■登場キャラクター ちせ/大禿(おおかぶろ) ;以下、ボイス全てちせ :数字と場所あるコメントはマイク位置指定 ;(呼吸音)は、呼吸音。吸って、吐いての息を何度か繰り返してください。繰り返す長さは、演者さんにとってここちよいタイミング・間にてご決定いただけましたら幸いです。 ;セリフ内の<SE 耳かき音>等はSE指定です。 ;編集でいれるので、演者さんは、少し間を開けて下さい ;(耳打ち)(ささやき)は、それぞれ耳元密着して/囁いて、でよろしくお願いいたします。 ;1/前→;3/右 のような指定の場合は、移動しながらお演じください ;その他、不明点がございましたらご確認お問い合わせ下さい ;//////// ;Track1:ちせの自己紹介と、この音源の楽しみ方 ;//////// ;ちせの足元は足袋 ;タイトルコール 【ちせ】「あやかし郷愁譚 〜大禿(おおかぶろ) ちせ〜」 ;環境音 旅館の和室 ;↓襖越し ;9/前遠 (小声) 【ちせ】「お客はん……えろうすんまへん。お客はーん」 【ちせ】「(様子を伺う呼吸音)*4」 【ちせ】「……息はしてはる。寝息やろか。 ぐっすりおやすみのとこやったら、起こしてまうのは忍びないけど……」 【ちせ】「(悩む呼吸)……まる二日、お食事とられにも来ぉへんし、廊下でもロビーでもさっぱりお顔見かけとらんし」 【ちせ】「――うん。寝息は安全の補償にならへん。脳梗塞やらで倒れとっても聞こえてくるって教わっとるし。 おやすみのお邪魔やーいうて怒らてしもたって、万が一で後悔してまうより、百億万倍マシやもん」 【ちせ】「『お客はーん、お客はーん! お休みのとこ失礼します。 ウチ、ちせですけど。背ぇの高ぉて体の大きいおかっぱの、 『旅館 あやかし』の仲居ですけど――失礼しまっせ? よろしいですか?」 【ちせ】「(返事を待つ呼吸)(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「あかん。返事ない。これはいよいよ確かめんと。 (すうっ) 『お客はーん。失礼します』」 ;SE ふすま開け ;9/前遠→;1/前(抱きかかえる距離) 【ちせ】「わ!? 随分とちらかって――って! お客はん!? 倒れてはる!?? お客はん! お客はん! お客はん!!」 ;SE 軽くひっぱたく、ペチペチ ;【ちせ】「お客はん! ああ、これ、お医者はん呼ばんといけ――っ!!? お客はん、気づかれはった!? あ、勝手にお部屋に入ってしもうてえらいすんまへん。せやけど――っ!」 【ちせ】「あ、その前に体調――ご体調、おかしなことあらしまへん―― (呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ああ、お水。それに、なにか食べるもの」 【ちせ】「(安堵のため息)……食欲があるんでしたら、まぁ危ないことはなさそうですな。お水はお部屋のポットにありますさかい―― かるく食べられるものもなんや、板長はんにたのんで、すぐにこしらえてもらいますな」 ;SE 畳の上足音、数歩 ;15/左遠 【ちせ】「お水お水――」 ;SE ポットから湯呑に水を注ぐ ;SE 戻る足音 ;1/前 【ちせ】「はい、お水。むせたりせんよー、慌てないで飲んでくださいね。 で、厨房に電話電話」 ;SE 畳の上足音→受話器あげ ;10/右前遠 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――あ、板長はん。あんな――ああ、そうそう、まる二日お食事にも見えんかったあのお客はん…… そうそう、うちらを珍しがらん、やさしいおひと――あん人な? なんや、どーんて散らかった部屋に――――(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】 「ああ、せやね、うん。軽く手早くたべれるもん頼めんか思うて――(呼吸音)――うん、ありがと。ほな、まっとるね」 ;SE 受話器置く ;SE 戻ってくる足音 ;1/前 【ちせ】「おまたせしました、お客はん。板長はんがお粥さんつくってもってきてくれることになりましたさかいに、もーちょっとだけまっとってください」 【ちせ】「板長はんのお料理、お客はんの口におーてたみたいですからな。長い滞在で板長はんもお客はんの好みわかっとるかもしれんし――期待してもろてもよろし思います」 【ちせ】「ゆーか……お客はん、もしかしてお仕事がんばりすぎてしもたんですか? お食事もお風呂も忘れるくらいに…………(呼吸音)(呼吸音)――あ! 修羅場いうやつ――(呼吸音)――(安堵の息)――それを抜けたゆーならなによりのことですなぁ。おつかれさんで、おめでとうさん」 【ちせ】「ほんなら、お祝いにちせ……お粥さんじゃもりあがらへんかもわからんけど――お酌しましょか? ふふふっ、気分だけでも、打ち上げがわりに」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)――ほんなら、うん。そないにしましょ。 ってか、お客さん……まだ少しぼーっとしとるゆーか、しゃっきりしとらん感じやねぇ。ちせのこと、誰だかちゃあんとわかってはります?」 【ちせ】「……イマイチ不安やさかいに。改めて自己紹介しますな。 うちは、ちせ。お客さんが泊まってるこの旅館。ものべのでご宿泊される方をもてなすために、大土地につい昨年できあがったばかりの旅館、『旅館 あやかし』の、仲居をやってるあやかしです」 【ちせ】「どないなあやかしかは、見たまんま、すぐにわかりますやろ? 大禿(おおかぶろ)――この禿髪(かぶろがみ)に、屏風より頭が飛び出るくらいの大きな体。あんまり大きいさかいに、“男のこのあやかしやー”いう伝承もありますけど、正真正銘、女のこのあやかし」 【ちせ】「その辺のことはご宿泊の初日にもお話してます……って、まだぼーっとしたお目々してはりますなぁ。 これはアレやね、ちせの声がもーっとよー聞こえるように、お手伝いせなあきまへんねぇ」 ;SE 身じろぎ ;1/前(密着) 【ちせ】「せやさかい、ちいとお側に失礼しますな。 お客はんがお使いになられとるヘッドホンやらイヤホンやらは…… (呼吸音)――ああ、これやねぇ」 ;$=SE ヘッドホンつけたげる 【ちせ】「ほんなら、ちせがつけてあげましょ。 ん…… $ っしょ――これでどないやろか? 試さんといけんね、うん」 ;3/右 【ちせ】「右耳。右のお耳。聞こえてますかー。どないですかー」 ;7/左(耳打ち)→囁き 【ちせ】「左のお耳はどないですかー。 ささやき声でも、届きますやろかー」 ;7/左→;1/前→;3/右 【ちせ】「そしたら最後の確認は、ぐるーーーーーんて回って〜 (ふーーーーーーーーーーっ)」 ;1/前 【ちせ】「あはは! やーっと目ぇぱっちりしましたな。 あらためましておはようさん。 で、修羅場あけたん―― おめでとうざん」 ;SE ふすまの外でお膳を置く音 【ちせ】「あ! 板長さん来はったみたい。 そうしたら、お粥さん食べて――そのあとは、うふふっ!」 ;3/右(耳打ち) 【ちせ】「ささやかにでも、打ち上げ、しましょな!」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track2:ほんならお髭、あたりましょ ;//////// ;SE 食器カチャカチャ→廊下に置く→ふすましめる ;9/前遠 【ちせ】「うふふっ。綺麗にたべはったなぁ」 【ちせ】「これなら板長はんも喜びますやろ。 職人はんゆーんはそないなもんかもしれへんけど、まー気難しうて繊細で―― ああ、職人はんやのーて、職あやかしゆーた方がよろしいのかな? どないですやろ。――っと」 ;SE 水の入った洗面器をもって近づいてくる ;9/前遠→;1/前 【ちせ】「や、思とったよりお水なみなみはいってますな、この洗面器。 こぼさんよーに気ぃつけんと……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ん」 ;SE 洗面器畳において、自分もすわる ;1/前 【ちせ】「ああ、この洗面器に入っとるのはただのお水ですわ。 なんでお水かゆーたら、お客はん……」 ;SE ひげを指で撫ぜる音 (継続) ;1/前(密着) 【ちせ】「こないに……ね? ――(呼吸音)(呼吸音)―― びてはりますやんか。無精髭 プチやゆーても、せっかくの打ち上げ、 こざっぱりしてからの方が、もっと楽しくなりますやろ? な」 ;SE stop ;1/前 【ちせ】「せやさかい――うふふっ。 ちせが廓(くるわ)に居ったときから使うとる、このカミソリを、水に濡らした革砥(かわと)――革の砥石でかるぅく研いで」 ;SE カミソリ取り出す→革砥を洗面器の水で濡らす→革砥でカミソリかるく研ぐ 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ん。こないなもんやね。 そしたらお客はん。ちせのお膝に、頭あずけてくださいな」 【ちせ】「あ、腕前やったら心配あらしまへん。 禿ゆーたら、遊廓(ゆうかく)の雑用がかりですもん。 お髭あたるのんは慣れてますさかいに」 ;1/前→“ん。”から密着距離 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音) ――ん。ふふっ、ちせのお膝に、よーこそいらっしゃいました」 【ちせ】「ほんなら、まずはしゃぼん、泡立てますな」 ;SE 石鹸をに水をかけ、ブラシで泡立て 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)―― ん……っと――もちょっと―― (呼吸音)(呼吸音)―― ん……(呼吸音)――うん。こないなもんやね」 【ちせ】「指で押したらちょっと戻るよな感じがするくらい。 これっくらいに泡立てたらな、なめらかになって、お肌をまもってくれるねん」 ;$=SE ブラシで泡を縫っていく 【ちせ】「したら――まずは顎のラインに…… ん―― $ (呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ん、よし」 ;$=SE ひとこすりだけ革砥でこする 【ちせ】「したら、カミソリに持ち替えて。 $ ほな、いきまっせ」 ;SE 顎のひげカミソリであたる(継続) ;カミソリの動き、右あご→下顎 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)―― ……ああ……久方ぶりでも……(呼吸音)(呼吸音)―― 体がきちんと――(呼吸音)(呼吸音)―― 覚えとる――(呼吸音)――もんですなぁ――(呼吸音)」 【ちせ】「かるぅ――(呼吸音)――やさしぅ――(呼吸音)―― 刃ァを――(呼吸音)――寝かせ、て――(呼吸音)―― くすぐるみたいに――(呼吸音)――すべらすように――(呼吸音)―― 力、いれんと――(呼吸音)――やさしぅ、やさしぅ――(呼吸音)――っと」 ;SE 刃を洗面器の水ですすぐ→革砥を1往復 ;SE 顎のひげカミソリであたる(継続) ;左顎 【ちせ】「少しだけ――(呼吸音)――手、触れますな――(呼吸音)―― ん……(呼吸音)(呼吸音)―― っと……(呼吸音)(呼吸音)―― 顎は、これで――(呼吸音)(呼吸音)――うん」 ;SE 刃を洗面器の水ですすぐ→革砥を1往復 ;SE 親指で顎をぐるっと撫ぜる 【ちせ】「……綺麗綺麗に剃れてますなぁ。 ふふっ、このカミソリは業物やさかい―― 篝火姐(かがりびねえ)はんにいただいてから…… もう何百年たったろーねぇ……ふふっ」 ;SE 左もみあげカミソリであたる(継続) ;7/左 【ちせ】「もみあげも……(呼吸音)――ん……(呼吸音)―― こないサクサク……(呼吸音)(呼吸音)―― あたるんやもの……(呼吸音)(呼吸音)―― 切れあじ、少しも――(呼吸音)――衰えてへん――(呼吸音)」 【ちせ】「篝火いうても――(呼吸音)――お客はん――(呼吸音)―― ご存知のわけ――(呼吸音)――あらしまへんよね――(呼吸音)―― 篝火太夫(かがりびだゆう)……(呼吸音)(呼吸音)―― 綺麗で優しい――(呼吸音)――最高のお姐はん……」 【ちせ】「太夫(たゆう)いうんは――(呼吸音)――遊女(ゆうじょ)――傾城(けいせい)……(呼吸音)―― 今様(いまよう)にいうんやったら……(呼吸音)(呼吸音)―― あ! 花魁(おいらん)はん――(呼吸音)――あれの―― いっちゃん位の高い――(呼吸音)――呼び名、ですなぁ」 ;SE 刃を洗面器の水ですすぐ→革砥を1往復 ;SE 右もみあげカミソリであたる(継続) ;3/右 【ちせ】「太夫になれる……(呼吸音)――遊女は――(呼吸音)…… ん……(呼吸音)(呼吸音)―― 千人に、一人……(呼吸音)(呼吸音)―― もっと、少ないかも――(呼吸音)――知れへん、なぁ――(呼吸音)」 【ちせ】「ちせも、ん……(呼吸音)(呼吸音)―― 太夫の、篝火姐はんに……(呼吸音)(呼吸音)―― つけて、もろうた――(呼吸音)――禿(かぶろ)……(呼吸音)―― 遊女の――(呼吸音)――見習い、やったさかいに――(呼吸音)」 ;SE 刃を洗面器の水ですすぐ→革砥を1往復 【ちせ】「ちせを……(呼吸音)――買い取った――(呼吸音)―― 廓(くるわ)の――(呼吸音)――遣り手(やりて)はんには―― 期待、して……(呼吸音)――もろうとった――(呼吸音)―― もんですけど――(呼吸音)――な――(呼吸音)」 【ちせ】「(ほっとした長い溜息)」 ;1/前 【ちせ】「もみあげもこれでさっぱりしましたな。 あとはお鼻の下と、眉毛をそれば、カミソリの時間はおしまいですわ」 【ちせ】「せやさかい。もっかいシャボンを泡立て直して……」 ;SE シャボン泡立て 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)―― ゆっくり、ゆっくり――(呼吸音)(呼吸音)―― 丁寧に――(呼吸音)――丁寧、に――(呼吸音)―― ふんわり、と――(呼吸音)(呼吸音)――で」 ;$=SE 鼻の下にブラシでシャボンぬり 【ちせ】「そしたらお鼻に……(呼吸音)(呼吸音)―― んふふっ――シャボンのお髭はん――(呼吸音)(呼吸音)―― えらい立派な白ひげで……(呼吸音)(呼吸音)―― 海軍はんみたいに――(呼吸音)――見えますなぁ――(呼吸音)――ん」 ;SE 鼻の下をカミソリであたる(継続) 【ちせ】「お鼻の下は――(呼吸音)(呼吸音)―― 切ってもーたら……(呼吸音)(呼吸音)―― えらい血の出るとこやさかいに――(呼吸音)(呼吸音)―― 小さく小さく……(呼吸音)――刃ぁ動かして……(呼吸音)」 【ちせ】「上から下にが――(呼吸音)(呼吸音)―― 終わったら――(呼吸音)(呼吸音)―― 下から上にで――(呼吸音)(呼吸音)―― 仕上げ、して――(呼吸音)(呼吸音)――よしょっ」 ;SE 刃を洗面器の水ですすぐ→革砥を1往復 【ちせ】「ん、で――(呼吸音)(呼吸音))」 ;SE シャボン泡立て →シャボン塗り 【ちせ】「最後は眉毛に――(呼吸音)(呼吸音)―― 右も、左も――(呼吸音)(呼吸音)―― シャボン――(呼吸音)(呼吸音)―― 塗っ、て――(呼吸音)(呼吸音)――」 ;SE 眉毛の上側カミソリであたる(継続) 右眉 【ちせ】「眉の上も……(呼吸音)(呼吸音) 切れやすいとこやさかいに……(呼吸音)(呼吸音) カミソリの……(呼吸音)――刃、で――(呼吸音)―― 撫ぜる――(呼吸音)――みたいに――(呼吸音)」 :左眉 【ちせ】「左の――(呼吸音)――眉も……(呼吸音)―― おんなじに、に――(呼吸音)(呼吸音)―― そーっと――(呼吸音)――そーっと――(呼吸音)―― 撫ぜて――(呼吸音)――さす、って――(呼吸音)……うんっ」 【ちせ】「(剃り終えて安堵のため息)」 ;SE 刃を洗面器の水でよくすすぐ→革砥を5往復 【ちせ】「(満足げな呼吸音)*4」 ;$=SE 洗面器の水で手洗い 【ちせ】「っと。あとは指もシャボンでよーぉ洗って…… $ (呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――よーし」 【ちせ】「ほんなら、剃り具合みますさかいに。 すこぉし失礼しますな」 ;$=SE 指で顎、鼻の下、眉まわりと撫ぜていく 【ちせ】「ん…… $ (様子をみる、慎重な呼吸音)*4―― んふふっ! うん、よーお剃れてる」 【ちせ】「お客はん、お顔あらってさっぱりされるなら、温泉もいつでもはいれますよって、ご自由に。 うちは、こんお部屋、プチ打ち上げに備えて、お掃除して整えておきますよって」 ;SE ちせ立ち上がって足音→;9/前遠 ;9/前遠 【ちせ】「ほんなら、箒、失礼しますな」 ;SE 箒がけ(30秒ほどでF.O) 【ちせ】「(箒がけする呼吸とニュアンス、30秒)」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track3:ちせと火鉢で炙りもの ;//////// ;9/前遠 (うつむいてオフマイク) 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」 ;環境音 F.O 室内+火鉢で炭火パチパチ ;9/前遠 (顔あげて) 【ちせ】「ああ――お客はん――うふふっ、綺麗さっぱり、 男ぶりがいっそうあがりましたな。 プチうちあげも、おかげはんでさらに雰囲気出ますなぁ」 ;SE 炭が爆ぜる音。パチっ 【ちせ】「あらまぁ! 炭まで爆ぜてはしゃいどります。うふふっ。 (呼吸音)(呼吸音)…… ああ、これな? 火鉢ですわ。七輪やのーて、火鉢。 板長はんが、ゆったりすごすならこっちのほーが、ゆーて、わざわざ仕度してくれたんですわ。 あ! 仕度ゆーたら、こっちのお重も……ほら」 ;3/右 【ちせ】「んふふ、板長はん、『プチ打ち上げするねん』ゆーたら、えらい張り切ってくれはって。お魚はヒラメにししゃも、貝はサザエ。お野菜はとおもろこしとアスパラにししとお。お肉は豚に牛。肉巻きの焼きおにぎり用のもありますなぁ。で、もちろん焼き鳥に、デザート用のバナナまで」 ;$=SE グラスにビール瓶あてる音 【ちせ】「お飲み物もな? $ 冷えたビールはもちろん、日本酒に焼酎にワイン。ゆずジュースに烏龍茶にりんごジュース。それからもちろん天然水の湧き水も――ああ、もちろん沸かし湯にしてお茶もいれられますし、お好みならお燗もつけられますさかいに」 ;3/右 (接近囁き) 【ちせ】「ね、お客はんのはじめの一杯は――(呼吸音)(呼吸音)―― うふふ、そんなら」 ;SE 飲み物を注ぐ ;3/右 【ちせ】「で、ちーせーは。りんごジュースでお相伴〜」 ;SE ちせ、手酌 【ちせ】「ふふっ、廓やったらこないなことはせえへんのやけど。 いまはお座敷やのうて、うちうちのプチ打ち上げのお席やさかいに…… 乾杯で、お祝いの宴、はじめましょおか」 【ちせ】「(嬉しげな呼吸)――ほんなら、『かんぱーーーい』」 ;SE 乾杯 【ちせ】「(上品にこくこく飲む音)……ふっ。 なんや、いつもよりおいしいなぁ。お客はんが、そないくつろいだお顔見せてくれてはるおかげかなぁ」 【ちせ】「っと。炙りもんもそろそろはじめましょうな。 まずは何から――(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ほな、ちせがおまかせであぶらせてもらいますな」 :$=SE とおもろこしを網に 【ちせ】「まずは、時間がかかるとおもろこしを端っこにのせて―― $ それとヒラメ、炙りましょかねぇ」 ;SE ヒラメを網に ;SE ヒラメの身側を炙る 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「ヒラメは、さっぱりと塩ふってあるゆう話ですわ。 お箸でつまんだ感じでもう、むっちりと身がしまってて。 ……ああ、これは日本酒と抜群にあいそうですなぁ」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)……ゆえは、名前に縛られたあやかしですよって、 この大きな体に顔や姿は禿……こどもじみたままで変化はできひんけれど―― 見かけによらず、お客はんよりずっとずうっと年上ですさかいに――っと」 ;SE ヒラメをひっくり返す 【ちせ】「ふふふっ、ええタイミングでひっくりかえせた。 皮にこんがり焼き目がついて……(くんくん)――ええ香りやねぇ〜。 いっとお美味しい焼き加減まで、もーちょこっとだけ辛抱したってや」 【ちせ】「あ! お値段のことお伝えしてへんかったね。 あんな、このプチ打ち上げは、無料。サァビス。 なんでって、お客はんが長期滞在の上客はんで、 修羅場いうんもあけはった、そのお祝いゆーことがもちろん一番なんですけどな」 【ちせ】「実は、団体客はんの当日キャンセルがありましたんよ。 せやさかい、お客はんにたべていただけたほーが、 食材的にも、板長はんてきにもずっとずうっと嬉しいし。 そ・れ・に」 ;3/右 (耳うち・ささやき) →;3/右 【ちせ】「ちせ的には、なにもなくてもお客はんにたーくさんたべていただきたいなー、思とったから。一石二鳥……三鳥で―― っと。ああ、ええ塩梅に焼けました!」 ;SE 網からヒラメあげる 【ちせ】「そしたらお箸でほぐして、ほぐして―― まずは皮目のところから。 はぁいお客はん――『あーーーーーーん』」 【ちせ】「(たべてるのをにこにこ見守る呼吸)*4」 【ちせ】「んふー、お顔が『おいしい』言うてはる! 皮はぱりぱり、えんがわふんわりの焼き具合になっとったみたいやね。 よかった〜」 【ちせ】「っと、ヒラメたべとる間に次は……お肉にしましょか。 牛肉やったら、すぐに火ぃとおって――なんなら通さへんでも食べられますさかいに」 【ちせ】「肉は全部、上の面だけ塩コショウしてあるゆうお話ですわ。 せやさかい、塩コショウしてある面をそのまま上に、網に乗せて〜」 ;SE 牛薄切り肉を網に 【ちせ】「っと、とうもろこしも転がしとかな、黒焦げになってしまいますな」 ;SE とうもろこしごろり 【ちせ】「で……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)―― このっくらいの厚さの牛肉なら、ひっくり返したりせんでもな? お肉の中の油が、表側から見てもぷつぷつ湧き出るようになったら―― (呼吸音)(呼吸音)――ほい、いまがひっくり返しどき!」 ;SE 牛薄切り肉ひっくり返す 【ちせ】「そしたら手早く返した面に塩コショウして〜」 ;SE ペッパーミル→ソルトミル 【ちせ】「ん。あとはもう、お好みの焼き加減になったら網からあげて食べればしまいやね。 お客はんのお好みの焼き加減であげるさかいに、ええ塩梅になったら――な」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ほい!」 【ちせ】「あああ、ええ香り、ええ焦げ目。 ちせもな? んふふ〜 こんくらいの焼き加減が一番好きなんよ。 お客はんと好みおそろいで、なんやちょこっと嬉しいなぁ」 【ちせ】「っと――無駄話してる場合やないな。 (ふーーーーっ、ふーーーーーっ、ふーーーーーーっ)」 【ちせ】「んふふっ、ほんなら、『あーーーーーーーーーん』 (見守る呼吸音)(呼吸音)(呼吸音) んふ〜、とろけそうなお顔! 見てるこっちにも美味しさがつたわってきますわぁ」 【ちせ】「お客はん……お姿みかけんよーになるまえも、 なんやこの……お忙しそういうか、大変そうなご様子してはりましたもんなぁ」 ;肉を網に乗せ 【ちせ】「おいしいもんをおいしい感じるゆーんも……(呼吸音)―― 実は余裕があれへんと、むつかしこととも聞きますし――(呼吸音)―― うふふっ、お客はんが、そない幸せそうなお顔みせてくれるよーになって」 ;肉返し →ペッパーミル→ソルトミル 【ちせ】「ほんま、よかったなーって思います。 ちせだけやのーて、板長はんも、女将はんも、 なんなら出入りの魚屋の、まことこまいうあやかしも、心配しとりましたさかいに――(あむっ)」 【ちせ】「(はむっ、はむっ、はむっ――こくっ) ふううっ、ほんまおいしいなぁ。 お客はんはきっと、空気がよろしいんやろうな。 人間はんたちにもそないなのかもしれんけど――ちせたち、あやかしにとっては、特に」 ;肉を網に乗せ 【ちせ】「お客はんの、自然体なとこゆーか……あやかしを色眼鏡かけんで見てくれはるところに、ほっとさせられるのかもしれんなぁ。 ちせなんかはもう、生きとったころ――ただの人間だったころから、色眼鏡で見られまくっとったさかいに」 【ちせ】「体が大きゅうなりすぎたって、中身は他の禿たちと、ほとんど変わらへんのになぁ。 大禿大禿って、見せもんみたいに扱われるようになってもーて」 ;肉返し →ペッパーミル→ソルトミル 【ちせ】「お客はんは……ふふっ、ちせのおっきさのことなーんも言わんと、ごくごく普通の仲居として扱ぉてくれて…… そんなんほんとに無いことやさかい、ちせ、うれしゅうてうれしゅうて。 (呼吸音)――っと」 ;SE 箸で肉つまみ 【ちせ】「(ふーーっ、ふーーーっ、ふーーーっ)。 はぁい、『あーーーーーん』(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――んふふふふっ」 ;3/右(密着) “っと”で→;3/右 【ちせ】「せやさかい。ちせが貰うた嬉しい気持ち。ほんの少しでもお返しできとったらええんですけど」 ;3/右 【ちせ】「って、とおもろこしももーちょっとですな、もっかい返して――(呼吸音)―― そしたら次は――(呼吸音)――せやね、サザエ焼きましょ。 んしょ……(呼吸音)――よ」 ;SE 網にサザエのせる 【ちせ】「サザエをつぼ焼きにするときは、中のおつゆが零れんように、口を上にして…… 乗せて――(呼吸音)――乗せ、て――っと」 【ちせ】「(様子を見守る呼吸音)*3」 【ちせ】「うぴゃっっ!? って、あらあら失礼。 けど……わ――うわわ、ぎゅって縮んで、ぶくぶく泡出て―― えらい新鮮なことですなぁ」 ;‘おいしゅう”は、お客はんにではなく、サザエに。 【ちせ】「口を上にして焼かんとおいしいお汁が垂れてしまいますさかいに、そないするしかないのんですけど、まぁ……こないな姿は生々しうて――(吐息) おいしゅうおいしゅういただきますから、堪忍してな」 ;$=SE 醤油垂らす 【ちせ】「あっ! いうてる間にぶくぶくがもう―― ええと……こないなったらお醤油垂らして―― $ あ、ぶくぶくがへっこんで……っと、せやったせやった」 【ちせ】「バターとニンニク入れてもおいしいて板長はんが用意してくれたんですけど――(呼吸音)(呼吸音)――せやったら、いれてみたのと醤油だけとの、両方用意してみましょうな」 ;$=SE サザエにバターとニンニクとをスプーンでちょいちょい入れる 【ちせ】「ん…… $ (呼吸音)(呼吸音)――っと」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――うん、よさそ。 ほんなら――っと……竹串つこうて、蓋になってる殻をはずして――ん……」 ;SE 竹串であわびの身を引きずり出す 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)――ああ、ずるーんて綺麗に身を出せました。 板長はんの仕込みですさかいに、砂は綺麗に吐かせてくれてはりますやろうが、肝の部分はどないにしましょ。ちせには苦いと思うんですけど、それがおいしいゆう方もおられますやんか」 【ちせ】「あ、もちろん好き嫌いとかあるようやったら―― とおもろこしもそろそろ食べごろですさかいに、そっちにしてもよろしいですけど」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)――ほな、そないにして――っと。 はあい、お客はん。『あーーーーーーーん』」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)―― んふ〜お口にあったようならなによりですわ。っと、せやったせやった」 【ちせ】「あんな、んふふ。ちせが大昔まだ人間で、廓(くるわ)で禿しとったころに、お姐はんたちがやっとんの見て、憧れとった飲み方なんですけどな」 【ちせ】「身をたべて、けど、お汁がまだまだぐつぐついうとるサザエの殻に〜、日本酒!」 ;SE 日本酒とぷとぷ 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――んふふ〜、ええ音〜、ええ香り〜」 【ちせ】「こないにして〜、お燗がつくのを待って〜待って〜…… (呼吸音)(呼吸音)―― 沸騰させちゃわんうちに、もちあげて」 【ちせ】「はい、お客はん――(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)―― あー、えへへ。そないなことなら、ちせもお相伴させてもろうて」 【ちせ】「『いただきます』。ん〜……ええ香り。大人の香りやねぇ。 (ドキドキしている呼吸音)――(ぺろっ)――ああ……(ぺろっ)――これがお姐はんたちの味おうとった……」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)――ふえっ!? 心配は御無用ですよ、お客はん。 確かにちせはおっきな体にまったくにあわん、こどもみたいな顔しとるけど」 【ちせ】「お客はんよりずーっとずーっと年上の、今年で……1200歳? くらいにはなるあやかしですさかいに、 うふふっ、お酒の一杯や二杯――(こくっ――!!!?) けほっ! けへっ!!」 【ちせ】「なーんやこれ、辛っ!!! うっわ、りんごジュースの方がずっとええわ。 ほんま、大人連中こないなんよー飲みよるなぁ――って、はっ!? あうっ――あ……」 【ちせ】「その――ええと。こほん。 ちせはな? 1200年も廓に生き続けとった、たいへん大人なあやかしやけれども―― その……体質! 体質的に、このお酒はちょこーっとあわへんかったのかもしれんね」 「けど――な? ちせの大人なとこをもし、お客はんがもっと見たいって思うてくれはるんなら」 ;3/右 接近ささやき 【ちせ】「廓の遊びの1から9まで、なーんでもお客はんに教えてあげることもできまっせ」 ;3/右 (うつむいてひとりごと) 【ちせ】「もっとも……水揚げもせんうちあやかしになってしもたさかいに、10は教えてあげられへんのやけど――あ、いやいや」 ;3/右 【ちせ】「お客はん、ご興味あります? 廓の遊び。 ほんならプチ打ち上げの後半戦は、五重塔(ごじゅうのとう)やら投扇興(とうせんきょう)やら、ちせがいちから、手ほどきをしてさしあげますな!」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track5:ちせとお座敷遊び ;//////// ;SE 食器をお前後と運ぶ音→置く ;9/前遠 (なるたけ遠く。マイクに背中) 【ちせ】「そんなら、さげといてなー」 ;SE ふすま閉める ;SE 食器群、ふすまごしに遠ざかっていく ;環境音 火鉢+室内 F.I. ;9/前遠 【ちせ】「さてさて。お料理も綺麗に片付きましたさかい、 お座敷遊び、してみましょーか」 ;SE 畳の足音 ;9/前遠→;8/左前→;7/左 となりに座る ;7/左 【ちせ】「ふふっ、お座敷遊びはちせ、上手でっせ。 なんせ1200年、ずーーーっと禿しとるんわけですさかいに」 【ちせ】「お座敷遊びいうんは、今日日(きょうび)は芸者はんとか舞妓はんがしてはることですけど。 ちせが生きとったころには、芸者はんだけやのうて、ちせのような禿やお新造(しんぞ)はんも、 お姐はんを待っとる旦那はんのお相手で、やってましたんよ」 【ちせ】「ああ……その辺のことも、今の時代とは変わっとりますさかいに、ちょこっとだけご説明さしあげますな。 今日日は“花魁(おいらん)”でひとくくりにされとる遊女は、ちせが新町(しんまち)におった…… いまから400年くらい前ですかなぁ、大阪に、幕府公認の色街があったころには、かなり細かく階級分けされておりましたんよ」 【ちせ】「遊女の頂点が、太夫(たゆう)。お顔も芸事(げいごと)――三味線やら謡(うたい)やらも――それから頭もえらいことよーないと務まらんかった、最高位の遊女のことですな。 お公家はんはら大名はんやらのお相手をつとめたり、奉行所に出張にいって三味線をご披露されたり。 今でいうセレブな遊女が、太夫やったんですわ」 【ちせ】「太夫いうのが最高級の遊女ゆうんは、島原やら吉原やら新町やらができるずーっと前。 ちせがそれこそ人間だったころの廓から、変わらんで続いとった伝統でしてな」 【ちせ】「ちせがお仕えしたった篝火姐はんは、まっこと、ほんまもんの太夫でした。 お顔もお体も綺麗で綺麗で、芸も達者で、俳句まで詠まれて、心根もやさしゅうて」 【ちせ】「禿や新造をストレスのはけ口にする遊女はんも珍しゅうなかった時代に、 篝火太夫は、ちせがさむうてくしゃみしたなら? ちせが大きゅうて着るもん探すのも大変やろうからいうて―― なんと! 太夫ともあろうお人が! 手ずから針仕事して!! 綿入れこさえてくれたんですわ」 【ちせ】「いやもう、ありえんほどありがたいことで、ちせ、廓中から嫉妬されて……逆に大禿大禿いうていじめられる原因にもなってしまいましたけど。 それでも……あの綿入れのあったかかったこと。いまでもはっきり思い出せますわ」 【ちせ】「まぁ。そないなわけで太夫が頂点。で、その下に天神(てんじん)はん、鹿子(かのこ)はんやらいうように、順番に階級がありました。 関東――江戸の吉原では、最上位が太夫なのは変わらんで、その下は、格子(こうし)はん、散茶(さんちゃ)はん、局(つぼね)はんいわれとったそうですな」 【ちせ】「そないなふうに、太夫はんがおった時代は序列いうか階級いうかも、しっかりとしておったもんですけど―― のちのちに太夫にふさわしい遊女がでんようになって、階級が消滅してからは、まあいっしょくたくに‘花魁”(おいらん)いわれるようになりましたんよ」 【ちせ】「‘おいらん”いうんは、なんでも吉原の方の禿や新造が、自分のお仕えしてる遊女はんのことを、『おいらんとこのお姐はん』いうとったたとこから広まったいう話を聞いたこともありますな、ま――(ぺろっ――*眉毛こすって音を出してください)――眉唾ですけど」 【ちせ】「で、な? 遊女はんは、旦那衆(だんなし)をお迎えするのがお仕事やさかい、 遊女になるまえの見習いが、その身の回りのお世話をするしきたりだったんですわ」 【ちせ】「一番ちみっこいのが、禿(かぶろ)。これも吉原なんかでは『かむろ』いうとったみたいですけど――ちせの渡り歩いた廓では、どこでも『かぶろ』いうとりましたな」 【ちせ】「禿はほんま、ちいちゃな子供で――遊女が産んでそのまま廓にのこった子ぉとか、貧しい家に産まれて女衒(ぜげん)はんに売られてしもうたこぉとかが、禿になって、廓の下働きを務めましたんよ」 【ちせ】「数えで15くらいになって、体が育って月の物を迎えるようになって。 目鼻立ちも体つきも、旦那衆に興味をもってもらえるようになると、禿から新造になりますな」 【ちせ】「新造にも身分があって、一頭上から呼び出し、その次が昼三(ちゅうさん)、一番下が留袖。 新造になるときには突き出しいう……まぁお披露目のイベントがあって、呼び出し新造の突き出しなんて、ちょっとしたお祭りみたいで、 それはそれはにぎやかなもんでしたなぁ」 【ちせ】「新造はもう、ほんまに遊女の見習いで……旦那衆のどなたかが興味をもちはって、水揚げ―― その……な、おなごにしてもらいますと、それがもう、遊女としてのデビューいうことになりました」 【ちせ】「で、その新造やら禿やらもやっとったのが、お座敷遊び。 まずは……えへへ、ちせ、おしゃべりしすぎて喉が乾いてしもうたさかい、 『五重塔』から、お客はんに楽しんでいただくとしましょうな」 【ちせ】「五重塔はな? 盃をいつつ使うお座敷遊びなんですわ。 お膳の上に、こないして盃を、おとさんように、崩さんように――」 ;SE 声にあわせて、1枚ずつ盃を盃の上にかさねていく 【ちせ】「ひの――(呼吸音)――ふの――(呼吸音)――みい――(呼吸音)――よぉ――(呼吸音)――いつ。 いつつ、五枚重ねますやんか。 そしたら……ほんまは清酒でやるもんなんですけどな」 ;7/左 (接近囁き) 【ちせ】「ちせ、ほんまはお酒強よないから、りんごジュースで堪忍して、な」 ;7/左 【ちせ】「んふふっ。そしたら、清酒がわりのりんごジュースを、 盃で作った五重の塔のてっぺんとこからこないして――」 ;SE ゆるゆると五段重ねの盃に烏龍茶を注いでく 【ちせ】「とぷとぷ……ゆるゆる――(呼吸音)―― こぼさんように――(呼吸音)―― そそいで……(呼吸音)――そそいで――っと」 【ちせ】「ふうっ、これで、全部の盃になみなみと注がれましたやんか」 【ちせ】「そしたら、先にちせがお手本みせますな? こないにして、手ぇつかわんで、口だけで……ん――」 ;SE 口だけで塔の一番上の盃を取り→そのまま飲み干し→お膳の別の場所に置く 【ちせ】「(あむっ)――(呼吸音)(呼吸音)―― (んっ――こくんっ)――(鼻から吐息)……(呼吸音)(呼吸音)―― ん……(呼吸音)――っと」 【ちせ】「こないにして、五重の塔から盃とるのも、その盃を飲み干すのも。 飲み干した盃を、お膳の別のとこにおくのも、ぜぇんぶ手ぇ使わんと口だけでするのが、 『五重の塔』の、ルールですわ」 【ちせ】「ちせがやったら、お客はんの番。お客はんがやったら、またちせ。 そないにして交代交代に、空にした盃つこうて、もとあった五重の塔のおとなりに、 あたらしい五重塔を建てていく」 【ちせ】「もしよかったらお客はんも……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)―― ん〜……お上手やわぁ。とてもはじめてとは思えへんけど…… ひょっとして、経験あらはったりとか」 ;SE 同じ手順での盃移動 【ちせ】「まぁ、どっちにしてもまたちせの番、で―― (はむっ)――ん――(呼吸音)(呼吸音)―― (っ――こくっ――こくんっ)――(鼻から短い吐息)……(呼吸音)(呼吸音)―― んんっ……(呼吸音)――(安堵の息)――ふぅ」 【ちせ】「これで三段。上に行けば行くほど、 と……本来はお酒でやるもんやさかい、飲めば飲むほど、 五重の塔を組み立てていくんがあやしうなって……で」 ;SE 指で盃の塔を突き崩す 【ちせ】「どっちか、塔を崩してしもうたほうが負けいう他愛もない遊びですな。 他愛もない遊びではありますけど……フフッ――ちょっと、内緒ばなしええですか?」 ;7/左(耳打ち・囁き) 【ちせ】「五重の塔で旦那はんにたくさん飲んでいただいて、 で、旦那はんが寝てしもうたり、役たたずになってしもうたら、その晩のお姐はんが楽になりますやろ――ふふっ」 ;7/左 【ちせ】「せやさかい、お姐はんがいまひとつ気ぃのらんような旦那さんをお迎えしたときなんかは、 五重塔をがんばって――首尾よく酔い潰してしもうたようなときにはな、 お姐はんからあまぁいお菓子いただいたりして……ああ、ほんま、ほっぺが落ちそうに甘ぁいお菓子、いただいとりましたんよ、ちせ」 【ちせ】「っと。説明のために突き崩してしまいましたさかい、 ちせと勝負しはるいうなら、五重塔、今から再建しますけど……」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――うふふ、ざぁんねん。 ああ、お客はんを酔い潰したりしたかったいうわけと違いますよ。 そんなん、りんごジュースでできるはずもあらしまへんし」 【ちせ】「そないなんと違ぉて……ただ単に、ちせは……その。 ちせは、水揚げもすませれんかった、初(うぶ)なあやかしですさかいに……」 ;うつむいてぼそぼそ “ふわわ”→から顔あげて通常 【ちせ】「五重塔をひとつたてて、もっかいやるとこまで頑張れば―― お客はんと間接キッスできたなぁって………… ふわわっ! なんでもあらへん、ちせ、なーんもいうとりません」 【ちせ】「そないなことより、お座敷遊び。 五重塔の次は、投扇興(とうせんきょう)で遊びましょ」 【ちせ】「投げる、扇に、興じるって書いて、とうせんきょう。うふふっ、名前からして雅ですなぁ」 ;$=;SE 盃とお膳をよける ;7/左→;9/前遠 【ちせ】「そしたら、盃とお膳を片付けて…… $ よ……っと――」 ;投扇興参考動画 https://youtu.be/ZFxSLpB5czI ;特典表 https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/6/62/Bisen.pdf ;9/前遠 【ちせ】「まずは、お座敷に緋毛氈(ひもうせん)を敷きまして――ん……」 ;SE 緋毛氈敷く 【ちせ】「(作業中の呼吸)*4」 ;$=SE 座布団敷く 【ちせ】「まずは、簡単な決まりを覚えてほしいさかいに、審判の席こしらえましょうな。 ここが―― $ ひとまずの、お客はんの席」 ;3/右 【ちせ】「そしたらな、緋毛氈のまん真ん中に、これ。扇を投げて倒すための的をたてますんよ。 的の名前が、『蝶』――ちょうちょみたいな形ですやろ? で、両端にちいさな鈴がぶら下がっとって。 この鈴が――」 ;SE 蝶を耳元近くで振る 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)――な? ちりんちりんて、涼しくてええ音立てますやろう。 投扇興いうんは、緋毛氈の端っこから広げた扇をすーっと投げて…… 投げるというか、空気に乗せて滑らせて。 その滑らせた扇で、蝶を倒してちりんちりん言わせるいうお遊びですな」 【ちせ】「真ん中に蝶。緋毛氈のはしっことはしっこに旦那はんとお姐はん。 で、それぞれが五枚ずつの扇をもって順番に扇を投げあうて、 高い得点をとった方が勝ちいう――やってみるとこれがなかなか、熱うなってしまう、 スポーツみたいなとこもありましてな」 【ちせ】「的になる蝶を乗せておく、この桐の箱が、枕。 扇の要側、持ち柄の部分の木が枕――桐箱にあたってしまうと……」 ;SE 扇の持ち柄で桐箱を叩く 【ちせ】「コツリ、って、風情もなぁんも無い音がたちますやんか。 こうなってもーたら、その時点でマイナス1点。自分の持ち点が引かれてしまいます」 【ちせ】「で、コツリをおこさんで。ちゃあんと蝶を落としてちりん鳴らせたりしたら、扇と蝶と枕との位置関係によって、1点からなんと最高100点までの得点がもらえますんよ。 せやさかい、ほとんどの場合は最後の最後の一投まで、逆転勝利のチャンスが残るいうんも、また楽しいとこですな」 ;3/右 “ん”で→;11/右遠 【ちせ】「って、こないな説明するよりも、実際に投じてるとこみてもろうた方がわかりやすいやろね。 ほなら――ん――まずは、ちせが何投かしてみせますな」 ;SE 以下の動作に応じた音を 【ちせ】「まずは、扇を広げて……ん――蝶をよーみて、狙いを定めて――(呼吸音)(呼吸音)―― 蝶を狙ろーて、投げるいうより、空気に乗せて滑らす感じで――――っ!!」 ;SE 扇飛ぶ→蝶に当たって蝶を落とす 【ちせ】「っと。えらいひさしぶりにしては、うまいこといきましたな。 扇と蝶が両方毛氈の上に落ちまして、並び方が、ちせから見て、扇、枕、蝶の順だから、 これは『末摘花(すえつむはな)』いう技になりますな。2点の技やさかいに、まぁコツリや手習い……外れて0点よりはマシいう程度のもんですな」 【ちせ】「ほんなら、今度はもーちょっとええ点狙ぅて、二投目の扇を――」 ;SE バラリと、いい音で扇を開く 【ちせ】「(深呼吸)――蝶をよー見て、今度はもっと際どいところ……(呼吸音)(呼吸音)―― 枕と蝶の接しとるとこを狙ろーて、狙ろーて……(呼吸音)――!」 ;SE 扇飛ぶ、蝶は畳に落ちて、扇はまくらによりかかる 【ちせ】「お! お! これ、竹河! 15点!!!  蝶を音して、枕に扇が、要のとこだけ――扇の広がりの両裾の、どっちも毛氈についとらんから、15点! いや、ひさしぶりでこない大技決めるとは……いやいや、ちせもなかなかやるもんやねぇ」 【ちせ】「ちなみにな、お客はん。いまの扇の、どっちかかたっぽの端が毛氈にくっついとったら、点がたったの3点にガクンと落ちてしまいますんよ。 扇と蝶と枕の形が、ありえんもんになればなるほど点が高こぉ高こぉなる。それが、この投扇興の醍醐味ですねん」 【ちせ】「ほな。折返しの三投目は、100点の技! 夢浮橋(ゆめのうきはし)でも狙ぉてみますかね」 ;SE ばっ! と勢いよく扇を開く 【ちせ】「(調子こいてる、笑いまじりの息)――ふふっ――夢浮橋なんて、篝火太夫はんも決めたことない大技ですからな。 それを狙ぉて決めたいうたら……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――えいっ!」 ;SE 扇、お客はんの右耳をかすめて飛ぶ(風切り音が通過していく) ;11/右遠 “ああああ”いいながらすっ飛んできて;3/右(密着) 【ちせ】「あああああっ!? コツリどころやあらへん!! お客はん、いま、お耳に扇かすりませんでした!?」 ;3/右(密着) 【ちせ】「当たってない? 痛いことない? かすめて縁できれたりとかは――って――ああ……(呼吸音)(呼吸音)―― 赤ぉなっとる――右のお耳、こすったんかな。痛い痛いなぁ――ほんま、ごめんなぁ」 【ちせ】「(ふーーーーっ)(ふーーーーーっ)(ふーーーーーっ) ほんま、痛いことない? ゆーか……(呼吸音)(呼吸音)―― あ! うん。そやったらな、ちせ、お客はんのこと膝枕して、息ふきかけて、お耳の赤いのおさまるまで、ゆっくり丁寧に冷ましますさかいに」 ;3/右 (密着・囁き) 【ちせ】「な? お客はん。ちせにお耳、あずけてな?」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track6:ちせのだいじだいじ耳かき(右耳) ;//////// ;環境音 火鉢+室内 F.I. ;3 口寄せ 【ちせ】「(ふ〜〜〜っ)(ふ〜〜っ)(ふ〜〜っ)」 ;3 通常 【ちせ】「お客はん、ほんま痛ないの? お耳、まだ赤いままやけど――あ! せやせや」 ;SE ちせ、自分の巾着袋をあける ;4=SE 耳元でヘチマ水の瓶をふる 【ちせ】「ん……っと――(呼吸音)――あった。ヘチマ水(すい)。 これ、ほんまもんのヘチマを切って茎から出てくる水を小瓶に集めた―― $ 正真正銘、十割全部天然ものの、ヘチマ水なんよ」 【ちせ】「ちせが人間だった1200年前からずーっと、 お肌のほてりを冷ますのには、ヘチマ水が一番体に害なく効くいう話やし――(呼吸音) それに」 ;SE 指先で耳の縁撫ぜる 【ちせ】「……な? お客はんのお耳に触ったちせの指。すべすべですやろ? これが、1200年ヘチマ水使いつづけた、その効能やさかいに……(呼吸音)――ん」 ;SE ヘチマ水手のひらに取る→$で伸ばす 【ちせ】「手のひらにぴっぴとヘチマ水出して。 それをこないして―― $(呼吸音)(呼吸音)――伸ばして、広げて――(呼吸音)――で」 ;SE ヘチマ水に濡れた手で耳タッチ 【ちせ】「ぴとーーーー。 お客はんのお耳、ひんやりして気持ちええでしょお。 (呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ゆーか、赤みもほんのり薄らいできてるみたいやし、 すこーし、このまま揉み込んでみましょおなぁ」 ;SE ヘチマ水耳マッサージ 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――」 【ちせ】「ああ……やっぱり赤み――(呼吸音)(呼吸音)―― ひいてきてくれてますな……(呼吸音)(呼吸音)―― ほんま、びっくりさせてしもうたけど――(呼吸音)(呼吸音)―― お客はんにケガさせんですんで――(呼吸音)――救われます――(呼吸音)」 【ちせ】「お客はんも――(呼吸音)(呼吸音)―― とっさのことやったのに――(呼吸音)(呼吸音)―― きっと上手に避けてくれはったから――(呼吸音)(呼吸音)―― かすっただけで――(呼吸音)――お耳がちょこっと赤くなったくらいで……ありゃ」 ;SE stop 【ちせ】「ありゃ、ありゃ、ありゃありゃありゃありゃ〜」 【ちせ】「……(呼吸音)――ゆーか、考えるまでもない道理ですわな。 お客はんずーっと修羅場はゆーてはって、そのあとで二日間も倒れるように寝てはったさかいに、 お耳の中まで、綺麗にお掃除、できておるわけあらしまへんな」 【ちせ】「ほんなら……ね? びっくりさせてしもうたお詫びに、 このままちせに、お耳掃除させてくださいな。 お客はんのお耳の中まで、だいじだいじに、綺麗にきれいに」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)……ふふっ。そうしたら、浅いとこからはじめましょうなぁ」 ;耳かき音(浅・継続) 【ちせ】「お客はんのお耳……ん……(呼吸音)(呼吸音) 裏っ側、も――(呼吸音)(呼吸音) さっき、ヘチマ水……(呼吸音)(呼吸音) 揉み込んだ、さかいに――(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「浅いところの――(呼吸音)(呼吸音) こまかいこまかい、ミミカスも――(呼吸音)(呼吸音) ぺっとり湿って――(呼吸音)――集まりやすぅて――(呼吸音)―― これは――えらい――(呼吸音)――やりやすいなぁ――(呼吸音)」 【ちせ】「あんまり――(呼吸音)――簡単、に――(呼吸音)―― 済んで――(呼吸音)――しもうても――(呼吸音)―― ん……(呼吸音)(呼吸音)―― さみしいような――(呼吸音)――気も、少し――(呼吸音)――っと」 ;SE stop ;SE ティッシュで耳かき拭き 【ちせ】「(ふーーーーーーーーーーーーーっ)」 ;耳穴覗き込むイメージで角度変えながら 【ちせ】「ん〜〜……んーーーーー。ん……(呼吸音)(呼吸音)――あ」 ;$=耳かき浅い 【ちせ】「取り残し。ここだけこそっと―― $ こりこりこりこりこり〜……(呼吸音)――うん。よろしいな」 ;耳かき拭き 【ちせ】「ちせ、なかなか耳かき上手ですやろ。 なんせ、篝火太夫はんの耳かきは、ちせが一人でまかされとりましたからなぁ。 うふふっ」 ;3/右 接近囁き 【ちせ】「傾城(けいせい)と歌われた太夫をめろめろにした耳かきの技。 今度はお耳の深いところで、たっぷりゆったり堪能してな」 【ちせ】「(ふーーーーーーーーーーーーーっ)(ふっ)」 【ちせ】「ほな、いきますな。ん〜〜〜んっ」 ;SE 耳かき(深・継続) 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ああ。 傾城いうんは――(呼吸音)(呼吸音)―― 城を、傾かす――(呼吸音)(呼吸音)―― 書きまして、な――(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「殿様が――(呼吸音)(呼吸音)―― 国のこともなんも――(呼吸音)(呼吸音)―― 放り出すほど……(呼吸音)(呼吸音)―― 溺れさせて――(呼吸音)――しまうような――(呼吸音)――」 【ちせ】「ひとときの、一夜の恋に――(呼吸音)(呼吸音)―― 入れ上げさせて……(呼吸音)(呼吸音)―― 国さえ滅ぼさせて――(呼吸音)(呼吸音)―― しまう――(呼吸音)――よおな――(呼吸音)――」 【ちせ】「そないな、遊女のことを――(呼吸音)(呼吸音)―― 廓の中では――(呼吸音)(呼吸音)―― 傾城、よんで――(呼吸音)(呼吸音)―― 別格扱い――(呼吸音)――しとりましたな――(呼吸音)――」 ;SE stop ;SE 耳かき拭き 【ちせ】「いまの、世の中……自由恋愛の世の中やとね。 そないな例え、大げさやーって、思われてしまうかもしれまへんけど」 ;SE 耳かき(深・継続) 【ちせ】「せやけどな……(呼吸音)(呼吸音)―― 少し、前までは――(呼吸音)(呼吸音)―― 結婚やなんやは全部――(呼吸音)(呼吸音)―― 家と、家とで決めること――(呼吸音)――で――(呼吸音)――」 【ちせ】「ことに、ちせみたいな――(呼吸音)(呼吸音)―― おなご、なんかは――(呼吸音)(呼吸音)―― 顔の、ひとつも――(呼吸音)――見たこともない――(呼吸音)―― そんな、相手に――(呼吸音)――嫁ぐ、いうのも……(呼吸音)」 ;SE stop ;SE 耳かき拭き 【ちせ】「決して珍しいことやない。 そんな時代が――ほんの二百年……いや、百年前ころまでは、 この国にもくっきり、ありましたんよ」 ;SE 耳かき(深・継続) 【ちせ】「せやさかい……(呼吸音)(呼吸音) 今の、な――(呼吸音)(呼吸音) 自由恋愛の――(呼吸音)――世の中、やと――(呼吸音) なんや、その……(呼吸音)……廓の……今様の……呼び名――(呼吸音)――」 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)―― ああ、そう、風俗――(呼吸音)(呼吸音)―― 風俗店――(呼吸音)――ソープランド……(呼吸音)―― 呼ばれとるとこ、は――(呼吸音)(呼吸音)――」 【ちせ】「特別な、場所……(呼吸音)(呼吸音)―― そないな色眼鏡で……(呼吸音)(呼吸音)―― みられとる気が……(呼吸音)(呼吸音)―― します、けれども――(呼吸音)(呼吸音)――っと」 【ちせ】「ん……ん〜。 (ふーーーーーーーーっ)(ふっ!)(ふっ!)」 【ちせ】「ん、っと……どないやろ―― ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ああ、うん。 お客はんのお耳、素直でとってもほじりやすいなぁ。 おかげですっかりピカピカにしてさしあげられました」 【ちせ】「ほんなら、次は左のお耳のお掃除ですな。 そっちもゆるゆる、大事に大事に、丁寧に」 【ちせ】「そうしたら、ちせが、 『ぐるーーーーーーん』いいますさかいに。 声にあわせて、左のお耳、ちせの方に向けてくださいな」 【ちせ】「ええですか。いきまっせ。せーの、 『ぐるーーーーーーーーーーーーーん』」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track7:ちせのだいじだいじ耳かき(左耳) ;//////// ;環境音 火鉢+室内 F.I. ;7/左 (接近囁き) 【ちせ】「ふふっ、左耳さん。よーいらっしゃいました」 ;$=SE ヘチマ水の瓶耳元でふる ;7/左 【ちせ】「駆けつけ三杯。まずはキリッと冷やしたヘチマ水―― $ ――ごちそうしますな。 ん……」 ;SE ヘチマ水手にとる→伸ばし広げる 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――あはっ。 お耳に触れとるちせの手も、ひんやり気持ちよー感じます。 ちせもすこぉし、火照ってしもうたのかもしれませんなぁ」 【ちせ】「ん。ほんなら、こっちのお耳にもヘチマ水揉み込んで、 お耳をすこぉし、湿らせましょうな」 ;SE ヘチマ水に濡れた手で耳タッチ 【ちせ】「ぴたーーーーーーーっ。 (呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)―― すこぉし温もぉたら、ゆるゆる伸ばしていきますな」 ;SE ヘチマ水耳マッサージ 【ちせ】「よ、っしょ……(呼吸音)(呼吸音)―― ん……(呼吸音)(呼吸音)―― なんや、お客はんは――(呼吸音)(呼吸音)―― お肌も素直な――(呼吸音)――気がしますなぁ――」 【ちせ】「素直、いうか――(呼吸音)(呼吸音)―― 馴染む、いうか――(呼吸音)(呼吸音)―― こうして、揉み込んで――(呼吸音)(呼吸音)―― おりますと――(呼吸音)――な?――(呼吸音)」 【ちせ】「ちせの、お肌と――(呼吸音)(呼吸音)―― お客はんの、お肌の――(呼吸音)(呼吸音)―― 境目、が――(呼吸音)――溶けて――(呼吸音)―― 入り混じりそうな――(呼吸音)――気に、なって――(呼吸音)――って」 ;SE stop 【ちせ】「あははは、ちせ、なにいうてるんやろ。 いややわぁ。ヘチマ水塗って冷やそいうとるのに、 塗っとるちせがのぼせとったら、世話ないわ」 【ちせ】「(落ち着こうとする呼吸)」 【ちせ】「うん。したら仕切りなおしで。 お耳、お掃除していきましょな。 こっちもやっぱり、浅いとこから――」 ;耳かき音(浅・継続) 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――」 【ちせ】「ああ、せやったね――(呼吸音)(呼吸音)―― ソープランド……風俗……(呼吸音)(呼吸音)―― 今様の、廓は……(呼吸音)(呼吸音)―― 自由恋愛の――(呼吸音)――世の中やさかい――(呼吸音)」 【ちせ】「肌と、肌との、まじりあい――(呼吸音)(呼吸音)―― 体の契り、だけを求めて――(呼吸音)(呼吸音)―― 旦那はん……いえ――(呼吸音)(呼吸音)―― 男はんが来るもんや――(呼吸音)――いうて――(呼吸音)――聞きましたけど」 【ちせ】「昔は……(呼吸音)――ちせが――(呼吸音)―― 廓に買われた――(呼吸音)――ような、ころから――(呼吸音) ほんの、百年ほど前の……(呼吸音)(呼吸音)―― 『戦後』がやってくる(呼吸音)――前は――(呼吸音)――」 ;SE ティッシュで耳かき拭き 【ちせ】「……縁談も、結婚も。全部が全部、『家のこと』。 親やら親類やらが決めたことに逆らうなんて、ありえへんかった時代だったんですわ。 ずっと、ずうっと、長いこと」 ;SE 耳かき音(浅・継続) 【ちせ】「そないな時代……(呼吸音)――男はんが、廓に来はるのは――(呼吸音)、 春を、体を――(呼吸音)(呼吸音)―― 買いに来はった――(呼吸音)(呼吸音)―― いう、よりも――(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「例え一夜の、恋であっても――(呼吸音)(呼吸音)―― 自分の自由になる、恋を――(呼吸音)(呼吸音)―― 自分で選んで――(呼吸音)――好いたおなごと―― 一緒にすごせる――(呼吸音)――そないな時間を――(呼吸音)」 【ちせ】「きっと、求めて――(呼吸音)――買いに、来て――(呼吸音)―― 太夫になるような――(呼吸音)――遊女はん……(呼吸音)―― すくなくとも、ちせのお姐はん――(呼吸音)(呼吸音) ――篝火太夫は――(呼吸音)(呼吸音)」 ;SE 耳かき拭き ;7/左 【ちせ】「(ふーーーーーーーーーーー)(ふーーーぅう)(ふっ!)」 ;7/左 (接近囁き) 【ちせ】「恋を求める想いに応えて―― 一夜の恋を――旦那はんとひとつになって、燃やして、過ごしておられましたわ」 ;7/左 【ちせ】「一夜の恋の他にはどこにもほんまの恋愛なんてあらへん―― それがあたりまえだった時代が、ずっと長いこと、ありましたんよ」 【ちせ】「…………ほな、ね。今度は深いところに」 ;SE 耳かき(深・継続) 【ちせ】「ん…………(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「せやさかい――(呼吸音)(呼吸音)―― 傾城、いうんも――(呼吸音)(呼吸音)―― お城を、国を――(呼吸音)――傾かす、ほど――(呼吸音)―― おんなに狂う、いうことも――(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「そないな時代には――(呼吸音)(呼吸音)―― めずらし、ことでも――(呼吸音)(呼吸音)―― なかったんです――(呼吸音)(呼吸音)―― その挙げ句の、な――(呼吸音)(呼吸音)――」 【ちせ】「心中やら――(呼吸音)――火付け、やらも――(呼吸音)―― 全然、めずらし――(呼吸音)(呼吸音)―― ことじゃ、のうて――(呼吸音)(呼吸音)―― 江戸の、吉原……(呼吸音)(呼吸音)」 ;SE stop ;SE 耳かき拭き ;SE 耳かき(深・継続) 【ちせ】「あそこ、なんかは――(呼吸音)(呼吸音)―― 江戸の、ど真ん中に――(呼吸音)(呼吸音)―― なって、しもうた――(呼吸音)(呼吸音) 元の吉原と――(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「それじゃあかんて――(呼吸音)(呼吸音)―― ゆうことで――(呼吸音)(呼吸音)―― お寺はんの裏に――(呼吸音)――移転、した――(呼吸音)―― 新吉原――(呼吸音)――とで――(呼吸音)――」 【ちせ】「250年ほどの――(呼吸音)(呼吸音)―― 歴史の中で――(呼吸音)(呼吸音)―― 23回も――(呼吸音)――大火事起こして――(呼吸音)―― 18回は、全焼しとる――(呼吸音)――くらいや、さかいに――(呼吸音)」 ;SE stop ;SE 耳かき拭き 【ちせ】「恋に焦がれて、足抜けしたくて――どさくさにまぎれそうと火付けした。 そない傾城じみた狂いさえ……。珍しいことじゃなかったんですよ。ほんまに」 【ちせ】「(ほっ、と、短く我に帰るような吐息)」 【ちせ】「(ふーーーーーーーーーーっ)(ふーーーーーっ)」 【ちせ】「もっともな。ちせみたいに禿のうちに死んでしもうた―― 水揚げもすませれんかったよーなちんちくりんは、 遠い昔の一夜の恋も、今の時代の自由恋愛も、 あはは、ぜーーんぜん縁のあらへんことやけれども。っと――」 【ちせ】「あー……もーちょこっとだけ取り残し。 お客はん……あとすこぉしだけ、じっと動かんと辛抱してな?」 ;SE 耳かき(深・継続) 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――っと――」 【ちせ】「痛く、せんよお――(呼吸音)(呼吸音)―― 大事に、大事に――(呼吸音)(呼吸音)―― あ――(呼吸音)――ここ、で――(呼吸音)―― ひっかい、て――(呼吸音)――のせ、て――」 【ちせ】「(慎重に耳かきを引き上げていく呼吸)*4――よしっ!」 ;SE stop ;SE 耳かき拭き 【ちせ】「(ふーーーーーーっ)(ふーーーーっ)」 【ちせ】「ん……――ん〜〜――うん。 うふふ、おつかれさんでした。 なんや、長話を聞かせてしもうて……あ――」 【ちせ】「(大きなあくびを見守る呼吸)――ふっ、うふふふふっ。 なんやちせ、お客はんを退屈させてしもうたみたいで…… (呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ああ」 【ちせ】「よー考えたら――考えんでも。 頑張った頑張って修羅場を抜けて、まる二日倒れるように寝てはって。 おきたらすぐに、プチ打ち上げ――どころか、お座敷遊びにまでちせ、つきあわせてしまいましたもんなぁ」 【ちせ】「疲れもまだまだ抜けきらんとこに、おなかいっぱいであれこれやって。 そらぁもう、眠くなるなゆー方が無理なお話で……ぁ――ふ……(抑えたあくび)」 【ちせ】「いややわぁ。ちせにもお客はんのあくびがうつってしもうた。 ゆーか、お客はん…… もしも、な? もしもちせの昔話を―― 昔と、今の、ちせの話を……」 【ちせ】「もう少しだけ、聞いてもかまへん思うてくださるようなら。 ……お客はんが眠りにおちはるそのときまで。寝物語を――」 ;7/左 (接近囁き) 【ちせ】「ちせ、お聞かせしてかまへんやろか」 ;環境音 F.O. ;//////// ;Track7:ちせと一つ床(添い寝パート) ;//////// ;環境音・無音(か、ごくささやかな室内空調) ;ここから完全に安眠導入なので、基本、ずっとウィスパーでリスナーさんを驚かすような方向のお芝居ないようにで、よろしくお願いいたします。 ;3/右 【ちせ】「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ふふっ」 【ちせ】「なんや、ちせ――まだ起きとるのに夢みてしもとるみたいやわ。 1200年生きとって――まさか今日の今日、はじめて男はんと……それも、他の誰でもないお客はんと……一緒の寝床にはいっとるやなんて」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――ひょっとしたなら昔にはそないな夜も、あったのかもしれません。 家族の誰か……父なり兄なりそないな人に――寝かしつけとってもらえたよーる夜も」 【ちせ】「せやけど、な。 ちせには、想い出がもう残っておりませんのですわ。 廓に買われて禿になるまえ―― 篝火太夫にお仕えするまえ――その前の、子供だったころの想い出が」 【ちせ】「……………………」 【ちせ】「ちせは、な。どこにでもある、貧しい農家の娘だった。そのことならば覚えとります。 日照りがおきて、飢饉になって――口減らしに売られたことは、覚えとります」 【ちせ】「そのころはちせ、こないに大きな体をしとらんかったさかいに―― 女衒はんにも、遣り手はんにも、『器量よしや、かわいいこぉや』って褒められて―― そんなんはじめてやったから嬉しくて……『ええとこに買ぉてもろおた』て、素直に思うて」 【ちせ】「……実際、篝火太夫にお仕えさせてもろたんやから、ほんまにちせは恵まれた禿で―― お姐はんはもちろん、他の遊女はんたちにも遣り手はんたちにも芸者はんたちにもかわいがってもろて。 ゆくゆくは天神、末は太夫やいわれて――完全にその気になっとって」 【ちせ】「せやけど、な……体がどんどん大きうなって、5尺を超えても6尺を超えてもとまらんで。 大禿やら笑われるようになってしもうて……その頃から、まわりの空気がガラって変わって」 【ちせ】「見世物小屋に売り飛ばそういうよーな話も、冗談やら本気やらわからんくらいの調子で言われて。 怖く怖くてなさけのうて……背中丸めて小さくしとって、そないしとったら余計にひどく笑われて」 【ちせ】「……そないな中でも、篝火太夫だけは――お姐はんだけは、変わらずやさしうしてくれはって―― 『ちせはいつかは太夫になる身やさかい』いうて、お化粧の仕方も、床の作法も、大きなるまえとおんなじように教えてくれて」 【ちせ】「……太夫になるような遊女はんはな。普通は、恋のお芝居がえらいこと上手なお人ですんよ。 旦那はんの一夜の恋に上手にあわせて――けれどもどこかは、冷たくきいんと醒めてはる。 旦那はんがたが太夫にぶつけるような思いを真正面から受け止めとったら……そりゃあ身もこころももたなくなるさかいに、あたりまえの話なんですけどな」 【ちせ】「せやけど――篝火太夫は――ちせのお姐はんはちごとりました。 一夜の間、夜が開けるまで――廓から去る旦那はんの背が、小いそうなって、見えんよーになってまうまで」 【ちせ】「篝火太夫の姐はんは、その旦那さんと恋に落ちて、恋に狂って、夫婦(めおと)になって…… そないなタイプの……太夫にはほんまは向いとらん。せやさかいに、最高やゆわれる太夫にならはった人やったんよ」 【ちせ】「そないなお人やったから、旦那はんの方も狂ってしもうて――身代(しんだい)をすっかりすりつぶして、借金まみれになって、廓に出入り禁止になって…… 『他の男の物になってしまうくらいなら』って――多分、思うて……廓に火、つけてまうほどに、狂ってしもうて」 【ちせ】「(静かな呼吸)*4」 【ちせ】「……お姐はんがおきとる間は、ちせも眠るわけにはいかんさかいに。夜が明けて、篝火太夫のお姐はんが、旦那はんの背を見送って―― 『ほな寝ましょうな』いうてもろうて、布団にもぐって――なんや、熱いなと思うて目が覚めて――」 【ちせ】「そしたらな、篝火太夫のお姐はんが――ちっさな細い体でな、ちせのこと必死に抱きしめてくれとって。 『えらい熱いけど、どないしたんでっかー』って聞いたら、『悪い夢みとるだけやさかいに、もっかい寝ぇや』て。優しゅう優しゅういうてくれはって…… ほんで、ふーって。眠ったんだか気ぃ失ったんだかわからんよーになって……」 【ちせ】「おきたときには、ちせ、あやかしになっとりました。 篝火太夫のお姐はんのおらへん、名も知らんような廓から廓へ渡り歩いて…… 新町でも他のどこでも、『大禿』いうてからかわれながら暮らしとる……そないなけったいなあやかしに」 【ちせ】「『ああ、ほんまに悪い夢や』思うて。寝ておきたらもとの廓、篝火太夫の腕ん中におるやろ思うて。 けどこの夢がいつまでたっても覚めへんで……だんだん、いろんなことがわかって」 【ちせ】「ちせが人間だったころ、大禿(おおかぶろ)いうもんがおるゆうて、絵巻に描いた絵かきがおって。 それがまったく別の、たぬきが化けたでっかい顔の、大禿(おおかむろ)いうあやかしといっしょくたにされて」 【ちせ】「そのせいでちせ、目覚めたときにちせのまま、大禿(おおかぶろ)いうあやかしにされてしもとって。 なんやあやふやでいごこちわるいし、時代がどんなにうつっても、廓をどれだけうつっても、 新町も遊郭ものーなって、赤線が廃止されて、戦後になって、なんちゃら風呂やらソープランドやら、廓の名前も次々かわって」 【ちせ】「……いつまでたっても目ぇ覚めへんし。いっそ消えてしもたら楽やろか思うたこともニ度や三度やなくてなぁ。 けど、その度に――(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「『悪い夢見とるだけやさかいに、もっかい寝ぇや』いうて笑ってくれた―― 篝火太夫のお姐はんのこと……思い出してな」 【ちせ】「せやさかい。夢から覚めて、またお姐はんにお仕えできる日がくるかもしれんて…… そう思うて、しがみつくようにへばりつくように暮らしとるうち…… ものべのの、ご開祖ちゃんやらいうあやかしから、誘いが来てな」 【ちせ】「人とあやかしと半妖とが笑って一緒にくらしとる村―― 土佐の高知のものべのいう村に、新しい旅館をつくるって―― その旅館の仲居として迎えたいって――手紙が来てな」 【ちせ】「廓の外で暮らしたことなんかなかったさかいに、迷って、怖くて―― せやけどもう、篝火太夫とちせが暮らしとったような廓なんてもう、 世界のどこにも残ってへんって、それもほんとは、ずうっと前からわかっとったから」 【ちせ】「思い切ってものべのに宿変(やどが)いして、『旅館あやかし』の仲居になって―― 女将はんやら板長はんやら、出入りの魚屋のまことこまやらと仲ようなって……。 ほんでいま、お客はんに、こないな話までで聞いてもらえて」 【ちせ】「もしな? いまこのときが夢だったとして。 目が覚めたら、篝火太夫のお姐はんにだっこしてもろて眠っとる……長い長い長い夢をちせが見とるんだとして」 【ちせ】「『しあわせな夢をみてましたー』って、姐はんにわらって報告できる…… 1200年生きて今はじめて、ちせ、そんなふうに思えとります」 【ちせ】「それに……それに、な」 【ちせ】「恋をお金で売り買いしとったような昔も、自由恋愛がそこらにごろころ転がっとるよーにまでなった今どきも。 ちせにはとーんと縁がなかった、恋心、いうもんを……」 【ちせ】「男はん、でも、お客はん、でものーて、その…… ちせの……ちせのな? 『旦那はん』って、呼びたいなって…… そう呼べたなら、えらいことしあせになれるんと違うかなって……思ってしまうような、その……」 【ちせ】「(告白したいけどできないトーンの呼吸)*4――あ」 【ちせ】「んふふ、そうやね。眠たいとこに長話、眠気こらえてつきおうてくれて……ほんま、おおきに」 【ちせ】「(しずかで優しい吐息)――ちせも、なんや、もう眠たいわ。 心配して、よろこんで、はしゃいで――なんやしらん、えらいドキドキドキドキしてしもて…… だいぶん、つかれてしもーたみたいや」 【ちせ】「…………おやすみなさい、お客はん。 明日も、もしも気がむいたなら? ちせと一緒にちょっとでも―― 時間、すごしてもらえたら、ちせはほんまに、うれしいなぁ」 【ちせ】「…………せやさかい。おやすみなさい――『また、明日』」 【ちせ】「(寝入ろうとする呼吸)*4」 【ちせ】「(寝入ろうとする呼吸)*4」 【ちせ】「(寝入ろうとする呼吸)*4」 【ちせ】「(寝入ろうとする呼吸)*4」 ;囁き+眠気の交じる声 【ちせ】「あんな……お客はん……もう、ねむってしもた?」 【ちせ】「もしも、ねむってなくても、な? これは、ちせの寝言やさかい―― 聞こえんかったことにして、また眠ってな?」 【ちせ】「(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)」 【ちせ】「おやすみなさい……ええと――その―― ちせの――きっと――できたら――未来の……っ!」 ;SE 照れて布団にもぐっちゃう ;布団にもぐってくもぐったこえ(できればマイク前でそれっぽく) 【ちせ】「『おやすみなさい――旦那はん』」 ;4*4セットの間に、興奮からだんだん落ち着いていき、寝息になっていく 【ちせ】「(寝入ろうとする呼吸*4」 【ちせ】「(寝入ろうとする呼吸*4」 【ちせ】「(寝入ろうとする呼吸*4」 【ちせ】「(寝入ろうとする呼吸*4」 【ちせ】「(寝入りつつある寝息x4)」 【ちせ】「(寝入りつつある寝息x4)」 【ちせ】「(穏やかな寝息x4)」 【ちせ】「(穏やかな寝息x4)」 【ちせ】「(熟睡寝息x4)」 【ちせ】「(熟睡寝息x4)」 ;//////// ;Track8 ちせの寝息ループ(ループパート) ;//////// ;ループ音声といたしますので、なるべくメリハリニュアンス抑揚のすくない、おだやかで深い寝息を一分x3セットお願いいたします 【ちせ】「(熟睡寝息)x1分間」 【ちせ】「(熟睡寝息)x1分間」 【ちせ】「(熟睡寝息)x1分間」 ;//////// ;Track9:おまけコーナー・フリートーク+Q&A ;//////// ;■以下のセリフは”演者様のもの”でお願いいたします。 アドリブ大歓迎――というか、質問と回答いただけたら、どう構成していただくのも大歓迎です! 【演者】「あやかし郷愁譚  〜大禿 ちせ〜 おまけコーナー、フリートーク&Q&S」 【演者】「みなさんこんばんわー。あやかし郷愁譚 〜大禿 ちせ〜。ちせちゃん役を演じさせていただきました声優のXXです! ちせちゃんとの宿屋での、プチ遊郭風なひととき、お楽しみいただけましたでしょうか?」 【演者】「えっとですね、このおまけコーナーでは、わたし、XXが、みなさんからいただいたご質問に、自由にお答えしちゃってオッケー! っていうコーナーなんだそうです。どんなご質問いただけてるのかな? 楽しみです。ええと――」 【演者】「ますは最初のご質問、読みますね。ん、と……」 【演者】「Q:XXさん、こんにちわ。 XXさんがあやかし郷愁譚に登場するってことで、とってもわくわくしています。 XXさんがいままで出演された作品たちと、あやかし郷愁譚とで、 「おんなじだ〜」って思ったところや、「ここが違う!」って感じたところはありますか?」 【演者】「(自由に回答をお願いします)」 【演者】「っていう感じですね! ご質問ありがとうございました! 次の質問は……ん、と、こちらにしましょうご質問にお答えしますね!」 【演者】「Q:ちせちゃんがもしXXさんのご近所に住んでたら、どういう関係になりそうって思いますか? 教えてください!」 【演者】「(自由に回答をお願いします)」 【演者】「――です〜! って、もうお時間なんだそうです。早いですね。 名残惜しいけど、次が最後のご質問になります」 【演者】「おたよりをくださったのは、『めでぃ』さん。 めでぃさん、ご質問ありがとうございます。 それじゃ、読みます」 【演者】「Q:『XXさんは、実際に「あやかし」を見たことはありますか? あやかしの中で、「このあやかしにはあってみたい」っていうこはいますか?』」 【演者】「(ご自由にご回答ください)」 【演者】「――以上です。お答えしたのは、『あやかし郷愁譚 大禿 ちせ』ちせちゃん役の声優、XXでした!」 【演者】「おっきいけれどかわいらしいちせちゃんとの宿屋でのひととき。 どうかこれからも、貴方の癒やしの、眠りのお供にしてくださいね?」 【演者】 「それじゃあ、また――次の夜にもお会いしましょう」 【演者】「大禿・ちせ役、XXでした! おやすみなさい。またあした」 ;おしまい