終わりましたか!?師匠。 ロカ、ただいま戻りました! いやあ、流石師匠ですねえ。魔物の群れが慌てて森の奥に去っていくのが見えましたよ。 さすが街一番、今世紀最強の冒険者! ……ていうわけで、罰のお尻叩きはちょっと勘弁、してもらえると嬉しいのです。 とにかくっ、こんな危ない所にいないで早く家に戻りましょうよ。 ほら、余裕かまして寝転んでないで…… あれ……えっ……嘘…… きゃあああああああ!師匠! 師匠! 嘘でしょ……こんなに血が沢山出て……酷い傷……。 まさか……師匠……私を逃がすために命がけで……。 まさか……いや、またまた。そんな。冗談ですよね。 私をからかおうとしてるんですよね? 危ない危ない、一瞬信じちゃうところでした。 その手には引っかかりませんよ! 起きて「何泣きそうな顔してんだ」って言いうんでしょう? ほら、はやく言ってくださいよ。 し……師匠ぉ……?冗談じゃ……ないんですか……!? 師匠が、師匠があんな魔物なんかにやられるわけない……。 だって、「ここは任せてちょっと離れてろ!すぐ終わらせるから」って言ったじゃないですか! なんで、なんで……。 いつも通り、パパっと倒して終わりのはずじゃなかったんですか!? 大変だ……誰か助けを呼ばなくちゃ。私一人じゃどうしようもできない! だ、誰かいませんか!? あのっ、すいませーん!冒険者の人とか、ヒーラーの人とか、いませんか!? ここに、ひどい怪我をしてる人がいるんです! あのっ!本当に!誰かいませんか!?誰かーーーー! 誰も居ない……いるわけないんだ……。どうしよう……。 あっ、そうだ! 私、ちゃんと道具箱の中に薬草を持ち歩いてるじゃないですか! ちょっと待っててくださいよ師匠。今、応急処置をしますからね! 落ち着け……落ち着くんだロカ……。薬草による応急処置のやりかたは。 えーっと、まず、薬草を噛んで……にが…… これを傷口に塗って…… そして、傷口に沿って包帯を巻く…… これでよし。ふっふっふっ、完璧ですよ。これですぐに回復しますからね。 ほら、どんどん元気が湧いてきたでしょう!? ちゃんと、師匠から教えてもらった通り、応急処置できましたよ。 いつも言ってたじゃないですか。私、手先は不器用だけど、物覚えだけは良いんですって。 だから、ほら、起き上がって早く「よくできたな」って言ってくださいよ。 ねえ……いつもみたいに、頭、撫でてくださいよ。 ………。 …………なんで、血が、止まってくれないの……。 ちゃんと、ちゃんと教わった通りにやったのに。 なんで、傷が治り始めないの……。 何か間違ってた!?ううん、どこも間違ってないはずだもん。 ちゃんと薬草は噛んだ。薬草を塗ったらすぐに包帯も巻いた。分量もあってるはず。 ちゃんと師匠に教わった通りにやってるもん……。 なんで……まさか……。 いやいや、そんなわけない!絶対にない! 本当は傷は治ってきてるのに、痛くて起き上がれないだけなんですよね! もう返事ができるのに、やってないだけなんですよね! そろそろ、私だって怒りますよ!今ならげんこつで許してあげるから起きてくださいよ! せ、せめてっ、何か一言ウンとかスンとか言ってくださいよ! ほら、ほら!!! …………。 あ、そうか……わかった!師匠、ロカのこと怒ってるんですよね。 私が普段キツく言われてるのを忘れて、魔物の縄張りに足を踏み入れたから、それを反省するまで起きないフリしてるんですよね!? ……えーっと、さっきまで冷たい態度を取ってごめんなさい。 ……勝手に、1人で森の中を進んでいってごめんなさい。 ……サインを見逃したせいで、魔物の縄張りに入ってしまってごめんなさい。 二度と良いつけを破ったりしませんから。 教えてもらったことを忘れちゃったりとか、乱暴に師匠の物を扱ったりとか、そういうの絶対にもうしませんから。 好き嫌いせずになんでも食べますし、予習とか復習もちゃんと毎日やりますから……。 だから、ね? 許してください……。どんな罰も受けますから……。 ほら、これでいいですよね? ロカ、心の底から反省しましたよ! だからあ……起きてくださいよ……師匠……。 うう、手が、冷たい……。どんどん、脈が……なくなっていってる……。 師匠……、師匠……! あなたに、いなくなられたら、私どうしたらいいかわからないんですよ。 まだ教えてくれてないことが、たくさんあるじゃないですか。 もっともっと、いっぱい色んな事を教えてくださいよ。 魔物との戦い方とか……ああ、そうか。私が、魔物の戦い方を師匠から習っておけば。 いつかやればいいやってサボらずに、身体のトレーニングとか、剣の振り方とか覚えておけば、 こんなことにはならなかったかもしれない……。 簡単な治癒魔法とか、知っていれば助けられかもしれないのに。 私のせいだ……、私の、せいなんだ……。 ねえ、師匠……私、まだまだ何も知らない、ひよっこの、ダメ冒険者なんですよ。 貴方がいなくなったら、どうやってこの世界で生きていったらいいんですか……。 人間としての生き方も、冒険者としての生き方も、わたし、全然知らないんですよ……。 いつか、私が一人前の冒険者になったら、二人で冒険に出ようって言ってたじゃないですか……。 隠居の日々も悪くはないけど、冒険の日々のほうが好きだって言ってたじゃないですか。 私、その日を……楽しみに、してた、のに……。 もう、駄目だ。私………。 何が、何がいけなかったんだろ……。 いつもどおり起きて、いつもどおり朝ごはんを食べて、 いつもどおり朝の運動をして、いつもどおり二人で勉強をして、 そして、いつもどおり森で狩りをして……。 いつもどおり、ご飯を食べるはずだった。 くだらない話をして……。 お風呂に入って……。 ベッドで寝て……。 いつもどおりだった、楽しい、日々が、もう…… やだ、やだ……やだよぉ……。 師匠、死なないでよぉ……!!