あらあら、これは助からないかな……。 うーん、これはもう、駄目みたいね……。 こんにちは、聞こえる? 私の声が、聞こえますか? そっか、聞こえてるみたいね。 私の声が聞こえてるってことは、残念だけど、君はもう助からないんだ。 突然のことで、びっくりしちゃったかな? うん、うん、そうだよね。 君にはまだまだ、たくさんやりたかったこと、あるかもしれないよね。 わかるよ。よーく、わかるよ。 でも、君の人生は、ここで終わり。可哀想だけど、ごめんなさいね。 そのかわり、って言ったら、おかしいかもしれないけど、 私が責任を持って、次の世界に連れていってあげる。 そのために、私はいるの。 あっちと、こっちを繋ぐ「渡し人」。それが私。 君が迷わないように、しっかり手を引いていくから、安心してね。 次の世界に連れて行く前に、まずは体を治してあげようね。 私の手が触れたところから、痛みや辛さが引いていくよ。 私の手に意識を集中してね。 頭から順番にいくよ。 頭……首……肩……胸…… 少しずつ楽になって来たかな? 腰……足……最後につま先……。 これで、痛くなくなったかな? びっくりした? 身体が軽くなったでしょう? ふふふ、良かった良かった。 もう一度、私の手に集中してね。 頭に手を当てて……よーしよーし。 くすぐったかったかな? 私の手が触れると、痛さも、怖さも、何もかもうすーくなっていって、 どんどんゆったりとした気分になっていくね。 よーしよーし。 さて、どうかな? まだ、自分が死ぬんだってことを、受け入れられないかな? じゃあちょっと、落ち着くために深呼吸してみようか。 ゆーっくり吐いて、吸ってー。 もう一度ゆっくり吐いてー、吸ってー。 少し落ち着いてきたかな? 落ち着いて、リラックスして……。 怖くないよ。 怖くない、怖くない……。 安心していいよ、私がちゃんと、最後まで見届けてあげるからね。 あっちの世界って、凄くいいところなんだよ。 お日様がぽかぽかしてて、甘くていい匂いのする花がたくさん咲いてて、 風がひんやりしてて気持ちいい。吸い込む空気はとても綺麗で気持ちよくて、 どこからか、鳥のさえずる声が聞こえてくる。 冷たい水のせせらぎ。そよそよと凪ぐ草木。 いつまでも、寝転んでいたくなる。 そんな、素晴らしい世界。 どこまでも優しくて、温かい世界。 この世界にあるような、痛みや苦しみは、どこにもない。 誰にも邪魔されない、安らかな楽園。 次に、あなたの出番が来るまで、そこでゆーったりと過ごすんだ。 だから、不安に思うことなんて無いんだよ。 ……そっか、残していく人たちが不安なんだね。 わかった、それなら、君が、苦しみも悲しみもない、安らかな世界に行ったこと。 それを、残された人たちの夢に立って、伝えておきます。 それなら、君も思い残すことなく、向こうに行けるよね。 普段はこんなことはしないからね、君だけの特別サービスだよ。 残された人の事も考えるなんて、君は、優しい人だね。 ……よしよし。 これはお姉さんからの「頑張ったね」のご褒美だよ。 よしよーし。ふふふ。 よしよし、今までよく頑張ったね。 今まで、よーく頑張って生きてきたね。 楽しかったこと。嬉しかったこと。 悲しかったこと。苦しかったこと。 こうして、君の魂に触れてると、全部伝わってくる。 君が、しっかり生きてきたこと、 ちゃんと、こうして、私が認めてあげるからね。 よしよし。 大変だったね。辛かったね。すごく、頑張ったね。 色んなことに耐えて、歯を食いしばって生きてきたんだよね。 わかるよ、ぜーんぶわかるんだから。 でも、もう頑張らなくて良いんだよ。 何もかも、ぜーんぶ関係なくなって、楽になるからね。 辛さも苦しみもない、暖かくて幸せな世界が、君を待ってるよ。 ちょっと、怖くなってきたかな? 大丈夫、かな? ほら、手を出して。 安心できるように私が、ぎゅっと手を握っておいてあげるからね。 ほら、ぎゅーっ。 暖かいでしょ? 安心していいからね。 ゆっくり深呼吸をして……。リラックスして、私に身を委ねて。 そろそろ時間だね。ちょっとずつ、視界が暗くなってくるのがわかるかな……? 大丈夫だよ、大丈夫。一度、真っ暗になって、何も見えなくなるけど、 すぐに、明るくなるから。安心して。私が、この手でちゃんとあなたを連れて行くからね。 私の手、わかるかな? ほら、今、貴方の手をぎゅーって握ってるよ。 最初に言ったこと、覚えてるよね? 私が、責任を持って貴方を連れて行くからね。 暗い中でも、迷わないように、私が、ちゃんと連れて行くから。 だから、絶対に離さないでね。……約束だよ? 怖いよね、どうなるかわからなくて、びくびくしちゃうよね。 でも、安心して私に身も心も委ねてね。大丈夫、絶対に大丈夫だよ。 怖くないよ……。怖くない、怖くない。 大丈夫だよ……。安心してね……。 よーし、よーし。 だんだん、意識が、遠くなっていっちゃうね……。 私の、声だけに集中して、リラックスして……。 暗くなってきたね。何にも、見えなくなってきたね。 でも、大丈夫。 これが、終わりじゃないよ。ここからが、あなたの新しい始まり。 あなたは、またその足で新しい道を歩いていける。 ちょっとだけ、長く眠るだけ。それだけ。ただ、それだけ。 次に目が覚めたら、絶対、暖かくて、優しい世界が待ってるよ。 ……もう、お別れの時間だね。 ……おやすみなさい。