はぁ、はぁ、はぁ……。  ……!  はぁ……はぁ……はぁ……。  ……お待たせ。  ごめんね、遅くなっちゃって。退院の手続きはもう全部済ませた?  わかった。じゃあ、早速行きましょうか。  タクシーに乗りましょう。荷物。半分持つわね。  それにしても。本当に無事でよかった……。  貴方のマンションが火事に遭っただけで驚いたのに。  一度脱出して、助かったはずの貴方が。  まさか大家さんを助けに、マンションに戻るだなんて……。  はぁ。この話を聞いた時は、正直息が止まるかと思ったけれど……。  二人とも生きているなんて、奇跡ね。  十二丁目のマンションまでお願いします。    そうだ。貴方、今周りの人に何て呼ばれてるか知ってる?  ヒーローですって。すごいわね。  ふふ。一体どうしたら、あんな勇気が出せちゃうのかな……。  不思議だね。  ……でもね。ここに来るまで、昔のこと思い出してた。  貴方って、昔からそうだったなって。  覚えてる? 学生の頃、貴方が遊びに行った帰りに落とし物を拾って……。  届けるために、夜遅くだったのに。遠回りして交番へ向かったのよね。  そうしたら、途中でおかしな人に追いかけられて……まぁ、無事ではあったけど。  とても怖い思いをしたわよね。  でも、貴方。その時も『これでよかった』って……。  貴方って、いつもそう。  困ってる人を見たら、考える前に助けちゃうの。十三年前の時だって……。  ああ、運転手さん。ここでいいです。降ろしてください。お代はこれで。  こっちよ。ここの七階。  前の家とあまり離れていない場所にしたの。  ここは父の持ち物だから……ちょうど空いていたし、遠慮せずに使ってね。  はい。今日からここが、貴方の新居よ。入院してる間に、家具も揃えておいたから。  あはは。大家さんよ。  正確には元大家さんだけど……大家さんでいいか。  彼女、貴方のためならいくらでも出すって。命の恩人ですものね。  うん?  え? それは……あの時貴方以外にも、大家さんの部屋へ駆け付けた人がいたってこと?  そんなはずはないわ。あの場には、貴方しかいなかったと聞いてる。  ……でも。もしそんな人がいるなら、私、お礼をしなくっちゃね。  信じるわ。その話。  何かわかったことがあったら教えて。こっちでも少し調べてみる。  当たり前でしょう? ……それに、貴方がちょっと不思議な話をするのには慣れてるし。  好きよね。昔からそういうの。  そうだ。忘れるところだった……。  はい。これが鍵よ。一つしかないから、なくさないようにしてね?  ……それじゃあ、私、そろそろ行かなくちゃ。  仕事を残してきちゃってるの。  私もそうしたかった。でも、ごめんなさいね。ご飯は、次会えた時に行きましょう?  ねえ、覚えてる?  初めて会った日。貴方が学校の図書館で言ったこと。  『いつかもし怪物に出会ったら、自分は絶対に仲良くする』って。  『自分だけは、きっと友達になる』って言ったこと……。  ……今でも、そう思ってる?  ……そう。貴方なら、きっとそう言うと思った。  変わってないね。あの時からずっと……。  ううん。ちょっと気になっただけ。それじゃあね。  ダメよ。まだ怪我が完全に治ってないんだから。見送りはなし。ここでいいの。  うん。またね。