──この世界は欺瞞に満ちており、腐敗している。  退屈な日々の連続による嫌気は、次第に苛立ちへと変わる。  心に刺さったトゲが消えることはない。  ……寧ろ、鋭さを増すばかりだ。  馬鹿な連中が騒ぐ教室の片隅。残暑の風が吹き込む窓辺で、何度も読み返した小説を片手に、青空を眺める。鬱陶しい快晴だ。思わず、両手に力が入る。  体育の授業中だろうか。校庭でサッカーに励む生徒らを見下ろす。  僕は、口元に笑みを浮かべて、呑気だな、と呟いた。  この世の真理を何も知らない癖に──そう思いながら。  やがて席を立って、彼女との約束の場所へと向かった。     ※    ※    ※ 『えっと……同じクラスの──。ど、どうしたの──?』  友情だとか情熱、協調性を重んじる事こそが美徳だと考える、愚か者の集団──この学園において、僕が唯一、純粋に憧れている少女。  それが──姫宮小春さんだ。  女性らしい小柄で慎ましい体型。  清楚可憐で、控えめな笑顔。  裕福な家庭で潤沢な愛情と共に育った彼女は、まさにその名の通りお姫様。真面目な性格は教師からの評判も高く、誰とでも仲良くなれるから友達も多い。僕とは対極的な位置にいる姫宮さんだが、その何処かに、僕と近いものを感じていた。例えば──そう。僕と同じように、この世界にある種の諦念を抱いているのではないか……とか。  だから、もしかしたら、分かり合えるのではないか。  誰にも邪魔をされない、二人だけの世界を築けるのではないか。 『…………っ?』  告白ではない。そんなつもりは毛頭なかった。  ただ単に、同じ世界観を共有したかっただけ。  ──だが、淡い期待はあっさりと打ち砕かれた。 『ごめんね……私には分からないけど……難しい事を知ってるんだね……?』  予想はしていた。  だが、意外にも心への負担は大きかった。  落胆は焦燥へと変わり、焦燥は野蛮な行為の原動力となる。  不安そうな姫宮さんを横目に、僕は孤独に嗤っていた──。  そして、準備していた『催眠アプリ』を起動したのだ。  申し訳ないという気持ちは皆無で、逆に感謝してほしいとすら思っていた。このままでは、姫宮さんは『誤った道』を辿ってしまう。間抜けな連中に巻き込まれて、陳腐な人生を送ることになってしまう。そうなる前に、僕が正してあげるだけ。僕と一緒に、『真の幸福』に享受するべく、強引な手段を使ってでも──姫宮さんを救い出してみせる──。  ぎぎぃ、きぃ──ン……きぃ、きィ────ン……。  アプリから、独特の異音が鳴り響く。  夏休みの間、練習の過程で何度も耳にした音。 『や、やだッ……何、して──っ』  耳を塞ごうとしたところで、もう遅い。  催眠アプリの効果が『絶対』である事は、確認済みだ。  尚も異音は続き、姫宮さんの脳を蕩けさせていく。  すぐに彼女の両腕は、だらっ、と垂れてしまった──。 『…………あっ、あ──、あ……ぇ……?』  催眠効果は、ばっちりだった。  姫宮さんは、虚ろな表情で惚けてしまっている。 『……あ…………あ、ふぇ…………ぁ♡』  緩んだ唇から涎を垂らす──僕だけのお姫様──。  すぐに姫宮さんに近寄り、準備していた設定を吹き込んだ。  あと少し。あと少しで、姫宮さんが僕だけのものになる。高鳴る鼓動を感じ、何度も言葉に詰まってしまいながらも、なんとか『設定』を言い終えた。  すると姫宮さんは、にたっ……と、口角を上げる。  霧のかかった思考の中で、嬉しさを、感じているのかもしれない。 『……はい。ご主人様。ご条件を、復唱いたします』  可憐な声音。それから、いやらしい舌なめずり──。  濡れた唇が機械的に動き、現実離れした言葉を滔々と紡ぐ──。 『私……姫宮小春は、一人暮らしをするご主人様の家へ、週に3日、通いのメイドとして行動します。メイドの仕事には、掃除、洗濯、炊事、排泄……全ての家事の他に、ご主人様の性処理も含まれます。……はい。性処理は、性行為とは異なります。ご主人様のお射精のための、メイドの大切な仕事です。……また、ご主人様のことは、クラスメイトではなく、ご自宅でしか会わない別の男性として認識します。メイドとしての仕事は、該当時間以外にはピアノの習い事と自己認識し、家族や友人にも同様に説明し、行動します。平常時は、メイドとしての記憶は取り出すことができません。……以上となります』  可愛らしい雰囲気を残したまま、無機質に淫らな言葉を並べる。  誰もが認める学園のお姫様が、僕の手の中に、堕ちていた。  姫宮さんのその姿はとてもいやらしく、思わずその場で押し倒してしまいそうになった。だが、ぐっと堪えて、早速今日の放課後に「僕の家に来るように」と命じたのだ…………。 「…………本当に、来るのか?」  あれだけ上手くいったのに、不安は残っている。  傾いた西日が射し込む自宅の玄関。今か今かと、その時を待つ。  何度も腕時計を確認したり、催眠アプリを無意味に開いたりする。指定の時間まで残り数分。その数分を待てずに、伸びた親指の爪を噛んでしまう。  がりがり。爪の表面が削れた、その時。  ぴん──ぽん──。チャイムの音が鳴った。  靴も履かずに、慌てて玄関の扉を開いた。  甘い匂いが舞い込む。革靴の足音が、響く。  ゆっくりと視線を上げると──そこには──。 「お待たせしました。ご主人様っ……♡」  いつもの制服姿の姫宮小春さんが、淫靡に微笑んでいた。 「姫宮小春です♡ 今日からメイドとしてお世話になります♡」  艶やかな黒髪を押さえながら、ぺこりとお辞儀。  それから脱いだ靴を丁寧に揃えて、僕の前に立った。  背筋をぴんと伸ばし、上目遣いで指示を待っている。  一貫して、育ちの良さが窺える貞淑な所作。  ……こんな高貴な少女を、僕のメイドにできるだなんて。  偶然入手した催眠アプリに感謝しながら──恐る恐る、彼女に触れる。  まずは肩を撫で、掴む。次に、冷たい頬を触った。  それでも嫌がらずに僕を凝視する姫宮さんに、股間が熱を帯びる。 「……ひ、姫宮さん」 「──? 何でしょうか。ご主人様?」  柔らかいほっぺを抓られている事も気にせず、首を傾げる。 「性処理……性処理だ。メイドとして、まずは僕の性処理を……」  興奮の波に押され気味の僕は、不器用にそう願い出た。  すると姫宮さんが、かあっと赤面した。そのまま俯いてしまう。 「じ、実は……お恥ずかしながら、性処理は未経験でして……。もしよろしければ、ご指導頂ければと考えていたのですが……そ、その……っ♡」  胸の前で両手を組み、もじもじと身体を揺らす姫宮さん。  潤んだ瞳には不安が滲んでいた。性処理を望むご主人様に──僕に嫌われてしまわないか、心の底から憂慮しているのだ。勉学に真摯に取り組み、家族や友人との清潔な関係を大切にする姫宮小春さんが、性処理ご奉仕が不得意だという点で、委縮しているのだ。  刹那、フラッシュバックする──普段の姫宮さんの姿。  純粋無垢で、真面目で、清楚で、『穢れ』とは程遠い存在。  すると、いよいよ、邪悪な愉悦がどぷどぷと湧き起こる。  もう耐えられない。限界だ。  性欲の熱に、肉体が焦がされていく。  僕は──前歯を剥き出しにして──姫宮さんに抱き付いた。 「────きゃっ……!?♡」  小さな背中を両手で抱き締める。僕の所有物だと主張する。力を込めるほど、姫宮さんの身体からは甘い香りが漏れ出す。その匂いをもっと嗅ぎたくて、もっと縛り付けたくて、より強烈に姫宮さんを抱擁してしまう。催眠アプリがなければ、嫌がられてしまうどころか、犯罪者扱いされて当然の行為。けれど今の姫宮さんは、優しく受け止めてくれる。 「んっ、ん~っ……♡ ご主人、様ぁっ……♡」  息苦しそうな声に、加虐欲が沸騰する。  小動物のような可愛らしさがある彼女を、虐めたくなる。  僕は深呼吸をしてから、姫宮さんを壁に押し付けた。  そして、AVを思い出しながら、彼女の唇を──ぶちゅっ♡と奪う。 「んむっ……♡ むふぉ……♡ あ、むぶぅ……♡」  僕なんかに唇を重ねられても、一切、不快感を露わにしない。  綺麗な瞳の奥に浮かぶのは、催眠の証拠たる下品なハートマーク。  ……何をしても許される、完璧な性処理メイドに仕上がっているのだ。  そう確信を得た僕は、唾液塗れの舌を伸ばした。ずっと憧れていた、姫宮小春とのベロチュー。こればかりはさすがに、多少の拒否感を示されても仕方がないと覚悟していたのに、姫宮さんはあっさりと受容してくれた。  とろとろでねばねばの、あの『姫宮小春』のお口の中。  隅々まで唾液を塗りたくるように、執拗に舐め回す。  ──んべろれろれるぅ♡ぬちゅれろっ♡ぢゅるぶちゅぅ♡  姫宮さんは乱暴なキスに戸惑いながらも、僕を尊重してくれた。  頬の内側、奥歯、歯茎。長い年月をかけて熟成された姫宮さんへの肉欲をぶつけるように、必死に犯した。だが、人間の欲というものは際限がない。遂に僕は、たっぷりの唾液を姫宮さんの口内へと注ぎ込み……。  小さな声で「飲めよっ……」と言いつけた。  姫宮さんは小さな口を開いたまま、こく、と頷いて──。 「…………こ、きゅっ♡ んぉ、ご、きゅっ♡」  繊細な喉が波打つ。僕の唾液を、嚥下したのだ。 「…………ぷへぁ♡ …………ん、えぁ~……♡」  飲み切りましたと言わんばかりに、再び口を開く。  上下の唇の間で結ばれた、幾本もの唾液の糸。蠢く舌。  そこには、僕の唾液は一滴も残されていなかった。  姫宮さんを痰壺扱いしてしまった事実に、心身が昂る。 「……くっそっ。こっちに来いっ」 「えっ。あっ、かしこまりまし──た──?」  理性の箍が外れてしまっていた。  無色の世界の中で、唯一、色彩を放っていた姫宮さん。彼女を遠目から眺めながら、否、盗み見しながら、頭で描いていた妄想を現実にしてやる。  姫宮さんの手首を掴んだまま、自室に連れ込み──。  ベッドに──どさッと──押し倒す。 「……ひゃんっ♡ お待ち下さい、ご主人、様っ♡」  僕の匂いが染み付いた布団に、姫宮さんが寝転んでいる。  その光景にすら興奮しながら、ゆったりと覆い被さる。  震える指先で、少しずつ制服を脱がすと、白い肌が零れ落ちた。  ぷるんと瑞々しい肌肉。ふわりと広がる甘い匂い。  途端に口の中には涎が溢れ返った。  食欲と性欲がごちゃ混ぜになっていく。  …………もう、どうでもいいか。  本能に従い、姫宮さんの肌に舌を這わせた。 「んぶじゅるぅっ……んれぇ、ろ、んれぇろぉ~っ……」  僕の生温い舌が、姫宮さんの冷たい肌を穢していく。  先程までの甘い香りは何処へやら。彼女の肌に残されたのは、唾液の悪臭のみ。両親が海外出張中の僕は、好きな物だけしか食べていない。不健康極まりない食生活を送っている。その影響なのかは知らないが、唾液は、酸味の強い匂いとなっており──それが姫宮さんの肌をべったりと濡らしていた。 「んふぅっ……んぶちゅっ、ぶっちゅ~っ、んべろぉ……」  ふくらはぎを舐め、太腿を舐め、お腹を舐め、小さなお胸を舐め。  首筋から顎、ほっぺ……おでこに瞼、鼻の下まで……舐め回す。  まるで、万人が酔いしれる名画に、絵の具をぶっかけている気分だ。  禁忌を侵しているという凄まじい背徳感に、震える。  ここまで穢せたのであれば、もはや充分だ。彼女が目を覚まして、嫌われてしまっても構わない。それだけの悦びが得られた。  しかし、姫宮さんは未だに催眠状態にあって──。 「や、やだ……♡ 匂い付けしちゃ、めっ、ですよっ……♡」  僕の唾液で濡れた頬を緩ませて、そんな風に媚びてくる。 「──は、はははっ。なんだよ、最高かよ……」  理性の糸。その最後の一本が、ぷつん、と切れた。  姫宮さんの前髪を軽く掴んで、もう一度、キスをして。  鼻の頭が触れ合う程の至近距離で見詰め合い、囁く。 「ヤるぞ。ヤるからな。姫宮さんっ」 「あ────♡ は、はい……♡ かしこまりました♡」  ベッドに横たわる姫宮さんを見下ろしながら、ズボンを脱ぐ。  やがて、パンツから弾かれるように飛び出した、僕の肉棒。   それを不規則に脈打たせつつ、姫宮さんからもショーツを奪う。  もちろん、無抵抗だ。両足を通してするすると脱がせたら、制服のプリーツスカートを捲り上げる。その瞬間、これまでとは比較にならない牝の香りが広がった。ゆっくり、ゆっくりと、彼女の秘所に視線をやると──もう、愛液でべっとりと濡れていた。姫宮小春の性処理おまんこは、準備万端だった。  それどころか、くぱくぱと開閉を繰り返して、発情していた。  何もかもが僕の思い通り。またしても、心臓が大きく震える。 「あの、ご主人様。間違っていたら申し訳ありませんが……性処理は、性行為とは異なりますので……避妊をする必要があるかと思うのですが……?」  姫宮さんはそう言ってから、ポケットからコンドームを取り出した。  聞いてみれば、僕の家に来るまでの道中、わざわざコンビニで購入してくれたのだという。健気な姿勢に感動する中で、確かに子供ができてしまうのは避けなければならない、二人だけの世界には僕たちだけでいい、という考えに至り──姫宮さんからコンドームを受け取った。そして、早速、装着した。思いの外、卑猥な外観に仕上がった。 「…………ふぅ、ふぅっ」  僕の荒い気息──ひくりひくりと脈動する、ゴムちんぽ。  あとはもう、濡れた膣口に亀頭を宛がい、挿入するだけ。  最後の勇気が足りずに、暫く硬直していた──その時──。 「──っ、あ、あれ。……やだ。私、なに、して……?」  突如、姫宮さんが正気を取り戻したのだ。  きょろきょろと辺りを見回し、そして、僕を見上げる。 「えっ……どうして……あっ、い、いやっ……!?」  姫宮さんの表情から血の気が引いていく。  置かれた状況から、僕に強姦されかけていると判断したのだろう。晒されている秘所を隠そうとしながら、身を強く捩って逃亡を図る。  対して、僕はやけに冷静だった。  スマホを取り出して、催眠アプリを起動する。  ぎきぎッ──きぃッ──♡きィィ──ぎィン──♡♡  例の異音を聞かせれば、姫宮さんは瞬時に無気力になる。 「あっ……♡♡ あ……♡♡ うひゅ、あ──……?♡♡」  ははっと嘲笑しながら、覚悟を決めた。  こんな好機、二度と訪れないかもしれない。  ならば迷っている暇はない。一秒でも早く、犯してやる。  極めて身勝手な理由で、僕は腰を突き出していく──。 「ん゛っぐっ……♡ お゛っ……♡ い、っ……やぁ♡♡」 「お、おぉ、これが、姫宮さんのっ……あったけぇっ……」  薄い膜に包まれた亀頭が先陣を切り、姫宮さんの膣肉を掻き分ける。ぬぷぬぷ、めりめり。小さな穴を強引に拡張しながら、突き進む。奥に辿り着くまでの間で──ぶちぶちッ♡と鈍い音が聞こえたが、無視。己の快楽のみを優先して腰を前進させた。僕と姫宮さんの身体が、びたんっ♡と密着したその時になってようやく、「あぁ、姫宮さんの処女膜を破ったのだな」と気が付いた。  僕が、この僕が──姫宮小春の初めてを奪った男──。  支配欲が満たされる。溢れる肉欲のままに、腰を振る──。 「ッ……あぁっ、姫宮っ、さんっ、姫宮さんッ!」  ばちゅっ──ばちゅっ──ばちゅんっ──。  女の悦ばせ方や、正しい腰使いなど知らない。  憑りつかれたように、一心不乱に腰を振り乱していた。  快楽に毒されて霞む視界の中で、しっかりと姫宮さんを捉えて──。 「あっ、あ゛ぐぅっ……♡ や゛ぁっ……♡ く、ひゅぅ……♡」  初めて男性器を挿入された際の、処女喪失の痛み。僕には想像すら出来ないが、決して軽いものではないはず。それでも姫宮さんは、笑顔を作ってくれていた。  暴走する僕の背中を抱き締め、腰に両足を絡めてくれる。  下半身のみならず、全身で密着しながらの、初体験セックス。  心なしか、姫宮さんの膣肉が、きゅっと蠢いたような気がした。 「くそ……少しはまんこ緩めろよっ……! 射精しちゃうだろっ……! 姫宮さんもっ、僕を陰キャ童貞だって馬鹿にしてるのか……? ちくしょっ……」 「い、いえっ♡ ご主人様を愚弄したつもりはなくっ……♡ は、ぁん♡ ご主人様専用の性処理おまんことして♡ 快楽を絶やさぬよう心掛けているだけ、でっ……♡ あっあっ♡ ごめんなさいっ♡ 従います、からっ♡」  甘美な台詞。淫靡な蠢きが止まらぬ膣内。極上の快楽。  僕は歯軋りをしてから、姫宮さんを睨みつけた。 「それ──ならっ……僕が好きって言え……早く、言えよぉっ……嘘でも……嘘でもいいから、言えっ……」  もし催眠アプリで、姫宮さんの恋心すら操作できるのなら。  僕はきっと王様になれる。この腐った世界を支配する、王様に。  希望を抱く反面、恐れもあった。だから泣き縋る声音になってしまったのだろう。実際、今だって怖い。ようやく手に入れたのに、明確な拒絶を示されてしまったら、立ち直れなくなる。それだけは避けたかった。  そんな僕を見詰める姫宮さんが、ゆったりと微笑む。  そして僕の背中を抱き直して、耳元で囁いてくれた。 「大好きです、ご主人様♡ ……愛してます♡ すき♡ すき♡♡」  電源コードが強引に引き抜かれた時のような、ぶちぶちっ、という音。  これまで積み重ねてきた常識とか倫理観が瓦解していく──音。  こうもあっさりと、憧れのお姫様を手中に収められるのか。  恐怖の崖っぷちから、興奮の坩堝へと引き戻され、快楽が爆発する。  脳内で火花が散り、腰が震え、膝が笑う。心臓が飛び狂う。  白濁色の快感が、尾骶骨から脳天へと一気に上昇する──。  ──どぷどぷどぷどぷぅっ♡どぼっ、ぼぷっ♡ぶびゅ♡  ──びゅーっ♡びゅーっ♡ぶりゅっ♡ぶっ、ぴゅ~っ♡  絶頂感に執拗に絡みつかれ、射精が長く続いた。  運動量豊富な精子がたっぷりと含まれた濃厚な精液が、卵子との合体を夢見ながら、勢い良く飛び出していく。避妊具の許容量を超えてしまうのではないかと危惧を抱く程、長く続いた射精。初めての感覚だった。まさか、愛する人で精液をぶちまけるのが、こんなに気持ち良い事だなんて……。 「おっ、おぉっ、姫宮さんッ……く、ふ~っ……ふぅ~っ……」  途轍もない絶頂の後。  心地よい余韻に浸り、体勢を崩す。  姫宮さんの上に倒れて、乱れた呼吸に終始していた。  メイドに性処理をさせた主人というより、淫魔に搾精された雄犬。  下手に己を俯瞰できてしまうからこそ、不甲斐なさを感じて、それは妙な虚しさへと派生してしまう。殻の内側に閉じ籠りたくなる。  だが、姫宮さんの温もりはそれすらも癒してくれる──。 「ん゛っ……♡ あの……♡ お疲れ様でした、ご主人様……♡」  疲弊しきった身体に沁みる、優しい言葉。 「私、上手にできていましたか……? 至らぬ点ばかりだったかと存じますので、ご主人様さえよければ、また性処理について教えてくださいね……?♡」  姫宮さんが、照れた表情でぽしょぽしょと囁く。  「わかった、躾けてやる」──僕はそう返事をして、腰を引いた。  避妊具の先端には、大量の精液が溜まっていた。くっぱりと開いたままの膣口からは、純血も流れ出ており──それら全てを含めて、僕は何物にも代え難い恍惚感を得ていた。またすぐにでも性処理をさせたいと、思うのであった。