本編を視聴後にご覧ください。 ****************  「もーだめ」    どうやら、都会に来て初めての飲み会があったらしい。 アイツはかなり飲んだらしく、泥酔状態でソファに横たわっている。 楽しい飲み会、というよりも。新しい会社に入って、緊張したのだろう。 顔色が悪い。おそらく吐いたのだろう。青白い顔をしたまま、ソファから動けない状態になっている。 このまま放っておくのはあまりよくないだろう。  「――気づかれちゃ、ならないんだったか」  俺は彼女を起こさないように息を潜め、台所に向かう。 一応、付喪神にもルールがある。 人間を手助けする時は、基本、気づかれてはならないと言うことだ。 気付かれると、その場所から去らなければならないというルールだから、細心の注意を払って俺は姿を実体化させる。 まぁ、座敷童達と同じだ。  あいつは非常に寝つきがいい。ある意味、俺にとってそれはとても都合がいい。  冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して、俺はそれを小脇に抱える。 そして、洗面所からタオルを取ってきて、湯に浸し、即席のホットタオルを作ってやる。 コイツが子供の頃、夏休みの間、結構長い期間、前の主の家に泊まっていくんだが。 その間、ちょっとしたことで風邪をひくと、前の主はこうやって暖かいタオルを作って体拭ってやっていた。 それと同じように、俺は水分補給をさせた後、パジャマに着替えさせてやるついでに体を綺麗に拭いてやる。  「おばーちゃん。ごめんねー」    寝ぼけている一言に笑いをこらえつつ、淡々と体を拭き、パジャマを着せていく。 きっと、前の主の夢でも見ているんだろう。能天気な奴だ。  「頭がぐるぐる回るよぅ」    大体、酒を飲みすぎる何ぞ、大人のすることじゃない。 まぁ、とはいっても。――大人になりかけ何だろう。きっと、今まで一緒に過ごしてきた主たちがそうであったように。 人間は様々な経験をして、大人になっていくのだ。  メイクもできる限り拭きとって。最後に覚醒させないように気を付けながら、ベッドの上に横たえてやる。 まだ、付喪神になってそれほど経っていない俺の行動範囲は、布団本体から10メートル程度だ。 つまり、このワンルームという広さは、俺にとってはとても都合がいい。  「おやすみ、いい夢を見ろよ」    どうせ俺の声なんて聞こえてないんだろ、と思いながらそう声をかける。    「ありがと。優しくしてくれてありがと」    ふと、アイツにそう声をかけられて。――俺は嬉しくなって、少しだけ笑った。   ※翌日、ヒロインは全く覚えておらず。「私、ちゃんとメイクも落として、パジャマに着替えて寝た。偉い!」と勝手に思っている感じですw