第1章 縁側での出会い お風呂を終えた貴方は火照った身体を冷ますため縁側に赴きます。しかし、そこには先客がいました。白い月光に照らされた柔らかい物腰の少女。子供っぽくて、でも大人びていて、そんな彼女との一夜の物語の始まり。 ふう……今日もお仕事終わりました〜 んっ、んっ……ぷはぁ……!あー美味しいー! なんだか今日はとても気分がいいですね〜 心なしかお酒がいつもより美味しい気がします。 夜風が涼しいからでしょうか。 それとも……こんなにもお月様が綺麗だから、でしょうか。 こんなことだったら、お団子でも用意してくればよかったですね〜 確か……調理場の冷蔵庫にあったかも。 うふふ……こっそりと持ってきてしまいましょうか。 なーんて……えっ…………わあっ!! あ、貴方は……3号室のお客様!? いつからそこに……いたのですか? …………ついさっき? ………………涼菜が缶チューハイを開けた時から……って、ほとんど最初からじゃないですかぁ〜独り言、聞かれてたぁ…… んっ! ええっと……涼菜、部屋に戻った方がいいですかね……お邪魔だと思いますし。……そそくさ、そそくさ…………えっ? ここにいてもいい? でも……お邪魔じゃないですか? だって貴方は、この縁側でくつろぎに来たのでしょう? …………ふむ……ふむふむ……物好きですね。 では、ありがたく涼菜もここでお酒を飲ませていただこうと思います。 お隣、失礼しますね。…………よいしょっと。 あっ、自己紹介がまだでしたね。 涼菜は、常盤涼菜と言います。 涼しいの『涼』に菜っ葉の『菜』で涼菜です。 この旅館で、清掃員として働いています。 お昼にお客様のシーツを変えたの、実は涼菜なんですよ? 一夜限りの付き合いかもしれませんが、今夜はよろしくお願いします。 ……それだと、変な意味に聞こえる……? えへへ……もう、ダメですよ〜? 涼菜はそんな意味で言ってるんじゃないですから。 貴方も、それは分かっているでしょう? こんな年端もいかない少女を誘惑しちゃあダメなんですからね? …………んっ……手に持っているそれはなんだって? えへへ……そうですね。 涼菜はもう少女なんかじゃないです。 旅館で働く、ちゃんとした大人です。 まだ働きはじめて一年にも満たないですけど。 ああっ…………貴方は自己紹介しなくてもいいですよ? お客様の個人情報を清掃員の涼菜が勝手に知るわけにはいきません。 それに………………これは置いておきましょう。 とにかく、涼菜の名前も忘れていただいて構いませんからね。 涼菜と貴方は同じ……満月の月夜が照らす縁側の魔力に誘われて巡り合った仲間。 それだけで十分じゃないですか。