今日も学校では、姫宮さんと話す機会はなかった。  姫宮さんは、〝いつも通り〟だった。  ……だからこそ、悔しかった。  無意味に騒ぐ連中の輪の中で、静かに本を読みながら、時折その会話に参加して……可愛らしく微笑んで、冗談を言い合って。僕の家で『性処理メイド』として振る舞っている時とは異なる、純粋無垢な『姫宮小春』がそこにいた。  せめて違うクラスであれば、姫宮さんの日常を見なくて済むのに……。  真っ黒な感情ばかりが、鬱積されていく。  ──放課後。今にも雨が降り出しそうな曇り空。  僕は、玄関の重たい扉を開き、彼女を招き入れた。  淫らな色に堕ちた瞳の──『ヒメミヤコハル』を。  家族や友人には「ピアノの練習に行く」と言わせている。完全な催眠状態ではない日常の行動でさえ支配できるのだから、例のアプリは本当に都合が良い。多少であれば記憶の改竄だって可能だ。不満があるとすれば、日数の経過により効き目が薄れていく事。だから僕は、その兆候が現れたらすぐにあの音を聞かせて、催眠をかけ直している。  いつまでも、永遠に、姫宮さんを支配するために。  それはまるで、友達から借りたゲームを延々とプレイし続けているような感覚だった。返せと言われても、適当な理由で先延ばしを繰り返す。野蛮な行為はエスカレートしていき、やがてセーブデータすら僕の名前に書き換えてしまう。大切な思い出も全て、僕で塗り潰してしまう。罪に問われて当然の行為だというのに──最高に心地良いのだ──。 「……ご主人様?♡」  そんな僕を見て、姫宮さんが小首を傾げていた。 「えと──難しいお顔をされていますけど……考え事ですか?♡ ご立派に活躍されているご主人様ですから、日々悩みは尽きないかと存じますが……も、もし私でよければ、相談に乗りますので……その、何でもお話くださいね?♡ ふふっ♡」  ……いつも通り。いつも通りだ。  忠誠心たっぷりの甘美な声音で、僕を気にかけてくれる。  はじめの頃は何も思わなかった。けれど最近は、姫宮さんに傅かれるたびに、心の棘が大きくなる。目の前にいる姫宮小春さんが、本物ではないと理解してしまっているから。糖分過多な優しさが、嘘偽りの代物だと──僕が最も嫌う、『欺瞞』であると──気付いてしまったからだ。それなのにどうしてか、僕は何度も、彼女に迫ってしまう。 「ふはっ……おいおい姫宮さん。今日はやけに牝の匂いがキツいじゃないか。あぁ、そうだよなぁ。帰りのHRの後も……あの男と仲良くお喋りしてたもんなぁ……?」 「りーくんの事……でしょうか? なんでそれを、ご主人様が……?♡」 「ちっ。可愛い子ぶってんじゃねえよ──」  ぽけっと佇む姫宮さんの肩を掴んで──。  獰猛な獣のような息遣いのまま、至近距離で睨みつける。  僕は、ゆったりと舌なめずりをして、唇を濡らした。  姫宮さんにも、キスの準備をしろ、と命じる。  ご主人様の命令は絶対。メイドとして性処理の務めは当然。そのように認識を書き換えられている姫宮さんは、いやらしい舌使いで瑞々しい唇を涎塗れにしていった。 「んぷれるぅ……♡ んれろっ、れるぅ♡ んべぁ……♡」  曇天の薄闇が蔓延る廊下で──ぬらぁ♡と輝く彼女の唇。  腐敗した食べ物しかない荒廃した世界で、唯一の、甘い果実。  あのチャラそうな男と話しただけで牝のフェロモンを香らせてしまうような──股の緩いメイドには『再教育』が必要だ。まずは僕からの濃厚なキスで、身分を理解させてやる。  そうすれば、いつかきっと、催眠の必要もなくなるはず。  自然と、姫宮さんの想いは、僕に傾いてくれるはず──。  甘ったるい匂いがする唇に、しゃぶりつこうとした瞬間。  どざああああああああああ────。  外から、強烈な雨音が聞こえてきた。  突然の事に驚いたが、すぐに姫宮さんの肩を掴み直した。  湿気を纏った黒髪。淫靡な光沢を放つ唇。小さな身体。  視線でじっくりと舐め回してから、いざ、顔を近付けると──。 「え。なに。……や、やだっ────!?」  どんっ、と身体が突き飛ばされて、僕は尻餅をついた。  恐る恐る顔を上げると、そこには──怯えた姫宮さんがいた。  ヒメミヤコハルではない。普段の、『姫宮小春』だ。  震える両手で肩を抱き締めながら、僕から、遠ざかる。  信じ難い目の前の光景に、過呼吸になってしまっている。  スカートから伸びる膝も、がくがくと、痙攣していた。  一縷の望みにかけて、もう一度姫宮さんの表情を窺ったが──真っ青だった。 「な、なんで……姫宮さんは、僕の性処理メイドだろ……?」 「……っ? 何を、言ってる、の……? そんな訳、ない、よ……」  あまりにも弱々しい声量は、すぐに雨音で掻き消されてしまう。  僕は、堪らずに言い返した。姫宮さんを見詰めながら……。 「恋人同士みたいに抱き締めあったし、キスだってしたろ……。それに、僕の家に来るのだってもう何回目だよ……。自分の足でこの場所に来たってことくらい、姫宮さんも憶えてるでしょ……? なあ……? 嫌がる演技なんてしなくていいから、早く、僕と──」  焦りながら立ち上がって、姫宮さんに飛び掛かった。  だが、押し返されてしまった。再び拒絶されたのだ。 「い、いい加減にしてよ……。キミが言ってる事、ぜんぶ分かんないよ……っ。これ以上、嫌いになりたくないから……だから、お願い、もう……う、うぅ──っ……」  挙句の果てには、泣き出してしまった。  ……いや、僕が、姫宮さんを泣かせてしまった。  どうしていいのか分からなかった。これまで誰とも関わりを持とうとしなかった僕は、他人と仲良くなった事は勿論、傷付けた経験もないから。謝るべきなのか、慰めるべきなのか。適切な判断が出来ず、焦燥感のみを膨張させて、子供じみた反撃に出てしまう。 「い、今更騒ぐなよ……」  虚勢を張って、一歩、踏み出しながら。  片手で握り締めたスマートフォンで、催眠アプリを起動する。 「姫宮さんの処女だって、この僕が奪ったんだからさぁ……」  平然とした顔で、最低極まりない発言を吐き捨てる。  姫宮さんは、両手で口元を押さえて、えずいてしまっていた。 「嘘……嘘っ……。う、そ──────……」  姫宮さんの、怯え。恐怖。絶望。  彼女の全てを愛する僕にとっては、それすら興奮材料だった。  ひひっと悪魔みたいに笑ってから、『例の音』を響かせる。  強烈な雨音に負けないように、何度も、何度も何度も何度も──。  きィン────♡♡びぎぎィ────♡びぎッ……ぎ、ぎィ──♡きィ────ん♡ぎ、きぃ────ン♡びっ、びびっ♡びィ──ぎきィ────ンッ♡♡キィン♡きィッ♡び♡きィ────ん♡♡♡きィんッ♡♡きィィン──♡♡  重ねて聞かせる事で、催眠が深くなる訳ではない。  持続日数も伸びないし、発情が強まったりもしない。  言ってみれば、連中と同じ、無意味な行為の繰り返し。  八つ当たりに等しかった。性処理メイドとしての記憶を持たず、僕に処女を奪われた事実を知って吐きそうになっていた姫宮さんのあの表情は、奴隷として失格だ。  その鬱憤を晴らす為なら、手荒な躾けも厭わない。  そう正当化して、催眠をかけ続けてやった。 「あっ……あ゛っ……♡♡ う゛ひゅ♡ あ、ぁ、あ゛、あ゛──♡♡」  催眠アプリを連打しながら、姫宮さんに近付く。 「い゛、やっ♡ ま゛っへ♡ あ゛♡ や、め゛──ん゛っ♡ お゛っ……♡♡」  瞳からは光が失われ、口元はだらしなく緩んでいく。  もう、辛うじて立っていられる程度の力しか残っていない。  そんな姫宮さんの小さな頭を鷲掴みにして、唇を奪う。  ──ぶっちゅっ♡ねるぶちゅっ♡んべぇるれる♡  乾いた唇を舐め回し、強引に口腔内へと忍び込む。そしていつも以上の勢いで蹂躙して、生意気なお口をたっぷりと躾けてやった。二度と、僕を拒否できないように。 「んぶもっ……♡ ぶちゅ♡ お゛ぶちゅっ……♡ んぶひゅ、ぅ♡」  ピンク色に輝く瞳からは、一筋の涙が零れていた。  僕はそれすらも「れろぉ~っ」と舐め取ってしまった。  頬から目尻にかけて、ねっとりとした唾液で濡らしてやった。  透明な涙すら奪い、僕の匂いで『上書き』したのである──。 「……ひ、姫宮小春は……ご主人様のメイドです……♡ んちゅっ♡ ぶぢゅるぅ♡ ご主人様だけに仕え、性処理を担う……♡ メイド、で、ひゅぅ……ぉ゛っ♡♡」  刹那、姫宮さんの矮躯がぶるぶると震え──膝から崩れ落ちた。  濃密なお仕置きベロチューで、イってしまったのだ。  制服姿のまま廊下の床にへたり込む。開きっ放しの唇からは、生温い吐息と大量の涎が漏れていた。やがて姫宮さんは、四つん這いでこちらに近寄り、僕の膝に頬を擦り付けてきた。ご主人様に媚びる牝犬の仕草だ。凄まじい愉悦に、僕も崩れそうになる──。 「ご、ご主人様……♡♡ ご主人様っ……?♡♡」  そんな姫宮さんに、僕は、唾をペッと吐き捨てた。  誰もが羨む美白の肌が、べっとりとした唾で濡れ堕ちる。 「おまんこご奉仕、してもらうからな──?」  威圧的な命令。それでも姫宮さんは、悦んでいて──。 「…………はい♡♡」  満面の笑みで頷き、僕の部屋へと向かうのであった。     ※    ※    ※  メイド衣装に着替えた姫宮さんが、僕に跨っている。  細い指先でミニスカの裾を摘まみ、くいっと持ち上げると、無防備な膣口が露わになった。「面倒だからショーツを穿くな」と命じていたのだ。そして、牝臭が一気に広がる。本来の姫宮さんが持つ防衛本能なのか、催眠状態のヒメミヤさんの異常な発情の賜物なのかは判別がつかないが、そこにたっぷりと濡れた膣穴がある事に変わりはない。  姫宮さんが、ゆっくりと腰を浮かす。  それから、そそり立つ肉棒に手を添えて、位置を調整。  避妊具が被さっているかどうかの、最終チェックの後──。  愛おしそうに僕を見詰めながら、腰を沈ませていく──。 「ん゛っ……♡ はぅ♡ お゛っふぅ……♡ んやあぁ……♡」  お姫様の膣肉が、僕の肉棒で掻き分けられていく。  ぬぷぷぷりゅぅ──ずっぷぅんっ♡ばっ……ちゅん♡  あっという間に交わる事に成功した僕らは、共に悶えた。 「あっ……♡ はぁん……♡ これ、らめぇ……♡♡」  姫宮小春。改めて、その名を口にした。  男女問わずに羨望の眼差しを注がれ、教師からも厚い信頼を受けている、清楚可憐な優等生──あの姫宮小春のおまんこの感触。ねっとねとできっつきつな締め付け。これから先、何度味わったとしても、慣れる事はないのだろう。僕は下唇を噛んで、豪雨の如く降り注ぐ快楽を押し殺しながら、姫宮さんと……手を繋いだ。恋人繋ぎだった。 「腰……動かせよ……」 「ふぁ♡ は、ひっ……♡」  挿入を終えたばかりで意識朦朧な姫宮さんが、腰を持ち上げた。膣ひだで肉棒を舐めていき、余韻を少し楽しんでから──今度は腰を下ろす。  以降はそれの繰り返しだ。  次第に、上下運動の勢いは増していく。  快楽を貪り尽くすような──下品な騎乗位となっていく。 「ん゛ッはぁ……♡ あぁっ♡ いかが、ですかっ♡ ご不満などあればっ♡ 何でも仰ってくらひゃっ……♡ あ゛ぅっ♡ んぅっ♡ あっあっ♡ あんッ……♡」  たちゅんっ♡ばちゅっ♡ばちゅんっ♡どぱちゅんっ♡  腰や太腿の肉がぶつかり、重低音を奏で、淫汁を撒き散らす。  姫宮さんがいくら華奢な少女といえど、柔らかな媚肉を有する牝に変わりはない。故に、我儘な子供のように腰を振り乱そうが、僕の腰の上で愉快に弾むだけ。学園生活における姫宮小春さんは──「静」を司る女神のような存在なので、こうも淫らに暴れられてしまうと、脳の処理が追い付かなくなる。そこにいるのが本物の姫宮さんなのか分からなくなる。それでも、室内に響き渡る嬌声は、間違いなく姫宮さんの声音で──。 「自分だけ気持ち良くなってんじゃねえよ……ご主人様のためにもっと工夫しろっ……おまんこ締め付けるとか、姫宮さんからキスをするとかさぁ……!」 「はひゅっ♡ 申し訳ございませんっ♡ 今──すぐ、にっ♡」  すぐに姫宮さんは上半身を屈ませて、僕に密着してきた。  彼女の柔らかさを堪能させられて……キスも、してくれた。  姫宮さんから、僕に、優しい口付けを施してくれたのだ。  更に──むっちりとしたお尻を強張らせて──。 「ん゛ゅっ♡ ふ、ぎゅぅっ♡ んっ♡ ん゛~っ♡♡」  ──ぎちぎちっ♡みちみちぃっ♡  眉間に皺を寄せて、膣肉の締まりを強めてくれた。  一生懸命になって、僕の欲望を叶えてくれたのだ──。  主人として、褒めてやるべきだ。これが『おまんこご奉仕』の基本なのだと冷静に伝え、今後も同様の性処理に務めるよう命じるべきだ。しかし、僕にはその余力が残されていなかった。何もせずとも差し出される極上の快楽を享受するだけで精一杯であった。 「あ゛、はぁ……♡ ふふっ……♡ はい……♡ ご主人様は、私のおまんこ性処理で気持ち良くなってるだけでいいんです……♡ お射精まで……きちんとお世話させて頂きますから……♡ ねっ……?♡ んっ♡ あんっ♡ ほらっ……♡ ご主人様ぁっ♡」  催眠アプリの設定の通り、健気な奉仕に徹する姫宮さん。  情熱的な腰使いによって乱れた黒髪。茹で上がった頬。  発情一色だけれど、どこか虚ろな……ピンク色の瞳。  あぁ……本当に可愛い。姫宮さんの全てが、欲しい……。  悩まし気な表情の性処理メイドによる騎乗位に、僕はとうとう限界を迎えた。繋いだままの両手に力を込める。腰を突きあげる。避妊具越しではあるが、少しでも姫宮さんの奥で果てたかった。誰にも汚されていないお姫様の聖域で、精液をぶちまけたかった。 「姫宮さんっ……姫宮さぁんっ……うぁ──で、でるぅっ──」  思考回路が焼き切れ、視界が明滅する。  胸が張り裂けてしまいそうなくらい、心臓が暴れる。  呼吸が止まる。意識が僅かに飛ぶ。全身が痺れる。  死を覚悟したその直後に──鋭利な快楽に串刺しにされる。  何もかもが壊れた世界で、しかし姫宮さんだけは優しくて──。 「……切なそうなお顔、可愛いですよ♡ 捨てられた子犬みたいです♡ いいですよ♡ 姫宮小春のおまんこの中に……♡ ご主人様ザーメン♡ ぴゅっぴゅ♡ してください♡ 最後まで私の名前を呼びながら──イってください♡ ほら……イって?♡♡ イって♡♡」  慈愛に満ちた囁き。それから、ねっとりと粘着質なベロキス。  姫宮さんの舌で口の中が犯されているから、まともに喋れるはずがない。それでも僕は、姫宮さん……姫宮さん……と彼女の名を呼び、彼女を求めながら──射精した。  ──べろべろぶっちゅ♡れろれろねるぅ♡ぶっちゅ~っ♡  ──どびゅっ♡ぶびゅるっ♡ぶっぴゅんっ♡びゅるっ♡  ──どぷどぷどっぴゅ♡ぶりゅんっ♡ぶっ♡りゅぅ~♡  金玉に溜めていた精液を、残さずに吐き出していく。  避妊具がなければ、確実に姫宮さんを孕ませていただろう──。  針を使えば簡単に破れる「薄い膜」で確保されている安全性。それはまるで、僕と姫宮さんの関係性を象徴しているようだなと感じた。全て紛い物で、ふとした拍子にあっけなく崩れ去る。だが得られる快楽は凄まじいから、つい夢中になって、永遠を望んでしまう。  ヒメミヤコハルではなく、姫宮小春さんとの『永遠』を──。 「んッ……♡ はぅ、ッ……♡ んはぁ──♡」  姫宮さんが膝立ちになると、僕の肉棒はぶるんと抜け落ちた。  避妊具の先端の精液溜まりは、大量の白濁汁によって膨らんでいた。 「…………は、ふぅ♡」  どさり。姫宮さんがベッドに寝転ぶ。  僕のすぐ隣。姫宮さんの真っ赤な顔。  魂が抜ける程の激烈たる絶頂を迎えた僕からは、性欲がほぼ消え去っていた。穴だらけの心には、姫宮さんへの想いだけが取り残されていた。鳴りやまぬ鼓動。喉が渇く。何故か、駆け出したい衝動を抑えながら、姫宮さんを……ぎゅっと抱き締める。 「ふぇっ……え、と……?♡」  姫宮さんは顔を更に赤くして、戸惑っていた。 「いつか、姫宮さんのお尻も使ってみたいな……」 「アナルプレイ……でしょうか……?♡」 「そう。他にも……例えば、僕の前でオナニーさせてみたりとか。手マンで姫宮さんをイかせてあげるってのも悪くないかな。つうか、もっとキスしたい……」 「あ、あのっ……恥ずかしいですから……♡ もうっ……♡」  正直な欲望を吐露したところで、姫宮さんの顎に手を添えた。  可愛らしい照れ顔をじっくりと眺めてから、キスをする。  ぬめりけを帯びた舌の感触と、涎の温もりで、余韻を楽しむ。 「んぷっ……れるぅ……♡ ぷ、はっ……♡♡」  唇の間に架かった唾液の橋を見ながら、僕は──決意した。  偽物の関係だけでは嫌だ。本物の姫宮小春が、欲しい。  催眠の効力とはいえ、こうして何度も言葉を交わし、肌を重ねたのだ。変に捻くれず、真っすぐに僕の想いを伝えれば、姫宮さんだって受け入れてくれるはずだ。  絶対、そうに決まっている。だから、だから──。  「待っててね。姫宮さん────」  必ず幸せにしてみせるからと、そっと耳打ちをして。  黄ばんだ前歯を見せて笑い──彼女の頬をべろりと舐めた。  いつの間にか、雨はやんでいた。  でも、離さない。  宵闇が迫る世界の隅で、ずっと、姫宮さんを抱き締めていた。  ……僕のものにするから、幸せにするから。  そうやって、呪文のように囁き続けながら──。 「あの日、都合の良い催眠アプリで姫宮さんは僕だけの性処理メイドになった。」 <了>