※音声本編のネタバレを含みますので、本編を最後まで聴いてから読まれることを強くおすすめします 【第1.5話 夢のような、奇跡のような】  まるで夢の中の出来事みたいだった。  時間が経つにつれ、あれが本当に現実だったのか自信がなくなってくる。  私は倒れこむようにベッドに寝転ぶと、つい数時間前の出来事を思い返していた。  勇気を出して、彼の後を追いかけて。  そしたら、彼の声が教室から聞こえてきて……。  教室で、彼は――あんなことをしていて。  ……彼が、私のことを好きだったなんて。  彼女がいるって噂は聞いたことがなかったし、特別な間柄を感じさせるような女子も見たことがなかったから、今はいないんじゃないか……とは思っていた。  だけど、まさか今まで一度も、なんて。  それだけでも驚きなのに。  好き――って言われて。私はとっさに素っ気ない態度を取って、ごまかしてしまった。  実は私もなんです、そう言えたらよかったのに。  いつかはそうなりたいと望んだから彼を追いかけたのに、中途半端な覚悟しかなかった私は、いざ本当に付き合える状況になると怖気づいて、最後の一歩を踏み出せなかった。  それはあまりにも私に都合のいい世界で。  彼が好きだと言ってくれた私を、信じきれなかった。  自分という人間の魅力を信じられないだけで、彼の気持ちは疑ってない。  彼は……私なんかの汚い唾を、まるでご馳走でも待ちわびるみたいに、余裕のない表情で口を開いて待っていた。  そんな彼を見ていたら、身体じゅうに電気が走ったみたいにゾクゾクした。  私の唾液を口に含んだだけで、射精してしまった彼。  たったそれだけのことで、射精までしてくれるなら。  このまま焦らし続けていれば、この先もずっと、私だけを見てくれるんじゃないかって。そんな考えに、現在進行形で頭の中を支配されている。  ――本当はわかってる。そんな関係が、いつまでも続くわけがない、って。  いつ彼に愛想を尽かされるかわからないし、それに……  そんなどっちつかずな関係に――私自身は、いったいいつまで耐えられるんだろう?  ――だけど、今は。  本当の気持ちに、蓋をして。  不安や恐怖さえも、胸の奥深くへと追いやって。  今だけは、彼と過ごす、あの奇跡のような時間に身を委ねていたかった。 「大好きです、愛しています、――――くん」  彼の名前を口に出しただけで、どこか胸が満たされるような気持ちになる。  私とキスがしたい、と彼は言っていた。  私に唇を奪われたら。強引に舌をねじこまれたら。彼はどんな可愛い反応を見せてくれるんだろう。想像しただけでゾクゾクして、下腹部のあたりが疼いた。  ……だけど、キスをしちゃったら? その次は?  私はあと何回、彼と二人きりの時間を過ごせるんだろう。  もっと。  もっと……焦らさなくちゃ。 「あなたにはまだ、キスは早いと思うんです」なんてそれらしいことを言って、できる限り先延ばしにしよう。  その代わりに、キス以外で彼が喜んでくれそうなことを考える。  唾であんなに興奮してくれたんだから、案外、私がすることならなんでもよかったりするのかもしれない。  校庭から部活中の生徒の声がかすかに聞こえてくるだけの、静かな教室。  彼と私以外は誰もいない、二人きりの時間。  発情しきった顔で私を見つめる、彼の視線。 「うふふ……んふふふっ……」  次はどんなことをしてあげよう。  想像を膨らませながら、彼の顔を思い浮かべながら…………私はそっと、自らの股間に手を伸ばした。 (“02.うらはちゃんとキスがしたい”に続く) 【宣伝】 イーイーイーヤの小説はこちら カクヨム→https://kakuyomu.jp/users/gome 小説家になろう→https://mypage.syosetu.com/943344/