「お、お疲れ様。あたし非番だったけど、どうだった?」 「あー、やっぱ情勢良くないんだ。まあ無理ないかなぁ、こんなご時世じゃ。」 「武器屋さんに文句言ってもしょうがないけどさぁ、野菜か果物みたいに売り歩かれちゃーたまらんよね。仕事がやりにくくて困るよ」 「お得意様でもあるからあんま悪く言えないかあ。助かってる面もあるし、お互いさまって感じ?」 「…ところで、それなに?お土産?食べ物?」 「ああ、ビールかぁ。気が利いてるねえ。あとは…つまみと、パンと、…なにこれ?」 「ミミ…カキ?ああ、なるほど…。耳掃除の道具かぁ。え、私が?」 「…と。つまりこういうことかな?あたしが、これで、キミの、耳掃除を?」 「わかった。だけどタダじゃだめだね。今までの貸しひとつチャラで。それなら…まーいいかな」 「決まり。んじゃあ、どうすればいい?…ヒザ、マクラ?ああ、ここに座るの?」 「んじゃ、この上に頭のせて。…よし、右耳からかな。じゃあ、耳かき入れるよ…」 ----------------------------------------------------------------------------------------- 「どう…痛くない?…んー、大丈夫そだね」 「力加減も…まー血も出てないし大丈夫かな」 「気持ちよさそーにしちゃってまぁ…。いいよ別に、寝ても。お互い非番っしょ?」 「お、このへんたまってるねえ。力入れるから、痛かったら言ってよ?」 「いいね、楽しくなってきたかも。なんか…あれみたい。えーとあれ、あの」 「そうそう、あれ。ピンセットで体内に入ったタマ取り出す時みたい。一度自分でやったことあるけど、もー痛くて痛くて。」 「…ごめ。このたとえは我ながら無いなあ。今のなしで」 「と、ところでさ。来週断水あるらしいよ。トイレとか使えなくなるらしいから、気を付けないとね…」 「うん、まあ、そうだね…。なんかごめん。膝枕とかしたことないから、間が持たなくてさー」 「前の部署の話?まあ、いいとこだったよ」 「こっちよりドンパチ多めだから荒っぽいやつだらけだけど、みんな気のいいバカだったよ」 「転属してから会う機会もないからどうしてるか分からないけどさ。機会あったら酒でも差し入れてやろうかなー」 「そうそう、今の名前もそいつらに付けてもらったんだ。K・I・Aでイア」 「なんでKIAなのかって…ああ、それも話してなかったねー」 「あたしはさ、祖国だと死んだことになってるの。キルド・イン・アクション、作戦中の死亡ってわけ」 「どうしてそうなったのかーって…。けっこう食いつくねー」 「はぁ…。まあいいか、いずれ話すつもりだったし。いいよ、はなしたげる。んーと、まずは…」 「あたし、この会社入る前は特殊部隊にいてさ。いろいろ表沙汰にしにくい仕事やってたんだ」 「すごいよ。PMCみたいな一応民間でやってるとこと違って、国家のお墨付きだもん。あたしがもすこしセンチな性分だったら、トラウマ待ったなしだろうね」 「んで、危ない橋にも慣れてきたころ、テロリストの巣になってた廃工場に花火仕掛けてハデに吹っ飛ばす任務に就いたわけ」 「作戦内容自体はそこまで珍しいもんじゃなかったんだ。今思うと不自然な点も多かったけどさー。まあ気にするほどじゃないかなって」 「まー…やられたよ。部下にハメられちゃってさ、ターゲットと一緒にドカン。あたしもまとめてハデにぶっ飛ばされちゃったわけ」 「もーやばかったね。それまで色んな建物ふっとばしてきたけど、一緒にふっとんだのは初めてだね。なんとも刺激的なロストバージンだったなー」 「そのあと運良く助かったけど記憶あやふやになっちゃってさー。三か月くらいしていろいろ思い出して慌ててクニに戻ったら、死んだことになってて」 「もともとそこまで思い入れのある故郷でもなかったしいっかなーって。んで、すぐうちの会社に雇われたわけ。」 「ここ入った時の歓迎会でこの話したら、じゃあ今日からお前はイアだーってことになって。今に至る、と」 「まあ、昔話はだいたいこんなもんかな。耳かきもさ、そろそろいいんじゃない?」 「もうすこし、する?んじゃ、ラストね」 ---------------- 「よし…と。これでだいたいとれたはずだよー。これで終わり?」 「…あ、こっちのふわふわでもやるの?はいはい…」 「んー、そろそろいい?おっけ、じゃあふわふわも終わりね」 「…え、左耳も?うぇー、分かったよお…」