……なんだか、寒い、ですね。 お手を、握ってもよろしいですか……? ご主人様。 ……ミセリアは、ご主人様のお側にいられるだけで、……っ……温かい、です。 やっぱり、ご主人様の側は、あったかくて、ぽかぽかします……。 ご主人様、お寒くないでしょうか。私が温めて差し上げます……。 はーっ…ごしごし……。 ……こうして温めあってると、思い出しますね。あの、約束の湖での夜……。 あの夜も、こんな感じの寒さだった覚えがございます。 ただのドブネズミであった私に、キラキラした目で夢を語ってくださって、 そのための付き人としてメイドにしてくださると、ご主人様が仰ってくださった場所……。 そして、二人で、寒かったから、手を握りあって合って座って、これからの事を語り合い……。 最後に、絶対に裏切らないって、約束しましたね……。 あれが、私の人生の本当の始まりでした。私にとっての運命の場所……。 そして、ご主人様が、動けなくなってからは、再起のための目標だった場所。 ……本当に、あそこまでたどり着けなかった事が、私の一生の心残りです。 ご主人様がご病気で倒れられた時、すでに……心の奥底では、 いつかこのような日が来ることはわかってたんです。 そこから、必死に足掻くふりをして、ご主人様の状態を認めず、向き合ってこなかった。 そして、毒にも気付かず……結果的とは言え、自らの手でご主人様を殺めることになってしまった。 私は、本当に、メイド失格です。 その罪とは、一生、向き合っていかないといけないのです……。 ご主人様は……、いえ、ご主人様も……、やはり、心残りです、よね? もう一度、あの場所で、二人で新しい夢を語り合いたかったですよね……? もしかして、それすらも……、私が早まった結果だったのでしょうか……。 ただ、私だけがあの場所の事をずっと考えて居たのでしょうか……。 それでも……やはり今からでも遅くは……いいえ、それはもう……叶わぬこと……。 ……悔しい。本当に悔しいです……。 ……うう、寒い……。もっと、近くによっても……よろしいでしょうか。 ……抱きしめて、いいでしょうか? 私の身体で、ご主人様のこと温めますね。 ぎゅぅぅ……うぅ……ぎゅぅぅぅ…… ご主人様?でも、本当に、幸せですよ、私。 あの湖にはたどり着けなかったけれども、 最後に、ここでご主人様と思いを通じ合わせることができて、 私、本当に、本当に幸せです……。幸せでなければいけないのです……っ! ここが、ご主人様と私の、新しい約束の地になる。そう思うのです……。 もし許されるのなら……、この、お腹の子供に、 この部屋で、毎晩寝る前にあなたがどれだけ素晴らしかったかを語り、 気高く、優しい人間として育てることを、約束いたします。 そして、あなたがくれたもの、私がちゃんと、受け継いで残していきます。 あなたという存在が、ここにいたことは、絶対にお忘れしません。 だから、絶対に、ご主人様は大丈夫です……。 だからっ……安心して……旅立たれてください……。 うっ……ううう……口に、出すと、やっぱり、辛いですね……。 でも……、もう二度と、私は間違いません。 ああ……お身体が、どんどん、冷たくなっていく……。 大丈夫ですよ、ご主人様……。大丈夫……大丈夫……。 絶対に、ご主人様は大丈夫ですから。 きっと……いいえ、かならず。 何か、最後に、私にお世話できることは……ございませんか……? ……旅立ちの前に……お体をお清めさせて頂けませんか? メイドとしての最後のご奉仕、務めさせて頂きます……。 お体を拭かせて……いただきます…… 反対側も……失礼します……。 これで……綺麗になりましたよ……。 喉がお乾きではありませんか? 水筒から、お水を少しだけ……、唇を濡らしますね。 お辛くありませんか?美味しいですか? よかった……。 ……いけせんよ、そんな不安そうな顔をしてたら……神様も困ってしまいますよ。 ……そうでした!こういう時のために、おまじない、ですね。 目をつぶってください。絶対、開けてはいけません。 ちゅっ…… ……はい、これで大丈夫です。 それでは、…………おやすみなさいませ。