ぱたんとホテルのドアを閉じる。その瞬間、僕の表情はフラットなものになっていく。今日の客は7人。まあまあの人数だろう。店舗全体で見たら、200人くらいの客はとっているだろうから、まあ、今日も営業目標は達成できているはずだ。  「代表、お疲れ様でした」  「ん。今日はこのお客様で最後だねー。売上の計算は?」  「はい、前年比240%越えですね」  「ん、良かった。父さんの作った借金もこの分だと、来月には完済できそうだね。みんなのおかげ」  「いえ、代表の手腕によるものです」  僕が父の店だった「はにーびー」を継いだのは1年半前。急死した父の残した店を継ぎ、立て直し、彼が残してしまった借金をこの1年、必死に返してきた。全てを投げ出すこともできただろう。相続放棄という方法もあっただろう。  けれど、僕がその選択をしなかったのは、僕は僕として挑戦したかったからなのだ。――自分の限界に。僕がどのように現金化されるかを知りたかったのだ。  "義務教育"の頃から、正直モテた。特に年上の女性から。初体験は担任教師だったし、その頃の女性教師は皆、なんらかで体の関係を持った。その時の教師たちも、今通っている学校の教師達も、"客"として店に通っている。  「代表。今日はご機嫌が宜しいのですね」  「どうして、そうおもう?」  運転手にバックミラー越しに笑われながら、僕は自分の顔に自分で振れる。口角が上がっているらしい。――それはきっと、最後のお客様がとてもいいお客様だったからだろう。  「――久しぶりにね。抱きたいって思って。抱いてしまったんだよ」  「代表が? 珍しいですね。まあ、程々に」  「うん。まぁ、僕の年齢なら既にアウトでしょ? まあ、表面は君が社長だけど」  「――俺は代表がいなかったら野垂れ死んでましたからね。ムショに数年入る覚悟はできてますよ」  「ははは、執行猶予は付くよ。初犯でしょ? 大丈夫。上手くやるよ」  "どうして、ここにいるの?" 彼女は僕にそう問いかけた。  ――真実を話すことがあるのかは分からないけど。  「また、僕を買ってね」    誰に言うでもない言葉を僕は紡いだ。――僕に、堕ちてきてくれることを祈って。