本編を視聴後にご覧ください。 ****************  ――どうか、いい夢が見られますように――  最後に俺が打ち直されたのは、1年前。アイツが都会に出てくる直前だ。 俺はアイツが都会に出てくる時に、前の持ち主から譲渡された。  勿論、アイツと寝たのは初めてじゃない。 小さな時、まだ、前の持ち主とアイツの家族が同居する前。 アイツは、よく前の持ち主の所に泊まりに来た。  あの頃のアイツは、俺がお気に入りだった。 俺もあの頃はまだ、自我なんてなかったが。――まぁ、アイツを暖めてやるのは嫌いじゃなかった。 ――まぁ、一度されたおねしょだけは、二度と勘弁してくれという感じだったが。  打ち直しをされる直前。俺は自我に目覚めた。 1番目の主から、通算100年経過したからだ。 100年の間、何回も何回も打ち直しをされて。補修をされて。 そして、俺はまぁ、付喪神というものに昇華した。 まあ、簡単に言えば布団の妖精みたいなもんだ。  俺も、正直驚かなかったわけじゃない。 90年を超えてから、朧気に意識はあったが。 まさかこんなにはっきり意識に目覚めるとは。  ――うん、フカフカね。最高だわ。どうか、あの子にたくさん、幸せな夢を見せてあげてね?――    俺の前の持ち主である、アイツの祖母は。 打ち直しをして綺麗になった俺を見て、嬉しそうに言った。 あぁ、任せておけ。俺が幸せにしてやる。  そう思って、一緒に都会に出てきたんだが――。 そもそも、俺は人間の幸せを知らない。 では、どのように学習したのか。それは、参考になる本を読んだのだ。  ある日、俺が置かれているベッドの下にある本が隠された。 確かに、人に見られると問題のある本が軒並みベッドの下の収納箱に入れられるようになった。 それは、本棚に置いておくのは少し問題があるタイトルばかりの本だ。 それを新しく買ったベッドの下の収納の中に、アイツは隠すようになったのだ。  俺はアイツが仕事をしている最中、それを読み漁る。  「ほう――。なるほど」  「いや、今までも人間の営みは見てきたから大丈夫だ。覚えている」  「そうか、この様にしてやれば、女は幸せになるのか」  「性処理とか、人形とか、そうか。それがこいつの性癖ってやつなのか」  「なるほど。この少しSというのが好みなのか。――うむ。理解した」    前の持ち主には世話になった。だから、その持ち主が言うようにアイツを幸せな夢を見せてやろうと思う。  「そう言えば、あんまり夏には出てこないわよね、貴方」  「そうか? 気のせいだろ」    まぁ、夏はクローゼットの中にいるから、余り出てこない。俺も寝ている。 それに、場合によっては羽毛布団クリーニングに出され、しばらくここを留守にすることもある。 だが、秋から春にかけては、毎日一緒に寝る。案外、結構鋭い。  「もーホント、不愛想なんだから――」  「――そうか? 愛想よかったらお前、違うって思うんじゃないのか?」    少しの不愛想は勘弁してくれ。 何せ、俺はまだ自我に目覚めて1年足らず。――人間の感覚はよくわからない。 だがまぁ、そのうち覚えていくんじゃないか?  「まぁ、確かに」  「それじゃ、今夜も始めようか」    さぁ、今夜も始めよう。幸せな時間を。前の主の願い通り、いい夢を見せてやろう。