおとはん。 で、んと――<枕を頭の下からぬいて、だっこ>―― この枕が、ひよとあいやんの赤ちゃんな?」 「ええと……あいやん? 赤ちゃん寝かしつけるときには、 ひよとあいやん、なにしたげればええのし?」 「あ――うん。わかった。 赤ちゃんのこと落とさんよーに、 そっと、そーっと、大事にしてな?」 「あ……(呼吸音)――んふふっ―― ええなぁ『たかいたかーい』って」 「まくらの赤ちゃん、はしゃいどったなぁ。 キャッキャキャッキャで笑とる声が、 ひよのおみみには聞こえてきたのし」 「ほんなら次は、なにすればええのし? ……(呼吸音)――うん……(呼吸音)――うん。 むかしばなし? って、どげなもんのし」 「んふふっ、おしえてもらえるならうれしいのし。 ほんならひよな? あいやんのまねっこ、そのままするのし」 「……(呼吸音)―― 『むかしむかしあるところに、正直者のおじいさんとおばあさんとがおりました』」 「……(呼吸音)―― 『ある朝、おじいさんはやまにしばかりに。おばあさんは川に洗濯にいきました』」 「……(呼吸音)―― 『おばあさんが川で洗濯していると、びっくりするほど大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました』」 「わ――あいやん、ちとかいまってな? 『むかしばなし』やらいうの、たくさんあって、むつかしいなぁ」」 「え? ……(呼吸音)――あー――(呼吸音)―― 毎日毎日、おんなじお話きかせてもろーて…… せやなぁ。そんならきっと、 ひよでもいつかは、自然、自然と覚えるなぁ」 「えへへ――なら、あせらんでもかまわんなぁ。 ちょ、これから毎晩毎晩、昔話を、あいやんに聞かせてもろーて」 「えへへっ、そんでな? そしたらいつかな? ひよがおぼえた昔話。 ひよとあいやんの赤ちゃんに、上手にきかせてあげるのし」 「んふふ〜、楽しみが増えたのし。 で、な? あいやん。 昔話をきかせたら―― そしたらこんどは赤ちゃんに、 あいやんとひよ、なにしてあげたらええのし?」 「うん……(呼吸音)――うん――(呼吸音)―― あ、それなら――えへへっ。 ひよのお得意、大得意やのし」 「あんな? ひよな? お歌も一生懸命いに、たくさん練習してるさけ―― 子守唄の新しいのな? こないだ、またひとつおぼえたのし」 「まだな、おちびはんたちにも聞かせたことが無い歌やけど―― えへへ、あいやんにだけ、特別にうとーて聞かせたげるな?」 「……すごくきれいな歌やさけ―― いつか、あいやんと一緒にな? あいやんとひよの赤ちゃんに、一緒にうとーてあげたいさけ……」 「昔話のおかえしにな? ひよが毎晩、毎晩毎晩、あいやんにうとーてあげるさけ。 きっと、あいやんも覚えてな?」 「ほんなら、うたうな? とってもしずかな歌やさけ―― おめめつむって。ゆったり、ゆったり、聞いてやってな?」 「(すうっ)」 ;https://www.youtube.com/watch?v=m-7fUQDeIYs 「♪ 揺籃(ゆりがご)のうたを カナリヤが歌うよ    ねんねこ ねんねこ ねんねこよ    揺籃のうえに 枇杷(びわ)の実が揺れるよ    ねんねこ ねんねこ ねんねこよ    揺籃のつなを 木ねずみが揺するよ    ねんねこ ねんねこ ねんねこよ    揺籃のゆめに 黄色い月がかかるよ    ねんねこ ねんねこ ねんねこよ」 「ん……(呼吸音)……」 「……な? きっとな。 いつかきっと。 あいやんとひよと、いっしょにな? 赤ちゃんに、うとーてあげよーな? ふぁっ」 「ん……(呼吸音)―― おなかいっぱいで、ぬくくって―― あいやんがとなりにおって――あいやんの匂いがして――」 「ひよ、安心で嬉しぅて―― えへへっ――もうすっかりな? おねむたさんや」 「うん。そぉしよな。ねむろーなぁ。 夢の中でも、ひよ、あいやんにあいたいなぁ」 「せやさけ、な? <布団の中で手、動く>―― えへへっ、こうして、おてて。 ふうわりつないで、ねむろーなー」 「おやすみ、あいやん。 明日もいっしょに、ひよといっしょに、すごそーなー」 「……(呼吸音)―― (ちゅっ)―― えへへっ――おやすみ」 「(寝息)」 「(寝息)」 「(寝息)」 「(寝息)」 ;環境音F.O →無音 ;おしまい