あっ……先生⁉ どうしてここへ? あ、掃除のおばさんに聞いて? はい。大丈夫です。雑誌見てただけなので……。 そうなんです。すごくよくしていただいていて。 あはっ。ここ、穴場なんですよ。 知ってる人って全然いないんじゃないかなって思います。 いえ、自分で見つけました。 あの、ほら。先生とお話しするようになるまでは、私いつも一人だったので……。 人が来ないところ探すの得意になっちゃって。 ここ、本当にすごくいいんですよ。 わざわざ旧図書館までくる子はなかなかいませんし、さらに夏休みですから。 ほぼ貸切です。 だから、少しくらいおしゃべりしても平気です。 あの、先生が来て下さるなんて、思いませんでした。 他の先生とは何人かお会いしましたけど、先生とは夏休み初ですね。 ところで、何のご用でしたか? あぁ……。先生はご存知なかったですよね。 私実は、橘の家の本当の子じゃないんです。 だから実家には居づらくて。 なので今回は思い切って、帰らないで寮に残る事にしたんです。 だからここにいたという訳です。 はい! ふふ。だから今年の夏は最高です。 去年は渋々帰って、暗い日々を過ごしてましから。 学内でアルバイトもするんですよ。 明後日からなんですけど、今からとても楽しみなんです。 えっと、色々やるんです。 普段バイトしてる子が実家に戻っているので、夏休み限定の補充で、何か所か行きます。 私以外にも、同じ仕事をする子がいるみたいなので。 これを機に仲良くなれたらって思ってます。 ふふ。 えっ? いいえ。まだです。 もうお昼だったんですね。気づきませんでした。 行きます。一緒にご飯、したいです。 でも大丈夫でしょうか? 先生と生徒で出かけても……。 そうなんですか……。 いえ。ぜひご一緒させて下さい。 お食事券三千円分が当たるって、すごいですね。 私もそのモールのくじ引き引きましたけど、ティッシュしか当たらなかったです。 はい。今すぐ着替えてきますね。 ちょうどバスが来てよかったですね。 モールまで少しありますよね。十分くらいでしたっけ。 ……先生? もしかしてあちらの方、お知り合いですか? ご挨拶しなくても……。 先生、大丈夫ですか。顔色が悪いです。 大丈夫ですよ。話せる範囲で。 ええ。あのお知り合いの方が何か。 ……会いたくない人なんですね。 いいえ。私にもいっぱいいますよ、そんな人。 何もおかしな事じゃないです。 でも……。 降りましょう。ICカード貸して下さい。 先生、傘どうぞ。……先生? 先生。勝手に降りるって決めちゃってごめんなさい。 でも私、間違った事をしたとは思ってません、から。 だって、先生は前私に『我慢しなくていい』『逃げていい』って言ってくれました。 だから、先生にも我慢してほしくなかったんです。 会いたくない人がいるのに、無理に乗り続けてほしくなかったんです。 はい。そうです。 あの、先生……? 先生……! よかった。私も同感です。 先生に冷たくした人となんか、一緒の空気を吸っていたくありません! 当たり前です。私はいつでも先生の味方です。 だから安心して下さいね。 あの、先生。困ってる時に、年上とか、年下とか、ないです。 先生とか生徒とかも関係ありません。 助けられる人が助けるのが当然です。 これからも何かあったら教えて欲しいです。力に、なりますから。 はい……! お礼? とんでもないです。そんなつもりでした訳ではありませんから。 何でも? 何でも、いいんですか? じゃあ……夏休みの間、また会いたいです。 学校の中でいいので。ご飯食べたりとか、お話したりとか、したいです。 それから私の事も、他の子にするみたいに下の名前で呼んで欲しいです。 クラウディアのあだ名って『ディディ』って言うんです。 だからそう呼んで欲しいです。 あと。 次のバスが来るまででいいので……手を繋いで欲しいです。 あ……。 ふふ。確かにちょっと、汗かいてますね。 ふふふ……。あったかい。