「それでも、私、貴方のことがっ!!」  呼び出されたのは後者の裏側。聖エレクトラ学園の高等部の中では、告白の聖地とされている場所だ。その場所に呼び出された少年は、今年13回目のお断りの台詞を口にしたばかりだ。  ――好きな人がいる。この学園ではないけれど、好きな人がいる。忘れられないんだ、ごめんね――  この言葉が一番、誰かを傷つけないことを少年は知っていた。誰かを傷つけないと言うことは敵意を向けられにくいと言うことだ。誰にでも分け隔てなく優しくする。そうすることで色々な人間に好かれ、色々な人間から恩恵を受けることができる。  少年は、愛され方を知っていた。だからこそ、一般家庭から生徒会カーストに入り、の庶務になることができた。そして、まだ自分なら上に行けることを、庶務となった少年は知っている。  そんな野心家である少年には目の前で泣きそうな顔をしている、一般クラスの少女には全く興味はない。付き合ったところで全くプラスはないし、面白みもないだろう。けれど、突き放すような言い方をすれば、面倒な敵が増えるかもしれない。そう思って、うやむやにしていたのに。  少女はいきなり、立ち去ろうと背中を向けた庶務に抱き付いたのだ。庶務である少年がいきなりのことに驚き、大きな声を上げようとした次の瞬間、通りかかった一人の眼鏡をかけた少年が声をかける。  「庶務。生徒会室で会議の時間だ。――君、悪いが彼に用事があるんだ。彼を借りてよいかね?」  「――」  「ごめんね、僕、行かなきゃ。ありがとうね。――議長、お待たせして申し訳ありません」  腕の中から解放された庶務は、俯いたままの少女にぺこりと頭を下げて、助け船を出してくれた少年――。2つ年上の生徒会議長の方に歩み寄る。議長は軽く少女に頭を下げて、その場を庶務と後にする。  「何故、議長は僕を助けてくれたんです? 特に会議の予定なんてなかったでしょ?」  「通りかかったからです。あと、生贄羊にアクションを起こす際に、今の彼女に君の邪魔をさせないためです」  「いつも、議長はそうですよね。色んな人間が問題を起こさない様にしてる。フォロー役っていうか、監視役っていうか。――そう言うの面白いんですか? 上を引きずり降ろして、上に上がる方が僕は面白いと思うんですけどね」  生徒会室に向かい、夕暮れの廊下を2人は歩いていく。2〜3歩、すたたっと庶務は先に行き、くるりと議長の方向に回り、あざとくウィンクをする。  「俺はここで機能でいることを選びました。桜子様に与えられた役割を、淡々と行うだけです。苦界での争い事には興味はありませんから、俺は」  「面白みがないですよね。――なんか弱みでも握られてるんですか? 議長」  「そうであったとしても、なかったとしても。君に話すことはありません。俺は君を軽蔑していますから。君の様な存在がいるから、この苦界は終わらない」  「嫌いでも、助けてくれるのは機能だからですか? ――僕も嫌いです、議長みたいな現状維持を選んで諦めた人。――僕は全部を手に入れる。カーストを駆け上がって、ね。それじゃ、議長。助けてくれてありがと!」  悪戯っぽい笑みを浮かべて、まるで猫の様に庶務は廊下を駆けていく。議長はそれを気にしない様に、先ほどまでと同じペースで生徒会室に向かって歩いていく。    「現状を維持しなければ、誰にも俺は必要とされませんから」  誰も聞くことはないだろう、普段感情を殺している彼の言葉は――。夕日が放つオレンジ色の光の光の中に溶けて、消えた。