――ガリッガリッ、ガリッ。  生徒会とそのOBが合わせて行われる、東雲家主催のパーティ。もちろん、それは表のパーティではない。裏の――非合法、秘密のパーティだ。仮面を付けた老若男女が"楽しい"時間を過ごすパーティ。  東雲家に連なる者の多くはこのパーティに出席し、日ごろ抑えている獣欲を発散する。その狂乱の宴の幕間。自分が最初にいたベッドの辺りに戻ってきた少年は、おもむろに荷物から錠剤を取り出し、それを口の中に放り込むと、水なしで咀嚼し始める。  「おいおい、書記。アンタ最近、クスリの量増えてねぇか? 壊れるぜ?」  「――放送委員長。貴方もここに来てたんですか。ん、ああ。心配してるんですか?」  「まあな。――俺は今日はご指名のお姉さまのエスコートに、な。ま、それも役割のうちって奴だ。なあ、腹の中で割り切れよ。薬なんて使わなくても、素面(しらふ)で楽しめばいいんじゃねぇか?」  元々、書記と放送委員長は同じクラスだった。仲が良かったわけではない。名前を知っている程度。しかし、桜子によって先に書記が生徒会に引きずり込まれた。  常軌と倫理を超えたカーストから、書記は逃げようと学園から脱走しようとした。そして、その脱走の騒ぎに巻き込まれたのが――放送委員長だった。寮の部屋に転がり込んできたクラスメイトである書記を、放送委員長は匿ったのだ。何も聞かず。  しかし、その事実を隠し通すことができず。放送委員長である少年もこのカーストに組み込まれたのだ。――二度と逃れられぬ、蟻地獄の様な箱庭の中に閉じ込められたのだ。  「罪悪感、感じてる?」  「――」  「俺さ、クラブとかパーティとか元々好きだったし、ナンパもセックスも好きな訳。いい女をただで抱けて、永久就職できるここは――俺にとっては悪くない世界な訳。だから、そんなの感じることねぇって」  「――そう言う訳にも、行かないんですよ。ああ――、キイてきた。アハハッ!」  書記は一瞬だけ、バツの悪そうな目を放送委員長に向けた後。薬の高揚感に飲まれながら、また狂乱の宴の中に身を躍らせていく。きっと朝まで。薬がキレて眠れるまで。貪り、貪られることを続けるのだろう。  「別に、俺はアンタを恨んじゃいねぇよ。ま、運が悪かったとは思うがね」  放送委員長はそれ以上は何も言わなかった。自分を呼び寄せた女がシャワールームから戻ってきたからだ。口づけをせがむ女に営業スマイルを浮かべて、彼は彼女の耳元でハリボテの愛を囁く。  夜はこれからだ。――この狂乱の、宴も。きっと少年たちは疲れ果てて眠れるまで、この場所で自らの身に振りかかった不幸を呪いながら、歌うのだろう。