おはようございます、ご気分はいかがですか? はい、ロコでございます。ちゃんとおそばにおりますから、何も心配ありませんわ。 少し髪が乱れてますわね、お直しいたします。 ふふ、頭を撫でられるのがほんとにお好きですわね?甘えん坊さん。 今日は顔色もとてもいいですわね……本当によかったですわ。 安心したら……なんだか涙が……。 だって、あんなに苦しんでいたあなたがここまで……。 あっ……病人のあなたに逆に心配かけさせてしまうなんて……。 こ、こ、恋人として……不甲斐ないですわね……自分から恋人、というのは……まだ照れてしまいますけれど……。 ああもう……お恥ずかしいですわ……。 と、とにかく…… お伝えしていた通り、今日が約束の日。 はい……ついに、あなたを病から救える日ですわ……! ようやく……ようやくこの日がきたのです……。 私たちの悲願が叶う日が……。 やっぱり……嬉しくて涙が出てしまいますわ……。 でも、泣いてばかりじゃいられませんわね。 そのためにも、ちゃんと準備をしなくてはいけませんわ。 まずはいつものお薬を飲みましょうか。 すこぅしお口を開けさせていただきますね。 そう、こぼさないように……ええ、しっかり飲めましたわね。 ご褒美に頭をなでなでしてあげますわね。よしよーし、えらいえらい。 毎日薬を飲んでるおかげで、もう痛みは感じませんでしょう? さびしいのは、副作用でお話できなくなってしまうことですが…… いいえ、いまさらですわね。 あの日、あなたとたくさん話せた……そしてこのことにも、 これからのことにも……二人で望んだのですから。 では……次にお体のほうも見ていきますわ。 まずは足のほうから……。 寝たきりで硬くなってた筋肉もだいぶやわらかくなってきましたわね。 毎日ほぐした甲斐があります。 今日もきちんとほぐしましょうね。 こうやって……強すぎないように……柔らかくもんで……さすって……。 腕や手もほぐしましょうね……。 手のひらも……。 大丈夫、今は指を動かしても痛くないでしょう? ふふ……こうして手を重ねると、初めて手をつないだ時のこと、思い出しますわね? 誰かとこんな風に手を握るなんて……したことがなかったですから……、 すごく、その……ドキドキして……。 ……も、もしかして顔が赤いの、気づかれたり……してませんでしたよね? ね、そうですわよね……? でも……この手が、私、大好きなのです……。 (懐かしむように、すこしゆっくり) だって、この手で……あなたはいつも私を守ってくださった。 一緒に冒険をしていたとき、いつもあなたは私の前に立って 敵を倒したら、「もう大丈夫」って笑って、私に手を差し出してくれた……。 なのに、そんなあなたが、病気になって……。 ……いえ、なんでもないですわ。ふふ、少し昔を思い出して懐かしんだだけです。 大丈夫、大丈夫ですわ……最後まで、やり遂げてみせます。 この日を待ち望んでいたのは、あなたも同じですものね。 さあ、お顔を良くみせて……。 荒れていた肌もだいぶよくなりましたわ。 今日も塗り薬をお使いしましょう。 ええ……大丈夫、冷たくないようにしっかりと私の手で温めてから……塗っていきましょうね。 さあ……まずは、鎖骨から……。 うふふ、くすぐったい? 大丈夫ですわ……私の手に……。 指先に集中して……そう、いい子……。 そっと撫でていきますから……こわくないですわ……。 鎖骨のくぼみも……残さないように……私の指先で塗っていきますわ……。 それから上のほうへたどっていきますよ……。 あなたの首筋……喉……ゆっくり、ゆうっくり、綺麗に撫でて……。 そう……安心して……薬のあたたかさ……いいえ、私のあたたかさを感じてくださいませ……。 それから……顎にもきちんと……うふふ、そこからもっと上に……耳のところまで……。 耳の後ろまでそうっと撫でて……。 そして……まぶた……ええ……大丈夫……ゆっくりと撫でますから……。 そこから、鼻筋をたどって、下に……。 そう、あなたの唇にも…ぬりましょうね……。 たっぷりとお薬を……指先にふくませてから……。 ふふ、塗り過ぎてしまいましたわ。 はみだしてしまったぶんは……ぬぐって……私の唇に……ふふ、甘いですわ。 はい、おしまいですわ……これでカラダのほうはすっかり問題ありませんわね。 ええ、まるで病気になる前のように。 とても……綺麗ですわ。 これなら、何も問題ありません。 これで……これで、あなたを病から解放してさしあげられます。 そう……禁じられた儀式、 ネクロマンサーの力によって。 (悲しさからだんだんすがる感じで) あなたがその病にかかって……どの医者からももう助からないと……死を待つほかないと……言われて…… 私はそれを……認めたくなかった。 信じたくなかった。 だって……あなたが、私を置いて先に死んでしまうなんて……あなたが私のそばからいなくなるなんて…… もう一緒に冒険することも……もう……手を握ることすらできなくなるなんて…… だから……私はどんな手段を使ってでもいいから、あなたを助けたいと……思って……! ……そして、たどり着いたのがネクロマンサー……。 たとえ禁じられた黒魔術でも、不老不死を目指すネクロマンサーならどうにかできるのではないかって……! ……でも、当たり前ですけど不老不死なんて、ありませんでしたわ。 ましてや不治の病を治す方法など。 ふ、ふふ……死にかけの人間を助けることなんて、できやしない…… そう、できるわけがない…… でも……唯一、あなたを、いいえ、私たち二人を救える方法があったのです! それは……あなたのカラダを、永遠にすること! このまま死んでしまったら、あなたは大地へとかえって、世界からいなくなってしまうだけ……。 ……そう、このままなら…なにも、なにも残らない…… ですが、あなたのカラダだけでも、腐ることも、老いることもない、完璧なままのカラダをこの世に残すことが 死体を操るネクロマンサーの秘術を使えばできたのです……! そのためになるべく、傷がないうちに…… ……生きているうちに、その術を、施す必要がございました。 病気ではなく、私自身があなたの命を奪う……。 ああ……それは、禁術を行うことよりも、もっと、もっと犯してはいけない罪……! そんなこと、許されない……けれど。 あなたと私がずっと一緒にいるためなら…… その理想の楽園のためならば……! 私は……決めたのです……! そして……あなたを無理にでも連れ去って、ネクロマンサーの術をかけようと…… あの夜に、あなたのもとへといきました……。 まだあなたが生きていて、術をかけるのに間に合うことを喜びながら……! でも、あなたは……久しぶりに会った私を心配してくださった……。 その上、私の話を聞いて、好きにしていいよ、と笑ってくれた……。 ……きっとあなたは、病に苦しむあなたの姿に私が悲しむのを……止めたかっただけ、なんでしょうね。 でも……こうして毎日、儀式のための準備をしていくほど……、 あなたは病の苦しみを感じなくなり……カラダも、こうして前のようにキレイになりましたわ……。 ふふ……それが嬉しいと、思ってしまう私は、なんと罪深いんでしょう……。 だって……前のように、あなたが私のそばにいらっしゃる……! それが許されないことでも……喜びを感じてしまうのです……! けれど……病気はいまだあなたの中に巣くっている。 それをあなたの身体を半分死体のようにして、止めているだけ。 そして……今日、儀式を完成させるのです。 これで……あなたの意識は消失し、あなたのカラダは、この世で永遠を過ごすのですわ……。 ああ、もちろん、ご安心くださいませ。 最初にお話しした通り、私も一緒に、永遠を過ごします。 私の肉体も……あなたと同じ、永遠のカラダになりますから。 あなたを一人になんてさせませんわ。 だってこの儀式は、私たち二人を救うためのもの……! ふふ。術の応用で、植物も枯れないまま保存する方法を見つけましたの。 私と、あなたが永遠を過ごすための場所…… だれもこない、この地下室の祭壇に たくさんのお花を準備しましたわ。 白いお花、桃色のお花……血のように赤いお花…… あふれるほどたくさんの、枯れることのない花たちに囲まれて あなたと私は、永遠の楽園でずっと寄り添って過ごすのですわ。 病にも……どんなものにも……邪魔されないで…… たった二人だけで、静かに……花に埋もれたベッドで…… それはとっても……とっても……キレイでしょう? 朝には陽がのぼり、太陽が昼を照らし、やがて夜が来る…… そんな当たり前の摂理すら、私たちには関係がなくなるのです。 ふふ、いうなれば永遠の黄昏……とでもいいましょうか? ねえ……楽しみですわね? ……本当に、お優しい方。 私のわがままを聴いてくださって…… (悲しみつつ、希望にすがる) でも……でも、私はあなたがいない世界なんて、耐えられないから…… 魂のないカラダだけでも、ずっとずっと……いつまでも一緒に……隣で手を握って、 過ごしていたいのです……。 たとえ死んだとしても、私たち二人、決して離れることなんてないように。 ああ……これは人間の生というものへの冒涜。 ネクロマンサーが忌み嫌われるのも当然……。 でもそれすらも人間が決めた枠組みにすぎないのですわ。 これで、あなたは無意味に死ぬことはなくなり、 美しいまま、私とあなたの二人っきりの楽園で過ごすのです……。 ふふ……ああ、それは、なんておぞましいほど禁忌で そして、蠱惑的な未来なのでしょう……! それが許されないものだとしても…… ……だからこそ、甘くて、たまらないの。 さあ……それでは儀式をはじめましょう。 あなたと私の、永遠のために。 どうぞ、なにひとつ憂いなく、お眠りくださいませ……。 ああ……でも、最後に、ひとつだけ…… ひとつだけ、あなたにお願いがあるのです。 ……もう一度、 私に、笑ってくれませんか? ……そうでしたわね、薬で、もう……それも叶わないのでしたわね……。 ……ふふ、ふ……。 ……でしたら……これからはあなたの隣で……私が微笑み続けますわ……。 この先の永遠の時間……ずっと……。 さあ……もう、大丈夫。 安心して眠って……私の……愛しいひと……。