お帰りなさいませ、若。いつものようにお帰りのハグ、なさいますか。 む…今日はそんな気分ではない、ですか。 しかし…、今にも泣きそうなお顔をされていますよ。 今日のパーティー、何かお辛いことがあったのではないですか。 ええ、分かりますとも、ニーナは若の専属メイドですから。 ですから、こんな時に弱音を吐いてもらうための方法も存じております。 こうやって、抱きしめてお背中をさすっていて差し上げますから… 今日あったこと、お話ししていただけますか。 大丈夫です。ニーナはいつでも若の味方ですから。 辛かったこと、ニーナにだけ教えてくれませんか? なるほど。初めて社交パーティーに参加したはいいものの、 いざ女性を前にすると、緊張して頭が真っ白に。 そのせいでパーティーの空気から浮いてしまい、 結局、ひとり会場の隅で時間を潰しただけだった…と。 それは…、さぞお辛かったことでしょう。 それなのによくぞお話してくださいました。 よしよし、よしよし…。ご立派ですよ。 若はニーナの自慢のご主人様です。 ですが、どうかご自分のことを責めないで下さいませ。 若は家の外の女性とほとんど会ったこともないのですから、 女性の前で緊張するのは当然です。 私が思うに、若は十分すぎるほど魅力的です。 いま若に必要なのは、自信だけなのです。 どうでしょう、少しは気持ちが楽になられましたか。 そうですか…それはよかった。 若、実は私、そこで一つ提案したいことがあるのです。 その…ニーナを「恋人メイド」になさる、というのはいかがでしょう。 はい、つまり…私と恋人のようにイチャイチャしたり、 体を重ねることで、 男性としての自信をつけていただこうということです。 そんな困ったようなお顔をなさらないでください。 何も冗談で言っているわけではないのです。 女性の前で緊張するクセを治したいなら、 実際に直接触れ合ってみるのが一番手っ取り早い、 そうは思いませんか。 それに、 自分で言うのもなんですが、私は容姿には自信があります。 顔立ちもそうですが…、 特に体つきに関しては、 非常に男性好みのものだという自覚はあります。 どうでしょう、若もお年頃なのですから、 本当はそういったことに興味がおありなのではないですか。 まあ。そっぽを向いてしまわれて、うぶなお方。 ですが、覚えておいてくださいませ。 女性にとって意中の殿方に体を求められることは、 決して嫌なことではありません。むしろ、とても嬉しいことなのですよ。 少なくとも、私にとってはそうです。 …こほん。突然ですが、ここで問題です。 今ニーナは、若に何をしてほしいと思っているでしょうか。 ちく、たく。ちく、たく。どうしたのです。 はやく答えないと不正解になってしまいますよ。 ちく、たく。ちく、たく…。 む、分かりませんか。 私としてはサービス問題のつもりだったのですが。 正解は…はやく若の恋人メイドになりたい、 時間をかけて夫婦みたいに愛情たっぷりのキスをして、 大好きな若と一日中ラブラブ交尾してたい、でした。 もう、めっ、ですよ。 相手の気持ちに立ってものを考えるのは、コミュニケーションの基本です。 それに、先ほど私は若に体を求められて嬉しい、 といったばかりなのですから、決して難しくはなかったはずです。 ほら、ニーナの唇をよくご覧になってください。 柔らかくてぷるぷるで…とってもキスしたくなる唇、ではありませんか。 ええ、そうです。少しでもそう思っていただけるよう、 毎日欠かさず手入れしているのです。 私は専属メイドなので、 正確に言うと「若だけのために」手入れをしている、 ということになりますね。 はい、たしかに。 たまの外出の際には男性とお会いすることもありますね。 ニーナは若より3つ年上とはいえ、 まだ学校に通うくらいの年頃ですから、 そういった方々に求愛されることもしょっちゅうです。 ですが、どうかご安心を。 彼らは私の唇はおろか、肌にさえ触れたことがありません。 初めてお仕えした日に一目惚れして以来、 ファーストキスは若に捧げようと決めておりましたゆえ。 どうでしょう、若。 ニーナの初めての口づけ、もらっていただけませんか。 それとも…ニーナのファーストキスなど、いりませんか。 まあまあ、慌てて否定なさって、かわいい若。 私の調査によると、 若は上目遣いで勿体つけてお願いされるのに弱い、とあります。 やはり仮説は正しかったようですね… 後で観察ノートに書き加えなくては。