『180分で君の耳を幸せに出来るか?――外伝――ハードボイルド耳かき』 ■トラック1『その経緯と展望について』 ;◆BGS 車などが走る音(夜の路地裏の雰囲気) ;◆SE バーの扉が開く ;◆SE 階段を数歩下る ;◆SE 隣に座る //ダミーヘッド位置・7(左・近い) 【二郎】 「ついてないね」 ;◆SE ジッポライターでタバコに火を付けながら 【二郎】 「この店、今月までなんだ。  だから最後だから開けてようって店長が。ほら、大晦日だろ?」 【二郎】 「折角のミレニアムに、  湿気た店で過ごす物好きなんて、そう居ないのに」 【二郎】 「(タバコを吸う。長尺で)」 【二郎】 「店主のジジイもやけ酒のし過ぎで。  さっき病院に運ばれてったとこさ」 【二郎】 「もう店仕舞いだ。酒は出してやんねぇよ。……で?」 【二郎】 「(タバコを吸う)」 【二郎】 「アンタは何でこんなトコに居るんだ。  あともう数時間で、2000年じゃあないか」 【二郎】 「渋谷じゃカウントダウンなんてのをするそうだ。  ガングロがスクランブル交差点の方で騒いでるよ」 【二郎】 「俺は、どうも、ああいうのはね」 【二郎】 「新潟の山の方で育ったからか。  化粧が濃すぎるのはどうもね。生(き)の儘で良い、と、思うが、勝手か」 【二郎】 「……で。あんたは」 ;◆SE タバコの火を地面で消しながら 【二郎】 「家出か。男にでも追い出されたか。  とにかく、酒が欲しかったのか」 【二郎】 「しかし、皆ついてないね。今夜は」 【二郎】 「ジジイは酔い潰れて死にかけてる。  福岡の方に転勤した息子が何年も連絡を寄越さないって飲みすぎてね。ついてない」 【二郎】 「あんたは話さねぇが、美人が一人なんだ。この年の瀬に。  きっと、ついてなかったんだろう」 【二郎】 「俺か。俺は、べつに、何にもないが。  まぁ、強いて言うなら、ついてるほうか」 【二郎】 「……酒が苦手なバーテンダーじゃ、プー太郎の方がマシだろう」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「残り物の酒でよければ奢るけど、どうだ。  無職になったら、美人に酒も注(つ)げないからな」 【二郎】 「記念すべき日。年の瀬。ミレニアムだ。めでたい日だと」 【二郎】 「シラフのままじゃ、やってられない。そうだろ?」 ■トラック2『ハードボイルド耳かき(左耳) 1999年12月』 ;◆声 ささやき 【二郎】 「急に耳かきしてほしいなんて、妙な女だな、あんたも」 【二郎】 「別に、いいさ。暇だ。  まぁ、期待はせんでくれよ」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「女の子に、耳かきするのなんて初めてでね。  ……いや野郎のをしたことある訳じゃないが。とにかく、ね。  痛くはしないよう……頑張るさ……」 ;◆SE 耳かき開始 【二郎】 「(20秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「……? なんか……緊張してるな……。力を抜いて……。  ゆーっくり……息を吸って……吐いて……そう。上手だな」 【二郎】 「(40秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「やっぱり、俺の耳かきなんて気持ちよくは無いんじゃないか。  不器用でね。家具だって組み立てられない。……気持ちいい? そうか」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「耳の……表面に……乾いた耳垢が張り付いてるから……パリパリって……剥がしていこうか……。  ……ぃや、女の子にそういう事言うのは、あれか。ごめん」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あと数時間で、99年が終わる……。ノストラダムスの予言は外れたな。  全部、ぱっと終わったら、綺麗だったろう。しょーもねえや」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「あんたの耳、綺麗だな。小さくて、良い。  溝が……細くて……形がいい」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ちょっと、すまないね」 ;◆SE 氷の入ったグラスにウイスキーを注ぐ。 【二郎】 「(一口、ウイスキーを飲む)」 【二郎】 「大丈夫。鼓膜突き破る程は酔わんさ」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆SE 外で救急車が通る 【二郎】 「ん……誰かが、怪我でもしたかね。  今日は一層、馬鹿が湧く夜だから……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「なんだか……随分、静かな気分だ」 【二郎】 「ほら、今日は最後の夜だったから。  しこたま飲むと思ってたのに。  でも、誰も居なくなっちまった。……静かな夜だ」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「……耳の……奥の方に……耳かき挿れていくから……。  ここからは……あんまり……動くなよ……。ほら、力抜いて……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「はは。気持ちよさそうな顔、してるな。  良かった。自信なかったから。……奉仕なんて滅多にしないからな」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ガキの頃。この季節が、好きだった。  何かが終わるってことは、何かが始まるってことだろ。  きっと、変わる予感がしてたんだな」 【二郎】 「今は、そんな予感なんて、無いさ。  1999が、2000に。数字が一つ、増えるだけ」 【二郎】 「まぁ……今夜は変な客が来たから、少しは何か、変わったのかな」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あぁ……そうだ……あんたは、酒のおかわりは?  好きなもんを飲んでくれ。どうせもう誰も飲まない酒だ」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「耳の……奥の……この辺りを……こんこん……って突くのが……好き、なのか……?  そうか……だったら……このまま……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「しかしアンタも随分変な女だね。  見ず知らずの男に、耳の掃除なんてさせるなんて」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「あんた、いい匂いするな。好きな匂いだ……(匂いを嗅ぐ)……」 【二郎】 「……前の女は、いつもタバコ臭くてね。  俺の真似をして、吸ってたんだ。やめてくれとは、言えなかったな。随分前の話さ」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「奥の方を……耳かきの先で……優しく……引っ掻いて、いくからな……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「……わかりやすいな。気持ちよさそうな顔、してる。  あんたの方が、よっぽど酔ってそうな顔してるぜ。いや、可愛げがあって、良いじゃないか」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「耳かき、そんなに良いものかい。俺はどうも、触られるのが苦手でね。  むず痒くて、逃げちまうんだけどね」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「俺が見たトコ……あんたは、少し、気を張ってるね。  力を抜いて……ゆったり……リラックス……しな……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「はは。何の因果、つーのかね。  大晦日に。20世紀の終わりに。何でこんな事、してんのか」 【二郎】 「(90秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ほら、こっちの耳は終わったぞ。次、反対側、貸しな。  ……遠慮するこたないさ。何でこんな事してんのか、とは思うが……」 【二郎】 「あんたとこうしてるのは、悪くない気分だ……」 ■トラック3『ハードボイルド耳かき(右耳) 1999年12月』 ;◆声 ささやき 【二郎】 「これは夢だ……。  朝目覚めたら、二日酔いの頭痛で忘れる程度の夢」 【二郎】 「お互い名前は聞かないでおこう。  折角の20世紀最後の夜なんだ。何も持たずに新年を迎えたい」 【二郎】 「耳かきはこのまましてやるけどな。  これは案外たのしいもんだ」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「ほら……こっちに来い……身体、もたれていいから……。  耳、貸して……うん。そのまま……いい子にしてろよ……」 ;◆SE 耳かき開始 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「初めは……耳の入口のあたりから……。  はは……ここ、くすぐったい……? 我慢して……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「耳かき、まじで結構楽しいかも。  なんだろうな……変な背徳感がある」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ん? そういや……寒くは、ないか。  この店は暖房も、オンボロだから。暖かくなりにくいんだ」 ;◆声 ささやき 【次郎】 「寒いなら……いつでもコート貸してやるから……言えよ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「やっぱり……きれいな……耳…………いや、なんでもない」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……耳の……裏側なんかも……くすぐってやると……。  はは。やっぱり、くすぐったいのか? ……面白い」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……俺さ、昔警察学校に居たんだよ。エリートって奴だったんだ。  必死になって勉強してね。懐かしいな。でもさ」 【二郎】 「あの頃の必死だった俺より、こうして……時間を無駄にしてる俺の方が、  少しだけマシだ。……悪くない気分だよ。片手には酒。片手には変な女」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「やっぱり……耳の奥の方を……掻いてやる方が、好きなのかな。  未だだよ……もう少しだけ、待て、だ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ちょっと待って。休憩」 ;◆SE ジッポライターでタバコに火を付ける 【二郎】 「(ゆっくり、タバコを吸って煙を吐く)」 ;◆SE タバコの火を消す 【二郎】 「ヤニ溜まった。そんじゃ、やろうか」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「あんたの好きな……耳の、一番奥……。たくさんイジってやるから……。  リラックスして……ほら……行くぞ…………」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……あのさ。やめてほしいんだけど。なんか、変な気分になる。  あんま……変な声、出すなよ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あぁ、もうすぐ紅白も終わる時間だな。  今年は、あゆが紅白に出るんだよ。好きなんだ。もう、終わったのかな」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「あんたの気持ちいい所、だいぶ、分かってきたよ。  ここを、軽く、引っ掻いたり……このあたりを……軽く、突くと……ほら、また、変な声、出た」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……そういえばさ……さっき、少し外に出た時、歌ってる奴が居たんだよ。  人通りの多い道で、ギターだったかな。九州から出てきました、みたいな張り紙があってさ。  下手くそだけど、声はでかくて、俺は嫌いじゃなかった。別に、賽銭はしなかったけど。  あいつは、まだ歌ってるのかな……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あんた、実家は? そう。いや、すまない。質問はしない。するべきじゃなかった。だろ?」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「また……肩に力、入ってるぞ……。目にも……目蓋の力、抜いて……。  ゆっくり、呼吸して……気持ちいいのだけ、感じて……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あんたの耳たぶ、柔らかそうだ。触ってもいいか? ……おぉ……コレは……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆SE ウイスキーのグラスを傾ける音 【二郎】 「(ウイスキーを飲む)」 【二郎】 「……この店には、よっぽどいい酒があるってのに。  何でこんな安いウイスキーを飲んでるんだ。……貧乏性だな」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あぁ……もうすぐ、新年だ。除夜の鐘なんて聞きたくないな。  1999年が終わっちまう。2000なんて数字、整いすぎて、気持ちわるいのに」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「……お前の……好きな……奥……少し、引っ掻いてやるから……。  あんま、変な声、出すなよ……? ほら……ん……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆SE ウイスキーのグラスを傾ける音 【二郎】 「(ウイスキーを飲む)」 【二郎】 「……やっぱ、不味いよな、酒って。  昔、知り合いが、たくさん飲めば好きになるって、言ってたけど。  あれはきっと嘘だったんだな」 【二郎】 「それとも皆……不味いって思いながら、飲んでるのか?  さも、それが美味いみたいに。誰かを、騙してるのか?  ……時々、全部がそんな気がするんだ」 【二郎】 「(90秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……よし。ほら、耳かき、終わったぞ。  気持ちよかった? ……そうか。なら、いいさ」 【二郎】 「ぁ…………いつの間にか、新年だ。  あけまして、おめでとう? ……いや、そいつはクソだな」 【二郎】 「もう帰ると良い。タクシーぐらい呼んでやるさ。  あぁ、でも、この時間は、空いてないだろうな」 【二郎】 「じゃあ……少しぐらい、飲んで、待ってればいい」 ■トラック4『壮絶でも無い序章、或いはおでんの出汁 2000年2月』 ;◆SE ドアのカウベルの音 //ダミーヘッド位置・16(左前・遠い) 【二郎】 「んー……らっしゃーせー。……来客の予定あったっけ」 ;◆SE 足音が近づいてくる //ダミーヘッド位置・1(正面・近い) 【二郎】 「て、お前か。事務所には来んなつったろ」 【二郎】 「え。昼飯持ってきてくれたの。  それはちょっとうれしいけど」 【二郎】 「何? これ? どれ……」 ;◆SE ビニール袋をガサゴソする 【二郎】 「……おでん」 【二郎】 「あ。いや、知らんけど。昼に弁当だつって女が持ってきて、  コンビニおでんって事、あるんだ……いや、好きだけど……」 【二郎】 「手作りのお弁当が良かったの? じゃあ無いんだよ。  まぁ多少は期待したよ。あんたの料理、旨いしね。いや……いいんだけど……」 【二郎】 「で、おでんの具は何……うん……」 【二郎】 「ウインナーと、牛すじと、ロールキャベツと、骨付き肉?」 【二郎】 「肉肉しいな。いや何おでんのオールスター押しのけて、  二軍だけど若々しいパワータイプで揃えてきてんだよ」 【二郎】 「卵とか大根とか、ちくわぶは無いのかよ」 【二郎】 「え? ちくわの事、ちくわぶって言うタイプなんですね? って? 馬鹿野郎」 【二郎】 「どっちでもいいんだよ。ぶの有無は今議題に上がってねえんだよ」 【二郎】 「俺はね、硬派なタイプなんだよ一応。  ハードボイルドやらせて貰ってんだよ。奇をてらうタイプじゃないわけ」 【二郎】 「いやしょんぼりすんな。ごめんごめん。嬉しいって。  ただ少しびっくりしたんだって。ただ不思議だっただけなんだって。  虹の根っこを探す子供と同じ気分だったんだって」 【二郎】 「え? もっかいコンビニ行ってくるって?  いいよ別に。ギリギリ肉肉しい気分になってきたから」 【二郎】 「……あ、自分の昼飯買い忘れたから? そう。え、ここで食う気なの君。  いやヤダって。事務所のおやっさんとか、すげー微笑ましい顔で見てくるんだって。  飯ぐらい、一人で……」 【二郎】 「ごめんごめんごめん。その顔やめろって。しょんぼりすんのやめろこら。  分かった分かった……良いよ……でも、結婚はまだなのかとか聞かれて、  今既成事実作ろうとしてますとかって答えるのはもうやめてくれよ、怖いから」 【二郎】 「じゃあ、コンビニ行ってくんの。  ならおでんの卵と大根だけ頼む。あと、箸もな。2膳だぞ。忘れるなよ」 【二郎】 「……あ、そうだ。今日は帰り、遅くなるから」 【二郎】 「浮気ですか? じゃねーんだよ。そもそも付き合っても無いんだよ。  殆どただのストーカーと被害者の関係だからね俺たち。改めて言うとちょっとビビるわ。ただの仕事」 【二郎】 「……だから、鍵はいつもみたいに、植木に隠してるから。  それ使って、勝手に寝てろよ」 【二郎】 「……何で私たち付き合ってないんですか? でも、ねーんだよ。  いや、何が無いのかと言われると、あれだけど。いや、あれだよ……あれ……」 【二郎】 「とにかく、さっさと行ってこいって。あ、箸忘れんなよ。あと、お茶も頼む」 ■トラック5『ウイスキーを嗜む音ASMR 2000年2月』 //ダミーヘッド位置・16(左前・遠い) ;◆SE 鍵が開いて、ドアが開く 【二郎】 「……ふぅ。ただいま」 ;◆SE 歩いてくる //ダミーヘッド位置・8(左前・近い) 【二郎】 「流石に……もう寝てるか……」 ;◆SE 歩いて、逆側に移動 //ダミーヘッド位置・3(右・近い) 【二郎】 「おい……しょっと……」 ;◆SE 袋から、ツマミと酒瓶を取り出す 【二郎】 「……………………ふぅ」 【二郎】 「……って、何だ。未だ、起きてたのか。  見せもんじゃないぞ。ほら目ぇ閉じろ目。寝ろ」 【二郎】 「俺は、少し……飲んでから、寝るから……」 【二郎】 「……何? 音……聞いてたいの。あんたも、好きだね。  別に……いいさ」 ;◆SE グラスの中に、ゆっくり氷を落としていく 【二郎】 「……明日も……早いんだろ……。さっさと……寝ろよ…………」 ;◆SE グラスにウイスキーを注ぐ 【二郎】 「ん……しょ………………ふぅ」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「ほら……頭、貸せ……。膝に、頭、乗っけていいから……」 ;◆SE 衣擦れの音 //ダミーヘッド位置・5(後ろ・近い) ;◆声 ここから、リスナーの頭を膝に乗せて、ウイスキーに入った氷の音を左右に振って聞かせて上げています。なので、ダミーヘッド位置も、基本は『ダミーヘッド位置・5(後ろ・近い)』ですが、左右に振る感じで演技していただけますと幸いです。 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「ウイスキーの中で……氷が……揺れる……音……。  リラックス……出来る……音、だろ……。力抜いて……ゆったりして……もう……寝ような……(一口ウイスキーを飲む)」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ったく……寝かしつけて……やらねぇと……眠れないとか……。  子供か、お前は…………。まぁ……律儀に相手する、俺も俺か……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「明日は……何時だ? そっか。起こしてやれないけど、大丈夫か。  ……そうか……偉いな……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……ぁ、そだ」 ;◆SE おつまみ系の袋を開ける 【二郎】 「つまみに……ピスタチオを……買ってきたんだ。  食う前に、全部……皮を剥くのが……楽しいんだ……」 ;◆SE グラスを置いて、ピスタチオを剥き始める 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……ぁ? なに……。この音も、気持ちいい……?  お前は……つくづく、変な女だな……」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「好きなだけ……聞かせてやるから……。  黙って……寝てろ……って……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「眠れない……なら……息を、ゆーっくり……吸って……。  ゆーっくり……吐いて……。そうそう……上手だ……いい子だぞ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆SE ピスタチオの袋を一旦置いて、ウイスキーのグラスに持ち替える 【二郎】 「(ウイスキーを一口飲む)」 【二郎】 「…………やっぱ……不味いわ…………」 ;◆SE グラスを置いて、ピスタチオをまた剥き始める 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あぁ……楽しい……殻剥き……この時間がずっと続けばいいのに……。  これで……ピスタチオ……最後の一つ…………あぁ(残念そう)」 【二郎】 「……酒でも……飲むかぁ……」 ;◆SE ウイスキーを揺らす音 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……氷……小さく……なってきたな……。  新しいの……追加……するか……」 ;◆SE ウイスキーに氷追加 【二郎】 「……(一口飲む)……うっす……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あぁ……そう言えば……近くにさ……潰れた、ラーメン屋あったろ……。  やけにチャーシューが分厚かった、あそこ……。さっき見たら……不動産になってたよ」 【二郎】 「関係ない物が周りに増えるのは、嫌だね」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「ほぉら……いい子だから……もう、寝なさい……。  大丈夫……寝るまで……見てて、やるからよ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆SE ウイスキーのグラスを置いて、ジッポライターと、うちポケットからタバコを取り出して、加える 【二郎】 「(タバコに火をつけて、吸って、吐く)」 ;◆SE タバコの火を消す 【二郎】 「……お前が膝に居るせいで、タバコ、吸いづらいんだよ(笑いながら)」 ;◆SE ウイスキーの音を聞かせる 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「すっかり……ウイスキーも薄くなって……。  飲めねえな、こんなのはさ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「いつも……ごめん。帰り、遅くなって……。  お前が待っててくれるから……だから、俺はさ……」 【二郎】 「(90秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……(残ったウイスキーを全部煽る)。……はぁ……。シャワーでも、浴びてくるか」 ■トラック6『髪を梳かしてもらうハードボイルドASMR 2000年3月』 //ダミーヘッド位置・5(後ろ・近い) ;◆声 基本位置は『ダミーヘッド位置・5(後ろ・近い)』ですが、左右に振りながらの演技でお願い致します。 【二郎】 「……マジで、やって良いのか? いや。お前が、良いなら、良いんだけど」 【二郎】 「女の髪の梳かし方、なんて、知らんぞ。  ……いや……。別に、やってほしいなら、やるけどさ」 【二郎】 「……じゃあ……やるけど……後で、怒んなよ。  最初は……毛先のあたりを……ブラッシング、していくぞ……」 ;◆SE 毛先ブラッシング(ブラッシングするのは、長い髪のイメージです。作中で明言はしません) 【二郎】 「(20秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「おぉ……もぉ……結構、サラサラだけど……。  (髪の匂いを嗅ぐ)……シャンプーのにおい、する……」 【二郎】 「(40秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「……髪……梳かれるの……気持ちいい、のか……?  俺は……引っ掛けて、痛くしないかで、結構ビビってんだけど」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「毎日……髪の手入れとかしなきゃいけないの……大変だな……。  俺はもう、石鹸オンリーだよ。楽なもんさ。お前もそうしてみれば……睨むな睨むな」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「お前の……髪を……指で、梳くと……さらさらって……手の中で溢れて……。  すごく、綺麗だ……。気持ちいい……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「こうしてるのは……割と、好きだ……。  宝物の……手入れを……してるみたいで……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「お前ね……俺に……くっつきすぎ……。ブラッシングしにくいから……ちょい、離れろ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「なんか……あれだ……犬の世話をしてる気分だな、少し……。  ……何で睨むんだよ……褒めたつもりだったのに……犬、かわいいだろ」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「次は……髪の……中間のあたりを……梳かしていくぞ……。  髪が、絡まらないように……慎重に……」 ;◆SE 髪の中間部分を梳かしていく 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あ、そうだ……あのさ……今度、買っていいかな……プレステ2。  いや凄いんだぜ。1より全然綺麗なの。殆ど現実と変わんないんだよ。  ……まぁ……高騰してるから、当分買えないんだけど……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「(髪の匂いを嗅ぐ)……ホントに……お前の髪……いい匂い、する……。  シャンプー……だけじゃなくて……(髪の匂いを嗅ぐ)……お前の……匂いだ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「髪の毛……もっと、サラサラになってきた……。  すごい……いい感じ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……お前って、ホント姫待遇だよな……。  俺、ずっと世話してるぞ。……まぁ……楽しいから、してるんだが……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「櫛を……髪に通して……サラサラ……って……下まで……降ろして。  引っかかったら……優しく……解いて…………」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「撫でられるの……気持ちよさそう……だな……。犬みたいに……嬉しそうにして……。  撫でがいのある女だよ、お前……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……ほら……ゆったり……リラックス……してろ……。  俺が……面倒、見ていてやるから……今は……甘えてて、いいぞ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……よし。最後は……髪の根元のところから……毛先までを……、  ブラッシング、していくぞ……」 ;◆SE 根本から毛先までをブラッシング(長尺な感じです) 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「櫛で……頭皮を……触られるのが、気持ちいいのか……?  ん……了解、お姫様……。幾らでも、やってやるさ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「気持ちよさそうな……顔してる、お前……可愛いな……。  ずっと……そういう顔……しててくれよ……ダメ? はは……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「なんか、この……髪をサラサラしてると……。  人生の大半は……どうでも良くなる気がする」 【二郎】 「これが……アニマルセラピーってやつなのか……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「(髪の匂いを嗅ぐ)……ヤバい……ホントこの匂い……好きだ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……上手く行かないものだと思うんだ。大抵の事って。  大抵、どんな物でも、どこかでケチが付く。失敗するか、或いは、諦めが入る、もんだろ。  うまくいかない。くそったれさ」 【二郎】 「……でも、髪を……サラサラにするのは、これはかなり上手く行く……。  楽しい……気持ちいい……これは……良い文化だな……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「なで……なで……さら……さら……。  おりこうに……髪、梳かれて……いい子だな……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……これからさ……これ……もっと、俺に……任せて……良いぞ……。  全然……言ってくれたら……やるからさ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「もう……すごく……サラサラ、だ……。きれいな……お前の髪が……。  指の中で……するするって……滑って……気持ちいい……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ん……流石に……そろそろ、終わるかな……。  やりすぎも、良くないだろうし……最後に……あと、少しだけ……」 【二郎】 「(90秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「……これで、おわりだ。そんな顔してもダメ。おわりだよ。  気持ちよかったか? はは……そうか」 【二郎】 「俺も気持ちよかったが……ヤニでも吸って来ようかな。  ……お前も来るの? え、なんで」 ■トラック7『煙草を燻らすASMR 2000年3月』 ;◆BGS 虫の鳴き声。ベランダで煙草を吸っているイメージ ;◆SE ジッポライターに火をつけて、煙草をくわえる 【二郎】 (煙草をゆっくり吸って、ゆっくり吐き出す) //ダミーヘッド位置・3(右・近い) 【二郎】 「……お前ね。風呂入ったんだろ。  煙草の匂い、移るぞ」 【二郎】 「煙草を吸う音、聞きたかった……?  どんな変態だよ。どこまでギアを上げるつもりなんだよ」 【二郎】 「まぁ……お前が変な女なのは、前からか。  別に、いいさ。……火傷、だけは……するなよ……」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「……退屈じゃねーの。そんなトコで、ボーッとして。  お前は、煙草なんて吸うなよ。身体に悪いんだから」 【二郎】 「俺は、良いんだよ。早死する予定だ」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 ;◆SE ジッポライターを開いたり閉じたりし始める 【二郎】 「………………。何。この音、好きなの。  ジッポを……開く、音……。ホント、音変態だな……」 ;◆SE ジッポライターの音を聞かせてくれる(閉じたり開いたり、時々火をつけてくれたりする) 【二郎】 「ほら……お前が好きなら……聞かせてやるよ……」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「……こうして……ボケっとしてるとさ……。  こんな風に、死ぬんだろうかって、少し思う」 【二郎】 「何もしないまま……静かに……ボケっとしたまま……。  いつのまにか……心臓が……止まってるんだ……」 【二郎】 「良いことなのか……悪いことなのか。  死んだら神様は、なんて説教すんのかな」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「……煙草……美味いかって……?  美味いさ。酒よりは、俺は好きかな……。酒よりも、だらけてて、優しい感じがする」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「全然、星、見えねぇなぁ……。まぁ……仕方がないか……。  お前の地元は、どうなの。星、見えた? …………へぇ」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 ;◆SE 煙草を灰皿に押し付ける 【二郎】 「……煙草、吸いきっちまった。  お前、どうしてんの。まだ、ここにいる? そうか……」 ;◆SE 煙草をもう一本取り出す 【二郎】 「じゃあ俺も……もう少しだけ、ここに居るかな……」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「……目を開けたまま寝てる気分だ。  いつだってそうだった、気もするな」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「つか……寒いだろ……お前。ちょっと待ってろ」 ;◆SE 二郎、その場から立ち去って(ベランダなのでドアを開閉させるなどさせつつ)、毛布を取ってきて、かけてくれる 【二郎】 「……まだ居るんなら、毛布、被ってろ。つか俺も寒い。ほら、一緒に入ろう」 ;◆SE 衣擦れの音 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「少し、あれだな。ヒッピーにでもなった気分だ。  ……そういや、最近見ないな、連中」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「次の休み。俺も、お前も休みだろ。  ……なんか、行きたいトコ、考えといて、いいぞ。付き合うからさ」 【二郎】 「……単純に、行きたい所なんて、俺には無いからな。  煙草を燻らせて、不味い酒が飲めて、お前がいれば、良い」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「煙草吸って、毛布着てるの少し怖ぇ……。ちょっと注意しといてくれよ」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「ジッポの音、そろそろやめていい? ダメ。そう。……好きだねぇ」 【二郎】 「これはさ……ハタチなりたての頃……弟がくれた、ライターなんだ……。  煙草なんて、吸ってなかったのに。あいつのせいで、喫煙者になっちまった」 【二郎】 「だって、使ってないとは、言えないだろ?」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「……また……煙草……燃え尽きちまった。  次のを、最後にするか」 ;◆SE 新しい煙草を取り出して火を付けると、吸い始める 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「……こういう時間が、好きだ。  何もしてないのに、いちばん大切なことを、してる気がする」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「あぁ……でも……俺も……ライターの火を見るのは……好きだな……。  火って、綺麗だろ……時々、ただ、じっと見つめる」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「はは。あれだな。毛布の中で……お前の体が……あったかいな……」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「もう、随分遅い時間だな。そろそろ寝るか?  もう少しだけ? はいはい……付き合いますよ、お姫様」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「……気持ちいい……夜だ……」 【二郎】 「(30秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「終わらない夜は無い。なんて言うけど。  俺は、あっても良いんじゃないか、って、思う。  絶対に夜が明けてしまうなんてのは、少し、傲慢だ」 【二郎】 「(60秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 【二郎】 「……はは。眠そうな顔、してるぞ。まったく。  お前も、この時間が、好きなのか? そうか。そうか……」 【二郎】 「(90秒ほど、煙草を吸ったり、ボーッとする)」 ;◆SE 煙草を灰皿に押し付ける 【二郎】 「……よし。流石に、もう寝ようぜ。  眠気も、限界なんだろ? ったく。言えば、良いのによ」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「付き合ってくれて、ありがとな。……楽しかったよ」 ■トラック8『雨の日 2002年6月』 ;◆BGS外で雨が降っている 【二郎】 「……雨が降ってきたな」 【二郎】 「昔。そうだ。こんな、安っぽい藍色の雲から、  出の悪い小便みたいな雨が垂れてる夜だった」 【二郎】 「男が居た」 【二郎】 「酔っ払った男だ。どこか。どこだったか、  場所は覚えて居ないけれど、偶然一緒になって」 【二郎】 「下らない話をした。大抵は女の話とか、  不味い酒の文句だったように思う」 【二郎】 「ふと、匂いの話になった。  なにの匂いが好きかみたいな、しょうもない話題だ」 【二郎】 「俺は雨の匂いが好きだと言った。昔からそうだ。  雨が降り出す少し前の香りは、ワクワクする」 【二郎】 「男は言った」 【二郎】 「それは雨の匂いじゃないよ。  ペトリコールって言うんだ」 【二郎】 「雨が落ちると、地面の成分がエアロゾルの中に取り込まれる。  これが空気に巻き上げられて、独特の匂いがする」 【二郎】 「ペトリコールは、ギリシャ語で『石のエッセンス』の意味」 【二郎】 「あんたの好きなのは、雨じゃなくて、石の匂いさ」 【二郎】 「あんたが今まで『良い』と思っていたものは、  本当は全く違う物だったんだ」 【二郎】 「だからどうした? って話だろ」 【二郎】 「雨の匂いだろうが、石の匂いだろうが、良いもんは良いんだ。  人の趣味に突っかかってきやがって」 【二郎】 「あの時の俺はそう思ったけど」 【二郎】 「……今は、少し違う」 【二郎】 「誰かと話したりして、交流を重ねると、  今まで俺の見てきた物とは、別の物が見えてくる」 【二郎】 「俺自身の事も。全く別の事についても」 【二郎】 「それはそれで、悪くないとも思うんだ。  くそったれの自分の事も、少しマシな気がしてくる」 【二郎】 「……誰かさんが、ストーカー紛いの事をし続けてくれたから」 【二郎】 「まぁ……ぇーと……とにかく……」 【二郎】 「その男に、俺は聞いたんだ。  じゃああんたは、何の匂いが好きなんだ? 男は言ったよ」 【二郎】 「『俺は鼻炎でね。匂いなんて分からないさ』ってな」 ■トラック9『雨の日の日にマッサージを。 2002年6月』 ;◆声 //ダミーヘッド位置・5(後ろ・近い)。マッサージ中は、軽く左右に降る感じでお願いいたします。 ;◆声 ささやき 【二郎】 「重くはないか……? そうか……ほら。だったら……力を抜いて……。  そのまま……まずは……首筋辺りから……マッサージ、していくぞ……」 ;◆SE マッサージ始める 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「首筋……だいぶ……張ってるな……。  コリ……しっかりほぐして……リラックス……しような……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……たく……気持ちよさそうな……顔して……。  良い身分だな、おい……ホント、姫体質だ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「首の……根本の辺りに……親指を……当てて……、  ぐりぐり……円を書くように……押していくぞ…………」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「お前の体……猫みたいだ……やわらかい……。  やっぱ、あれだな……男女の体ってかなり違うんだな……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……変な声出すなよ……少し……変な気分になる……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「随分……気持ちよさそうだな……。  疲れる一日だったのか?」 【二郎】 「いや……そうだな……疲れない一日なんて、無いよな……。  何もしなくても疲れるんだから……今はたっぷり休めばいいさ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「次は……肩の辺りを……手のひらで……強めに、もんでいくぞ……。  いたい……? はは……少しぐらい、我慢しろ」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……運動してると……タバコが欲しくなってくるな……。  いや、流石に今は吸わないよ。びびんなって」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「肩を……しっかり……掴んで……ぎゅう……ぎゅう……。  ん……ふぅ……。お前の肩……小さいな……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「こうして、触ってると、俺も、少し……楽な気分になる。  やっぱアニマルセラピー……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……雨、止みそうも無いな。この分なら、明日も雨か。  いいさ。……2人で、部屋にでも籠もっていればいい」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「肩甲骨を……左右に開いて、メリメリって……剥がしていくぞ……。  少し……違和感あると思うけど……安心して……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「だから……お前……変な声、出すな……。  なんか、そういう気に……なっちまうだろが」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「痛くは……ないか……? そうか……。  何か、あったら……すぐ言っていいぞ……甘えていいんだ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ん……そろそろ……背中から……腰の辺りを……押していくか……。  この辺りは、少し……優しく……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「眠かったら……寝ちまっても……良いからな……。  どうせ、マッサージなんて起きてても変わらないんだ……起きたらスッキリしてるから……寝てていい……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「背中の中央から……左右に……ぐーって……伸ばすみたいに……揉んで……。  親指の……腹で……ツボを……ぐりぐり…………」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ったく……偶には……俺にもマッサージとかしてくれよ?  このお姫様はよ……。確かに……お前の手入れをするのは……好きだけどな……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「……ほら……まだ力入ってるぞ……指先……だらぁんって……しろ……。  ん……そう……上手に出来て……偉いな……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……腹が減ったな……。冷蔵庫になんか。入ってたっけ。  あぁ……カレーの残りがあるのか……じゃあそれ、食おうかな」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「最後に、仕上げだ。全身を、とんとんって叩いていくぞ。  振動と……音で……沢山、癒やされような……」 ;◆SE 肩たたき 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「……どうだ、ばあさん。肩たたきは気持ちいか?  はは、冗談だよ。お前はばあさんじゃない。綺麗だって……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「とんとんとんとん……とん……とん……。  ……肉を叩いて柔らかくしてる気分だ」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……なに。お前も腹減ったの。  でもカレー一人分しか無いんだよな。……夜食でも作るかぁ」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「ん……肩たたき……好きなのか……?  はは……喜んでくれると……やったかいがあるってもんだ」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「少し、強めに叩かれた方が良い、か……?  わかった。やってみる……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「もう……そろそろ終わるんだから……されたい事あったら、今のうちに……言っとけよ……。  今は……ちゃんと、甘やかしててやるからさ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「よし……これで……終わり…………。ん……? もう少し……してほしいのか……?  だったら……あと……少し、だけだぞ…………」 【二郎】 「(90秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「よし。これで本当に……マッサージはおしまいだ。  じゃ、なんだ。夜食でも、食うんだろ?」 ;◆声 ささやき 【二郎】 「そこで、ゆっくりダラダラしてろ。俺が作ってきてやるからさ」 ■トラック10『ハードボイルド添い寝。 2004年12月』 //ダミーヘッド位置・10(右前・遠い) ;◆SE ライターに火を付ける音 【二郎】 「(タバコを吸う演技)」 ;◆SE 衣擦れの音 【二郎】 「……ん?」 【二郎】 「なんだ……起きたのか……」 【二郎】 「……いや。起こしちまったのか……すまないな。  なんか……妙に、吸いたくなって……そういう事が……あるんだよ」 【二郎】 「…………また、新年が来る」 【二郎】 「まだなんにも終わってないのに、今年が終わる。  まだなんにも始まってないのに、来年が始まる」 【二郎】 「……この時期は嫌いだ。  まずい酒を飲んで、やり過ごす他に無ぇ」 【二郎】 「たまに思うんだ。俺が俺じゃなかったら、  もっとマシだったんじゃないか。でも俺は、俺だ」 【二郎】 「(たばこを吸って、吐く)」 【二郎】 「……俺は……いつになっても俺だ…………」 【二郎】 (10秒ほど呼吸音) ;◆SE タバコの火をもみ消す 【二郎】 「すまんな。俺も、もう寝るか。  少し……そっちにずれてくれ」 ;◆SE 衣擦れの音 ;◆声 //ダミーヘッド位置・3(右・近い) ;◆声 ここからは、全部ささやく感じで宜しくおねがいします 【二郎】 「ふぅ……う……。ん……っしょ…………」 【二郎】 「俺が居なくて……寂しかったのか?  はは……冗談だよ……」 【二郎】 「ほら。目を閉じて……もう、寝よう……。  ごめんな……よし……いいこだ……ゆーったり……して…………」 【二郎】 「…………おやすみ」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……ぁ……そうだ…………。  明日は、何時に起きるんだ……? うん……俺、休みだから……そっか。大丈夫。  ……ちゃんと……起こしてやるから…………ぐっすり、寝ろ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……はは……平和な……寝顔だな……」 ;◆SE 頭を撫でてくれる(BGS) 【二郎】 「…………ん……。頭……撫でられるの……イヤか……? 良い? そうか……。  じゃあ……お前が寝るまで……してて……やるからな……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……髪……サラサラ……だ……」 【二郎】 「(90秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ん……少し……寒いな……。暖房は……付けたくないから……」 ;◆SE 衣擦れの音 【二郎】 「お前にくっついて……暖を取ろうかな…………」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……いい……きもちだ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「(匂いを嗅ぐ)……お前って……いい匂いがして……柔らかくて……。  だきまくらに……丁度いい…………」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……タバコ……臭くて……ごめんな……。  もう、俺も……やめないとな…………」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「なぁ……娘の名前……考えたんだ……。  お前の好きな作家で……なんちゃら秋水って……居ただろ……。  あの名前を……つけようぜ…………」 【二郎】 「(90秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「俺……良い……父親になるから……。ちゃんと、タバコも……やめるから……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「お前と……こうしてると……少しだけ、いい夢が見られる気がする……。  どうせ夢なんて、覚えてないけど……少し、いい夢が……見られる気がするんだ……」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……可愛い……寝顔……だな……」 【二郎】 「(90秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「ん……? ねれない……のか……? そっか……。  大丈夫だ……ねれなくても……いい……どうせ、いつかは朝になるさ……」 【二郎】 「(30秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「……明日は……晴れるかな…………」 【二郎】 「(60秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「あのさ……なんて……言うのかな……なんていうか……」 【二郎】 「(10秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「…………俺……酒……もう、飲まなくても……良いかなって、思うんだ……。  まずい酒を……無理して……飲まなくても……最近はさ……満足してるんだ……。  俺は、必死に……探さなくても……もう……」 【二郎】 「(120秒ほど呼吸音)」 【二郎】 「…………おやすみ……。ちゃんと、いい夢……見るんだぞ……」